The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Retrieval of a Migrated Stent Using an Endoscope Inserted into the Proximal Resected Lumen during Laparoscopic Left Hemicolectomy
Yusuke YoshikawaMasashi TsurutaHirotoshi HasegawaKoji OkabayashiTakayuki KondoTakehiro ShimadaMutsuhito MatsudaMasashi YahagiYuko Kitagawa
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 334-341

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Abstract

大腸ステントは閉塞を伴う大腸癌に対して有用であるが,穿孔や逸脱などの合併症に留意する必要がある.我々は,腫瘍口側に逸脱したステントの回収に術中内視鏡が有用であった1例を経験したので報告する.症例は腹部膨満を主訴に当院を受診した61歳の男性で,腹部CT所見から横行結腸癌による腸閉塞と診断された.緊急で大腸ステント(WallFlexTM Colonic Stent 6 cm)の留置を試みたが,口側へ偏移したため同12 cmを追加した.狭窄は解除されたが,翌日のレントゲンで前者の口側への逸脱を認めた.減圧後に腹腔鏡補助下結腸左半切除を施行し,体外操作で腸管を切離した際に口側断端より内視鏡を挿入してステントを回収した.腹腔鏡下手術では,操作性の制限から逸脱した大腸ステントの回収に難渋する可能性があるが,術中内視鏡の併用がステントの回収に有用なことが示唆された.

はじめに

大腸ステントは閉塞を伴う進行大腸癌において術前あるいは緩和治療における閉塞解除目的に普及しつつある1).一方で穿孔やステントの閉塞,逸脱といった重大な合併症も知られており,その安全性に関する検証については十分とはいえないのが現状である2)3).今回,我々は進行横行結腸癌による閉塞性イレウスの解除目的に挿入したステントが逸脱した1例を経験した.本症例では腹腔鏡下に根治切除を施行,術中にステントを回収したが,この際,術中内視鏡が逸脱ステントの回収において極めて有用と考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:61歳,男性

主訴:腹部膨満,腹痛

既往歴:下垂体腺腫(術後,詳細不明),統合失調症(他院にて外来加療中)

現病歴:数日前から腹部膨満を自覚していた.自宅で様子を見ていたが,症状の増悪および腹痛・嘔吐を認めたため当院を受診した.

受診時現症:腹部は膨満し,全体に圧痛を認めたが,明らかな腹膜刺激症状は認めなかった.

血液生化学的検査所見:WBC 9,400/μl,CRP 9.14 mg/dl ,BUN 30.6 mg/dl ,Cr 2.06 mg/dlと軽度の炎症反応と腎機能障害を認めた.

腹部単純CT所見:脾彎曲に腫瘍性の閉塞起点と考えられる結腸管の壁肥厚と口側腸管の拡張を認めた.所属リンパ節の腫大を認めたが,明らかな遠隔転移は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

A plain abdominal CT shows bowel obstruction due to the transverse colon tumor (white arrow) located at the splenic flexure.

受診後経過:横行結腸癌による腸閉塞と診断し,閉塞解除目的に大腸ステント留置の方針とした.一方で,ほぼ全小腸が著しく拡張しており,緊急の減圧処置としてイレウス管挿入を先行した.閉塞長は造影検査にて3 cm程度と判断した.WallFlexTM Colonic Stent(6 cm)の留置を試みたが,ステントが口側へ偏移,肛側縁が腫瘍内腔で拡張した形で留置された(Fig. 2A).これに対して同12 cmをstent-in-stentの形で追加した(Fig. 2B).翌日の腹部単純X線検査では,6 cmのステントの口側腸管への逸脱を認めたが,12 cmのステントは有効であったため,減圧および腎機能障害の改善が得られた時点で手術の方針とした(Fig. 3).入院後2日にはイレウス管を抜去可能であったが,同時に多尿(6,000 ml/日)となり,電解質異常を認めた.画像検査で下垂体腫瘍を認め,これに起因する中枢性尿崩症が疑われた.一方で,統合失調症に対するリチウム製剤内服による腎性尿崩症も疑われたため混合性の病態として加療した.電解質のコントロールが得られたため手術可能と判断し,ステント挿入後12日目に手術を施行した.待機期間に撮影した腹部単純X線検査においてステントの局在は横行結腸の中央付近から大きく推移することはなかった.減圧も良好であり,臍部小開腹創からでも容易に回収可能であると考えられ,結腸癌(T,circ,cType2,cT4a,cN1,cM0,cStage IIIa)に対して腹腔鏡補助下結腸左半切除術(D3郭清)を行った.

