The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Barrett’s Esophageal Adenocarcinoma with Intramural Metastasis to the Stomach
Shigeo HarukiNoriaki TakiguchiKaida AritaShinsuke UsuiKoji ItoAkiyo Matsumoto
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2015 Volume 48 Issue 7 Pages 558-564

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Abstract

症例は42歳の男性で,食事つかえ感を主訴に当科紹介受診となった.胸部下部食道に不整潰瘍性病変を認め,生検にて高分化腺癌と診断された.接合部には胃粘膜襞の口側終末部より口側に円柱上皮形成を認めバレット食道の併存を疑った.また,胃体上部小彎に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.右開胸食道亜全摘術を施行し,胃粘膜下腫瘍は胃管作成時に切除した.病理組織学的検査において胃粘膜下腫瘍は粘膜下層に主座をおく胃壁内転移と診断された.左胃動脈幹,左反回神経周囲リンパ節を含む16個のリンパ節転移を認めた.接合部では円柱上皮下の粘膜下層に固有食道腺を認め,バレット粘膜が併存していたためバレット食道腺癌と診断した.化学療法を1年間行い経過観察中であるが,術後41か月現在無再発生存中である.胃壁内転移を伴うバレット食道腺癌に対する外科治療の意義は明らかではないが,集学的治療は必須と考えられ,症例の蓄積が待たれる.

はじめに

食道癌の壁内転移は粘膜固有層もしくは粘膜下層のリンパ管内を長軸方向に伸展するリンパ行性転移の一型で,食道癌の重要な伸展形式の一つである1)~3).一般的に高度のリンパ節転移が示唆され,他臓器転移の頻度も高く重要な予後不良因子でもある4)~6).さらに,胃壁内転移は食道癌取扱い規約上,遠隔臓器転移と定義されている7).今回,我々は胃壁内転移を伴うバレット食道腺癌の手術例を経験し,良好な治療効果を得ているため文献的考察を踏まえ報告する.

症例

患者:42歳,男性

主訴:胸部つかえ感

既往歴:特記事項なし.

家族歴:父に前立腺癌の罹患歴あり.

現病歴:2010年12月に食事つかえ感が出現し,2011年2月の検診上部消化管造影検査で胸部下部食道に不整像を指摘され当科紹介となった.なお,1年前の検診でも異常陰影を指摘されていたが放置していた.

初診時現症:身長176 cm,体重92 kg,Body Mass Index 29.7,表在リンパ節を触知せず.

血液検査所見:特記すべき異常所見なし.腫瘍マーカーでは抗p53抗体が3.20 U/mlと軽度上昇していた.

上部消化管造影検査所見:胸部下部食道に不整な潰瘍性病変を認めた.食道裂孔ヘルニアを認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Esophagography shows an ulcerative tumor at the lower tho­racic esophagus and hiatus hernia.

上部消化管内視鏡検査所見:上切歯列より36~43 cmに亜全周の境界不明瞭な周堤を伴う不整な潰瘍性病変を認めた.生検にて高分化管状腺癌と診断された.接合部では食道裂孔ヘルニアに加え,胃粘膜襞の口側終末部より口側に円柱上皮形成を認めバレット粘膜の併存を疑った.また,胃体上部小彎に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認め,生検ではGroup 1であったが壁内転移は否定できない所見であった(Fig. 2).

Fig. 2 

Esophagogastroduodenoscopy reveals an esophageal tumor at 36–43 cm from the upper incisor teeth (A), columnar epithelium unstained with iodine at the proximal side of the oral margin of the longitudinal folds along the greater curvature of the stomach (B, arrowhead), and submucosal tumor of the stomach (C, arrow).

頸・胸・腹部造影CT所見:噴門リンパ節腫大を認め,転移を疑った.

以上より,胸部食道癌,Lt,3型,T3N1M0,Stage III,胃粘膜下腫瘍と診断し2011年4月に右開胸開腹食道亜全摘,2領域リンパ節郭清,胸骨後胃管再建術を施行した.胃粘膜下腫瘍は胃管作成時に切除された.

病理組織学的検査所見:主病巣は固有筋層を越え周囲の結合織に浸潤していた.左噴門,小彎,左胃動脈幹リンパ節に加え,左反回神経周囲リンパ節転移も伴い,合計16個のリンパ節転移と診断された.胃粘膜下腫瘍は粘膜下層に主座をおく胃壁内転移であった.原発巣口側には壁内転移を認めなかった.接合部では円柱上皮下の粘膜下層に固有食道腺を認め,バレット粘膜が併存していたためバレット食道腺癌と診断した(Fig. 3).最終的にはadenocarcinoma,well differentiated,in the Barretts esophagus,type 5a,pT3,INFb,ly2(D2-40),v1,IM1-St,pN2(16/47,No. 2,3,7,106recL),pM1(胃),pStage IV bと診断した.

