2016 Volume 49 Issue 11 Pages 1108-1116
症例は66歳の男性で,2年2か月前に黄色肉芽腫性胆囊炎に対して胆囊亜全摘術を施行した.今回,発熱と腹痛を主訴に近医を受診し,肝門部腫瘤および上部胆管の高度狭窄を認めたため当科に紹介された.肝門部腫瘤はFDG-PET,MRI拡散強調像で悪性を示唆する所見を認め,生検で腺癌と診断された.胆管側進展を伴う遺残胆囊癌と術前診断し開腹したところ,病変は肝門部,肝十二指腸間膜,十二指腸に高度に浸潤し根治切除は困難で,遺残胆囊を可及的に切除した.肝門部胆管狭窄に対しては術後に内視鏡下に金属ステントを留置し,全身化学療法を施行した.初回手術時の病理所見では胆囊体底部には悪性所見は見られず,遺残胆囊頸部~胆囊管に発生した癌である可能性が高いと考えられた.黄色肉芽腫性胆囊炎では胆囊管や胆囊頸部に潜在的な癌が存在することもあるため,胆囊亜全摘の術後には特に慎重に経過観察することが必要であると考えられた.
黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis;以下,XGCと略記)は線維増生と炎症細胞浸潤により著明な胆囊壁肥厚を特徴とする慢性胆囊炎の一亜型である.胆囊結石や胆囊癌によって胆囊管が閉塞した結果,胆囊内圧が上昇しXGCが生じると考えられている1)~3).腫瘍学的には,XGCは胆囊癌の発生母地としては否定的に捉えられているが,臨床的にはXGC症例に胆囊癌が合併する頻度は6.8~15%と高率である1)4).今回,XGCに対する胆囊亜全摘術後2年2か月で遺残胆囊に発生した癌が顕在化したと考えられた症例を経験したため報告する.
患者:66歳,男性
主訴:発熱,腹痛
既往歴:胃潰瘍,尿管結石症
現病歴:2年6か月前に右季肋部痛を主訴に近医を受診し,腹壁へ波及する高度の炎症を伴った胆囊腫瘤性病変を指摘され当院へ紹介された.当院での造影CTでも胆囊全体の著明な壁肥厚および腹壁方向への著明な進展を認めた.超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;以下,EUSと略記)では高エコーと等エコーが混在したXGCに特徴的な画像所見を認めた.FDG-PETでは腫瘤に一致したFDGの取り込み増強を認めたが,他の画像所見や,約1か月の経過でCA19-9が133 U/mlから82 U/mlへと低下したことから胆囊癌よりもXGCなどの炎症性疾患を疑った(Fig. 1a~e).この時点でのERCPでは胆囊管から胆囊頸部にかけての軽度の壁不整を認めるものの炎症性変化と診断した.また,胆管や胆囊は明瞭に描出されており胆管の狭窄所見を認めなかった(Fig. 1d).炎症が高度であったため胆管損傷を防ぐために胆囊頸部を一部残存させた開腹胆囊亜全摘術とし,腫瘤部分および胆囊頸部断端を全層で術中迅速病理診断に提出し,良性であることを確認した.術後の病理組織学的所見でも悪性所見を認めず,Rokitansky-Aschoff sinus(以下,RASと略記)の拡張および線維化を伴った漿膜下層への異物型多核巨細胞を含むマクロファージ,組織球,いわゆるxanthoma cellの広範な集簇が見られ,XGCと診断された(Fig. 1e, f).胆囊内には径1~2 mmの黒色石を数個認めた.術後は特に合併症なく経過し,CA19-9も26 U/mlと正常化した.その後一旦終診となり,近医への定期通院もされていなかった.手術から2年2か月目に発熱と腹痛で近医を受診しCTで肝門部腫瘤と上部胆管の高度狭窄が指摘された.フォローのためCTを再検したところ肝内胆管拡張の増悪を認めたため,内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;以下,ENBDと略記)を施行された後,精査加療目的に当院へ紹介となった.