Fig. 2 

A: We inserted the stents with enema X-ray examination. Each yellow scale indicates 1 cm, and the length of occlusion was estimated to be 3 cm approximately. B: As the first stent was misplaced, we tried to insert and overlap the second stent (small white arrow) from the inside of the first one (large white arrow), because we wanted to prevent migration.

Fig. 3 

An abdominal X-ray revealed that the first 6 cm stent had migrated to the proximal site of the colon (large white arrow) and the second 12 cm stent was successfully placed in the correct position of the bowel obstruction (small white arrow).

手術所見:臍部に3.5 cmの縦切開をおき,同部位にカメラポートをおいた.さらに,4か所にポートを挿入して腹腔鏡下手術を開始した(Fig. 4).原発巣は完全閉塞を伴う局所進行病変であり,その局在から根治性確保のために右枝を温存した中結腸動脈根部および上直腸動脈を温存した下腸間膜動脈根部リンパ節郭清を施行した.また,体外操作でステントを回収するために,肝彎曲部の授動も可能なかぎり広範に行い,口側結腸の切離にはメスを用いた.検体摘出後に口側切離断端より直視下にステント回収を試みたが,ステントの偏移が高度であったため困難であった.そこで,切離断端にまつり縫合をかけair tightとしたうえで内視鏡を挿入した.スコープ部分をイソジン消毒して術野に持ち込み,術者が切離断端より挿入した.ハンドル操作は術野外で内視鏡医が行い,術者との協調作業によりステントの回収作業を行った(Fig. 5).内視鏡下には比較的容易にステントを同定可能であり,把持鉗子を用いてステントを回収した.内視鏡操作開始後は,5分程度と短時間でステントは回収可能であった(Fig. 6A, B).また,ステント回収後に口側断端を自動縫合器を用いて閉鎖し,機能的端端吻合で再建を行った.本症例は,内臓脂肪,生理的癒着が高度であり,全体として手術操作が困難であった.また,上述したように広範なリンパ節郭清および授動を行ったため,多くの複雑な腹腔鏡手術手技を必要とした症例であった.さらに,直視下のステント回収操作に難渋し,予定外の術中内視鏡のセットアップに時間を要したことから,総手術時間は560分と延長した.一方で,腹腔鏡下に手技を完遂することで腹壁破壊,出血量(30 g)ともに最小限に抑えることが可能であった.

Fig. 4 

We performed the operation with our standard port setting like the schema. We usually make the 3.5 cm umbilical incision at first and use it as the port for the laparoscope with a device preventing air leakage.

Fig. 5 

We tried to retrieve the stent during the operation using an endoscope. The operator took the scope into the operative field disinfected with isodine, while at the same time the endoscopist manipulated the handle out of the operative field.

Fig. 6 

A: The schema of retrieving the migrated stent. We inserted the endoscope from the proximal cross-section, placing purse-string sutures to prevent air leakage. B: The migrated stent was retrieved by the grasping forceps under endoscopic observation.

術後経過:目立った合併症を認めることなく,第10病日に退院した.なお,ステント逸脱による術後入院期間の延長は認めなかった.病理組織学的診断は,結腸癌(T,circ,type3,pT3,pN0,pM0,pStage II)であった.本人および家族の希望もあり,術後補助化学療法は行わず,現在15か月無再発生存である.

考察

大腸ステントの適応は,閉塞性大腸癌に対する手術を前提とした術前準備としての閉塞解除と,根治切除不能の症例に対する姑息的閉塞解除に分けられる4).待機手術目的でなされる前者はbridge to surgery(以下,BTSと略記)といわれ,緊急手術と比べると術前後の患者QOLだけでなく,短期的な手術成績も良好であったとの報告や,左側大腸癌による閉塞性腸閉塞における高い一期的吻合率や低い合併症率などの報告から,その有用性が期待されている5)6).しかし,ステント手技に特有の合併症は重篤なものが多く,施行する際は十分な注意を要する.本症例で認めた逸脱も1.2~5.8%と比較的頻度は少ないものの,回収に難渋する場合が多く,念頭に置かなければならない合併症の一つである7)~9).特にcovered typeを使用した場合は,non-covered typeと比較して腫瘍の内腔への進展の抑制,あるいは閉塞解除後に腫瘍口側大腸への内視鏡挿入がより容易といった利点がある一方で,逸脱の頻度が高くなるとの報告もあり,注意を要する10)11)

