The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Myeloid Sarcoma in the Small Intestine Associated with Acute Myeloid Leukemia
Koji FukataNorihiro YuasaEiji TakeuchiYasutomo GotoHideo MiyakeHidemasa NagaiMasaoki HattoriKanji MiyataYukiyasu OzawaMasafumi Ito
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2015 Volume 48 Issue 5 Pages 449-455

Details
Abstract

症例は49歳の男性で,17歳時に胃穿孔性腹膜炎の既往がある.2009年3月から急性骨髄性白血病のため末梢血幹細胞移植などの治療を受けていた.2013年1月よりイレウスのため3回の入院歴がある.2013年5月,腹痛のため来院しイレウスと診断され入院した.小腸造影で小腸に狭窄を認め,CTでは下腹部の小腸に限局性壁肥厚を認めた.USでは小腸に長径3 cmの限局性低エコー腫瘤を認め,壁の層構造は消失していた.以上より,小腸腫瘍による腸閉塞,特に急性骨髄性白血病の髄外浸潤を疑い開腹手術を行った.切除標本では径50×30 mmの表面細顆粒状の広基性隆起性病変を認めた.病理組織学的に小腸壁全層に骨髄芽球が高度に浸潤し,免疫組織学的にCD34+の芽球を多数認め,急性骨髄性白血病の髄外浸潤と診断した.骨髄性白血病・骨髄増殖性疾患の患者の消化管に腫瘤を認めた際は,骨髄芽球の髄外浸潤の可能性を念頭におく必要がある.

はじめに

骨髄性肉腫(myeloid sarcoma;以下,MSと略記)は,骨髄芽球ないし未熟骨髄細胞が髄外に腫瘍を形成する骨髄増殖性疾患で,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;以下,AMLと略記)の約5%にみられる比較的まれな疾患である.好発部位はリンパ節,骨・脊椎,皮膚で消化管にみられることは少ない1)2).AMLの初発病巣として,あるいは治療後の再発病巣として診断されることが多いが,悪性リンパ腫などの腫瘍と誤診されることもある.今回,我々はAMLの治療経過中に孤立性再発として小腸腫瘍を呈し切除されたMSの1例を経験したので報告する.

症例

患者:49歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:17歳時に胃穿孔腹膜炎にて手術歴がある.2009年3月,AMLと診断されdaunorubicin とcytarabineを用いた化学療法で完全寛解が得られ,2010年6月に自家末梢血幹細胞移植が施行された.移植後164日目に眼,口腔,肝臓にchronic graft versus host diseaseを認めた.2013年4月の血液検査でCBFβ-MYH11は610コピー/μgRNAと上昇していた.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2013年1月より腹痛があり,イレウスの診断で3回入院での保存的治療が行われた.2013年5月に腹痛を主訴に当院を受診した.

身体所見:身長186 cm,体重87 kg.血圧133/89 mmHg,脈拍68回/分,体温37.0°C.腹部は,やや膨隆し,腸蠕動音は微弱であった.腹部全体に圧痛を認めたが,反跳痛は認めなかった.

血液検査所見:Hb 13.5 g/dl,WBC 6,700/μlと貧血や白血球増多はなく,白血球像,血液生化学検査に異常を認めなかった.

小腸造影検査所見:イレウスと診断しイレウス管を挿入した.消化管の減圧後,イレウス管から小腸造影を行ったところ中部小腸に狭窄を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Intestinography using gastrografin showing stenosis of the small intestine (arrow).

腹部CT所見:小腸に長径約3 cmの限局性壁肥厚を認め,それより口側の小腸の拡張を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

CT showing a localized wall thickening of the small intestine (arrow).

腹部超音波検査所見:小腸に長径約3 cmの低エコー腫瘤を認めた.腫瘤の立ち上がりの表層エコーは周囲の小腸壁の粘膜・粘膜下層と連続していたが,腫瘤の大半で壁の層構造は消失していた(Fig. 3).

Fig. 3 

US disclosing a low echoic mass 3 cm in diameter with destructed wall structure.

FDG-PET所見:小腸に限局性のFDGの高集積(standardized uptake value:6.9)を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

FDG-PET-CT revealing a localized high FDG accumulation in the small intestine (SUV: 6.9) (arrow).

以上の所見から,小腸腫瘍による腸閉塞,特にAMLの小腸への髄外浸潤を疑い,手術を行った.

手術所見:下腹部正中切開にて開腹した.小腸を全長にわたって検索したところ,回腸末端から口側約200 cmの部分に腫瘤を認めたため小腸腫瘤を含めて約10 cmの小腸を切除し,自動縫合器を用いて機能的端々吻合を行った.

切除標本肉眼所見:径50×30 mmの表面細顆粒状の広基性隆起性病変を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Macroscopic findings of the resected specimen showing a sessile protruding tumor with fine granular surface.

病理組織学的検査所見:小腸壁全層に骨髄芽球が高度に浸潤し,粘膜,粘膜下層,固有筋層は肥厚し,漿膜下層に腫瘍塊を形成していた(Fig. 6a).粘膜層は腺管の萎縮・消失を認め,表面は乳頭状を呈していた.腫瘤は単核の異形好酸球から構成され(Fig. 6b),免疫組織学的にCD34,lysosomeが陽性であった(Fig. 6c, d).以上の病理組織学的検査所見は2009年3月のAML診断時に採取された骨髄所見と形態学的,免疫組織学的に一致したため,AMLの小腸への浸潤,MSと診断された.

