The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
A Defect of the Falciform Ligament Hernia Related to Previous Laparoscopic Surgery and Peritoneal Dialysis
Akihiro MikiTomohiko NishihiraTakahito MinamiHirotsugu MoriokaTakahisa SuzukiKoji KitamuraTsuyoshi OtaniYasuhide Ishikawa
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 49 Issue 1 Pages 66-71

Details
Abstract

まれな肝鎌状間膜ヘルニアの1例を経験した.症例は76歳の男性で,10年前に腹腔鏡下胆囊摘出術を受けていた.腹膜透析導入8日目に腸閉塞を発症した.16日目のCTで肝鎌状間膜が線状densityとして認識され,その左側にclosed loop signを認めたため肝鎌状間膜裂孔ヘルニアと診断し手術適応とした.手術開始直前にショックバイタルに陥った.開腹所見で40 cmの小腸が肝鎌状間膜の異常裂孔に嵌頓していた.異常裂孔を切開,絞扼部の小腸を切除した.術直後は集中管理を要したが35日目に退院した.本症例では既往手術の術後変化により肝鎌状間膜の瘢痕化を生じ,腹膜透析液注入による腹圧上昇で裂傷が生じたものと思われた.肝鎌状間膜裂孔ヘルニアは嵌頓しやすく早期手術が推奨されると思われた.CT上,拡張した腸管に縁取りされ出現する肝鎌状間膜は本症例の診断に結びつき,肝鎌状間膜裂孔ヘルニアの診断に有用と思われた.

はじめに

発生頻度の少ない内ヘルニアの中でも肝鎌状間膜ヘルニアは極めてまれな疾患である.今回,10年前に腹腔鏡下胆囊摘出術の既往のある患者で腹膜透析導入8日目に発症した肝鎌状間膜ヘルニアの1例を経験したので報告した.術前診断が困難とされてきたが1),本症例ではCT上で拡張した腸管により縁取りされた肝鎌状間膜が認められ診断に有用であった.

症例

患者:76歳,男性

主訴:腹部膨満感,嘔気

既往歴:10年前に当院で腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.トロッカーの1本は剣状突起直下に留置した.

現病歴:慢性腎不全に対し1年前に腹膜灌流用カテーテルを留置し,今回,腹膜透析導入目的で泌尿器科に入院した.出口部を作成後,腹膜透析が開始された.透析液の注入量は1回1.5 lで注入を1日4回行った.排液量は1.5 lから2 lであった.8日目に主訴を訴えた.

腹部単純X線検査,CTで腸閉塞と診断されイレウス管留置による保存加療が開始された.同日より腹膜透析は中断された.開腹により血液透析への変更が余儀なくされる可能性もあるため保存加療が継続された.症状増悪はなかったが腸閉塞が改善せず16日目に当科紹介となった.

当科紹介時現症:身長168 cm,体重56 kg.体温36.9°C,血圧150/70 mmHg,心拍数80回/分であった.腹部膨満を認めたが圧痛や腹膜刺激症状は認めなかった.

血液検査所見:白血球数10,500/μl,CRP 4.4 mg/dlと上昇していた.腎機能検査はCre 9.48 mg/dl,eGFR 4.8 ml/min/lであった.

16日目のCT所見:冠状断で上腹部を右下斜めに走行する線状densityが認められ,その左側に拡張した小腸のclosed loopを認めた.小腸は線状densityに一致して鳥嘴様狭窄を呈した(Fig. 1a).軸位断でこの線状densityは門脈臍部に連続しており,右側小腸内のgas densityと左側の小腸内のfluid densityにより縁取りされ現れた肝鎌状間膜と考えられた(Fig. 1b).また,小腸の鳥嘴様狭窄の背側に腹腔鏡下胆囊摘出時に使用された金属クリップを認めた(Fig. 1c).周囲に腹水の出現も認めた.腎機能を考慮し造影による腸管の血流評価は行わなかった.