We performed subtotal cholecystectomy for xanthogranulomatous cholecystitis 2 years and 2 months previously. a: Contrast-enhanced abdominal CT. Severe inflammation extends to the gallbladder bed and abdominal wall (arrow). b: Thin-sliced images of contrast-enhanced abdominal CT of the cystic duct and neck of the gallbladder (arrows). The cystic duct is intact. At the neck of the gallbladder, mucosa slightly thickens and lumen cannot be recognized. Submucosa shows inflammatory changes similar to the body and the fundus. Contrast-enhancer pooling was seen in the gallbladder, because these images were obtained after ERCP. c: PET-CT shows a marked uptake of FDG at the fundus and body of the gallbladder. d: ERCP images do not show the biliary stricture and irregularity of the wall of the bile duct. The cystic duct and the neck of the gallbladder can be seen but their walls are slightly irregular, with suspicion of inflammatory change. There was no incarcerated gallstone. Small gallstones were found at the fundus of the gallbladder. There were no findings suggesting adenomyomatosis or mural stones. e: Endoscopic US findings. The common bile duct (arrow) and the gallbladder. The gallbladder is filled with high and iso-echoic masses. At this time, detailed observations of the cystic duct and the neck of the gallbladder are not performed. f: Macroscopic findings of the resected specimen. The fundus and body of the gallbladder are resected. At the fundus of the gallbladder, wall thickening like a papillary tumor reflects the marked fibrosis under the serosa. g: Pathological findings. Macrophages including multinucleated giant cells, histiocytes, and so-called xanthoma cells are widely accumulated. However, there are no atypical cells or increase in nucleus/cytoplasm ratio. Finally the tumor is diagnosed as xanthogranulomatous cholecystitis.
血液検査所見:AST 111 U/l,ALT 244 U/l,γ-GTP 108 U/l,ALP 800 U/l,総ビリルビン2.0 mg/dl,直接ビリルビン0.8 mg/dl,CEA 7.0 ng/ml,CA19-9 1,384 U/mlと肝胆道系酵素の上昇と腫瘍マーカーの上昇を認めた.
腹部CT所見:前医受診時の単純CTでは肝内胆管の軽度拡張を認める程度であったが,約1か月後には上部胆管と肝内胆管の拡張が著明となり,肝門部腫瘤も明瞭となっていた(Fig. 2a, b).当院で施行した造影CTでは,ENBDにより胆管拡張は改善していたが,肝門部に遺残胆囊と連続する腫瘤を認め一部は造影効果を伴っていた(Fig. 2c).明らかな遠隔転移を疑う所見は認めなかった.
CT and PET-CT findings. a, b: CT images from a nearby hospital. There is no dilatation of the intrahepatic bile duct at the time of the first visit (a). However, one month later, the intrahepatic bile duct dilatation has appeared (b, arrows). c: Contrast-enhanced CT images at our institution. Endoscopic nasobiliary drainage tube is inserted (triangle). The tumor with contrast effect (black arrow) extended residual gallbladder (white arrows). d:PET-CT image. The uptake of FDG is shown at the site of the tumor (arrow).
PDG-PET所見:肝門部腫瘤に一致してFDG取り込み増強を認めた(Fig. 2d).
腹部MRI,MRCP所見:FDG-PETと同様に,肝門部腫瘤に一致した拡散強調像での高信号を認めた.MRCPで膵・胆管合流異常症は認めなかった.
ERCP,管腔内超音波検査所見:胆管狭窄は上部胆管に限局しており,左右肝管分岐部への進展は認めなかった(Fig. 3a, b).胆管狭窄部では胆管壁の著明な肥厚を認めた(Fig. 3c).右肝動脈への浸潤は明らかではなかった.ERCP下に胆管狭窄部の生検を行ったところ腺癌と診断された.
ERCP, intraductal US findings. a: ERCP image. There is severe stricture of the upper to middle bile duct (arrows) and the intrahepatic bile duct is dilated. b, c: Intraductal US shows the marked wall thickness of the upper to the middle bile duct. But the wall thickness does not extend to the biliary bifurcation.
以上より,胆管進展を伴う遺残胆囊癌(胆道癌取扱い規約第5版による術前病期分類はT4 N1 M(−),Stage IVa)と診断した.術前のChild-Pugh分類はGrade Aであった.ICGR15=12%,ICGK=0.150と軽度の肝予備能低下を認めたが,CT volumetryによる残肝容積は388 ml(全肝容積比33%,標準肝容積比32%)であり,拡大肝右葉切除,胆管切除,胆道再建の方針として初回手術から2年5か月の時点で開腹術を施行した.
手術所見:開腹時,明らかな腹膜播種や肝転移は認めなかった.肝十二指腸間膜,十二指腸は遺残胆囊に一致した部分の腫瘤と一塊となっており,高度の浸潤が疑われた(Fig. 4).肝十二指腸間膜への浸潤が高度なことから拡大手術は適応外と判断し,結果的に縮小手術として腫瘍減量となる遺残胆囊を含む腫瘤摘出術のみを施行した.肉眼的には剥離面全面に腫瘍が残存していると考えられた.
