The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Granulocyte-colony Stimulating Factor-producing Esophageal Squamous Cell Carcinoma Treated with Chemoradiation Therapy
Hiromi MukaideTaku MichiuraRintaro YuiTakashi OzakiJunichi FukuiKentaro InoueShigeyoshi IwamotoKeigo YamamichiA-Hon KwonMadoka Hamada
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2015 Volume 48 Issue 9 Pages 739-746

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Abstract

症例は60歳の男性で,嚥下困難,体重減少を主訴に近医受診し食道癌にて当院受診となった.生検病理組織学的診断は中分化型扁平上皮癌でWBC 43,400/μl,血清granulocyte-colony stimulating factor(以下,G-CSFと略記)66 pg/ml(基準値<39 pg/ml)と高値を示した.生検組織の免疫組織化学的検査はG-CSF陽性であり食道原発G-CSF産生扁平上皮癌と診断した.食道癌根治目的にて手術を施行するも,大動脈浸潤を含む急速な腫瘍の増大を認め切除を断念し,根治的化学放射線療法(60 Gy照射,5-fluorouracil,cisplatin ×2コース)を施行し完全奏効を得た.その後補助化学療法を追加,完全奏効判定後7年4か月無再発生存している.食道原発G-CSF産生扁平上皮癌の長期生存の報告は極めて少なく化学放射線療法の奏効した極めてまれな症例と考えられる.

はじめに

食道原発のgranulocyte-colony stimulating factor(以下,G-CSFと略記)産生腫瘍はまれな疾患であり,さらに長期生存の報告は極めてまれである1)~4).我々は化学放射線療法にて完全奏効が得られ,初回治療より7年4か月無再発生存を得ている,食道原発G-CSF産生扁平上皮癌を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

患者:60歳,男性

主訴:嚥下困難,体重減少

家族歴:父 胃癌,母 肝臓癌

既往歴:特記事項なし.

嗜好品:喫煙 20本/日×40年,飲酒 ビール 1本/日×40年

現病歴:2007年1月中旬より喀痰の増加,1か月に10 kgの体重減少を自覚していた.2月中旬より嚥下困難が出現したため,近医受診し,上部消化管内視鏡検査にて食道癌を指摘され,精査加療目的にて当院へ紹介受診となった.

初診時現症:身長164.5 cm,体重42.4 kg,体温36.2°C,血圧104/68 mmHg,脈拍70回/分 整,呼吸数20回/分,結膜に黄染・貧血なし,表在リンパ節腫脹なし,胸腹部にも異常所見を認めなかった.

(入院時)血液検査所見:WBC 43,400/μl,好中球35,154/μlと高値であり,CRPは0.768 mg/dl(正常値0~0.3)であった.腫瘍マーカーはSCC 2.3 ng/ml(0~1.5),CEA 1 ng/m(0~5)とSCCの上昇を認め,Ca 11.7 mg/dl(8.5~10.3)と軽度高値なるも,他に特記すべき異常所見は認めなかった(Table 1).

Table 1  Blood test on admission showed a high serum level of white blood cell
WBC 43,400/μl (3,500–8,500) ​Na 138 mEq/l (138–146) ​TP 6.8 g/dl (6.5–8.2)
Neutro 35,154/μl ​K 4.3 mEq/l (3.5–5) ​ALB 2.8 g/dl (3.8–5)
Baso 0.50% (0.1–2) ​Cl 102 mEq/l (100–110) ​CK 5 U/l (55–245)
Eosino 6.50% (0.5–6) ​BUN 11 mEq/l (8–20) ​AMY 56 U/l (37–125)
Lympho 8% (18–49) ​Cre 0.75 mEq/l (0.6–1) ​T-CHO 153 mg/dl (136–220)
Mono 4% (3–9) ​Ca 11.7 mEq/l (8.5–10.3) ​CRP 0.768 mg/dl (0–0.3)
Blast 0% ​AST 10 U/l (13–35)
RBC 417×104/μl (400–570×104) ​ALT 7 U/l (5–35)
Hb 12.7 g/dl (12.9–17.2) ​CHE 122 U/l (185–450) ​CEA 1 ng/ml (0–5)
HTC 40% (38.2–50.8) ​GGT 14 U/l (11–64) ​SCC 2.3 ng/ml (0–1.5)
​ALP 306 U/l (107–340)

(入院時)上部消化管内視鏡検査所見:切歯より27~40 cmに亜全周性の潰瘍性病変を認めた.中心の潰瘍は辺縁不整で白苔が付着し,潰瘍周囲に一部が崩れた周堤を伴う3型進行食道癌を認めた(Fig. 1).生検病理組織学的診断は中分化型扁平上皮癌であった.

