2015 Volume 48 Issue 12 Pages 1021-1026
大腸切除後の縫合不全は比較的頻度が高い合併症であり,その対策として術中のリークテストは有用であると考えられる.今回,我々は術中内視鏡検査により見つかった縫合不全に対して内視鏡下クリッピングを施行した2例を経験したので報告する.症例は共に直腸癌に対して腹腔鏡補助下低位前方切除術を施行し,術中大腸内視鏡検査によるリークテストが陽性となり,内視鏡観察にて pinholeとなっている縫合不全部を確認できたので,内視鏡下クリッピングを施行することとした.再度施行したリークテストが陰性となったためにストマ造設施行せずに手術終了とした.2例とも術後の縫合不全は認めず退院となった.腹腔鏡下直腸切除時のリークテスト陽性例に関しては一般的に鏡視下直接吻合を行うことが推奨されているが,狭骨盤などで直接縫合が困難である場合には内視鏡によるクリッピングでの閉鎖も選択肢になりうると考えられた.
大腸切除後の縫合不全は2.9~14%に発生し1),比較的頻度の高い合併症といえる.特に直腸手術時の縫合不全はいまだに一定の確率で認めており,その早期発見の方法として術中リークテストを施行することは有用と考えられる.当院では直腸切除時にはルーチンでリークテストとして術中大腸内視鏡検査(intraoperative colonoscopy;以下,IOCSと略記)を施行している.今回,我々はIOCSによるリークテストにて術中発見された縫合不全に対して,内視鏡下クリッピングによる閉鎖を施行した2例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する.
症例1:57歳,男性
主訴:便潜血陽性
現病歴:検診にて便潜血陽性となり精査目的に大腸内視鏡検査を施行したところ直腸に進行癌を認めたため手術目的に当科紹介となった.
既往歴:高脂血症
術前大腸内視鏡検査所見:肛門縁から8 cmに1/3周性の2型腫瘍を認めた.生検結果は中分化型腺癌であった.
術前CT所見:遠隔転移および有意なリンパ節腫張を認めなかった.
以上より,直腸癌(Ra,A,N1,H0,P0,M0,Stage IIIa)の診断となり手術を施行した.
手術所見:腹腔鏡補助下に手術を施行した.臍部にカメラポートを置き,左右下腹部にそれぞれ2か所と恥骨上1か所の計6ポートで行った.腫瘍は腹膜翻転部よりやや口側に位置しており,直腸低位前方切除術を施行した.鏡視下に直腸肛門側をクランプ後,IOCSにて腫瘍の巻き込みがないことを確認し,直腸洗浄後自動縫合器にて直腸を切断(Endo-GIA®60 mm 4発,45 mm 1発)した後に鏡視下DST(double-stapling-technique;以下,DSTと略記)吻合(25 mm)を施行した.自動吻合器打ち抜きのリングは全周性に保たれていた.続いて施行したIOCSにてair leakageを認めた(Fig. 1a).内視鏡にてlinear staplerとの重なりの部分にstaple ringの途絶を認め,pinholeとなっている縫合不全部を確認できたので,クリッピング(計8発)にて閉鎖した(Fig. 1b, c).再度施行したリークテストは陰性であったためにストマ造設は施行せずに終刀とした.最終病理組織学的診断は直腸癌Ra,45×40 mm,type 2,tub 2,SS,int,INFβ,ly0,v0,pPM0,pDM0,pRM0,pN1(3/6),Stage IIIaであった.
a) IOCS leak test: Air bubbles (yellow arrow) were visible around the anastomosis. b) IOCS finding: The anastomotic leakage was observed as a pinhole (yellow arrow) by IOCS. c) IOCS findings: After endoscopic clipping for anastomotic leakage.
術後経過:術翌日より排ガスを認め,術後3日目より飲水を開始した.術後4日目には排便も認め,術後6日目より食事再開とした.吻合部に挿入していたドレーンは術後6日目に抜去した.術後経過は良好で術後14日目に退院となった.術後8か月で施行した大腸内視鏡検査では軽度の吻合部狭窄認めるもファイバー通過は可能であったため経過観察し,その後の大腸内視鏡検査でも軽度の狭窄のみで拡張術などを要する必要はなく,術後3年5か月の現在無再発生存中である.
症例2:62歳,女性
主訴:下血
現病歴:下血を主訴に前医受診し,大腸内視鏡検査にて直腸癌の診断となり手術目的に当科紹介となった.
既往歴:尿管結石,高血圧
術前大腸内視鏡検査所見:肛門縁から15 cmに30 mm大のIspポリープを認めた.生検結果はsuspicion of adenocarcinoma,Group 4であった.
術前CT所見:有意なリンパ節腫脹および明らかな遠隔転移を認めなかった.
以上より,直腸癌(RS-Ra,SM,N0,H0,P0,M0,Stage I)の診断となり手術を施行した.
