The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Non-occlusive Mesenteric Ischemia with Duodenal Necrosis
Yusuke ItoYuko IgarashiMototaka InabaHiroaki Ohigashi
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2015 Volume 48 Issue 7 Pages 565-571

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Abstract

症例は82歳の男性で,吐下血・呼吸困難を主訴に救急搬送された.精査中に血圧低下を来し,炎症反応高値とエンドトキシン陽性より敗血症性ショックとして入院した.入院後に腹膜刺激徴候を認めたため,緊急手術を施行し,空腸と十二指腸の分節状の色調不良を認め,非閉塞性腸間膜虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia;以下,NOMIと略記)と診断した.循環動態が不安定であり,可及的に空腸と十二指腸の一部を切除し,吻合・創閉鎖を行わずopen abdomenにて管理した.術後3日目にsecond look operationを施行したところ,腸管の壊死は十二指腸水平脚まで進行しており,十二指腸部分切除を追加し,十二指腸と空腸を吻合して手術を終了した.十二指腸に虚血を来したNOMIの本邦報告はまれであり,報告する.

はじめに

非閉塞性腸間膜虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia;以下,NOMIと略記)は術前診断が困難であり,かつ死亡率の高い重篤な疾患である1)~4).今回,我々は十二指腸水平脚から空腸まで壊死を認めたNOMIの1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

症例

患者:82歳,男性

主訴:吐下血,呼吸困難

既往歴:気管支喘息,慢性心不全,脊柱管狭窄症,両膝人工関節置換術,左大腿骨骨折,右鼠径ヘルニア術後,右足リンパ浮腫

現病歴:数日前より下痢,嘔吐が頻回となり近医を受診するも異常なしといわれ帰宅した.その後,吐下血を認めるも自宅にて経過観察されていた.今回朝から右下腹部痛を認め,吐下血が持続し,動けなくなったため救急要請となった.救急隊接触時,腹痛と著明な呼吸困難を訴えており,当院へ救急搬送となった.

家族歴:特記事項なし.

来院時現症:身長158 cm,体重82.2 kg.血圧114/63 mmHg,脈拍98回/分,呼吸数15回/分,SpO2 92%,体温36.7°C.腹部は膨隆しているが軟で,右下腹部に限局的な圧痛を認めた.なお,腹膜刺激症状は認めなかった.

来院時血液検査所見:WBC 1,900/μl,CRP 17.369 mg/dlと白血球数の低下と炎症反応の上昇を認め,BUN 71 mg/dl,Cre 1.9 mg/dl,T-Bil 1.5 mg/dl,AST 57 IU/lと腎機能障害,肝機能障害を認めた.また,乳酸値の上昇を伴う代謝性アシドーシスの所見を認め,エンドトキシンが陽性であった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
WBC 1,900​/μl ​Na 146​ mEq/l
RBC 4.52×106​/μl ​K 4.1​ mEq/l
Hb 14.2​ g/dl ​Cl 108​ mEq/l
Ht 43.2​% ​CRP 17.369​ mg/dl
Plt 11.2×104​/μl
​APTT 28​ sec
TP 6.6​ g/dl ​PT 66​%
Alb 3.5​ g/dl ​PT-INR 1.27
T-Bil 1.5​ mg/dl ​D-dimer 6.2​ μg/ml
AST 57​ IU/l ​pH 7.328
ALT 23​ IU/l ​pCO2 42.7​ mmHg
γ-GTP 26​ mu/ml ​pO2 173.9​ mmHg
LDH 413​ IU/l ​HCO3 21.9​ mmol/l
s-AMY 132​ IU/l ​BE –3.9​ mmol/l
CPK 571​ IU/l ​Lac 2.5​ mmol/l
BUN 71​ mg/dl ​endotoxin 10.8​ pg/ml
Cre 1.9​ mg/dl ​Blood culture (–)

来院時腹部単純X線検査所見:左上腹部に小腸の拡張を認めた.

来院後経過:吐下血の精査目的で,緊急上部消化管内視鏡検査の方針としたが,誤嚥のリスクが高いため,経口気管挿管下に検査を施行した.上部消化管内視鏡検査では活動性出血の所見はなく,逆流性食道炎と,十二指腸下行脚の色調変化と炎症所見を認めた.検査中より血圧が80/50 mmHgと低下し,脱水を考慮して急速輸液を行うも血圧は上昇しなかった.原因検索のため胸腹部単純CTを施行したところ(Fig. 1),左上腹部に小腸の拡張を認めたが,その他明らかな異常所見は指摘しえなかった.血圧低下が持続し,炎症反応が高値で,エンドトキシンも陽性であることから,感染源は明らかでないものの敗血症性ショックを疑い,ICUへ入室となった.

Fig. 1 

CT of the abdomen shows expansion of the small intestine at the left upper quadrant.

