The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Primary Carcinoma of the Cystic Duct Resected 12 Years after Occurrence
Takeya SakamotoYoshiaki TsuchiyaTatsuya NomuraAtsushi MatsukiSatoshi MaruyamaSatoru NakagawaYasumasa TakiiHiroshi YabusakiHirotaka MotoyamaTakashi Kawasaki
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2016 Volume 49 Issue 3 Pages 199-206

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Abstract

症例は63歳の男性で,他科定期受診の際にCEA高値を認めた.原因検索のためCTを施行したところ,胆囊頸部から胆囊管にかけて内腔を充満する隆起性腫瘍を認めたため当科紹介となった.早期胃癌術後フォローアップのCTで12年前から同病変は描出されており,緩徐に増大し現在に至っていた.胆囊床切除,胆囊摘出術,肝外胆管切除,肝十二指腸間膜リンパ節郭清を施行した.切除標本上は胆囊管に限局する乳頭膨張型の6.0×4.0×2.0 cm大の腫瘍を認めた.病理組織学的には高分化型管状腺癌で,壁深達度は繊維筋層にとどまる早期胆囊管癌であった.線維性芯を有し,乳頭状増生を示したことから,その前癌病変は胆囊内乳頭状病変(intracystic papillary neoplasm of the gallbladder;ICPN)であると推察された.胆道内乳頭状腫瘍の発生から癌化,浸潤癌に至るまでの自然史を知るうえで,示唆に富む症例と考えられたため報告する.

はじめに

胆道内乳頭状腫瘍は胆管腔内あるいは胆囊腔内に肉眼的に同定される乳頭状腫瘍性病変であり,顕微鏡的に狭い線維性血管芯を伴う上皮の乳頭状増生を特徴とした病変である.肝外胆管では肝外胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of the extrahepatic bile duct;以下,IPNBと略記),胆囊では胆囊内乳頭状病変(intracystic papillary neoplasm of the gallbladder;以下,ICPNと略記)と呼ばれる1).上皮内癌から非浸潤癌,浸潤癌へと多段階発癌を示すことが知られており,2010年WHO消化器腫瘍分類では平坦型異型病変の胆道上皮層内腫瘍(biliary intraepithelial neoplasm;BilIN),腺腫(adenoma),粘液性囊胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm;MCN)とともに胆道癌の前癌・早期癌病変として分類された2)3).今回,我々は腫瘍の発生から浸潤癌に至るまでを画像上追跡できた,ICPN由来と考えられた早期胆囊管癌の1例を経験したので報告する.

症例

患者:63歳,男性

主訴:なし.

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:49歳時,当科にて早期胃癌に対し幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的検査では[M],tub2,T1b(sm2),N1,H0,P0,fStage Ibの診断であった.55歳時より糖尿病で当院内科通院中であった.

現病歴:早期胃癌術後,当科外来で経過観察された.術後10年間無再発と診断され終診となった.2012年7月に当院内科を定期受診した.血液検査でCEA高値を指摘され,精査目的にCTを施行された.胆囊頸部から胆囊管にかけて6 cmの腫瘤性病変を認めた.加療目的に当科紹介された.

入院時現症:身長160 cm,体重54.8 kg,眼球結膜に貧血・黄疸なし.発熱なし.腹部は平坦・軟で腫瘤を触知せず.圧痛・抵抗なし.上腹部に正中切開創あり.

入院時血液検査所見:血液一般検査,生化学検査に異常所見は認められなかった.CEAは6.2 ng/mlと上昇を認めたがCA19-9,DUPAN-2,CA72-4,P53抗体は正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:2012年10月,CEA上昇の原因検索目的に施行された腹部造影CTでは,胆囊は緊満し,胆囊頸部で内腔に突出する低濃度に造影される6 cmの隆起性病変を認めた.腫瘍は境界明瞭で周囲浸潤なく,他病変や腫大リンパ節は認められなかった(Fig. 1).14年前より早期胃癌術後のフォローアップのため腹部造影CTが施行されており,同病変が描出されていた.1998年には明らかな病変は描出されなかったが,2000年のCTで肝門部に低濃度に造影される領域として描出された(Fig. 2A, B).2003年には胆囊の軽度腫大と,胆囊管から胆囊頸部にかけて低濃度に造影される,内腔に突出する隆起性病変として描出された(Fig. 2C).2004年には同腫瘍の増大を認めた(Fig. 2D).その後も緩徐に増大を続け,現在に至っていた(画像はDigital Imaging and Communication in Medicine(以下,DICOMと略記)画像をAZEWIN DICOMビューア(AZE Ltd., Tokyo, Japan)を用いて処理した).