Fig. 6 

(a): Histopathological findings showing thickness of the mucosa, submucosa and muscularis propria due to myeloblast infiltration. (b): The mass was composed of a lot of mononuclear atypical eosinophils (HE stain, ×400). (c): Myeloblasts stained positive with CD34 (×400). (d): Myeloblasts stained positive with lysosome (×400).

術後経過は良好で,第3病日に経口摂取を開始し,術後12日目に血液内科に転科した.CBFβ-MYH11は小腸腫瘍切除後には250コピー/μgRNAと減少し,2か月後には50コピー/μgRNA未満となった.

考察

MSはchloroma,granulocytic sarcoma,extramedullary myeloid tumorと同義で,骨髄芽球ないし未熟な骨髄細胞が髄外に腫瘤を形成する骨髄増殖性疾患である1)2).骨髄性白血病の3~7%,AMLの5%に認められる比較的まれな疾患である3).MSはリンパ節,骨・脊椎,皮膚に多いが,その他に消化管,縦隔,硬膜外,子宮などにも報告がある4)5).Neimanら6)はMS 62例を検討し,消化管に発生したMSは全体の7%と報告した.

MSの発症様式はさまざまで,AMLの初発病巣として,あるいはAML治療後の再発病巣となることがある.また,慢性骨髄性白血病などの骨髄増殖性疾患に引き続いてみられることがあり,この場合は急性転化を起こしている可能性が高い.MSはAMLのサブタイプM2,M4,M5に多く,染色体異常としてM2に特徴的なt(8; 21)やM4 with eosinophiliaに特徴的なinv(16)が報告されている7).一方,MSは診断が遅れたり誤診されることがある.Yamauchiら4)による74例の検討では正確に初期診断されていたのは53%(39例/74例)で,非ホジキンリンパ腫と誤診され,結果的に不適切な治療が行われた症例もある.MSの治療は一般に全身化学療法であり,手術などの局所療法は生存率向上に寄与しないが,自験例ではイレウス症状を改善するために手術を行った8).自験例では既往に胃穿孔性腹膜炎の手術歴があったため,イレウスの原因を当初は癒着性イレウスと考え3回の入院治療を行っていたが,AMLがあったこと,また血液検査でCBFβ-MYH11が上昇していたこと,小腸造影,CT,US,FDG-PETなどの画像所見から白血病細胞の小腸への髄外浸潤を疑った.摘出標本では表面が細顆粒状の広基性隆起性病変を呈したが,組織学的形態・免疫学的所見がAML診断時に採取された骨髄標本所見と一致したためMSと診断した.

我々が検索しえたかぎりでは(医学中央雑誌WEB ver. 5,1983~2014年,キーワード:「小腸腫瘍」,「AML」,「髄外浸潤」,「myeloid sarcoma」),小腸MSの外科的切除例の本邦報告例は自験例を含めて8例であった(Table 12)4)8)~12).年齢の中央値は39歳(27~67),男女比は7:1で,主訴は全例腹痛で,記載のある7例中全例がイレウスを呈した.8例中4例にAMLの既往を認めたが,4例ではAMLの既往を認めなかった.全例単発で,8例中2例が小腸間膜に腫瘤を形成していた.肉眼所見は所見の記載のある5例中4例で隆起型を呈した.術後にAMLと診断された症例は4例で,転帰の記載のある7例中2例が死亡し,2例は再発を伴いつつ生存している.

Table 1  Reported cases of resected myeloid sarcoma in the small intestine in the Japanese literature
No. Author/
Year
Age/S‍e‍x Previous AML diagnosis Chief complaint Ileus Number of tumor Location Size (cm) Macroscopic appearance Surgery Outcome
1 Toki9)
1987
51/M abdominal pain ND 1 mesentery ND protruding (cauliflower shaped) partial resection of the small bowel 10 months, dead
2 Okusawa10)
1993
27/F + abdominal pain and distension + 1 ileum 5 ND partial resection of the small bowel 3 months, alive without recurrence
3 Suzuki11)
2000
67/M abdominal pain + 1 mesentery 9 ND tumorectomy 16 months, alive with recurrence
4 Sugisaki12)
2000
36/M + abdominal pain + 1 small bowel ND protruding partial resection of the small bowel 8 years, alive
5 Yamauchi4)
2002
39/M + abdominal pain + 1 ileum 3 ND right hemicolectomy and partial resection of the small bowel 7 months, dead
6 Shigematsu2)
2009
40s/M abdominal pain + 1 small bowel ND protruding partial resection of the small bowel and sigmoidectomy 16 months, alive without recurrence
7 Yagi8)
2012
38/M + abdominal pain + 1 duodenum ND ulcerative ND 21 months, alive without recurrence
8 Our case 49/M abdominal pain + 1 small bowel 5 protruding partial resection of the small bowel 9 months, alive without recurrence

AML: acute myelogenous leukemia, ND: not described

原発性小腸悪性腫瘍は癌,悪性リンパ腫,gastrointestinal stromal tumorなどが多く,一方,転移性小腸腫瘍は肺癌,悪性黒色腫,乳癌,胃癌,子宮癌,膵癌,腎癌などが多い13)~15).MSはFDG-PETでFDGの高集積を示すことから,こうした原発性,転移性小腸悪性腫瘍が鑑別診断の対象となる.転移性小腸腫瘍はしばしば多発し粘膜下腫瘍の形態をとるが,小腸MSの外科的切除例の本邦報告例は自験例を含め単発性で,しばしば原発性腫瘍と類似した隆起性病変を呈すため,小腸MSの術前診断は必ずしも容易ではない.骨髄性白血病・骨髄増殖性疾患の患者の消化管に腫瘤が見られた際は,骨髄芽球の髄外浸潤の可能性を念頭におく必要がある.

利益相反:なし

文献
 

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