入院後経過:来院後より6時間で11,100 mlの輸液を行うも収縮期血圧は60~80 mmHg台を推移し,ショックから離脱困難であったため,循環動態の把握目的で,経肺熱希釈法によるモニタリングを開始した.その結果,心係数(cardiac index;CI)5.0 l/min/m2,全拡張終期係数(global end-diastolic index;GEDI)1,072 ml/m2,肺血管外水分係数(extravascular lung water index;EVWI)12.0 ml/kg,全身血管抵抗(systemic vascular resistance index;SVRI)が901 dyne·s/cm5/m2であり,循環血液量は足りており,心機能も良好であるが,全身血管抵抗のみ,著明に低下していた.敗血症性ショックに矛盾しない所見であり,ノルアドレナリン(noradrenaline;以下,NAと略記)の持続投与を開始した.腸管壊死を疑い,その評価のため,腹部造影CTを施行(Fig. 2)したところ,脾臓・小腸周囲に腹水の貯留を認めたが,明らかな腸管の造影不良は指摘しえなかった.しかしながら,NA 0.5 μg/kg/min使用下でも血圧は70/30 mmHgと低値であり,心拍数130 bpm,WBC 600/μlと全身性炎症反応(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)の状態が悪化した.さらに,Plt 64,000/μl,PT-INR 1.76と凝固障害も認め,急性期DIC scoreは5点であった.血圧低下に伴い鎮静を中止して,改めて腹部所見をとると,臍右側と左上腹部に明らかな反跳痛を認め腹膜炎と判断した.腹水の出現と腹痛の増悪から,腸管壊死に伴う敗血症性ショックと判断し,来院から10時間30分後に全身麻酔下で緊急手術となった.

Fig. 2 

The contrast-enhanced CT of the abdomen shows ascites around the spleen and the small intestine and no poor enhancement of the small intestine. Superior mesenteric artery is enhanced from the proximal to the distal part.

手術所見①:上腹部正中切開にて開腹したところ,淡黄色の腹水を中等量認めた.腹腔内を検索すると,Treitz靭帯すぐより肛門側約1 mの範囲の空腸に分節状の色調不良領域を認めた.同領域の腸間膜動静脈の閉塞所見は認めず,NOMIと判断した(Fig. 3).ショック状態での緊急手術であったため,可及的に壊死腸管を切除して,吻合・創閉鎖を行わずopen abdomenにて管理を行う方針とした.Treitz靭帯を切開し,可能なかぎり口側にて十二指腸を切断した.一方,空腸は色調が良好と思われる部位にて切断した.摘出標本を確認すると,十二指腸の口側断端まで粘膜壊死は及んでいたが,さらなる手術侵襲は全身状態の増悪を来すと判断したため,追加切除は行わず,イレウスチューブを留置して,手術を終了した.手術時間は1時間39分,出血量は少量,術中輸血は新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma;FFP)8単位,濃厚血小板20単位であった.

Fig. 3 

Intra-operative findings show a wide range of segmental necrosis of the small intestine.

摘出標本所見①:空腸粘膜に非連続性の壊死を認めたが,穿孔所見は認めなかった(Fig. 3).

病理組織学的検査所見①:空腸粘膜,固有筋層に変性,出血,壊死を認め,粘膜内に好中球をはじめとした炎症細胞が浸潤し,膿瘍が形成され,細菌塊が付着していた.虚血性障害後,粘膜の破綻に伴い,細菌感染を合併したものと考えられた(Fig. 4).

Fig. 4 

Degeneration, bleeding, and necrosis in the mucosa and muscularis propria of the jejunum. Inflammatory cells infiltrate in the mucosa and form abscess.

術後経過①:ICU帰室後,エンドトキシン吸着療法(direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber;PMX-DHP)および持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration;以下,CHDFと略記)の導入,ハイドロコルチゾンの持続投与,MEPM 2 g/day,γグロブリン5 g,リコンビナントトロンボモジュリン380 U/kgの投与を開始した.その結果,全身状態は徐々に改善し,NAの漸減が可能となった.術後2日目にはNAは0.1 μg/kg/minまで漸減し,CHDFによる積極的な除水を行った.全身状態の安定化がみられたため,術後3日目にsecond look operationを施行した.

手術所見②:十二指腸断端部から口側5 cmにかけて腸管壊死の進行を認めた.十二指腸を膵臓より剥離し,十二指腸下行脚を切開し,肉眼的に壊死を認めないVater乳頭部のすぐ直下の十二指腸下行脚にて十二指腸を切断した.空腸断端部も追加切除し,壊死の進行がないことを確認した.十二指腸下行脚と空腸を側端にて吻合し,手術を終了した(Fig. 5).

Fig. 5 

Intra-operative findings show a segmental necrosis of the duodenum.

摘出標本所見②:十二指腸粘膜に壊死を認めたが,空腸粘膜に壊死を認めず,いずれも穿孔所見は認めなかった(Fig. 6).