Fig. 1 

Abdominal CT performed in October 2012 showing a 6-cm tumor in the hepatic hilum (arrow) (A: noncontrast enhanced, B: early arterial phase, C: late arterial phase, D: portal venous phase). The tumor was isodense with the liver (A) and was slightly enhanced using contrast medium (B). The tumor showed hypodensity compared with the liver in the late arterial and portal venous phases (C, D). No tumor invasion into the liver or other adjacent organs or structures such as the duodenum, pancreas, portal vein, and hepatic artery.

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT findings performed 14 years previously showing that the tumor originated from the cystic duct or the cervix of the gallbladder. A: Abdominal enhanced CT performed in April 1998 showing no lesion in the gallbladder. B: Abdominal enhanced CT performed in December 2000 showing a tumorous lesion slightly enhanced in the hepatic hilum (arrow). C: Abdominal enhanced CT performed in April 2003 showing the tumor occupying the cystic duct (arrow) to the cervix of the gallbladder. D: Abdominal enhanced CT performed in February 2004 showing tumor growth (arrow).

MRI・MRCP所見:2012年10月のMRIではCT同様に胆囊頸部内腔に突出する隆起性病変を認め,dynamic MRIでは同部の早期濃染を認めた.MRCPでは三管合流部に狭窄を認めた(Fig. 3A).胆管浸潤ではなく,隆起性成分が胆囊管から三管合流部を超えて,総肝管あるいは総胆管へ進展したものと考えられた(Fig. 3B).

Fig. 3 

A: As shown in Fig. 3B, magnetic resonance cholangiopancreatography showing the tumor at the cystic duct, protruding into the cystic duct and the cervix of the gallbladder (arrowheads). B: This diagram shows the growth pattern of the tumor.

EUS所見:胆囊頸部に主座を置く低エコー腫瘤を認めた.腫瘍内部にはエコーの乱れがあり,悪性腫瘍がつよく疑われた.亜有茎性に内腔発育しており,表層拡大進展を認めなかった.門脈浸潤,胆管浸潤を認めず,肝床浸潤も明らかではなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

Endoscopic ultrasound showing a heterogeneous hypoechoic tumor at the cervix of the gallbladder with intraluminal papillary growth (arrows). Superficial spread is not detected. In addition, there is no tumor invasion of the liver or other adjacent organs or structures such as the portal vein, hepatic artery, and extrahepatic bile ducts (A–C).

以上より,胆囊管および胆囊頸部腫瘍の診断で手術の方針とした.

手術所見:開腹時に腹膜播種や腹水は認められなかった.また,腫瘍の漿膜面露出は認められなかった.胆囊床切除,胆囊摘出術,肝外胆管切除,肝十二指腸間膜リンパ節郭清を行った.術中切除標本には肉眼的に明らかな胆管側浸潤およびリンパ節転移を認めなかった.胆管空腸吻合(Roux en Y)を施行し手術を終了した.

摘出標本所見:腫瘍は胆囊管に限局する6.0×4.0×2.0 cm大の乳頭膨張型の充実性腫瘍であった.胆囊および胆管内に粘液の貯留は認められなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

In the resected specimen, the tumor is localized in the cystic duct with intraluminal papillary growth.

