2015 Volume 48 Issue 10 Pages en10-
例年のように甲子園球場で夏の高等学校野球選手権が催されて,多くのドラマが繰り広げられた.どのチームも各都道府県大会の優勝チームであり,その選手たちは高校生活のすべてを野球に注いできたに違いない.それ故に甲子園球場にたどり着いた選手は自分の体力や能力を余すことなく限界まで絞り出そうとする.勝利して校歌を聞く選手たちはチームメイトとともに喜びを分かち合い,真っ黒に日焼けした子供らしい顔をしながら応援をしてくれたスタンドの人たちに向かって堂々と挨拶をする.しかし,一方では必ず敗者もいるわけで,そういう生徒たちは勝者が味わう喜びと同じくらいの大きさの悔しさを経験する.悔し涙を流しながら甲子園の砂をスパイクのバッグに入れている選手たちの姿を見て,テレビの野球解説者は「高校を卒業して社会人になる選手たちにとっては勝者になるよりも敗者になるほうが得るものが大きい」と言っていた.私も勿論そうであってほしいと願っているが,彼らの悲壮な顔を見ていると「本当に彼らは悲しみや悔しさから立ち直れるのか」と心配になる.
先日,18歳以下の侍ジャパンの国際試合があり,日本チームは惜しくもアメリカチームに負けたものの見事に準優勝を勝ち取った.甲子園で互いに敵として戦っていた選手たちが同じチームで励ましあいながらプレーし,甲子園で敗者となった選手が鮮やかな好プレーをするのを見ていると,私の心配は杞憂であり,高校野球は負けることで選手を大きくすると言っていた解説者が正しかったように思えてくる.
日本消化器外科学会雑誌の採択率は20%台と低く,その厳しさは代表的な英文誌に引けを取らない.投稿されたすべての論文は2名以上の編集委員により査読され,最終的に編集委員会で採用・一部修正・大幅修正・不採用の判定が下される.編集委員会では教育的な見地から,不採用となった論文には特に多くのコメントを残すようにしている.コメントを熟読して今後の論文の執筆に役立てていただきたいと願っている.論文の執筆やその採否は決して勝負ごとではないが,仮に論文が採用されると勝ちで不使用となった場合を負けとすると,高校野球と同じように「勝者になるよりも敗者になるほうが得るものが大きい」と思っていただけるような温かみのある査読をしたいものである.
日本消化器外科学会では独自の英文誌を発行することが決定されたが,邦文誌も存続する予定である.今後の本学会の邦文誌の存在意義を維持するのは編集委員会の仕事であると考えている.
(大辻 英吾)
2015年10月1日