The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Malignant Progression of Mixed Type IPMN Which Formed a Duodenum Fistula during Long-term Observation
Yukihiro WatanabeKojun OkamotoYohei MoritaShingo IshidaKatsuya OkadaMasayasu AikawaMitsuo MiyazawaIsamu KoyamaHiroshi YamaguchiMichio Shimizu
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2015 Volume 48 Issue 9 Pages 769-775

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Abstract

症例は76歳の男性で,2007年に膵頭部の混合型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)と診断され,以後5年間明らかな変化を認めなかった.2012年のCT,MRIにてもほとんど変化を認めなかったが,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭開大の軽度増加を認め,ERCPにて十二指腸に瘻孔を認めた.同部位からの造影では囊胞内に欠損像を認め,膵管内超音波検査にては囊胞内に充実性の腫瘤を認めた.以上より,混合型IPMNの十二指腸穿破,悪性化を考え,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査では,最も異型の強い部位はcarcinoma in situであったが,瘻孔形成部は腺腫相当の病変で悪性所見を認めなかった.混合型IPMNの長期観察中に十二指腸へ穿破し,画像所見の変化が軽微であった悪性化の1例であった.

はじめに

膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)は,機能的には粘液産生,病理学的には膵管内上皮の乳頭状増生および膵管内進展という側面を有した腫瘍であり,ときに他臓器への穿破がみられることが知られている1).一方,IPMNの手術適応はhigh risk stigma(悪性を疑う所見)を認める例とされており,経過観察を行っている例が少なくないがその長期経過観察の詳細はいまだはっきりとしていない点も多い.今回,我々は混合型IPMNの長期経過観察中に膵管十二指腸瘻を形成したことにより,CTやMRIでの画像所見において主膵管拡張や囊胞径の増大が認めなかった膵IPMN悪性化の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:73歳,男性

主訴:特になし.

現病歴:2007年に膵管拡張を近医で指摘されて当院紹介となった.膵頭部混合型IPMNの診断にて5年間明らかな画像的な変化を認めず経過観察としていたが,2012年9月の上部消化管内視鏡検査にて主乳頭開大の軽度増大を認め,ERCPにて十二指腸への瘻孔を認めた.

既往歴:71歳,早期大腸癌内視鏡的粘膜切除術を施行された.72歳,早期胃癌にて内視鏡的粘膜剥離術を施行された.高血圧と糖尿病にて近医通院中であった.

入院時現症:腹部は平坦で軟,異常所見は認めなかった.

入院時検査所見:HbA1c 6.5%と軽度の耐糖能異常を認める他は異常を認めなかった.腫瘍マーカーも正常値であった.

上部消化管内視鏡検査所見:乳頭の開大を認め,白色瘢痕様変化を認めた.

腹部造影CT所見:2007年のCTで膵頭部に小囊胞状構造の集簇を認め,主膵管との交通も認められた.主膵管径は5 mmと拡張し混合型IPMNと診断した.2007年から2012年9月までのCTにては病変の明らかな増大は認めなかった.2012年12月のCTにても膵頭部の囊胞性病変は軽度の増大を認めるもののCT上では明らかな結節を認めず,瘻孔も指摘はできなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal contrast enhanced CT findings from 2007 to 2012. CT findings showed the multilocular cystic lesion about 1 cm in diameter at the pancreas head at 2007. The cyst did not show apparent change until 2012. There was no solid component in the inner portion of the cyst.

腹部MRI所見:CT同様に膵頭部に多房性の囊胞性病変を認めた.主膵管径は5 mmで2007年から2012年まで囊胞性病変の増大や主膵管径の変化を認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

MRCP findings from 2007 to 2012. MRCP findings showed a multilocular cystic lesion at the pancreas head which was accompanied with mild dilatation of the main pancreatic duct. There had been no apparent change for 5 years.

入院時ERCP所見:主乳頭の開大と粘液の流出,乳頭近傍に瘻孔を認めた.主乳頭から造影すると膵頭部の主膵管と囊胞が造影されるが,屈曲が強く尾側膵まではカニュレーションできなかった.瘻孔から造影すると,拡張した分枝膵管が造影された後に主膵管と囊胞が造影され,その中枢に造影欠損像を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

Endoscopic findings show the significantly papillary portion, reflux of mucus from it, and fistula (a). ERCP findings showed a cyst cavity with a fistula and a filling defect which might have been caused by solid component (b).