Fig. 1 

CT (16th day of illness). a. Coronal view:The closed loop sign (*) on the left side of the linear density (arrows). The caliber change sign of the intestine (arrowhead). b. Axial view: The linear density (arrows) outlined by intestinal gas and fluid density was continuous with the umbilical point (arrowhead). c. Coronal view: The metallic density of the clips (arrows) used during previous laparoscopic cholecystectomy was visible on the dorsal plane of Fig. 1a.

肝鎌状間膜裂孔ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し手術の準備を開始した.手術直前,急激に全身状態が悪化しショックバイタルに陥った.

手術所見:開腹すると混濁した腹水を中等量認めた.肝鎌状間膜の異常裂孔に約40 cmの小腸係蹄が右から左へ嵌入していた.小腸係蹄が還納できなかったため,尾側では肝円索を切離し頭側に向かって肝鎌状間膜を前腹壁から剥離した後,異常裂孔を切開した.絞扼部分の小腸に圧迫壊死と穿孔を認めたため(Fig. 2a),小腸切除を施行した.肝鎌状間膜は全体に肥厚硬化していた.異常裂孔は門脈臍部近傍で母指頭大であった(Fig. 2b).異常裂孔は切開のままとした.

Fig. 2 

Intraoperative findings after hernia reduction. a. A 40-cm small intestinal loop (arrowheads) was necrotic. Arrow: cranial. b. The falciform ligament (FL) and the round ligament of the liver (RL) were separate from the anterior abdominal peritoneum. Rebuilding of the hernia orifice (*); cut edges of the orifice (arrowheads). UP: umbilical point. Arrow: cranial direction.

腹水培養検査の結果,起炎菌はKlebsiella pneumoniaeBacteroides spp.であった.術後,エンドトキシン吸着療法により血圧は上昇した.術後4日間,人工呼吸器管理などの集中治療を要した.腎代替療法は持続血液濾過透析,その後に血液透析を導入した.徐々に全身状態が改善し35日目に退院した.

術後1年6か月現在,ヘルニア再発は認めていない.

なお,検査結果や術中写真に関しては,当院規定に沿った承諾書を患者から取得したうえで使用した.

考察

肝鎌状間膜ヘルニアは医学中央雑誌(期間;1977~2015年7月,キーワード;「肝鎌状間膜」,「ヘルニア」)の検索で本邦では9例1)~9)の報告にとどまり非常にまれと考えられる.本邦報告例に本症例を加えた10例について検討した(Table 1).

Table 1  Reported cases of the falciform ligament hernia in the Japanese literature
No. Author Year Age Sex Cause Defect of FL Preoperative Bowel necrosis Hernial content Procedure to defect
examination diagnosis
1 Tachi1) 1987 16 M congenital + AXR strangulated ileus SI open
2 Sato2) 1996 27 F congenital + AXR, US strangulated ileus + SI open
3 Imamura3) 1997 27 F pregnancy + AXR, US, CT strangulated ileus + SI open
4 Deguchi4) 1997 34 F congenital + AXR, CT strangulated ileus + SI closure
5 Kobayashi5) 1999 22 M congenital + AXR, US, CT correct SI open
6 Nishihira6) 2000 0 M congenital AXR, CT, GS internal hernia Omentum TC open
7 Kato7) 2008 81 M congenital + AXR, CT, GS internal hernia SI open
8 Konishi8) 2014 65 M iatrogenic + AXR, CT adhesive ileus SI closure
9 Okumura9) 2015 67 M iatrogenic + CT, GS correct SI closure
10 Our case 76 M iatrogenic + AXR, CT correct + SI open

FL: falciform ligament, SI: small intestine, TC: transverse colon, AXR: abdominal X-ray, US: ultra sound, GS: gastrointestinal series