Fig. 1 

Esophagogastroduodenoscopy shows tumor in the middle of the thoracic esophagus.

(入院時)胸部CT所見:気管分岐部直下から横隔膜直上にかけて,全層性に造影効果のある全周性の壁肥厚を認めた.腫瘍径は51.1×39.3×133.0 mmであった.大動脈と接していたが,明らかな浸潤を疑う所見は認めなかった(Fig. 2).胸部中部食道傍リンパ節(No. 108)には7.6×5.6 mmと腫大を認め転移を疑ったが,他にリンパ節腫脹なく,遠隔臓器転移を疑う所見は認めなかった.

Fig. 2 

CT. The tumor was 51.1×39.3 mm 34 days before operation.

感染巣を疑う所見を認めず,骨髄穿刺でも転移所見はみられなかった.末梢血FISH法にて遺伝子異常を認めず,慢性骨髄性白血病などの血液疾患も否定された.以上より,白血球増多については,感染性でもなく,骨髄転移,白血病を含む血液疾患も否定され,G-CSF産生腫瘍が疑われた.血清G-CSFは66 pg/‍ml(基準値<39 pg/ml)であり,免疫組織化学的検査でもG-CSF陽性所見を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

HE staining (A). Immunohistochemical examination revealed positive staining for granulocyte colony-stimulating factor (B).

(入院時)PET-CT所見(CTより20日目):気管分岐部直下から横隔膜直上にかけて食道の塊状腫瘍にSUVmax 19.4と集積を認めた.腫瘍径52.4×39.3×134.0 mmとCT時より増大傾向を認めたが,周囲組織への明らかな浸潤所見は指摘できなかった.リンパ節転移を疑う集積は認めなかった.他に遠隔転移を疑う異常集積は認めなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

PET-CT.

以上より,G-CSF産生食道扁平上皮癌,MtLt,cT3N0M0,cStage II(食道癌取扱い規約第10版)と診断した.

治療経過:術前CTより34日目,PET-CTより14日目,食道癌根治目的にて手術を施行するも,PET-CT時所見より急速な腫瘍の増大と大動脈への浸潤を認めたため切除不能と判断し,腸瘻造設術のみを施行した.術後4日目にCT再検査し,腫瘍径74.0×39.3×165 mmと急速な増大,大動脈への浸潤所見を確認した(Fig. 5).新病変や転移所見は認めなかった.術後14日目より根治的化学放射線療法を開始した(放射線:2 Gy×30回 計60 Gy,縦隔,前後対向2門×20回,斜入対向2門×10回,化学療法:5-fluorouracil 400 mg/m2 day 1~5・day 8~12,cisplatin 40 mg/m2 day 1,8×2コース,54日間).

Fig. 5 

CT. The tumor increased to 74.0×39.3 mm 4 days postoperatively.

化学放射線療法終了後,効果判定検査を施行した.

血液検査所見:異常高値であった白血球数は化学放射線療法開始後,急速に減少し,開始後21日目に6,100/μlと正常化,化学放射線療法終了後3日目も5,300/μl,好中球数も4,556/μlと正常範囲内であった(Fig. 6).血清G-CSF値は治療前65 pg/mlから45 pg/ml(放射線化学療法終了後19日目)と低下を認めた.

Fig. 6 

Changes in white blood cell count and neutrophil count.

上部消化管内視鏡検査所見(放射線化学療法終了後39日目):腫瘍は消失,不整瘢痕化しており,一部粘膜不整と同部ルゴール不染を認めたが,瘢痕部やルゴール不染部の生検組織の病理組織学的診断でも中等度の炎症細胞浸潤と壊死性変化,細胞内,細胞間浮腫を伴う肥厚した扁平上皮細胞でmild dysplasia所見と診断され,病理組織学的にも癌を認めなかった.全食道が観察可能であり,活動性食道炎を示唆する内視鏡所見も認めなかった(Fig. 7).

Fig. 7 

Esophagogastroduodenoscopy following chemo­radiation therapy.

CT所見(化学放射線療法終了後39日目):食道腫瘍部は測定可能病変が見られず軽度の肥厚のみで造影効果なし,不整なし(Fig. 8).リンパ節の腫大なし.肝転移など,転移疑う所見なし.左肺下葉に線状影,索状影あるも,以前と著変なく陳旧性炎症性変化と考えられた.

Fig. 8 

CT following chemoradiation therapy (CRT).

食道癌取扱い規約に則り,放射線化学療法効果判定は総合判定完全奏効と判断した.

化学放射線療法終了後58日目より補助化学療法として,さらに高用量FP療法9コース(5-fluorouracil 800 mg/m2 day 1~5,cisplatin 80 mg/m2 day 1,18か月間)を施行した.その後,現在に至るまで,完全奏効と診断後7年4か月にわたり,再発所見を認めていない.