入院時超音波内視鏡検査所見:主膵管からは十分に検索はできなかった.副膵管から囊胞を検索し,約2 cmの壁在結節を疑う所見を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

EUS findings show a mural nodule in the cyst.

手術所見:膵液細胞診からは悪性の所見は認めなかったが,穿破の所見と囊胞内壁在結節を疑う所見をhigh risk stigmaと判断し膵頭十二指腸切除術を施行した.

摘出標本所見:膵頭部において主膵管が囊胞状に拡張し,内腔をほぼ充満するような結節状の腫瘍を認めた.主膵管と交通する分枝膵管の囊状拡張も数個確認され,その一部が十二指腸と交通し瘻孔を形成していた(Fig. 5).

Fig. 5 

The nodule in the cyst of the pancreas head was 23×20 mm in size, which was almost occupied the cyst. The fistula of the duodenum was connected to IPMN.

病理組織学的検査所見:主膵管を充満する壁在結節は,胃の腺窩上皮に類似した異型性の目立たない粘液上皮の管状,乳頭状増殖より構成されており,gastric typeのadenomaの所見であった.壁在結節を内在する主膵管と周囲の分枝膵管には平坦状から乳頭状の増殖像を呈する円柱上皮を認め,大部分が膵管内乳頭粘液性腺腫(intraductal papillary mucinous adenoma;以下,IPMAと略記)であったが,局所的に高度の異型性を認め非浸潤性の膵管内乳頭粘液性腺癌の診断となった.瘻孔部はIPMA相当の上皮で覆われており悪性所見は認めなかった(Fig. 6).

Fig. 6 

Histopathological findings. (a) HE×10. Histological examination of the resected specimen disclosed an intraductal papillary lesion. In the greater part, the epithelium consisted of intraductal papillary mucinous adenoma (thin arrow). The lumen of a branch duct (thick arrow) was connected to the fistula composed of IPMN without malignant component. (b) HE×20. High-grade dysplasia and adenocarcinoma was identified in the cyst, but invasion into the pancreas parenchyma was not demonstrated.

術後経過:現在無再発外来通院中である.

考察

IPMNは1982年大橋ら2)によって提唱された疾患,概念であり,機能的には粘液産生,病理学的には膵管内上皮の乳頭状増生および膵管内進展という側面を有し,過形成,腺腫,腺癌(非浸潤癌,微小浸潤癌,浸潤癌)など多彩な組織像を呈する腫瘍である.発育が遅く切除後の予後が良いとされているが,ときに他臓器に穿破することが知られ1),その頻度はIPMNの7.93)~15%4)とされている.1977年から2013年12月までの医学中央雑誌と1950年から2013年12月までのPubMedにて,「IPMN」,「他臓器穿破」,「膵臓」もしくは「IPMN」,「fistula」,「pancreas」で検索した結果,IPMNの多臓器穿破報告例は本邦において自験例を含めて51例であった5).年齢は平均68歳(44歳~87歳),男女比は2.5:1で男性に多く,占居部位は記載のない2例を除き全例で膵頭部に主座があった.穿破臓器は,総胆管が18例(34%)と多く,次いで十二指腸が13例(26%),総胆管と十二指腸の両者が10例(20%),胃7例(14%),胃と十二指腸の両者が3例(6%)であった.総胆管に穿破したものは51例中28例であり,21例で閉塞性黄疸を来していた.

穿破の様式としては(1)腫瘍細胞による囊胞壁の浸潤,膵管壁破壊,(2)粘液による囊胞内圧亢進からの囊胞壁の機械的破綻などが考えられている.穿破部の病理組織学的検査の記載があった41例では浸潤性穿破が18例(44%),機械的破綻が23例であった.ただし,機械的破綻が原因と思われた症例の中で,囊胞壁に癌成分の存在しなかったものは1例のみであった5).囊胞径の大きさは平均6.25 cm(1.8~13 cm)で,本症例のようにCT,MRIにて囊胞径が2 cm以下であったものは1例だけであった.また,報告例では最初の診断時にすでに瘻孔が形成されており,経過観察中に瘻孔形成した報告は認めなかった.