手術所見:腹腔鏡補助下に手術を施行した.臍部にカメラポートを置き,左右下腹部にそれぞれ2か所と恥骨上1か所の計6ポートで行った.腫瘍肛門側に施行した点墨を腹膜翻転部より口側から約5 cmに認めた.左結腸動脈を温存し,肛門側のマージン確保のために腹膜翻転部より肛門側まで直腸剥離を勧め,直腸低位前方切除術を施行した.鏡視下に直腸肛門側をクランプ後,IOCSにて腫瘍の巻き込みがないことを確認し,直腸洗浄後自動縫合器(Endo-GIA®60 mm 1発)にて直腸を切断した.完全鏡視下でDST吻合(28 mm)を施行した.自動吻合器打ち抜きのリングは全周性に保たれていた.続いて施行したIOCSにてair leakageを認めた.内視鏡にてlinear staplerとの重なりの部分にstaple ring の途絶を認め,同部位にpinholeとなっている縫合不全部を確認できたので,クリッピング(計7発)にて閉鎖した(Fig. 2a, b).再度施行したリークテストは陰性であったためにストマ造設は施行せずに終刀とした.最終病理組織学的診断は直腸癌Rs,3×3 cm,0-Isp,M,ly0,v0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0(0/9),Stage 0であった.
a) IOCS findings: Anastomotic leakage was observed as a pinhole (yellow arrow). b) IOCS findings: After endoscopic clipping for anastomotic leakage.
術後経過:術後4日目より排ガスを認め,術後6日目に排便を認めた.術後7日目より水分摂取開始し,術後8日目にドレーン抜去および食事再開とした.術後経過は良好で術後12日目に退院となった.術後3か月で施行した大腸内視鏡検査では狭窄含め吻合部以上所見は認めず,術後2年5か月の現在無再発生存中である.
直腸切除後のリークテスト陽性時の対応については一般的には直接縫合するとされている.竹政ら2)は,経肛門的に注射器で空気を挿入し吻合部のair tightnessを確かめ,air bubbleを認めた場合は3-0バイクリル糸で3~5針単結節縫合修復し,再度air tightnessを確認するとしている.しかし,狭骨盤における直腸吻合時や縫合不全部が吻合部背側に認められた場合など技術的に鏡視下での縫合は困難である場合もある.そのような場合にIOCS下クリッピングという方法も選択肢の一つになると考えられる.また,吻合部および縫合不全部が直視下に観察可能であれば経肛門的吻合が可能であると考えられる.今回の2症例はRaおよびRsの直腸癌であり,吻合部の位置は経肛門的に直視できる高さではなかったために経肛門的吻合は施行することはできなかった.IOCS下クリッピングは腹腔鏡下縫合と比べ,粘膜が視覚的に確認しながら確実に閉鎖できるという利点があるが,大腸壁全層にかからない可能性が高いことや,クリップの数が多くなるため術後の狭窄の可能性が高くなると考えられる.
一方で大腸ESD術中における穿孔に関してはほとんどの場合でクリップによる閉鎖が可能である3)~5).大腸内視鏡前と同様な腸管内前処置がきちんとなされていればIOCS時に認められた縫合不全に関しても同様であると考え,今回の2例では認められた穿孔部がpinholeであったことからもクリップによる閉鎖を施行した.実際の手技もESD後穿孔と同様にstaple ringの不整部の両端からpinholeとなっている部分を縫縮するようにクリッピングを行ったあとにクリップ間に粘膜の隙間がなくなるよう追加クリッピングを行ったために最終的にクリップの個数が8発および7発となった.谷岡ら6)は胃空腸吻合部の縫合不全に対して,術後4日目に内視鏡下クリッピングを施行した1例を報告しているが,食道や空腸断端はすでに肥厚しており,組織の柔軟性は保たれているものの瘻孔の径が大きく,また組織の浮腫はすでに認められていたとしている.内視鏡下クリッピングは吻合直後の方が技術的に容易であると考えられる.また,縫合不全部がpinholeより大きい場合の内視鏡下クリッピングでは,クリップ数が多くなり閉鎖がより困難になることが予想される.
我々が経験した2例はともに再度のリークテストが陰性になったために人工肛門造設は施行せずに術後縫合不全も認めなかったが,榎本ら7)は仮にリークテストが陰性であったとしても,術中内視鏡でステープルラインが不完全で粘膜のずれを認めた場合には,縫合不全のリスクが高く,再吻合や人工肛門造設術などを考慮する必要があると報告している.
1977年から2014年7月までの医中誌で「術中大腸内視鏡」,「クリッピング」をキーワードに,1950年から2014年7月までのPubMedで「intraoperative colonoscopy」,「clipping」をキーワードに検索した結果,吻合部出血に対するクリッピングに関しては報告7)~10)を認めているものの,縫合不全部に対してクリッピングによる閉鎖に関する報告は認めておらず,本報告が初であると考えられる.
また近年,内視鏡下全層縫合器であるOver-The-Scope-Clip(以下,OTSCと略記)システム(Ovesco Endoscopy AG:Germany)が消化管穿孔症例,ESD後穿孔,直腸瘻,グリセリン浣腸による直腸穿孔などに対して用いられた報告11)12)を認めており,有用かつ安全であるとされている.OTSCは2011年11月より本邦で薬事認可されており,直腸癌術後縫合不全瘻孔部の閉鎖に用いられた報告13)も認めている.OTSCにおいても慢性経過の粘膜線維化や30 mmを超える大きな穿孔部の閉鎖には限界があるとされている.我々はまだ使用経験がないが,15 mmまでの穿孔径は単一のOTSC クリップで完全閉鎖可能であり,閉鎖対象組織の硬度が比較的軟らかいことが手技の成功の前提条件11)となるため,IOCSにより発見される小さな縫合不全に対しては良い適応があると考えられ,今後の報告が期待される.
利益相反:なし