The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
Mesenteric Hemangioma of the Jejunum Resected under Laparoscopic Assisted Surgery
Shoshiro OeToshikazu YagiKatsuhiro Ando
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 49 Issue 2 Pages 139-145

Details
Abstract

腸間膜に発生する血管原性腫瘍はまれである.症例は70歳の女性で,大腸早期癌に対する内視鏡的粘膜切除術後の定期検査で腹部造影CTを施行した際,空腸間膜に55×77 mm大の腫瘤を認めた.腫瘤は造影早期から急速に造影され,後期まで血管と同程度に造影された.また,拡張した栄養血管も描出され,血管性腫瘍の診断であった.S状結腸からの超音波内視鏡検査では,腫瘍内部に血流を認めなかった.以上により,小腸間膜血管腫の診断で,腹腔鏡補助下に小腸部分切除術を施行した.腫瘍径は8×7×6 cm,充実性,弾性軟で,割面は暗赤色を呈し,病理組織学的診断は血管腫であった.小腸間膜血管腫の本邦報告例は自験例を含めて26例である.平均年齢は36歳,平均腫瘍径は15.2 cm,主訴は腹痛,腹部膨満,出血である.我々の症例では,造影CTの特徴的な画像所見に加えて,栄養血管が明瞭に描出され,術前診断が可能であった.

はじめに

腸間膜に発生する血管原性腫瘍は極めてまれである.小腸間膜血管腫は,1934年の馬場ら1)の報告が最初であり,現在までに25例の報告があるが,術前に十分な画像診断が行われることは少なく,診断が困難な疾患である.我々は,大腸早期癌に対する内視鏡的粘膜切除術後の定期検査で偶然発見された小腸間膜血管腫の1例を経験したので報告する.

症例

症例:70歳,女性

主訴:なし.

既往歴:高血圧(60歳),不整脈(60歳),大腸赤痢(62歳),脳動脈瘤(67歳),大腸腺腫内癌(70歳)

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:横行結腸の6 mm径の大腸腺腫内癌(I sp)に対して内視鏡的粘膜切除術を施行(adenocarcinoma with adenoma,tub1,pM,ly0,v0,pHM0,pVM0).6か月後の定期検査で腹部造影CTを施行したところ,骨盤内腫瘤を指摘された.

初診時現症:身長158.5 cm,体重57.1 kg,体温35.7°C,血圧114/84 mmHg,脈拍65回/分,整.眼瞼結膜に貧血を認めず,表在リンパ節を触知しなかった.腹部は平坦で,下腹部に可動性良好な手拳大の腫瘤を触知した.

初診時血液検査所見:軽度の貧血を認めたが,腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.

腹部造影CT所見:空回腸移行部の中枢側の小腸間膜に55×77 mm大の腫瘤を認めた.腫瘤は造影早期から急速に造影され,後期まで一貫して血管と同程度に造影された.また,拡張した栄養血管と静脈も描出され,血管性の腫瘤と考えられた.鑑別診断として,動静脈奇形や動脈瘤などが考えられた(Fig. 1).

Fig. 1 

A: Tumor (arrowhead), 55×77 mm in size, was detected in the small mesentery. Tumor was enhanced after administration of contrast material as intense as blood vessels. B: Arrow indicates the nutrient vessel, which originates from the superior mesenteric artery.

大腸超音波内視鏡検査所見:S状結腸からの観察により,骨盤内に45×56 mmの低エコー腫瘤を認めた.ドップラー法では内部に血流を認めず,超音波内視鏡下穿刺吸引術を施行した.組織診断は血液成分と小腸腺管組織であり,悪性所見は認めなかった.

以上の所見から,小腸間膜に位置する血管腫の術前診断で手術を施行した.

手術所見:臍下部に2 cmの横切開を加え,12 mmポートを挿入し,腹腔内を観察した.肝臓,胃,脾臓,大腸には異常所見は認めなかった.Treitz靭帯より約1 m肛門側の空腸間膜に約8 cm大の充実性腫瘤を認めた.右側腹部に約6 cmの皮膚切開を加え,腫瘍を含む小腸間膜を腹腔外へ引き出し,小腸部分切除術を施行した.再建は自動吻合器による機能的端端吻合を用いた.手術時間は1時間41分,出血量は7 gであった.