Fig. 3 

The gross appearances of the resected surgical specimen show the primary lesion at the esophagogastric junction and intramural metastasis to the stomach (A, yellow circle). The mapping of the adenocarcinoma and esophageal glands is indicated (B). The white circle is the esophageal gland region beneath the overlying columnar epithelium (B, white circle). The adenocarcinoma in the submucosal layer of the stomach is the intramural metastasis (C). An esophageal gland is detected beneath the overlying columnar epithelium (D, circle).

術後経過:左反回神経麻痺を合併したが大過なく経過し,術後16日目に軽快退院となった.2011年5月よりS-1+CDDPを3コース行い,2012年5月まではS-1による化学療法を行った.その後は無治療にて経過観察中であるが,2014年9月の時点で無再発生存中である.

考察

壁内転移は食道癌取扱い規約において,「原発巣より明らかに離れた壁内に認める転移巣」と定義されている7).食道壁内のリンパ管を介した転移と考えられ,粘膜下腫瘍様の形態をとることが多く,内視鏡検査もしくは造影検査においては念頭におく必要がある所見である.食道粘膜固有層のリンパ管には食道と胃との間の連続性はないが,粘膜下層のリンパ管は交通しているため接合部を跨いだ転移が起こりうることが報告されている8).多数例をまとめた種々の報告を鑑みると食道内での壁内転移頻度は7.4~15.3%,胃への壁内転移頻度は1.0~4.7%と推定される(Table 11)~6).これらの報告例は検討された症例の大多数が扁平上皮癌であり,胃壁内転移においては全例が扁平上皮癌であった.症例数が少ないこともあり,腺癌を含む他の組織型の壁内転移頻度に言及することは困難である.一方で胃癌の胃壁内転移頻度は比較的低く,Hashimotoら9)によるとその頻度は29/4,714(0.6%)で,例えR0切除であっても3年生存率は18.8%と不良であり,重要な予後因子の一つと報告されている.胃癌の食道壁内転移はさらにまれと考えられるが,全身転移の一徴候とした報告は散見される10)11).バレット食道腺癌の胃壁内転移頻度は不明であるが,食道胃接合部の粘膜下層以深へ浸潤するような病変で,高いリンパ行性転移能を持った腫瘍であれば組織型によることなく接合部を跨いだ壁内転移を来す可能性があると考えられる.さらに,本症例のように原発巣浸潤部が胃へ及ぶ場合にはその頻度がより高まる可能性がある.医学中央雑誌(1977~2013年)にて「食道癌」,「胃壁内転移」,PubMed(1950~2013年)にて「esophageal cancer」,「gastric intramural metastasis」をそれぞれキーワードとして検索すると,同時性転移に対する食道切除の報告を過去20年間に18例認めた(Table 25)12)~22).組織型は17例が扁平上皮癌,1例が腺扁平上皮癌であり,腺癌の報告は本症例のみであった.食道原発巣の主占居部位は12例がLtまたはAeであり,Utは1例のみであった.転移部位はほとんどが噴門周囲もしくは体上部の小彎であり,胃壁内転移の好発部位と考えられるため,手術治療を行う場合の内視鏡観察時は特に留意すべきである.本症例も原発巣はLt,壁内転移は体上部小彎であった.切除標本での病理組織学的所見においては15例がリンパ節転移陽性であった.リンパ管侵襲に関しては記載のあった症例の全例が陽性であり,本病態のリンパ行性転移能の高さを裏付ける結果であった.2年以上の生存例は5例で3年以上に限るとわずか2例であり,過去の報告と同様に予後不良な病態であることが再認識され,集学的治療の励行が必須であると考える.本症例は術前に胃壁内転移の確定診断には至らなかったため手術を施行したが,結果的には胃壁内転移のみならず上縦隔と腹部に合計16個のリンパ節転移を認めた.食道癌のリンパ節転移個数は重要な再発危険因子かつ予後因子であり,R0切除ではあったが予後改善のためには速やかな化学療法導入が必須と考えられたため,手術後約5週間でS-1+CDDP療法を開始した.3コース施行したところで各種画像検査にて再発徴候がないことを確認し,S-1単剤による化学療法を術後約1年となる2012年5月まで継続した.このことは本症例の良好な経過に寄与している可能性がある.

