The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Laparoscopic Management of Acute Cholecystitis Caused by Duodenal Ulcer Penetration
Ryuichiro SatoChikashi ShibataHajime IwasashiKazuaki MukoudaKaori KoyamaRyuji Nakamura
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2016 Volume 49 Issue 3 Pages 192-198

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Abstract

十二指腸潰瘍の胆囊壁穿通による胆囊炎は,本邦で1例の保存加療例の報告があるのみである.症例は81歳の男性で,既往症は糖尿病,高血圧,慢性閉塞性肺疾患であった.腹痛,血圧低下,著明な貧血の進行を認め,緊急上部内視鏡検査で出血性十二指腸潰瘍を認め止血した.CTでは十二指腸壁の途絶と胆囊壁内の異常ガス像を認めた.腹腔内に遊離ガス像は認めず,絶食,抗生剤により保存的に加療した.止血13日後に発熱し,CTでは胆囊気腫は拡大,胆囊壁は全周性に肥厚し漿膜側が強く造影され,胆囊炎の診断で手術となった.腹腔内を観察すると,胆囊は腫大し壁は赤褐色であった.十二指腸と胆囊の間は容易に剥離できた.十二指腸穿孔部の炎症性変化はごく軽度で,胆囊は漿膜が欠損していたが穿孔の所見は認めなかったことより,胆囊摘出術,十二指腸瘻孔部大網充填術を腹腔鏡下に施行した.病理学的には組織融解を伴う壊疽性胆囊炎で壁内に真菌を認めた.

はじめに

急性胆囊炎の多くは胆囊内の結石が胆囊頸部に嵌頓することが契機となる.胆囊内胆汁がうっ滞し,胆囊粘膜の傷害とそれに引き続き炎症性メディエーターが活性化され急性胆囊炎を生じる1).一方,胆囊と十二指腸は解剖学的に近接しているものの,胆囊炎と十二指腸潰瘍は発生機序が大きく異なり,通常併発することはない.

十二指腸潰瘍の合併症として穿孔,他臓器への穿通があるが,胆囊への穿通はまれである2).十二指腸潰瘍の胆囊壁穿通による胆囊炎は本邦で1例の保存加療例の報告3)があるのみで,非常にまれな病態である.

症例

症例:81歳,男性

主訴:腹痛

現病歴:アルコール性認知症にて精神科入院加療中,腹痛を訴えた.顔面蒼白,血圧低下,発汗,Hb=5.8 g/dlと著明な貧血の進行を認め,緊急上部内視鏡検査を施行した.十二指腸球部に大きな潰瘍を認め,潰瘍底に露出血管を認めたためエタノール局注にて止血した(Fig. 1).

Fig. 1 

Emergency endoscopy demonstrated a giant bleeding ulcer in the duodenal bulb. Hemostasis was achieved endoscopically.

既往歴:糖尿病,高血圧,慢性閉塞性肺疾患,慢性膿胸,アルコール性認知症.

腹痛発症時検査所見:WBC 16,500/μl,Hb 5.8 g/dl,HCT 17.6%,PLT 373×103/μl,CRP 3.9 mg/dl.肝機能,腎機能を含む生化学検査に異常は認めず.

腹部造影CT所見:十二指腸壁の途絶と胆囊壁内に異常ガス像を認めた(Fig. 2).腹腔内に明らかな遊離ガス像は認めず,肝表面に少量の腹水を認めた.出血性十二指腸潰瘍,潰瘍の胆囊壁への穿通が疑われた.

Fig. 2 

(a) Abdominal CT showed a duodenal ulcer penetrating to the gallbladder wall (black triangle). (b) There was no extraluminal air, and ascites developed around the liver (white triangle).

止血後全身状態は保たれ腹痛も軽快したため,輸血,絶食,経鼻胃管による減圧,抗生剤,プロトンポンプインヒビター投与,高カロリー輸液により保存的に加療を行った.順調に経過していたが止血13日後に発熱した.

発熱時検査所見:WBC 4,600/μl,CRP 11.2 mg/dlとCRPの上昇があり,T-BIL 0.4 mg/dl,ALP 558 IU/l,γ-GTP 177 IU/l,AST 59 IU/l,ALT 73 IU/l,LDH 239 IU/lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.ガストリン値は590 pg/mlと軽度高値を示した.

