2015 Volume 48 Issue 5 Pages 414-420
症例は55歳の男性で,心窩部痛を主訴に前医を受診し,CTにて膵臓のびまん性腫大,下部胆管の狭窄および胆囊底部に約20 mm大の広基性腫瘤を認め,血清IgG4高値を認めたため自己免疫性膵炎と診断されたが,胆管狭窄と胆囊病変に対する精査目的に当科紹介となった.狭窄部の胆管生検では悪性所見を認めず,胆管狭窄の原因はIgG4関連硬化性胆管炎と考えられたが,胆囊病変の悪性の可能性が否定できなかったため,拡大胆囊摘出術を施行した.病理組織学的検査所見では,胆囊病変は悪性所見を認めず,膠原線維の増生およびIgG4陽性の形質細胞の浸潤を多く認め,IgG4関連の炎症性偽腫瘍と診断された.自己免疫性膵炎は,IgG4関連疾患の主要な病変であり,さまざまな膵外病変が報告されているが,胆囊の炎症性偽腫瘍合併の報告は極めてまれである.
自己免疫性膵炎は,1995年にYoshidaら1)によって提唱され,膵臓の腫大,主膵管の不整狭窄,形質細胞の著明な浸潤と線維化,ステロイドが著効するなどの特徴を有する.近年,我が国を中心として疾患概念が整理され2),現在では,IgG4関連疾患の膵病変として認識されている3).今回,我々は自己免疫性膵炎に胆囊の炎症性偽腫瘍を合併した症例を経験したので報告する.
患者:55歳,男性
主訴:心窩部痛
既往歴:喘息,椎間板ヘルニア
家族歴:兄が胃癌
現病歴:2007年1月,心窩部痛を主訴に前医を受診した.USにて胆囊底部の肥厚を指摘され,CTにて膵臓の腫大,下部胆管の狭窄および胆囊底部に腫瘤を認め,血清IgG4高値を認めたため自己免疫性膵炎と診断されたが,胆管狭窄と胆囊病変に対する精査目的に当科紹介となった.
入院時現症:身長169.4 cm,体重56.6 kg.眼瞼結膜に貧血を認めず,眼球結膜に黄染を認めず.腹部は平坦・軟で,圧痛を認めず.
入院時血液検査所見:Hb 12.2 g/dlと軽度の貧血を認めた.当科入院時は,前医で内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(endoscopic retrograde biliary drainage;ERBD)チューブが留置されていたため,T-bil 0.9 mg/dl,AST 20 IU/l,ALT 12 IU/l,γGTP 28 IU/lと肝胆道系酵素に異常を認めなかった.IgG 2,026 mg/dl(基準値870~1,700 mg/dl),IgG4 595 mg/dl(基準値4.8~105.0 mg/dl)と上昇を認めた.CEA 2.6 ng/ml,CA19-9 21.3 ng/ml,Span-1 16.0 U/ml,DUPAN-2 26 U/mlと腫瘍マーカーは正常範囲内であった.
腹部超音波検査所見:胆囊壁は全体に軽度肥厚がみられ,胆囊底部に内腔に突出する25 mm大の広基性腫瘤を認めた.
腹部造影CT所見:膵臓のびまん性腫大を認め,胆囊壁は全体に軽度肥厚しており,底部に限局性の壁の肥厚を認めた(Fig. 1).

Enhanced abdominal CT findings. a) The pancreas is diffusely enlarged (arrows) and the wall at the fundus of the gallbladder is focally thickened. b) The sagittal slice shows wall thickening at the fundus of the gallbladder (arrow).
ERCP所見:主膵管の不整な狭窄と下部総胆管の狭窄を認めた.総胆管狭窄部の生検では悪性所見は認めなかった(Fig. 2).

ERCP shows multiple strictures of the main pancreatic duct (a) and stenosis of the distal common bile duct (b).
超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound;以下,EUSと略記)所見:胆囊底部に広基性の腫瘤を認め,内側低エコー層は,周囲と連続しているがやや丈の高い乳頭状を示し,病変深部低エコー域を認めるが,外側高エコー層は保たれていた(Fig. 3a).

a) Endoscopic ultrasound shows a sessile tumor located in the fundus of the gallbladder (arrow). The inner hypoechoic layer is thickened and papillary. There is a hypoechoic area in the deeper part of the tumor, but the outer hyperechoic layer is intact. b) Intraductal US shows circumferential wall thickening of the distal common bile duct, but the mucosal surface is smooth. Papillary debris is identified in the bile duct (arrow).
胆管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography;以下,IDUSと略記)所見:下部胆管で全周性の壁肥厚を認めたが,粘膜面は平滑で腫瘍性病変を認めなかった.拡張した総胆管内にdebrisと思われる乳頭状の腫瘤を認めた(Fig. 3b).
PET所見:PETでは,胆囊底部の腫瘤部分に一致してSUVmax2.85の集積を認めた.
以上の画像所見より,胆管狭窄は自己免疫性膵炎に合併した硬化性胆管炎と診断したが,胆囊病変は悪性所見が否定できないため,2007年5月に拡大胆囊摘出術を施行した.
手術所見:胆囊底部には,漿膜面に突出する白色調の腫瘤を認め(Fig. 4),摘出した胆囊を切開すると粘膜面にも一部発赤した結節を認めた(Fig. 5).同部を迅速病理に提出したが,悪性所見は認めなかった.IDUSで総胆管内に腫瘤を認めていたため,拡張部で総胆管を切開し胆道鏡で確認したが,腫瘍性病変は認めなかった.

