The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Foreign Body Granuloma Caused by Surgical Suture Material Mimicking Lymph Node Recurrence Detected by Delayed Phase FDG-PET/CT Imaging
Kentaro MiyakeGoro MatsudaMasanori OshiYuu KogureKanechika DenNobuhiro TsuchiyaTetsuya ShimizuHitoshi NiinoHitoshi SekidoItaru Endo
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2016 Volume 49 Issue 1 Pages 58-65

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Abstract

症例は80歳の男性で,上行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行した.病理組織学的検査所見はtub2,pSSpN1M0,pStage IIIaであった.術後補助化学療法は施行せずに経過観察としていたところ,半年後の腹部造影CTで膵頭部前面に造影効果が乏しい13 mm大の腫瘤を認めた.FDG-PET/CTでは同部位に早期相でSUVmax=5.8の異常集積を認め,後期相でSUVmax=6.9と集積の亢進を認め悪性腫瘍を疑う所見であった.上行結腸癌の膵頭部リンパ節再発と診断し膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査所見では悪性所見を認めず,初回手術時の縫合糸による異物性肉芽腫の診断であった.FDG-PET/CT後期相で偽陽性を示した本疾患はまれであり,pitfallとなることがあるため注意を要する.

はじめに

従来より,炎症性偽腫瘍や黄色肉芽腫胆囊炎など悪性腫瘍との鑑別が困難な肉芽腫性疾患が存在することが知られている.手術材料によって創部に形成された腫瘤は,古くはSchloffer腫瘤として知られてきたが,消化器手術において腹腔内に遺残した異物が原因となって術後に肉芽腫を形成することがあり,切除の可否に苦慮することがある1).特に悪性腫瘍術後の場合には,再発腫瘍との鑑別が困難で,過大手術を余儀なくされることもある.今回,我々は大腸癌術後にFDG-PET/CT後期相で偽陽性を示した異物性肉芽腫(foreign body granuloma;以下,FBGと略記)を経験したため報告する.

症例

患者:80歳,男性

主訴:なし.

既往歴:上行結腸癌,高血圧,糖尿病,深部静脈血栓症

家族歴:特記事項なし.

現病歴:半年前に上行結腸癌に対して結腸右半切除術,D3郭清を施行した.吻合はAlbert-Lembert法(Albert縫合:3-0VYCRYL®,Lembert縫合:3-0black silk)で行い,術中の血管処理には絹糸を用いた.術後合併症は認めず術後14日目に退院となった.

病理組織学的検査所見はtub2,pSSpN1M0,pStage IIIa,郭清リンパ節28個中#201リンパ節に1個転移を認めた.術後補助化学療法は本人が希望せず経過観察とした.半年後の腹部造影CTで膵頭部に13 mm大の造影効果の乏しい腫瘤を認めた.FDG-PET/CTで同部に異常集積を認め,上行結腸癌の再発が疑われ手術加療目的に入院となった.

入院時現症:発熱,腹痛など自覚症状は認めなかった.

入院時血液検査所見:WBC 5,300/mm3,CRP 0.23 mg/dlと炎症反応亢進所見は認めなかった.CEA 1.15 ‍ng/‍ml,CA19-9 10.2 U/ml,と腫瘍マーカーの上昇も認めなかった.

腹部造影CT所見:膵頭部腹側に膵実質と明瞭な境界を認めない,造影効果に乏しい13 mm大の腫瘤像を認めた.主膵管拡張は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced CT imaging. A: Enhanced CT shows a hypovascular tumor (13 mm) at the pancreatic head (arrow). B: There was no dilatation of the distal main pancreatic duct.

腹部造影MRI所見:膵頭部にT2強調画像で高信号,拡散強調画像でも高信号を呈する腫瘤を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

MRI. A: MRI (T2) shows a high intensity area at the pancreatic head. B: Diffusion weighted image MRI shows a high intensity area at the pancreatic head.

FDG-PET/CT所見:膵頭部に一致して早期相でSUVmax=5.8の限局性の異常集積を認めた.後期相ではSUVmax=6.9と集積の増加を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

FDG-PET/CT. The SUVmax of the pancreatic head in the early phase was 5.8 (A: arrow), whereas that of the late phase was 6.9 (B: arrow).

画像所見から上行結腸癌の#14vリンパ節再発を第一に疑い,通常型膵癌も鑑別診断に考え,膵頭十二指腸切除術の方針とした.

手術所見:上中腹部正中切開で開腹した.結腸右半切除後であり,回結腸吻合を膵頭部腹側に認めた.膵頭部と横行結腸間膜の癒着が強固であり,上腸間膜静脈右側に接して横行結腸間膜に覆われた20×15 mm大の白色調で表面凹凸不正な硬い腫瘤が存在した.上腸間膜静脈からは剥離可能であったが,膵実質と一体となっており膵頭部実質内に存在する悪性腫瘍を強く疑い核出術は困難と判断し膵頭十二指腸切除術(PD-IIA)を施行した.

