The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Resected Sigmoid Colon Cancer with Invasive Micropapillary Carcinoma
Ryota TanakaEiji AkoNaoki KametaniYukihiro KatoMasahiro KomotoIsao KaneharaAtsushi YamamotoNobuya YamadaShigehiko NishimuraNaoyuki TaenakaShigeki Fujita
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2016 Volume 49 Issue 3 Pages 242-249

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Abstract

症例は64歳の男性で,排便時の出血を主訴に近医受診,精査加療目的にて当科紹介受診となった.下部消化管内視鏡検査でS状結腸に表面不整のI型腫瘍を認め,生検で高分化型腺癌と診断された.胸腹部造影CTでは明らかなリンパ節転移や遠隔転移を認めず,腹腔鏡下S状結腸切除術,D2郭清術を施行した.病理組織学的検査所見では異型細胞が微小乳頭状構造を形成し,間質との間に空隙を伴う浸潤性微小乳頭癌(invasive micropapillary carcinoma;以下,IMPCと略記)の像を呈した.最終診断はS状結腸原発のIMPC,pT2(MP),N1,M0:fStage IIIaであった.術後経過は良好であり,現在は外来通院にてUFT+LVによる術後補助化学療法施行中である.IMPCは最初に乳癌で報告されて以来,他臓器での報告も増加してきているが大腸原発のIMPCの報告例は比較的少ない.また,発生臓器にかかわらず高率にリンパ管侵襲やリンパ節転移を伴うことから予後不良であり,治療上注意が必要である.

はじめに

浸潤性微小乳頭癌(invasive micropapillary carcinoma;以下,IMPCと略記)は1993年にSiriaunkgulら1)によって,高率にリンパ管侵襲やリンパ節転移を伴う生物学的悪性度の高い浸潤性乳管癌の一亜型として提唱された概念である.最初に乳癌で報告されて以来,尿路系,肺,唾液腺など他臓器での報告例が増加しているが,大腸原発のIMPCの報告例はまだ少ない.今回,我々は腹腔鏡下に切除しえたIMPC成分を伴ったS状結腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:64歳,男性

主訴:排便時出血

既往歴:高血圧

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2014年7月に排便時出血を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡検査を施行したところ,S状結腸に腫瘍性病変を認めたため,加療目的に当科紹介受診し,8月に手術目的にて入院となった.

入院時現症:身長169 cm,体重54 kg.眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄染なし.腹部に異常所見を認めなかった.

血液検査所見:Hb 12.7 g/dl,軽度の貧血を認めた.腫瘍マーカーはCEA 2.4 ng/ml,CA19-9 3 U/mlと上昇を認めなかった.

下部消化管内視鏡検査所見:S状結腸に表面不整のI型腫瘍を認め,生検の結果,高分化型腺癌と診断された(Fig. 1A).

Fig. 1 

A: Colonoscopic examination showed a type 1 tumor in the sigmoid colon. B, C: Abdominal contrast-enhanced CT images did not show the tumor in the sigmoid colon, and showed no swelling in the lymph nodes, or metastasis.

胸腹部造影CT所見:S状結腸の腫瘍は指摘できず,リンパ節転移や遠隔転移を疑う所見を認めなかった(Fig. 1B, C).

以上より,S状結腸癌cType I,cMP,cN0,cH0,cP0,cM0,cStage IIの診断にてD2リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.

手術所見:肝転移巣や腹水,腹膜播種結節を認めず,腫瘍の漿膜外への浸潤も認めなかった.

切除標本肉眼所見:S状結腸に19×15 mm大のI型病変を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

The resected specimen of the sigmoid colon showed a 19×15-mm type 1 tumor.

病理組織学的検査所見:異型細胞が微小乳頭状構造を形成し,間質との間に空隙を伴うIMPCの像を呈し,一部に高分化型腺癌を認めた(Fig. 3a, b).また,免疫組織学的検査ではepithelial membrane antigen(以下,EMAと略記)染色では乳頭構造の表面が陽性となるinside-out growth patternを示していた(Fig. 3c).また,リンパ管内皮細胞を染色する抗D2-40染色において,粘膜下層でのリンパ管侵襲を認めた(Fig. 3d).最終診断は一部に高分化型腺癌(5%を占める)を伴ったS状結腸原発のIMPC(95%を占める)であり,S,type I,T2(MP),N1(1/9),int,INFb,ly1,v0,PN0,pPM0,pDM0,pRM0,fStage IIIaであった.

Fig. 3 

Microscopic findings of the tumor (a: HE ×12.5, b: HE ×200, c: EMA ×200, d: anti-D2-40 ×200). a: The tumor was mainly composed of micropapillary structures. The micropapillary component was about 95%, and the remaining 5% was well-differentiated adenocarcinoma. The tumor invaded the muscularis propria layer. b: The papillary cell clusters are surrounded by clear empty spaces (arrows). c: Immunohistochemical staining for epithelial membrane antigen (EMA) disclosed reverse polarity of the micropapillary carcinoma component, namely, an “inside-out pattern” (arrows). d: Immunohistochemical staining for anti-D2-40 revealed an extensive lymphatic invasion (arrow).