腹部造影CT所見:胆囊壁は全周性に肥厚し,胆囊壁肝床側にも壁内気腫が広がっていた.壁の増強効果は粘膜側より漿膜側に強く認められた.胆囊内に異常ガス像は認めなかった.その4日後の造影CTでも胆囊壁に異常ガス像は残存していた(Fig. 3).

Fig. 3 

Abdominal CT on day 17 showed persistent duodenal ulcer penetration. The gallbladder wall was thickened with significant contrast enhancement on the serosal side. Intramural emphysema was observed diffusely throughout the gallbladder wall (black triangles).

十二指腸潰瘍の胆囊穿通,胆囊炎の疑いにて腹腔鏡下に手術の方針となった.

手術所見:ポートを挿入し腹腔内を観察すると,胆囊が腫大し壁は赤褐色であった.壁側腹膜,大網が胆囊周囲に炎症性に癒着し急性胆囊炎の所見であった.腹水や胆囊周囲の膿汁,白苔の付着など腹膜炎の所見は認めなかった.愛護的に胆囊を露出していくと,十二指腸との間も容易に剥離できた.十二指腸に発赤,壁肥厚などの強い炎症所見は認めず,剥離することで約7 mm大の穿通部を認めた.十二指腸穿通部周囲の炎症性変化はごく軽度で,胆囊側は漿膜が欠損していたが穿孔の所見は認めず,術中の胆汁流出もなかった(Fig. 4).腹腔鏡下胆囊摘出術を施行,十二指腸穿通部は大網で被覆,閉鎖した.手術時間は2時間30分,出血量は少量であった.

Fig. 4 

The adhesion between the gallbladder and duodenal wall was easily lysed with blunt dissection. Inflammation around the penetrated duodenal wall (white triangle) was minimal, and there was a serosal defect on the gallbladder wall (black triangle). GB; gallbladder, Du; duodenum.

摘出標本肉眼検査所見:胆囊壁は肥厚していた.粘膜面は保たれており明らかな穿孔の所見は認めなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

(a) The gallbladder wall was thickened and penetrated from the serosal side (black triangle). (b) There was no sign of perforation (white triangle).

摘出標本病理組織学的検査所見:胆囊壁全体に組織融解を伴う壊疽性胆囊炎の所見を認めた.胆囊壁全層に炎症所見があり,漿膜側により高度の炎症性細胞浸潤像が観察された.また,壁内に真菌の増殖を認めた(Fig. 6).病理組織学的に明らかな穿孔の所見は認めなかった.

Fig. 6 

(a) Pathologic examination revealed severe neutrophil infiltration in the gallbladder wall which was more prominent on the serosal side (black triangles) (HE ×40). (b) Fungal outgrowth was identified in the gallbladder wall (HE ×400).

術後経過:術後は問題なく経過した.アルコール性認知症加療継続のため術後第18病日に精神科に転科となり,術後第42病日にリハビリテーション目的に転院となった.

考察

急性胆囊炎は胆囊に急性炎症が生じた病態であり,その90~95%は胆石に起因する1).他に胆囊の血行障害,化学的傷害,細菌や寄生虫感染,膠原病が胆囊炎の原因になるとされている.

十二指腸潰瘍は,胃酸,ピロリ菌感染,非ステロイド性抗炎症薬などによる粘膜障害が本態であり,合併症として穿孔,多臓器への穿通がある.穿通臓器としては膵臓,小腸,胆囊,胆道,大腸,大網などがあるが,膵臓が約50%と最も多く,胆囊は約2%と非常にまれである2)4).胆囊穿通の診断は困難なことが多いが,十二指腸潰瘍が胆囊壁に穿通した結果,胆囊動脈系から出血を来したとする症例の報告がなされている2)5).本症例では,術前,術中の胆道造影を行わなかったが,画像検査所見,術中所見,臨床経過から穿孔を強く疑う所見は認めなかった.経過中micro perforationを起こしていた可能性は否定できないものの,胆囊腫大の軽減や,胆囊内腔の液面形成を伴う異常ガス像の出現なども認めなかったため,顕性の穿孔には至らなかったものと判断した.