病理組織学的検査所見:切除標本に悪性所見は認めず,膵頭部に20×6 mm大の縫合糸の混在する肉芽組織を認めた.炎症細胞浸潤を伴っており前回手術時の縫合糸によるFBGと診断された(Fig. 4).

Fig. 4 

Pathological findings. Pathological examination revealed a surgical thread (arrows) and inflammatory cells in the mass, thus the diagnosis was FBG (HE stain).

術後経過:術後13日目に膵液瘻による腹腔内膿瘍を認めたが保存的加療で改善し術後21日目に血糖コントロール目的に糖尿病内科に転科となった.術後2年経過し上行結腸癌の再発は認めていない.

考察

手術中に使用した医療材料は術後にFBGの原因となることがあり,ガーゼなどの偶発的な遺残物以外にも縫合糸,メッシュプラグ,ステープルなども原因となることが報告されている2)3).FBGのうち大網に生じたものはBraun腫瘤,腹壁の手術瘢痕部に生じたものはSchloffer腫瘤と呼称されている4)5)

FBGは魚骨などの放射線非透過物質が原因であれば比較的容易に診断可能であるが6),含有しない場合は特徴的な画像所見に乏しく術前診断は困難である.特に悪性腫瘍術後の場合には再発巣との鑑別が問題となる.医学中央雑誌を用いて「foreign body granuloma」,「異物性肉芽腫」,「Braun腫瘤」,「Schloffer腫瘤」のキーワードを用い1977年1月から2014年10月を対象に会議録を除いて検索したところ,142例の腹腔内FBGを認めた.治療は,他臓器合併切除を伴わない腫瘤切除が102例(71.8%)に施行されていた.残りの40例(28.2%)は周囲臓器との癒着,悪性腫瘍の可能性を考慮し他臓器合併切除が施行されていた.なかには本症例のように日本消化器外科学会専門医制度で高難度手術に分類される手術を要した症例も報告されており,FBGの術前診断が困難であることを示している(Table 17)~10)

Table 1  Reported cases of foreign body granuloma resulting in surgery
No Author/Year Age/
Sex
Past history Region Size (mm) Duration from first surgery PET Preoperative diagnosis Surgical procedure Cause
1 Mitsuyoshi7)/1999 50/F Pancreatic head 25 not performed Sarcoma PD+partial hepatectomy Food residue
2 Kuga8)/2000 71/M Appendicitis Duodenal ulcer Liver (S5) 30 42 years not performed HCC S5 segmentectomy Surgical gauze
3 Ko9)/2000 58/F Uterine myoma Rectum 40 14 years not performed Myogenic tumor LAR Surgical gauze
4 Urakawa10)/2001 75/M Retroperitoneum not described not performed FBG Miles’ operation Barium
5 Our case 80/M Ascending colon cancer Pancreatic head 20×12 6 months false positive Lymph node recurrense PD Surgical thread

HCC: hepatocellular carcinoma, PD: pancreatoduodenectomy, LAR: low antrior resection

悪性腫瘍は糖代謝が亢進していることが多く,その診断にFDG-PET/CTが有用である11).FDG-PET/CTは2010年4月より早期胃癌以外の全ての悪性腫瘍に保険適応となり,悪性腫瘍の転移・再発を疑う場合には診断目的に施行することが推奨されている12).特に大腸癌術後の局所再発や腹膜播種再発の診断において感度,特異度ともに90%以上と報告されresectabilityの評価に有用と考えられている13)14)

しかし一方で,FDG-PET/CTは炎症などの良性疾患でも偽陽性を示すことが知られている15).近年,通常撮影1時間後の後期相の追加が良性疾患との鑑別に有用であるという報告が散見される16)~19).すなわち,悪性腫瘍のFDG取り込みのピークは炎症性疾患よりも遅いとされており,悪性腫瘍であれば早期相から後期相にかけてFDG集積がより増強し,FBGなど炎症性疾患をはじめとする良性腫瘍では集積に変化がない,もしくは低下することが多いとされている20).肺癌に関する検討では,早期相のSUVmax=2.0をカットオフ値としたときに早期相から後期相への10%以上のSUVmax増加率を組み合わせることで,転移リンパ節の正診率が78.4%から89.4%に改善したと報告されている21)

前述の本邦における腹腔内FBG 142例のうちPET施行結果が記載されていたのは自験例を含め13例であった(Table 222)~32).13例中12例がPET偽陽性を示し,手術から発症までの期間は最短で2か月28),長いもので初回手術から33年経過してから発症した症例も認めた27).13例中11例が悪性腫瘍の術後であり,PETの結果から原疾患の再発を疑った症例が多く,術前診断でFBGと診断できた報告は2例のみであった23)27).含有される異物が手術用スポンジなどの大きな症例ではPETでリング状集積を認めることもあるが23)26),縫合糸のような小さな異物では特徴的な集積形態を持たないため積極的にFBGを疑うことは難しい.