病理組織学的検査所見:胆囊管に限局する高分化型管状腺癌であった.腫瘍は線維性芯を有し,管腔内に著明な乳頭状増生を示した.腫瘍内は一様に異型で,腺腫成分は認められなかった.背景上皮から腫瘍移行部に化生変化は認められなかった.間質に一部浸潤を認めた(Fig. 6A, B).胆道癌取扱い規約1)に従うと(壁深達度は胆管癌の分類で評価した),C,papillary-expanding type,permit,60×40×20 mm,tub1,pT1b(FM),int,INFb,ly0,v0,ne0,pN0,DM0,HM0,EM0,PV0,A0,R0であった.免疫染色検査ではMUC-1陽性,MUC-2陰性,MUC-5AC陽性(1%),MUC-6陽性,Cytokeratin7(CK7)は陽性,CK20は陰性であった.Ki-67 labeling indexは30%に陽性であった.p53過剰発現は認められなかった.以上の所見から,本例の前癌病変はICPNであると考えられた.

Fig. 6 

A: Histopathological examination showing a tubular adenocarcinoma arising in the cystic duct with a fibrovascular core (arrowheads). In the tumor, no significant differences are seen in the distribution of the degree of nuclear atypia. B: Focal and microinvasion to the fibromuscular layer (arrow).

術後経過:経過良好で術後10病日目に退院した.胆囊管癌術後2年10か月現在,再発の徴候を認めない.

考察

原発性胆囊管癌は比較的まれな疾患であり,剖検例の0.03~0.053%の頻度とされている4)5).従来胆囊管癌においてはFarrar6)の診断基準(①腫瘍が胆囊管に限局する.②胆囊,胆管,総胆管に腫瘍がない.③組織学的に癌細胞の存在を確認できる.)が知られている.この基準を満たす症例は早期のものが多いため,良好な予後が期待される7).一方で病理組織学的に胆囊管を超えて進展した,広義の胆囊管癌は癌自体の悪性度が増し,周囲の神経浸潤を伴うようになり8),予後不良である9).本症例はFarrar6)の診断基準を満たす原発性胆囊管癌であり,術後の良好な予後が期待された.医学中央雑誌で1977年から2015年1月の期間において「胆囊管癌」で検索したところ(会議録を除く),切除可能であった胆囊管癌症例の報告は146例であったが,10年を超える長期経過を追跡できた報告はなかった.

本症例では,長期の臨床経過と腫瘍の管腔内への著しい乳頭状増生に比べて浸潤は軽微であり,その緩徐な発育形態が特徴的であった.従来胆管癌および胆囊癌を含む胆道癌には前癌病変,癌関連病変・早期癌病変が存在することが知られていた.肝内外の胆管内腔に乳頭状発育する腫瘍としては胆管乳頭腫(症),粘液産生性胆管腫瘍,胆管内発育型胆管癌,乳頭型胆道癌などの存在が挙げられる10)11).その形態や病態が膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)に類似していることから,中沼らはこれらの腫瘍を肝外胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of the extrahepatic bile duct;IPNB)と呼ぶことを提唱した12)~14).それ以来,IPNBに対する系統的な疾患概念やスペクトラムの確立が望まれるようになった.2010年に改訂されたWHO消化器腫瘍分類では,胆囊癌と肝外胆管癌carcinoma of the gallbladder and extrahepatic bile ducts,および肝内胆管癌intrahepatic cholangiocarcinomaの腫瘍分類と前癌病変,早期癌病変について示された.胆道上皮内の乳頭状腫瘤性病変はintracystic(gallbladder)or intraductal(bile ducts)papillary neoplasm(ICPN or IPNB)と呼ばれ,IPMNのカウンターパートの病変として考えられているが,粘液産生の多寡は問わないとしている.病理学的には線維性芯を有する胆管内乳頭状増生を特徴とする.前癌病変としてのIPNB(ICPN)はその異型度により低異型度low grade,中間型intermediate grade,高度異型度high gradeに分類された.High gradeは従来,乳頭腫あるいは乳頭腫症として知られていたもの,さらに非浸潤性の高分化型乳頭状腺癌も含まれる.また,浸潤を伴うものはIPNB(ICPN)with an associated invasive carcinomaと呼び,通常型の管状腺癌に加え,粘液癌あるいは粘液癌成分を伴う通常型の胆管癌に移行する例がある.これらのIPNB(ICPN)が悪性化し明瞭に浸潤性癌を伴った場合,どの段階からIPNB(ICPN)と分離して単に胆管癌あるいは胆囊癌と呼ばれるべきか,あるいは浸潤性病変を伴ったIPNB(ICPN)with an associated invasive carcinomaと呼ばれるべきかは明確には示されてはいない15)