胆道と消化管が交通する胆道消化管瘻の内訳はWaggonerら6)の819例の検討では,胆囊十二指腸瘻が51%と最も多く,胆囊結腸瘻21%,総胆管十二指腸瘻19%であった.胆囊十二指腸瘻の原因は,胆囊内の結石に伴う胆囊の慢性炎症や悪性腫瘍によることが多く,慢性胆囊炎によるものが約90%7)~9)とされ十二指腸潰瘍を原因としたものの報告は少ない8)10).近年の腹腔鏡手術の普及に伴い胆囊十二指腸瘻に対する腹腔鏡手術の報告がなされている11)~16).腹腔鏡下胆囊摘出術中に偶然に発見される胆囊十二指腸瘻の頻度は0.3~1.7%とされ,多くの症例で組織間の癒着は高度であるものの,自動縫合器を使うことで鏡視下に安全に瘻孔を離断,閉鎖できたとしている11)~14)

胆囊と十二指腸は解剖学的に近接し,胆囊炎,十二指腸潰瘍は右上腹部痛の原因疾患として非常に一般的であるが,その成因は大きく異なり,互いに影響しあうことは非常にまれである.本症例では,十二指腸潰瘍が胆囊壁に穿通したことにより急性胆囊炎を発症したと考えられる.医学中央雑誌にて1977年から2015年まで「胆囊炎」,「十二指腸潰瘍」で検索すると,本邦で1例の保存加療例の報告3)があるのみの非常にまれな病態であり,本症例は腹腔鏡下に手術を行った初の報告例である.

当初は出血性十二指腸潰瘍に対する保存的な加療を行っていたが,胆囊壁への穿通が遷延したこと,背景に糖尿病を合併していたことから,絶食,抗生剤投与にもかかわらず胆囊壁内の炎症が増悪,拡大し胆囊炎を併発したと考えられた.病理組織学的検索では,壁内に真菌を認め,抗生剤の効かない真菌の増殖も病態の進行,悪化に関与したと思われた.通常の胆囊炎の炎症の主座が胆囊内,胆囊粘膜にあるのに対し,本症例では胆囊壁内が主座であった.造影CTで胆囊壁の漿膜側が強く造影効果を示す特異な画像所見を呈し,病理組織学的にも漿膜面に強い炎症性変化が認められ,炎症が胆囊壁内,漿膜側に強くあったことを示していた.十二指腸潰瘍穿通による胆囊壁への炎症の波及を契機とするこのような病態を,急性胆囊炎とするかについては議論の余地があると思われる.本症例では炎症が穿通部周囲にとどまらず胆囊全体に広がったこと,保存加療に抵抗性の比較的急性な経過を伴う炎症性変化が本態であり,術中所見,病理組織学的所見もそれに矛盾しないことから,特異な病態であるが急性胆囊炎と診断した.

手術所見では胆囊と十二指腸の間の癒着は軽度で,愛護的な操作で容易に剥離できた.組織間の癒着の原因が十二指腸潰瘍の穿通による急性のもので,胆囊炎や腹膜炎からくる感染性の炎症性変化や慢性炎症ではなかったことなどが,剥離が容易な癒着にとどまっていた原因と考えられた.十二指腸穿通部周囲の壁の肥厚や硬化性変化がごく軽度であったことも同様の理由と思われた.一方,十二指腸潰瘍の胆囊頸部穿通に対し手術を行った坪井ら10)の症例では,胆囊頸部と十二指腸前壁は強固に癒着していたと報告している.この症例では2年にわたる難治性潰瘍治療の既往があり,我々の症例と比べて病悩期間の長いことが組織変化にも現れた可能性が考えられた.腹痛発症から17日目での手術で,病態も特殊であることから手術は困難なことが想定されたが,潰瘍の穿通が胆囊壁全層の穿孔に至っておらず,術中の胆汁の流出がなかったこと,腹膜炎の所見がなく穿通部の組織変化が軽度であったことから,腹腔鏡下での手術操作は比較的容易であった.近年は急性胆囊炎,十二指腸潰瘍穿孔に対しては腹腔鏡下の手術が積極的に施行され,低侵襲性が評価されている1)17).本症例でも腹腔鏡下手術を施行したことで術後の経過が順調であったことにもつながり,低侵襲である腹腔鏡下手術の利点が生かされる結果となった.本症例は十二指腸の胆囊壁穿通部が胆囊体部であることが術前の画像検査,および術中所見から明らかであったが,胆道系の解剖の確認と術中副損傷の予防のため,予期しない胆囊十二指腸瘻が疑われた場合や瘻孔が胆囊管,総胆管に近い場合,術中胆道・胆囊造影18)を行うことでより解剖の確認と安全な手術につながるものと考えられた.

利益相反:なし

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