考察

G-CSFは分子量19,000で174のアミノ酸から成り,健常人では主に血管内皮細胞,繊維芽細胞,単球,マクロファージなどで産生される3).しかし,G-CSF産生腫瘍では腫瘍組織がG-CSF活性因子を過剰に産生することにより,臨床所見と乖離する白血球増多などの検査値の異常が見られる.感染や血液疾患などの原因がないにもかかわらず,白血球が異常高値を示す症例ではG-CSF産生腫瘍も念頭におく必要がある.

1951年にFahey5)により腫瘍自体が骨髄刺激因子を産生する可能性が指摘されたことから,G-CSF産生腫瘍の概念が提唱された.その後Asanoら6)が1977年に初めて肺癌でG-CSF産生腫瘍を報告し,以降さまざまな臓器での報告がなされている.報告例で最も頻度の高い臓器は肺で,ついで肝臓,胃と続き,他,消化器系では胆囊,膵臓での報告も見られる7)が,食道についての報告は少ない.

G-CSF産生腫瘍診断の指標は①好中球数増多による白血球増多,②血液中のG-CSFの高値,③切除または治療後の白血球数の減少とG-CSFの低下,④腫瘍細胞のG-CSF産生の証明,とされている8).腫瘍組織のG-CSF産生の証明は,G-CSFmRNAの検出や腫瘍細胞培養上清中のG-CSF活性測定などの他に,免疫組織化学的検査によるG-CSF陽性の確認でもよいとされ9),本症例では①~④の全てを満たしている.

前述のように食道G-CSF産生腫瘍についての報告は非常に少ない.医学中央雑誌(1983年から),PubMed(1950年から)にて検索される食道G-CSF産生腫瘍の報告(食道,G-CSF産生腫瘍,食道癌,食道肉腫で検索,会議録は除く)は2014年11月までに,26例の報告が見られ,癌肉腫12例,扁平上皮癌12例,小細胞癌2例のみである1)~4)7)10)~14).G-CSF産生腫瘍に特異的な治療法は確立されておらず,計26例のうち18例に手術が施行され,そのうち術前化学放射線療法および術後補助化学放射線療法が1例ずつ追加されている.非手術例では化学療法単独2例,放射線療法単独2例,化学放射線療法3例,無治療1例であった.2年以上の長期生存が報告されているのは手術単独の2例のみであった.また,切除可能であっても術後局所再発および遠隔転移を来すことが多く,集学的治療が必要だと考える.本症例のように放射線化学療法にて完全奏効が得られ,長期生存の報告は我々の調べた範囲では見られなかった.本症例では完全奏効後も補助化学療法を継続できており,長期生存への寄与が考えられる.

G-CSF産生食道癌はいずれの報告でも極めて悪性度が高く予後不良と報告されている1)~4).その原因として,in vitroにおいてG-CSFが固形癌に対し増殖促進作用を有することから,autocrine growth factorとしての機序が働き,腫瘍の急速な増殖,進展,転移に関与している可能性があり15)16),Baldwinら17)は腫瘍細胞上にG-CSFレセプターが存在することを報告している.また,血球崩壊が高尿酸血症や腎機能障害を来し,全身状態の急激な低下を来すことも考えられている9).本症例でも術前検査後より予想以上の急速な腫瘍の増大を認めており,治療計画の変更を余儀なくされた.本症例のように術前画像検査から白血球増多の原因精査などで時間を要した場合,術直前に再度画像診断による再評価を施行すべきであったと考える.

診断基準の一つにもあるように治療による腫瘍の縮小で白血球数や血清G-CSF値の低下が認められ,再発時にこれらが上昇,臨床経過と同期して変動した報告も散見され,かつSCC値より血清G-CSF値が臨床経過と相関したとの報告もあり4),血清G-CSF値が腫瘍進行再発の評価に有用と考えられる.血清G-CSF値は本国では保険適応ではないため,本症例では治療前,治療後の2回のみの測定であるが,治療後に低下を認めており,その後は正常化した白血球数の変動を参考としつつ経過観察をしている.

現在,肺や胃においてもG-CSF産生腫瘍に特異的な治療法は確立されておらず,各臓器腫瘍の治療に準じて行われている.進行G-CSF産生非小細胞肺癌に対し,非小細胞肺癌の標準治療である化学放射療法により完全奏効が得られたとの報告が1例ある18)が,非常にまれである.また,切除不能G-CSF産生多型肺癌にて化学放射線療法で部分奏効が認められ治療中の症例報告もある19)が,化学放射療法が無効な例も多く現時点では有効性は明らかではない.今後さらにG-CSF産生腫瘍についての症例の集積,検討が必要であると考える.

利益相反:なし

文献
 

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