Fig. 6 

Degeneration and necrosis of the duodenal mucosa.

病理組織学的検査所見②:十二指腸粘膜・筋層の変性,壊死を認めた(Fig. 6).

術後経過②:術直後よりNAは中止可能であり,術後5日目にはCHDFを離脱した.術後8日目より経腸栄養を開始した.術後9日目に抜管し,術後19日目より経口摂取を開始した.その後,深部静脈血栓症や創部感染を合併したが,術後経過は良好で,第65病日にリハビリテーション病院へ転院となった.

考察

NOMIは腸管を栄養する動脈に器質的な閉塞が存在しないにもかかわらず腸管に虚血・壊死を来す疾患で,死亡率は50~79%と非常に予後不良である1)~4).心拍出量や循環血液量が減少した状態では,homeostatic mechanismが働き,重要臓器への血流の再分配が生じるため,腸管への血流が低下する.そして,低灌流状態が一定期間持続すると腸間膜動脈領域の末梢辺縁動脈の交感神経が過剰に反応して血管攣縮を引き起こし,腸管虚血,壊死に至るとされている5)6).重篤な病態にもかかわらず,NOMIの症状や理学的所見には特異的なものはなく,初発症状も軽微なことが多いため,早期診断は困難である7)8).自験例は吐下血を主訴に来院され,腹部所見は限局的な圧痛のみであり,診断に苦慮した.当初は保存的治療として入院したが,集中治療に反応せず病態が悪化し,外科治療の方針となったため,来院から10時間以上経過してからの緊急手術となった.NOMIの診断基準としては,①腸管壊死の領域を栄養する腸間膜動静脈に閉塞を認めないこと,②腸管虚血ならびに壊死が分節的で非連続的であること,③病理組織学的に腸管に出血および壊死の所見を認めること,の3点がHeerら9)により提唱されており,自験例は全てを満たしていた.治療は,腸管壊死やショックを伴う症例では開腹手術が原則である8)が,同所見を認めない症例については血管拡張薬による動注療法が有効との報告がある10).緊急開腹手術時には,壊死範囲の正確な評価は困難であり,壊死の進行から追加切除を余儀なくされる場合が多い.中尾ら8)によると,NOMIにおけるsecond look手術施行率は76%で,その際に壊死腸管の追加切除を要した割合も38%と高率であった.自験例では,結果的に空腸部分切除に加えて,十二指腸水平脚から下行脚までの十二指腸部分切除を要した.循環状態が非常に不安定で,大量の輸液やNA投与下で侵襲の大きな緊急手術を行う場合,一期的に腸管吻合を行えば,手術時間が延長するとともに,術後の縫合不全のリスクも高まる.このような状況を考慮すると,全身状態が不良なNOMIに対しては,二期的手術による治療戦略が有効であると考えられた.

医学中央雑誌で,「非閉塞性腸間膜虚血」,「十二指腸」,「虚血」をキーワードとして1983年~2014年8月まで検索したところ,十二指腸に虚血を来したNOMIの症例は自験例を含めて5例あり,自験例と保存的に軽快した1例を除き,腸管壊死を伴ったものは全て最終的に不幸な転帰となっている4)11)~13).十二指腸は腹腔動脈分岐の上膵十二指腸動脈と上腸間膜動脈分岐の下膵十二指腸動脈の複数血管から栄養されており,また,側副血行路に富むことから,一般に虚血性変化が生じにくい臓器と考えられている.しかし,高田ら13)によると,血管攣縮が広範囲にわたって起こった場合は,十二指腸も虚血に陥る可能性があると指摘している.今回の症例では,十二指腸水平脚と空腸に,腸管虚血を認めるものの,十二指腸球部から下行脚の虚血は認めなかった.血管攣縮がそれほど広範囲にわたって起こっているわけではなかったが,上腸間膜動脈領域の一部に高度の血管攣縮が起こったことが原因であったと推測される.NOMIの病態において,血管攣縮を来す要因は明らかになってきているが,どの血管に攣縮が起きやすいのかという点に関しては,いまだ不明な点が多い.Lopezら14)は動物実験において,アテローム性動脈硬化症があるとセロトニンやカテコラミンの血管収縮作用が増強されるとし,このことが,NOMIの発症要因に関与していると指摘している.しかし,今回の病変周囲の血管にはアテローム性動脈硬化症の所見は乏しかった.そのため発症要因との関連は不明であるが,下痢・嘔吐による循環血液量の減少が誘因となった可能性が考えられる.

NOMIは早期診断が難しく,広範囲の腸管壊死を来す予後不良な疾患である.本症例のように豊富な側副血行路と複数の血管支配を受ける十二指腸においても壊死を来すことがある.緊急手術の場合,術後に壊死範囲が進行する可能性もあるため,切除範囲の決定には慎重な判断を要する.循環動態が不安定なNOMIに対しては,二期的手術を含めた治療戦略を検討するべきであると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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