術後経過は良好であり,12日目に軽快退院となった.現在は外来通院にてUFT+LVによる術後補助化学療法施行中であり,術後7か月の時点で明らかな再発は認めていない.

考察

IMPCは1993年にSiriaunkgulら1)によって,高率にリンパ管侵襲やリンパ節転移を伴う生物学的悪性度の高い浸潤性乳管癌の一亜型として提唱された概念である.乳癌で報告されて以来,尿路系,肺,唾液腺など他臓器での報告例が増加している.また,発生臓器にかかわらず高率にリンパ管侵襲やリンパ節転移を伴うことから予後不良であるとされている2)

組織学的には,ホルマリン固定の影響により,腺癌成分と周囲間質との収縮率の差による人工的産物として生じる裂隙に,一見脈管侵襲像様に浮遊するように微小乳頭状腫瘍細胞が存在するのが特徴である.また,免疫染色検査において腺細胞の管腔側表面に陽性を示すMUC1染色やEMA染色は,IMPCでは微小乳頭状癌胞巣の間質側表面に陽性となり,細胞における極性が反転した状態を呈することからinside-out growth patternと呼ばれ,これがIMPCのもう一つの組織学的な特徴である3)

大腸におけるIMPCの本邦での報告例は,1977年から2014年3月までの医学中央雑誌で「大腸」,「IMPC」,「micropapillary carcinoma」をキーワードとして,1950年から2014年3月までのPubMedで「colon」,「micropapillary carcinoma」をキーワードとして検索すると,2014年までに36例の報告例がみられた4)~21).年齢は26歳から89歳まで男女比は14:22であった.記載のあった32例全ての症例(32/32,100%)でリンパ管侵襲を認め,また25例(25/36,69.4%)でリンパ節転移を認めた.その中でも比較的進行度が低いとされるT1・T2の癌に対して切除された症例は自験例を含めて10症例であった(Table 1, 2).

Table 1  Clinical characteristics of resected cases indicating submucosa or muscularis propria
n=10
Sex (male/female) 7/3
Tumor location
 Right-side colon 3
 Transverse colon 0
 Left-side colon 5
 Rectum 2
Tumor size (mm) 29.4
Depth
 mucosa 0
 submucosa 8
 muscularis propria 2
Lymphatic invasion
 + 9
 − 0
 not described 1
Blood vessel invasion
 + 3
 − 4
 not described 3
Nodal metastasis
 + 4
 − 6
Recurrence
 + 3
 − 7
Table 2  Resected cases of invasive micropapillary carcinoma of the colon indicating submucosa or muscularis propria
No. Author Year Age/Sex Primary
site
Tumor size (mm) Depth ly v N MPC% Stage Operative procedure Recurrence Chemotherapy Outcome
1 Ueda15) 2006 72/female R 27×26 SM 1 1 2 5% IIIb superlow anterior resection no done (ND) alive (8 months)
2 Kondo4) 2008 70/male S 11 SM 3 ND 0 5% I sigmoidectomy no no alive (close follow up)
3 Matsuzaki16) 2009 60/male A 10×7 SM ND ND 0 ND I lap-ileocecal resection no no alive (8 months)
4 Sonoo17) 2009 64/male S 30×25 SM 3 2 2 80% IIIB lap-sigmoidectomy no done (ND) alive (25 months)
5 Hisamori18) 2009 71/female S 20×15 SM 2 0 0 (CT) 100% I (clinical) endoscopic mucosal resection 6 months
(lung, liver)
no dead (12 months)
6 Nishijima19) 2010 73/male R 65 SM 1 0 0 ND I lap-lower anterior resection 19 months (lung) no (after recurrence) lung lobectomy,
UFT+LV
alive (39 months)
7 Takizawa20) 2012 40/male A 8×8 SM 1 0 0 nearly 100% I lap-rt. hemicolectomy no no alive (24 months)
8 Koujima21) 2012 78/female A 30×30 MP 2 1 0 75% I lap-rt. hemicolectomy 5 months (liver) no alive (5 months)
9 Mukai14) 2012 82/male S 20 SM 3 ND 2 70% IIIb lap-sigmoidectomy no mFOLFOX6 alive (12 months)
10 Our case 64/male S 13 MP 1 0 1 95% IIIa lap-sigmoidectomy no UFT/LV alive (7 months)

ND: not described, R: rectum, S: sigmoid colon, A: ascending colon, SM: submucosa, MP: muscularis propria, lap: laparosopic