肝鎌状間膜ヘルニアとは肝鎌状間膜に生じうる陥凹6)や異常裂孔のなかに臓器が入る内ヘルニアである.ほとんどは異常裂孔によるもので,特に肝鎌状間膜「裂孔」ヘルニアと呼ばれている.異常裂孔の成因として,肝鎌状間膜の形成不全1)2)4)~7)や妊娠などによる腹圧上昇による肝鎌状間膜の伸展による裂傷3)が推定されている.また,医原性に生じた異常裂孔の報告例は本邦で2例あり開腹幽門側胃切除8)と腹腔鏡下幽門側胃切除9)で損傷していた.海外の報告例は4例あり(PubMedにて検索期間1950~2015年7月,キーワード「falciform ligament」,「internal hernia」,「iatrogenic」,「complication」で検索),腹腔鏡下胆囊摘出術10)11)や腹腔鏡下噴門形成術12)13)のトロッカー挿入時の損傷が報告されている.本症例でも異常裂孔の位置は腹腔鏡下胆囊摘出時に使用された金属クリップ近傍で,当院でのルーチンのトロッカー挿入位置に相当していたため,手術時の肝鎌状間膜の損傷が原因と推定した.肝鎌状間膜裂孔ヘルニアでは異常裂孔が横隔膜下とかなりの頭側にあるため腹腔内での自由度の高い臓器が嵌頓する.本邦報告例においてもヘルニア内容は横行結腸・大網が1例,小腸が9例であった(Table 1).本症例においては,術中所見より肝鎌状間膜が肥厚硬化していたことから,10年前の腹腔鏡下胆囊摘出時のトロッカー留置による術後変化で瘢痕化していた可能性が示唆された.瘢痕化した肝鎌状間膜が腹膜透析液の注入に伴う腹圧上昇により伸展され裂傷を生じたと考えられた.腹腔鏡下胆囊摘出術後10年間は発症に至らなかったが腹膜透析導入8日目とほぼ導入直後の時期に肝鎌状間膜裂孔ヘルニアを発症しており,腹膜透析液注入による腹圧上昇と消化管の可動性増加が発症に強く影響したと考えた.

本症例では16日目のCTで肝鎌状間膜とその左側にclosed loopが認められたため術前診断が可能であった.肝鎌状間膜は腹膜が2枚に重なった膜構造物であり,通常は画像上とらえることは困難である.しかし,消化管穿孔による気腹では遊離ガスにより肝鎌状間膜が縁取りされ,単純X線検査やCTでその輪郭が現れfalciform ligament signとして知られている14).本症例では両側をgas density で挟まれていたわけではなかったが,右側の小腸内のgas densityと左側のfluid densityにより縁取りされた線状densityとして肝鎌状間膜が認識できた.肝鎌状間膜の自由縁は門脈臍部に連続する円靭帯で縁取りされているため,門脈臍部と連続性を確認することで線状densityが肝鎌状間膜とすることができた.拡張腸管に接して認められた肝鎌状間膜5),肝鎌状間膜ヘルニア内容の横行結腸ガス像により単純X線検査で認められた肝鎌状間膜の線状陰影が診断根拠となった症例が報告されている6).以上より,肝鎌状間膜ヘルニアではこのfalciform ligament sign類似所見が特異的で診断に有用である可能性が示唆された.

肝鎌状間膜裂孔ヘルニアでは絞扼することが多いと報告されており,診断がつけば腸切除を回避するために早期の手術が推奨されている.本症例では腸閉塞を発症した9日目のCTを再検討すると,軸位断にて軽度拡張した小腸係蹄の近傍に肝鎌状間膜を思わせる線状densityを指摘でき(Fig. 3a),冠状断では拡張小腸に右側から連続する2本の腸管を確認できたことから(Fig. 3b),肝鎌状間膜裂孔ヘルニアを早期診断できた可能性があった.ショックバイタルに陥る前の早期手術や腹腔鏡下手術5)につながった可能性もあり反省させられた.

Fig. 3 

CT findings (9th day of illness). a. Axial view: A dilated small intestine (*) on the left side of a linear density (arrows) continuous with the umbilical point (arrowhead). b. Coronal view: The dilated small intestine (*) was an incarcerated part of the small intestinal loop (arrows).

本症例では肝鎌状間膜の肥厚硬化所見より,再発の危険性を考慮して異常裂孔を開放のままとした.報告例でも開放された報告が多かった(Table 1).しかし,術中所見を踏まえて閉鎖を施行した報告4)8)9)もみられ,優劣については今後の症例の集積が必要と思われた.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top