Table 1  Reports of intramural metastasis of esophageal cancer
No. Author Year No. of cases No. of IM in the esophagus No. of IM to the stomach
1 Takubo1) 1990 201​ 24 (11.9%) N/D
2 Kato2) 1992 393​ 60 (15.3%) 18 (4.6%)
3 Shinoda3) 1992 212​ 26 (12.3%) 10 (4.7%)
4 Kuwano4) 1994 167​ 24 (14.4%) N/D
5 Saitoh5) 1996 384​ 29 (7.6%) 6 (1.6%)
6 Ebihara6) 2004 1,259​ 93 (7.4%) 13 (1.0%)

IM: intramural metastasis, N/D: not described

Table 2  Reported cases of esophageal cancer with intramural metastasis to the stomach treated by esophagectomy in the past 20 years
No. Author/
Year
Age Gender Location of primary tumor Location of IM Size of IM Histology Pre-operative therapy pT pN ly v Post-operative therapy Outcome
1 Tsutsumi12)
1995
60 M LtMt U/Less 80 mm SCC T4 N2 N/D N/D RT 25 months alive
2 Saito5)
1996
N/D M LtAe U/Post 70 mm SCC T3 N3 ly+ v+ 5 months dead
3 Saito5)
1996
N/D M Lt U/Less 60 mm SCC RT (Σ16.2 Gy) T2 N4 ly+ v+ 2 months dead
4 Saito5)
1996
N/D M MtLt U/Less 11 mm SCC T4 N2 ly+ v+ 8 months dead
5 Saito5)
1996
N/D M Lt U/Less 20 mm SCC T3 N2 ly+ v+ 17 months dead
6 Saito5)
1996
N/D M MtLt M/Gre 25 mm SCC T4 N2 ly+ v– 4 months dead
7 Saito5)
1996
N/D M LtMt U/Less 30 mm SCC T4 N2 ly+ v– 14 months dead
8 Koide13)
1998
52 M Lt U/Less N/D SCC T3 N+ N/D N/D RT N/D
9 Koide13)
1998
70 F Lt U/Gre N/D SCC T3 N+ N/D N/D 6 months dead
10 Tajika14)
1999
67 M Mt U/Gre 115 mm SCC T1b-SM3 N2 ly+ N/D N/D N/D
11 Nishimura15)
1999
81 F MtLt U/Less 80 mm SCC T2 N0 ly1 v0 26 months alive without rec.
12 Kishino16)
2000
60 M Lt U/Gre 70 mm SCC T1b N/D N/D N/D 110 days dead
13 Shintani17)
2001
60 M Mt U/Less 95 mm ASC T1b N2 ly2 N/D 48 months alive without rec.
14 Suzuki18)
2002
49 M Ae U/Post 70 mm SCC T2 N0 ly2 v2 UFT 6 months alive with rec.
15 Ebihara19)
2002
45 M Lt U/Less 65 mm SCC T1a-LPM N2 ly3 v0 105 months alive without rec.
16 Hata20)
2007
62 M Lt UM/Less 85 mm SCC T1b N1 ly1 v2 16 months dead
17 Uehara21)
2008
67 M Lt U/Less 60 mm SCC T1b-SM3 N2 ly+ N/D 11 months alive without rec.
18 Nabeki22)
2012
51 F UtMt U/Less 53 mm SCC T1a-MM N4 ly3 v0 DCF 29 months dead
19 Our case 42 M Lt U/Less 12 mm ADC T3 N2 ly2 v1 SP 41 months alive without rec.

IM: intramural metastasis, F: female, M: male, U: upper third of stomach, M: middle third of stomach, Less: lesser curvature of stomach, Post: posterior wall of stomach, Gre: greater curvature of stomach, SCC: squamous cell carcinoma, ASC: adenosquamous cell carcinoma, ADC: adenocarcinoma, RT: radiation therapy, DCF: chemotherapy with docetaxel, cisplatin, and 5-FU, UFT: chemotherapy with UFT, SP: chemotherapy with S-1 and cisplatin, rec.: recurrence, N/D: not described

食道癌診断・治療ガイドラインには化学療法レジメン選択に際する組織型の記載はなく,本邦で行われている臨床試験の多くは食道腺癌を対象外としているため,本邦におけるバレット食道腺癌に対する化学療法レジメンは定まったものがないのが現状である23).一方,腺癌であることが一般的である胃癌の治療ガイドライン24)においてはStage IVに対する化学療法レジメンはS-1+CDDPが1st lineとされており,Miyazakiら25)は本邦ではバレット食道腺癌を含めた食道胃接合部腺癌は胃癌に準じた化学療法が行われる傾向にあると報告している.本症例のレジメン選択に際してはこれらの現状を踏まえ,さらにNakataniら26)の報告を踏襲し,SPIRITSレジメンに準じたS-1(80 mg/m2)3投2休,CDDP(60 mg/m2)day8投与を選択した27).有効例の報告が散見されることから,上記レジメンは本邦におけるバレット食道腺癌に対する化学療法の重要な選択肢と考えられる28)~30)

本症例は,外科治療を含めた集学的治療により術後41か月の現在,良好な経過を得ている胃壁内転移を伴うバレット食道腺癌であり,その外科的治療効果や意義,集学的治療法を追及するにあたり蓄積すべき症例と考え報告した.

稿を終えるにあたり,病理組織学検討に関してご教授頂きました総合病院土浦協同病院病理診断科Ekapot Bhunchet先生に深謝いたします.

利益相反:なし

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