内訳はSMが8症例4)14)~20),MPが2症例21)であり,年齢は40歳から82歳までで男女比は7:3であった.腫瘍の局在は上行結腸が3例,S状結腸が5例,直腸が2例であった.腫瘍径は最大径が8 mmから65 mmであり,平均29.4 mmであった.リンパ管侵襲,リンパ節転移に関してみると,記載のあった9例全例(9/9,100%)でリンパ管侵襲を認め,リンパ節転移は4例(4/10,40%)とほぼ半数の症例で認めた.また,術後再発を認めたものは3例(3/10,30%)であった.1例はHisamoriら18)の報告で全身状態が悪くSM深部浸潤癌に対して内視鏡的治療が行われており,リンパ管侵襲は陽性であったが,明らかなリンパ節転移を認めていないにもかかわらず,術後6か月で多臓器に再発巣が出現し,術後12か月で原病死した症例であった.また,西島ら19)の報告例では,リンパ管侵襲は陽性で,リンパ節転移を認めず,術後化学療法の施行はせずに経過観察していたところ,術後19か月目に肺に孤立性の再発巣を認めた.その後,肺転移巣に対して左上葉切除術を施行しUFT+LVの術後補助化学療法を施行され,その後は再発なく初回手術後より36か月生存中である.最後に國府島ら21)の報告では,深達度はMPでありリンパ管侵襲は陽性でリンパ節転移を認めなかったため,こちらも術後化学療法は施行されていなかったが,術5か月目に肝臓に多発再発巣を認めた.

以上,術後再発を認めた3例18)19)21)は,いずれもリンパ管侵襲が陽性であったが,T1・T2症例かつリンパ節転移を認めないStage I・II症例であったため術後化学療法が施行されなかった.しかし,Table 1で記したように,リンパ節転移を認めた自験例を含む4例14)15)17)では,全てStage IIIa以上であり術後補助化学療法が施行され,再発なく経過している.

Kimら22)は585例の大腸癌症例の中からIMPC成分を含む大腸癌55例と通常型大腸癌119例を比較して,リンパ管侵襲,リンパ節転移,遠隔転移を来しやすく,stageも有意に高いことを報告している.Xuら23)は大腸癌切除例221例中から30例のIMPC成分を抽出し,深達度T1・T2症例においてIMPC成分はリンパ節転移のリスク因子となり,予後不良であると報告している.

このことから,IMPC成分を含む大腸癌ではT1・T2と比較的進行度が低い症例であっても高率にリンパ管侵襲を伴っており,遠隔転移の確率も高く予後が悪いと考えられる.しかし,急速な転帰をたどり悪性度の高さをうかがわせる報告もあるが,大腸癌に準ずる補助化学療法や遠隔転移に対する外科治療を施行することによって,長期生存する症例も報告されていることから積極的な治療は生存期間の延長に寄与すると考えられる.大腸癌診療ガイドライン24)では,リンパ節転移を伴わないT1・T2症例にはリンパ管侵襲陽性などの再発高リスクのStage II症例を除いては術後補助化学療法の施行は推奨されていないが,IMPC成分を含む大腸癌の場合,たとえリンパ節転移を伴っていないT1・T2であっても,積極的な術後補助化学療法を検討すべきであると考える.

また,Kimら22)の報告ではIMPCの腫瘍内の占有率と予後は無関係であったとしている.その一方で,Hauptら25)はIMPC成分が全体の10%以上である場合は有意ではないものの予後との関連がある可能性を述べている.Table 1の10症例では,IMPC成分の腫瘍内の占有率については,記載のあった8例では5~100%とさまざまであったが,その中でIMPC成分の腫瘍内の占有率がほぼ100%の症例でも長期生存している症例20)も認められ,生物学的悪性度との関係は不明であった.

大腸におけるIMPCの報告例が少ない理由として,第8版大腸癌取扱い規約26)でも分類されておらず,臨床上,診断率に差異が生じ,十分な報告がなされていないことが考えられる.また,IMPCはその他の組織型と混在していることが多く,IMPC成分が腫瘍内のどの程度の割合を占めた場合にIMPCと診断するか,まだ議論の余地がある.

前述したように,IMPC成分を伴う場合は通常型大腸癌よりもリンパ管侵襲,リンパ節転移を高率に伴うため,早期癌であっても十分なリンパ節郭清および積極的な術後補助化学療法が必要である.そのため,組織学的な定義に加えて,術前診断に対するモダリティーが今後の課題と考えられる.自験例も含めて37の報告例のいずれもが術前診断に至っておらず,自験例では術前の生検組織では後方視的にみても術前診断は不可能であった.今後は,IMPC成分の腫瘍内の占有率にもよるが,占有率が高い場合においては新たなpit patternの確立の可能性もある20)

集積された大腸癌症例について,IMPCの病理組織学的な特徴や腫瘍内の占有率などを踏まえて統一化された病理学的診断を行うことで,新たな術前診断のモダリティーの確立や,IMPC成分の腫瘍内の占有率と生物学的悪性度との関係や,通常型大腸癌との予後の比較などのさらなる解析が期待できる.

利益相反:なし

文献
 

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