Intraoperative findings with schematic images. a, c: At the time of laparotomy. b, d: After tumor resection. We dissected the tumor and confirmed the cystic duct. The tumor invaded the hepatoduodenal ligament and duodenum and it was impossible to resect this tumor completely. We carefully resected the tumor as much as possible (c, area filled). We found the residual gallbladder-like structure in the cross section of the resected tumor. The tumor was diagnosed as adenocarcinoma by the intraoperative frozen section.
病理組織学的検査所見:腫瘤の大部分は粘液産生の豊富な高分化~中分化型腺癌からなり,間質量は中等量であった.癌部に連続して胆囊管壁を示唆する上皮および筋層成分がみられ,正常な胆囊粘膜と腺癌とのfront形成部を認めた.筋層や周囲脂肪織への癌の浸潤を認めた(Fig. 5).標本内にリンパ節構造は見られず,腫瘤はリンパ節転移ではないと考えられた.最終的な病理所見はadenocarcinoma of gallbladder,tub1>tub2,int,INFb,ly2,v1,ne1,pCM2,pEM2であった.
Pathological findings. The tumor consists of mucus-rich well- to moderately-differentiated adenocarcinoma. There was front formation between the normal gallbladder mucosa and adenocarcinoma.
手術所見および病理所見から,今回の主病変は遺残胆囊原発の癌であり,肝十二指腸間膜に高度に進展しているものと考えられた.臨床・病理胆道癌取扱い規約(第6版)による病期診断は,T4a Nx M0であった.肝門部胆管狭窄に対しては,術後に内視鏡的メタリックステントを留置した.術後はゲムシタビン,シスプラチン併用化学療法(ゲムシタビン1,000 mg/m2,シスプラチン25 mg/m2)を6か月間施行した後にゲムシタビン単独療法(ゲムシタビン1,000 mg/m2)を継続し,比較的良好なQOLを維持しながら術後1年11か月生存中である.
XGCは線維増生とxanthoma cellを主体とした肉芽種性結節により不整な胆囊壁肥厚を呈する慢性胆囊炎の一亜型である5).XGCは比較的まれな疾患で,胆囊摘出例で1.8~4.7%,胆囊炎症例で0.7~13.2%の合併率が報告されている5)6).XGCの成因の本態は胆囊内圧の上昇と考えられており,胆囊結石嵌頓,胆囊腺筋腫症,胆囊癌などによる胆囊管の閉塞が原因と報告されている1)~3)7).XGCの90%以上の症例は胆囊内結石を伴っており,XGCの大半は胆囊結石が原因と考えられている5)8).
XGCに胆囊癌が合併する頻度は0.2~15%であり,全胆囊摘出例における頻度と比較して高率である1).医学中央雑誌で1977年から2015年2月の期間で「XGC」,「胆囊癌」をキーワードとして検索した結果,これまでに本邦ではXGCと胆囊癌の同時性合併例が32例報告されている.このうち胆囊癌の主要な占居部位が記載されていた21例と自験例を加えた22例について,癌の主占居部位と胆囊結石嵌頓の有無について検討したところ,主占居部位が体部,底部の8例はいずれも胆囊頸部もしくは胆囊管に結石が嵌頓していたのに対して,主占居部位が頸部,胆囊管の14例ではいずれも結石嵌頓は見られなかった.これらの中でERCでの胆囊描出の有無や切除標本の所見により胆囊頸部~胆囊管の閉塞状況が明示されているものは10例であり,自験例を除いた9例は全て完全閉塞が示唆されていた(Table 1).これらの症例では胆囊頸部~胆囊管の癌がXGCの発生原因となった可能性が推察される.本例ではERCで胆囊は描出されていたものの,胆囊結石嵌頓のないXGCであり,胆囊頸部~胆囊管の十分な精査を行う必要があった.