切除標本所見:腫瘍の大きさは8×7×6 cmであった.割面は,暗赤色を呈し,充実性で,弾性軟であった(Fig. 2).

Fig. 2 

An 8-cm solid tumor was located in the mesentery of jejunum. The tumor was an elastic-soft mass, 8×7×6 cm in size.

病理組織学的検査所見:漿膜下層レベルに境界明瞭な結節性病変を認め,好酸性胞体を有する紡錘形細胞の増生とともに,血管腔として矛盾しない不整な腔が目立って見られた.紡錘形細胞や内皮と考えられる細胞ではやや核腫大も見られたが,多形性はなく,核分裂像もほとんど見られず,悪性を疑う所見はなかった.脈管侵襲は認めなかった.増生する脈管様構造ではCD31陽性細胞による裏打ちが見られ,血管壁に相当する部分ではα-smooth muscle actinが陽性で,desminとS-100は陰性であった.Ki67陽性細胞はほとんど見られず,indexは1%未満であった.以上により,血管腫と診断した(Fig. 3).

Fig. 3 

HE showed irregular blood vessel cavity with hyper­plasia of spindle-shaped cells having acidophilic bodies.

術後経過:第5病日より経口摂取を開始し,第14病日に軽快退院した.

考察

腸間膜に発生する腫瘍は極めてまれである.小腸間膜腫瘍には,原発性と続発性があり,原発性には,非ホジキンリンパ腫,リンパ管腫,脂肪腫,線維腫などがあり,続発性では悪性腫瘍の転移が多い.本邦の山本ら2)の報告では,147例の腸間膜腫瘍のうち原発性が69例,続発性が78例であった.原発性の良性腫瘍では,リンパ管腫およびリンパ腫が22例,脂肪腫が15例,線維腫が11例,血管腫が9例であった.

血管腫は,増生した血管から成る良性腫瘍であり,胎生期の中胚葉性血管芽細胞層起源の腫瘍と考えられている.好発部位は皮膚,または可視粘膜が60%を占め,表在性血管腫として認められる.その他には,筋肉,肝臓などにも認められるが,内腔臓器に発生することはまれである.Watsonら3)は1,308例の血管腫のうち内臓器に発生したものは4例であったと報告している.1936年にKaijserら4)は,血管腫をI型:多発性静脈拡張症,II型:海綿状血管腫,III型:単純性毛細血管腫,IV型:血管腫症の四つに分類した.さらに,II型を(a)びまん浸潤性,(b)限局性(しばしばポリープ状)の二つに細分した.その頻度はI型:II型:III型:IV型=1:8:5:3と記載されている.後にWood5)が改良を加えたが,Landingら6)は良性血管腫をさらにいくつかのvariantsを含め分類している.

小腸間膜原発の血管腫の本邦報告例は,我々が医中誌Web Ver. 4.0を用いて,1977年から2014年までの範囲で検索しえた範囲では,自験例を含めて26例1)7)~30)であった(Table 1).本邦報告例の平均年齢は36(0~70)歳,男女比は1:1,平均腫瘍径は15.2(2~32)cm,主訴は,腹痛,腹部膨満,出血が多い.その他の症状では,6例に下血を認め,そのうち4例14)21)24)25)は大量下血を来した.粘膜面まで穿破した例が2例14)24),Kasabach-Merit症候群を合併した例21)25)が2例報告されている.また,腸閉塞症状を来した例27)も1例報告されている.自験例では,自覚症状はなく,他疾患の経過観察中に行った腹部造影CTで偶然に指摘された.