新WHO分類ではIPMNと同様に,IPNB(ICPN)は細胞形質により胆膵型(pancreatobiliary type),腸上皮型(intestinal type),胃型上皮型(gastric type),好酸性細胞型(oncocytic type)とIPMN同様に組織亜分類がなされ,腺癌についても胆道型(biliary type),胃腺窩型(gastric foveolar type),腸型(intestinal type)に亜分類された.

本症例では,腫瘍は肉眼的には管腔内に乳頭状発育を示しており,病理組織像では線維性芯を有する乳頭状増生を示した.腫瘍は癌に相当する異型であり,線維筋層に浸潤を認めた.組織像から,WHO分類ではadenocarcinoma biliary typeに相当すると考えられた.腫瘍内は一様に異型で,腺腫成分は認められなかったことから,その前癌病変はICPN であると推察された.粘液プロフィルの結果も浸潤癌を伴う膵胆管上皮型ICPNに矛盾しない16)

胆道内乳頭状腫瘍由来の胆道癌はslow growingな腫瘍と考えられており,比較的長い経過をたどるが,深達度が浅く早期に診断されるものが多いと報告されている17).また,T1症例に限ればリンパ節転移陽性例がないものの,肝実質を含めたss以深へと及ぶとリンパ節転移も27%で認められるとされている18).長期間経過観察の後に切除可能であった,胆道内乳頭状腫瘍由来と考えられた胆道癌はその多くがT1症例で,リンパ節転移陰性であり,長期間経過したにもかかわらず術後の予後は良好であったとされている19)

一方で胆道内乳頭状腫瘍では治癒切除がなされた後も,腫瘍の表層拡大による異型上皮あるいは上皮内癌の遺残や粘液中の異型上皮の胆道内へのimplantation,胆道内乳頭状腫瘍の多中心性発生による再発の可能性が指摘されている20)~22).長期のものでは術後12年経過後の再発例も存在するが,その緩徐な発育形態のために再発腫瘍に対しても積極的な外科治療が有効である可能性が指摘されている20)22).本症例では長期間経過したにもかかわらず,病理組織学的に早期癌でリンパ節転移は認められなかった.表層進展や粘液産生,他病変は認められず,比較的予後は良好であると考えられるが,今後も慎重な経過観察が必要である.

本症例はICPN由来と考えられる胆道癌の,発生から浸潤癌に至るまでの画像所見が得られ,腫瘍の発生および癌化時期を考察するうえで示唆に富む症例であると考える.以下,本腫瘍の自然史について考察する.CT上は1998年4月には明らかではないが,2000年2月の時点で肝門部に低濃度に造影される病変として描出されており,この期間に腫瘍が発生,発育したものと考えられた.その後緩徐に増大し,内腔に乳頭状に発育する腫瘍として描出されるまで約3年を要した.Retrospectiveにみると発生部位が胆囊管に一致することが明らかであった.2004年2月のCTで腫瘍の明らかな増大を認めたが,粘液産生に乏しいために胆管拡張や胆囊の緊満,胆囊炎・胆管炎症状を呈することなく,その後も増大を続けた.2012年10月のCT,MRIでは腫瘍の増大による胆囊の緊満と,壁外性の圧迫による総肝管の途絶像を認めたが,これらの所見が粘液産生によるものでないことが切除標本および病理組織学的検査からも明らかであった.発癌時期については断定できないが,増大が明らかとなった2004年2月の段階で癌化したのではないかと推察する.また,経過が長期であるにもかかわらず病理組織学的に浸潤は軽度であったことから,浸潤癌化したのは切除に至る契機となった,CEA上昇を初めて指摘された2012年7月頃と考える.

利益相反:なし

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