Intraoperative findings show a white tumor exposed to the serosa of the fundus of the gallbladder (arrow).

The resected specimen shows a partially red nodule in the mucosa of the gallbladder (arrow).
病理組織学的検査所見:HE染色では,胆囊壁全層にわたり,リンパ球,形質細胞,好酸球などの炎症細胞浸潤を認め,Elastica-Masson染色では,膠原繊維の花むしろ状の増生を認めた.Elastica van Gieson(EVG)染色では,閉塞性静脈炎の所見を認めた.IgG4の免疫染色検査ではIgG4陽性の形質細胞の浸潤が数多く認められた(Fig. 6).IgG4関連疾患の病理組織学的特徴を有し,胆囊IgG4関連炎症性偽腫瘍と診断された.

Histopathological findings. a) Inflammatory infiltrate composed of lymphocytes, plasma cells, and eosinophils is observed through the full thickness of the wall of the gallbladder (HE staining, ×100). b) Storiform fibrosis is observed (Elastica-Masson staining). c) Elastica-van Gieson staining revealed obliterative phlebitis. d) Massive infiltration of IgG4-positive plasma cells (IgG4 immunostaining, ×100).
術後経過は良好で,術後17日目に退院となった.以後,当院消化器内科フォローとなったが,閉塞性黄疸などの症状なく,ステロイド未使用のまま外来経過観察となっている.
我が国で多く報告されている自己免疫性膵炎は,lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)を呈し,2011年のInternational Consensus Diagnostic Criteria(ICDC)によって,1型自己免疫性膵炎として分類された.これに対して欧米を中心にみられる好中球病変を中心とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)は,2型自己免疫性膵炎とされた2).1型自己免疫性膵炎は,IgG4関連疾患の膵病変と考えられ,合併する膵外病変として,Mikulicz病,硬化性胆管炎,間質性肺炎,肺,肝臓の炎症性偽腫瘍,尿細管性間質性腎炎,後腹膜線維症など,さまざまなIgG4関連疾患の病変が報告されている4).胆囊病変としては,硬化性胆管炎と同様に壁の肥厚,リンパ球および形質細胞の浸潤,線維化を特徴とした硬化性胆囊炎の報告5)がみられるが,画像上明らかな腫瘤を呈した炎症性偽腫瘍の報告はまれである.医学中央雑誌において,1983 年から2013 年の期間で「自己免疫性膵炎」,「胆囊」のキーワードを用いて,PubMedにおいて1950年から2013年の期間で「autoimmune pancreatitis」,「gallbladder」のキーワードを用いてそれぞれWeb検索した結果,自己免疫性膵炎に合併した胆囊病変が画像上明らかな腫瘤を形成していたのは,本症例と同様に胆囊底部に限局性の壁肥厚を認めた切除症例2例6)7)と,著明な肝浸潤を来した胆囊癌に類似した像を呈したが,生検からIgG4関連疾患と診断されステロイド治療された非切除症例1例8)のみであった.
IgG4関連疾患の組織学的な国際診断基準3)として,①著明なリンパ球,形質細胞の浸潤,②花むしろ状の線維化,③閉塞性静脈炎の存在が提唱されており,それに加えて,臓器によって異なる強拡大でのIgG4陽性形質細胞数を満たした場合に組織学的にIgG4関連疾患が強く疑われるとされている.今回の胆囊病変は,これらの三つの所見を全て満たしており,強拡大でのIgG4陽性形質細胞数も50個を超えているため,IgG4関連疾患の一病変と考えられ,基本的には硬化性胆囊炎と同じ病態をみていると考えられる.
胆囊のIgG4関連炎症性偽腫瘍は術前診断できれば切除の必要はなく,ステロイド治療を中心とした内科的治療の適応となるため,胆囊癌との鑑別が最も問題となるが,現在のところ報告数が少ないため,明らかな画像診断上の鑑別点を挙げることは困難である.合併する自己免疫性膵炎がIgG4関連疾患病変を疑う一助とはなるが,胆囊癌の合併を否定するものではない.本症例はPETでの集積を認めたが,自己免疫性膵炎および膵外のIgG4関連病変はPETで集積を認めることが報告されており9),鑑別には有用ではない.今後のさらなる症例の集積が待たれる.本症例では,前医で胆囊癌を否定できなかったものの,自己免疫性膵炎に対する治療を優先しステロイド治療を開始したが,胆管炎による発熱を認め2日間の投与のみで中止となっている.そのため胆囊病変に対する治療効果は不明であるが,最終的には,診断的治療としてステロイドの使用が鑑別に有用と思われる.しかしながら悪性疾患も疑われる以上,十分な精査を行ったうえでの慎重な適応が求められる.
利益相反:なし