Table 1  Mesenteric hemangioma of the small intestine
Case Author Year Age Gender Tumor size (cm) Symptom Histology
1 Baba1) 1934 49 M 17 N/A cavernous
2 Shima7) 1935 30 M 30 distention cavernous
3 Kudou8) 1956 8 F 16 disrention pain cavernous
4 Koyama9) 1960 7 M 8 pain cavernous
5 Akimoto10) 1962 29 M 15 distention pain cavernous
6 Ouyanagi11) 1963 11 M 17.5 distention pain cavernous
7 Numata12) 1968 52 F 20 distention pain cavernous
8 Chiba13) 1970 57 F 5 pain cavernous
9 Watanabe14) 1972 7 F 28 distention pain bloody stool cavernous
10 Nomatu15) 1975 29 M 15 distention pain hemangioma
11 Shibata16) 1976 13 F 31.5 distention pain cavernous
12 Niimi17) 1983 29 F 8 anemia cavernous
13 Hujioka18) 1983 31 F 8 distention pain cavernous
14 Nonami19) 1985 62 M 8 distention cavernous
15 Ogawa20) 1988 13 F 31.5 anemia cavernous
16 Kojima21) 1990 47 M 16 bleeding cavernous
17 Hanatate22) 1995 48 M 12 pain cavernous
18 Omoto23) 1998 35 F 11 bleeding cavernous
19 Funakoshi24) 2000 68 F 8 bleeding cavernous
20 Sugihara25) 2000 0 F N/A Kasabach-Merritt Syndorome N/A
21 Kishimoto26) 2001 68 F 32 distention cavernous
22 Tachimori27) 2002 27 M 12 pain cavernous
23 Suga28) 2005 21 M 5 pain cavernous
24 Washiro29) 2011 58 M 2 faecal occult blood cavernous
25 Iijima30) 2011 53 M 16 distention
26 Our case 70 F 8 hemangioma

N/A: not assessed

小腸間膜血管腫の画像診断では,血管造影検査,および,腹部造影CTが診断に有用である27)28)30).血管造影検査に関しては,本邦報告24例中,実際に行われたのは5例であり,海綿状血管腫に特徴的な所見とされる綿花状のpooling所見は1例にしか認めなかった.血管の被圧排像は3例に認め,A-V shuntが1例に認めた.このように,血管造影検査で血管腫に特徴的な所見が描出されない理由として,血管腫は退行変性を起し,しばしば部分的な壊死,線維化や硝子化を起すことが指摘されている24).一方,造影CTの特徴的な所見は,造影早期に辺縁に結節状の強い染まりが出現し,これが求心性に急速に広がり,平衡相まで持続する.加えて,血管腔を反映して,大血管の濃度と同等に造影される30).我々の症例では,このような血管腫に特徴的な画像所見に加えて,栄養血管が明瞭に描出され,上腸間膜動脈から分枝していた(Fig. 2B).その他の検査法では,出血シンチグラフィー(99mTc-HAS),および,dynamic MRIの有用性が指摘されている.船越ら24)は,下血を伴った症例に対して,出血シンチグラフィー(99mTc-HAS)を施行し,遅延像での著明な集積像を認めたと報告している.また,菅ら28)は,小腸間膜血管腫の診断に際して,dynamic MRIにて腫瘍の辺縁から徐々に中心に向かう染影を認め,海綿状血管腫に特徴的な明らかな蜂巣状像を示した症例を報告している.肝臓での診断能を鑑みると,dynamic MRIも有力な画像診断法であると考えられる.我々の症例では,造影CTで典型的な血管腫の特徴を示し,3D構築画像でSMAからの栄養血管を確認できた点により,小腸間膜血管腫の診断が可能であった.

小腸間膜血管腫の治療は,全例で手術切除が行われている.術式は,周囲の腸管を含んだ小腸切除術が行われることが多い.このうち,腹腔鏡を用いた切除例は,我々の症例が最初である.小腸間膜腫瘍は,10 cm以上になってから発見されることが多く,腹腔鏡手術の適応がなかったと推測される.我々は,術前診断が可能であり,腫瘍径が8 cmであり,無症状であったことにより,腹腔鏡手術を選択した.腹腔鏡下手術の利点として,小さな傷で直視下に腫瘍の局在部位を確認でき,術中迅速検査により良悪性の診断が得られ,その結果により手術侵襲を軽減できる点がある.本症例では腫瘍径が8 cmであったため,6 cm程度の皮膚切開が不可欠であり,腹腔鏡補助下に腫瘍を含む小腸間膜を腹腔外に引出し,直視下に小腸切除と再建を行った.

我々は,腹部造影CTにより術前診断が可能であった小腸間膜血管腫の1例を経験したので報告した.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top