Table 2  Reported cases of intra-abdominal foreign body granuloma in which FDG-PET was performed
No Author/
Year
Age/Sex Primary disease Region Duration from first surgery Size (mm) PET SUVmax (early phase) SUVmax (late phase) Preoperative diagnosis Surgery Cause
1 Shibata22)/
2006
73/M Sigmoid colon cancer Abdominal wall 14 years 22×20 Positive not described Peritoneal dissemination Tumorectomy Surgical thread
2 Nakajo23)/
2006
85/F Cholecystolithiasis Right subphrenic 15 years 80 Positive not described FBG Tumorectomy Surgical sponge
3 Taki24)/
2007
69/M Rectul cancer Pelvic regions 9 years 30×15 Positive not described Peritoneal dissemination Tumorectomy Surgical thread
4 Maeda25)/
2007
47/M Rectul cancer Abdominal wall 1 year 18 Positive 2.7 Peritoneal dissemination Tumorectomy Surgical thread
5 Tabata26)/
2009
77/F Left renal cell carcinoma Mesentery 8 years 50 Positive 4.5 GIST Partial resection of small bowel Surgical sponge
6 Matsuda27)/
2009
60/F Duodenal ulcer Left subphrenic 33 years 40×30 Negative not described FBG Tumorectomy Surgical gauze
7 Tachibana28)/
2010
53/F Endometrial cancer Pelvic regions 1.7 years not described Positive not described Lymph node recurrense Lymph node dissection Surgical thread
8 Kodera29)/
2013
56/F Cecal cancer and endometrial cancer Pelvic lymph node 2 months 18 Positive 3.6 4.7 Peritoneal dissemination Tumorectomy Surgical thread
9 Kakimoto30)/
2013
57/F Sigmoid colon cancer Para-aortic lymoh node 1.6 years 7 Positive 3.82 Lymph node recurrense Tumorectomy Surgical thread
10 Hashimoto31)/
2013
50/F Ovarian cancer Abdominal wall 7 months not described Positive 11.5 Peritoneal dissemination Tumorectomy Surgical thread
11 Ohta32)/
2014
62/F Sigmoid colon cancer Abdominal lymph node 2 years 25 Positive not described Lymph node recurrense Partial resection of small bowel Surgical thread
12 Ohta32)/
2014
77/F Acsending colon cancer Liver (S4) 1 year 25 Positive not described Liver metastasis Partial hepatectomy Surgical thread
13 Our case 80/M Acsending colon cancer Pancreatic head 6 months 20×12 Positive 5.8 6.9 Lymph node recurrense PD Surgical thread

このうち,PETの後期相を評価したと記載のある報告は自験例を含めて2例のみであり,2例とも偽陽性を示した報告である29).我々の症例以外の1例では,SUVmaxが早期相の3.6から後期相では4.7に上昇し,腹膜播種を疑い手術の方針となった.尿管に接していたが迅速病理組織学的検査で悪性所見を認めず,尿管合併切除は行わずに腫瘤摘出術を施行したが,術前にFBGと診断することは困難であった.PETで評価した腹腔内FBGは1977年から2009年までに6例,2010年以降では7例とここ数年の報告例が徐々に増加している.前述のようにPETが悪性腫瘍に広く導入されたのは2010年とまだ日が浅く,FBGにおける後期相のSUV値の意義が定まっていないため報告例が少ないと考えられる.また,炎症性疾患であるにもかかわらず後期相でも偽陽性となる原因の一つには,後期相撮影に最適なタイミングがいまだ明確でない点が挙げられる.本症例は早期相撮影から1時間後に後期相を撮影したが,その間隔は40分で検討した報告もあれば33),2~3時間空けて撮影したものもあり34),いまだ議論の余地がある.さらに,本症例に限っていえば,造影CTでは乏血性の腫瘤であることからFDG集積がピークに達するのに時間を要する可能性も示唆される.今後FBGにおける後期相での評価はその撮像のタイミングも含めさらなる症例の集積が必要と考えられる.

本症例のように悪性腫瘍の術後経過中にFDG-PET/CTで異常集積を認めた場合は,治療を躊躇することで病勢が進行し治癒切除が困難となる可能性があるため,再発が完全に否定できなければ診断的治療が必要となる.手術に際してはFDG-PET/CT後期相に過度の信頼をおかず,入念な術前評価を行い,必要十分な術式を選択すべきである.結腸癌治癒切除後の再発部位のうちリンパ節再発は0.6~1.1%と非常にまれであり35)36).医学中央雑誌で「大腸癌」,「リンパ節再発」をキーワードに検索したかぎり,#14vリンパ節の孤立性再発の報告は認めなかった.さらに,本症例は末梢側の主膵管拡張も認めず,通常型膵癌の典型的な画像所見を呈さなかったことから良性疾患の可能性も考慮し,EUS-FNAや開腹生検を追加すべきであったと反省している.悪性腫瘍に対する手術既往のある患者におけるFDG-PET/CT高集積を呈する病変の鑑別診断の一つとして良性疾患であるFBGを念頭におくべきであり,今後さらなる症例の蓄積と新たな画像診断法の開発が望まれる.

利益相反:なし

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