Main location of the tumor | ||
---|---|---|
Gn or C (n=14) | Gb or Gf (n=8) | |
Incarcerated gallstone | ||
Yes | 0 | 8 |
No | 14 | 0 |
Obstruction of the gallbladder neck or cystic duct by the tumor | ||
Yes | 9 | 0 |
No | 1 | 0 |
N/A | 4 | 8 |
Visualization of the gallbladder by ERC | ||
Yes | 1 | 0 |
No | 5 | 2 |
N/A | 8 | 6 |
ERC, endoscopic retrograde cholangiography; N/A, not available
XGCは胆囊癌との鑑別がしばしば問題となる.松村ら9)による本邦報告例のまとめによると,胆囊癌と術前診断された症例が58.5%で,結果的に約76.6%の症例に過大手術が施行されていた.XGCを疑う症例の手術では術中迅速病理診断が有用とされており,術中迅速病理診断を施行した症例では過大手術であったのは5%のみであった9).一方,画像診断技術の進歩や疾患概念の認識の高まりにより,術前にXGCと診断し過大手術を回避することも可能となってきている.遠藤ら10)は,XGCの画像の特徴は,CTで壁肥厚は漿膜下層を中心とし粘膜層の連続性が保たれていること,MRIでRAS内の液体貯留を反映するT1低信号,T2高信号を認めることなどであり,EUSおよびEUS下穿刺吸引生検も有用としている.
本例における主な考察のポイントは,今回の癌が初回手術時から胆囊頸部~胆囊管に存在していたかどうか,初回手術時のXGC発症の原因は何であったか,の2点である.前者に関しては,初回の術前画像ではERCPにおいて胆囊管から胆囊頸部にかけての軽度の壁不整を認めるものの,上部胆管,胆囊管は描出されており,他の検査所見からも積極的に胆囊頸部~胆囊管に癌の存在を疑う所見は認められなかった.術中迅速病理診断で良性と診断されたため,胆囊亜全摘術を施行した.切除標本の病理組織学的検査(全割検査)で癌の存在は指摘されていないが,本症例は胆囊亜全摘であったため,遺残した胆囊頸部~胆囊管に癌が存在した可能性は完全には否定できない.実際に,XGCに合併した癌は壁肥厚部とは別の部位に認められたとの報告もある10).少なくとも,今回の手術所見からは初回手術時の播種の可能性は否定的である.後者に関しては,本例では2年2か月前のXGC発症時に胆囊結石嵌頓を認めていない.術前のERCPで胆囊頸部に軽度の壁不整を認めていることから,当初から胆囊頸部~胆囊管に癌が存在していたとすれば,それが閉塞機転となり胆囊内圧が上昇してXGC発症の原因となった可能性が考えられる.さらに,遺残した癌が増大し今回の胆管狭窄に至ったと考えれば本例の臨床経過についても説明が可能である.しかし,初回の切除標本からは癌は検出されておらず,術前の胆汁細胞診なども行われていないため推測の域を出ない.
高度炎症を伴う胆囊炎の手術では胆管損傷の回避が重要である.これらの症例に対してCalot三角部の剥離を伴わない胆囊亜全摘術の有用性が報告されており,近年では腹腔鏡下でも施行しうる術式となっている11)12).胆囊亜全摘術は高度炎症例やMirrizzi症候群,胆囊頸部嵌頓結石,confluence stone,胆囊管充満結石といった胆囊管の処理が困難な症例が適応と考えられる.本症例では高度の炎症が胆囊床や腹壁に波及していたことに加えて胆囊癌の可能性が完全に否定できなかったため,開腹下に胆囊亜全摘術を施行し,術中病理診断で摘除胆囊壁には悪性所見がないことを確認した.一方でこの術式は胆囊壁を切開・開放し,胆囊粘膜を残存させる術式であるため,胆囊摘出例の0.2~0.6%に合併するとされるいわゆるincidental gallbladder cancerの播種や,遺残胆囊粘膜からの癌発生が問題となる13)~15).画像診断や臨床経過からXGCと術前診断し,胆囊亜全摘を施行したとの報告もあるが,遺残胆囊粘膜からの癌発生の危険は依然としてあり,特に胆囊結石嵌頓のないXGCでは潜在的な癌がXGCの発症原因となっている可能性を十分考慮すべきである16).炎症が高度なXGCではやむをえず胆囊亜全摘術を行うことも多いが,術後には潜在的な癌の存在の可能性を念頭において,胆囊癌の術後に準じた慎重な経過観察を行うべきである.
今回,XGCに対する胆囊亜全摘術の2年2か月後に顕在化した遺残胆囊癌症例を経験した.XGCでは胆囊管や胆囊頸部の癌が発生要因となることもあるため,EUSなどによる胆囊管~胆囊頸部の十分な精査や慎重な術式選択が重要である.一方で,XGCのように高度炎症を伴う胆囊に対する胆囊摘出術では,胆管損傷回避のために胆囊亜全摘を選択する症例もある.このような症例では遺残胆囊に癌が存在している可能性や新たに癌が発生する可能性を念頭に置き,特に慎重に経過観察することが必要であると考えられた.
利益相反:なし