本症例では脾彎曲部横行結腸癌による閉塞性イレウスに対してBTS目的にnon-covered typeのステントを挿入した.ステントの長さに関しては,大腸癌による閉塞には閉塞長に近いものを選択し,他部位からの浸潤による閉塞では閉塞長よりも長めのものを選択すべきとの報告がなされている12).本症例は大腸癌による閉塞症例であり,まず閉塞長に近い6 cmのステントを選択した.しかし,ステントは口側に偏移した形で留置され,この原因の一つとして,脾彎曲部の狭窄であり,屈曲の影響を考慮するとステントの長さが不十分であったことが挙げられた.ただし,屈曲部位に長めのステントを留置することが,ステントエッジと腸管壁の接触による潰瘍や穿孔のリスクにつながる可能性は否定できず,ステントの選択は症例や目的に合わせて慎重に行わなければならないものと考えられる.いずれにしても,数種類の長さのステントを用意したうえで手技に臨み,不測の事態にも対応可能な態勢を整えておくことが重要となる.本症例においても,6 cmのステントを留置後,すみやかに12 cmのステントをstent-in-stentとして追加した.結果的に6 cmのステントの逸脱を避けることはできなかったが,狭窄の解除および緊急手術の回避が可能であった.なお,再閉塞に対するステントの再挿入で良好な結果を得たとする報告は散見されるが,本症例のように初回の狭窄解除に際して複数のステントを使用することは必ずしも一般的とはいえないのが現状である13)14).また,ステントの使用はBTS,姑息的留置の双方で緊急手術に比較して経済的であるとの報告もあるが,複数のステントを使用した場合は,その優位性は担保されない15).本症例では,精神疾患加療中という背景から,人工肛門管理を回避することが望ましいと考えられたため2個目のステントの使用に至った.しかし,複数のステント使用に関しては,その安全性や医療経済的な妥当性を十分考慮する必要があるものと考える.

本症例では,連日撮影された腹部単純X線検査でステントの位置に著変を認めなかったことから,想定外の高度逸脱の原因として,体位変換や剥離授動操作による腸管の直線化,すなわち術中操作による影響が考えられた.一方で,腹腔鏡下手術では,操作性の制限から高度逸脱症例ではステントの回収が困難となる可能性が高いものと考えられる.したがって,腹腔鏡下手術において逸脱ステントの回収を行う場合は,術前検査からは予測しえない回収困難例に備える必要があるものと考えられた.ステントの回収が困難であった場合,最も確実な方法は開腹手術への移行と考えられる.しかし,患者への侵襲は大きく,本症例では術中内視鏡を先行した.術中内視鏡によるステントの回収経路として,経肛門的あるいは経切離断端的経路が挙げられる.前者では吻合後に内視鏡を肛門から挿入してステントを回収することになるが,回収の際に吻合部を通過しない,あるいは吻合部や肛側大腸をステントにより損傷するなどの重大な合併症を引き起こす可能性も否定できず,手技的にも困難であることが予想される.術野の清潔保持において課題は残るが,切離断端から内視鏡を挿入したほうが,術中かつ吻合前にステントを回収可能な点で安全性が高いものと考える.実際の手技においては,切離断端にまつり縫合をかけることでair leakageは十分に抑えられた.送気による内腔の拡張は,良好な視野の確保だけでなく,ステントと粘膜面との接触を減少させることで愛護的な回収に寄与したものと考えられ,直視下では抵抗が強く回収困難であったステントが,内視鏡下にはスムーズに回収可能であった.また,内視鏡を再挿入することでステント抜去に伴う口側腸管の損傷の有無や,術前に観察不可能であった口側腸管の粗大病変を検索可能となる点でも有用な方法といえる.ただし,中,長期的に腸管内に逸脱したステントが遺残していた場合,ステントと腸管に器質的な変化が生じる可能性がある.この場合は開腹移行や切除範囲の拡大も躊躇すべきではないものと考える.

PubMedでは「colorectal」,「SEMS」,「migration」をキーワードとして1950年から2013年までの,医学中央雑誌では「大腸ステント」,「逸脱」をキーワードとして1977年から2013年までの文献検索を行ったが,BTSにおける逸脱に対する具体的かつ詳細な対応策が明記された報告は認めなかった.BTS目的のステント留置症例のさらなる増加が見込まれる中,ステントの逸脱という重篤な合併症に対して術中内視鏡が有用なオプションの一つであることが示唆された.さらに,腹腔鏡下手術と術中内視鏡を併用することで,より低侵襲に逸脱ステントを回収することが可能となる点で,極めて有望と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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