IPMNの深達度別生存率では,切除後5年生存率は上皮内癌が84.2%,微小浸潤癌が73.2%6)7)なのに対して,IPMN由来浸潤癌では37.6%8)9)と通常型膵癌の術後生存率に近くなることが報告されている.瘻孔を形成したIPMNの切除後の予後は5年生存率28~67.5%3)10)と不良であるが,通常型膵癌と比較すると良好な成績である.これは瘻孔を形成するIPMNに浸潤性のものに加えて,非浸潤性や微小浸潤性のものが含まれていたからと考えられる.

IPMNの手術適応については,IPMN国際診療ガイドライン201211) high risk stigmata(悪性を疑う所見)を認める例とされている.最近では結節状隆起を認めない10 mm以下の主膵管型20例を平均70か月経過観察したところ,進展を認めたのは2例だけであったと報告があり12),どのような因子に注目して観察もしくは手術適応としていくかの問題は解決されていない.

分枝型IPMNの悪性度は主膵管型に比べて高くないことが報告されている11).分枝型のIPMNの自然史に関して,経過観察を行った四つの英文報告13)では,6 mmを超える主膵管拡張がなく,結節状隆起のない,拡張分枝径30 mm未満の分枝型IPMNでは悪性の危険はほとんどなく3年程度の期間のうちに進行癌になる可能性は低いとされている.さらに,最近の結節状隆起の認めない分枝型IPMN症例の長期経過観察の報告14)~16)では,症例数37~121,観察期間中央値32~61か月で進展例2.7~15.9%であり,非浸潤癌へと進展した例は0~3.3%,浸潤癌への進展は0~0.8%と低率であった.2011年に本邦で多施設による分枝型IPMNの経過観察例のデータ報告によると,診断時に主膵管径1 cm未満でEUSにて壁在結節の認めない349例では経過観察中央値3.7例で82.2%には変化がなかったことが示されている.さらに,進展が見られた後に切除術を施行した例でも腺腫が59.0%(22例中13例),腺癌は40.9%(22例中9例)であり,悪性でも非浸潤癌がほとんどであり,微小浸潤癌1例にすぎなかったとしている17).また,拡張分枝径30 mm以上の分枝型IPMN例においても,30 mm未満の症例と比べて悪性率に変化はなかったとされる18)

混合型は主膵管型と分枝型の双方の基準に合致するものとなっており,悪性,浸潤癌の頻度が主膵管型と近いため,主膵管型に準じた外科切除の適応と考えられることが多い.混合型では主膵管型IPMNより分枝膵管へ進展して混合型になったと考えられるものと分枝型IPMNより主膵管へ進展し混合型になったと考えられるものがある.この二つで混合型IPMNの病態が異なることが予想されるが,こうした面からの検討はほとんど認めていない.

本症例の場合は,病理組織学的に瘻孔部に癌の浸潤が認められず,粘液貯留による囊胞内圧亢進からの機械的破綻が原因と考えられた.初診時は1 cm大の囊胞の集簇であり,軽度の主膵管拡張も認めることから混合型IPMNと診断された.患者の年齢,臨床症状,悪性の可能性などを総合的に判断して経過観察の方針とし,観察開始時にCT,MRCPを施行して以降6か月毎のCTもしくはMRCPにて病変の安定性を確認した.5年間はCT,MRIにてほとんど増大を認めず,主膵管の著明な拡張はなく明らかな壁内結節も認めないまま経過していたが,5年6か月の時点の上部内視鏡検査にて十二指腸乳頭部開大の軽度増大を認めた.ERCP,EUSを行うことで初めて十二指腸穿破所見と囊胞内の壁在結節の出現を確認でき,病変の進展を診断することができた.総胆管に穿破した場合には粘液で閉塞性黄疸を発症することで瘻孔を疑うことが可能であるが,十二指腸に穿破した場合には過去の報告も含めてはっきりとした症状を認めないことが多く,本症例にても腹部症状,CT,MRCPでの変化は軽微でありこの所見だけで進展を判断することは困難であった.EUSも加えて経過観察していれば壁在結節がもう少し早く診断できた可能性があり今回の反省点であると考えている.今後IPMNの経過観察例は増加することが予想されるが,適切な病変部の観察を行い病変の進展を見逃さないことが大事であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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