The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
An Intersigmoid Hernia Treated with Laparoscopic Surgery
Takuya MatsuiHidehiko KitagamiYasuhiro KondoKeisuke NonoyamaKaori WatanabeShiro FujihataAkira YasudaMinoru YamamotoMoritsugu Tanaka
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 360-366

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Abstract

症例は51歳の男性で,下腹部痛で近医を受診し,腸閉塞の診断で当院に紹介された.CTで左下腹部に閉塞機転を有する絞扼性イレウスを認め,腹腔鏡下に緊急手術を行った.腹腔内を観察すると,S状結腸間膜後腹膜付着部の2 cm大の陥凹に小腸の嵌頓を認め,S状結腸間膜窩ヘルニアと診断した.嵌頓を解除した小腸に壊死はなく,陥凹部を縫合閉鎖し手術を終了した.術後経過は良好で,第4病日に退院となった.S状結腸間膜窩ヘルニアは比較的まれな疾患で,腹腔鏡下に治療した報告は少ない.今回,腹腔鏡下に治療しえたS状結腸間膜窩ヘルニアの1例を経験したので報告する.

はじめに

S状結腸間膜窩ヘルニアは,S状結腸間膜後腹膜付着部の異常陥凹に腸管が迷入する比較的まれな疾患である1).今回,我々は腹腔鏡下に診断および治療を行い,良好な経過をえたS状結腸間膜窩ヘルニアの1例を経験したので報告する.

症例

患者:51歳,男性

主訴:下腹部痛,嘔気

既往歴:特記すべきことなし.腹部手術歴なし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:就寝中に突然腹痛と嘔気・嘔吐が出現した.症状が改善しないため近医を受診し,腸閉塞の診断で当院に紹介となった.

入院時現症:身長163 cm,体重55 kg,体温37.2°C,血圧157/84 mmHg,脈拍58回/分・整で,意識は清明であるが表情は苦悶様で,下腹部を中心に腹痛の訴えがあり,間欠的な嘔吐反射が認められた.腹部は軽度膨満し,グル音が亢進していたが金属音は聴取せず,圧痛や腹膜刺激症状もなかった.

血液検査所見:WBC 13,400/μl,CRP 0.06 mg/dlと炎症反応上昇を認めたが,その他に異常所見はなかった.

腹部単純X線検査所見:左上腹部を中心に鏡面像を伴う小腸拡張像を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal X-ray image showing a dilated small intestine with a niveau.

腹部造影CT所見:腹腔内小腸に拡張と液体貯留を認め,S状結腸の左外側に狭窄した小腸を認めた(Fig. 2a).また,同部位の小腸は冠状断像でダンベル型を呈し,腸管壁肥厚を伴っていた(Fig. 2b).

Fig. 2 

Enhanced abdominal CT. a) CT on admission reveals stenosis of the small intestine in the left lower abdomen (yellow arrow). b) Obstructive small intestine behind the mesentery of the sigmoid colon (yellow arrow).

以上の所見から内ヘルニアによる絞扼性イレウスを疑った.患者の自覚症状も強く,来院から約4時間後,発症から約12時間後に緊急で腹腔鏡下手術を行った.

手術所見:臍上に開腹法で12 mmカメラポートを,右下腹部と左側腹部,左下腹部に5 mmポートを挿入した(Fig. 3).腹腔内を観察すると,S状結腸間膜の後腹膜付着部に陥凹部を認め,これをヘルニア門として回腸が嵌頓しており,S状結腸間膜窩ヘルニアと診断した(Fig. 4a).ヘルニア門から回腸を引き出し,嵌頓を解除した(Fig. 4b).嵌頓腸管は約5 cm長で,ヘルニア門となった陥凹部は径2 cm大であった.嵌頓腸管は鬱血のみで壊死はなく,腸管切除は施行しなかった.陥凹部を吸収糸で縫合閉鎖して手術終了した(Fig. 4c).手術時間は57分,出血量は1 mlであった.

Fig. 3 

Port site arrangement. The black circle mark indicates the 12-mm camera port; the black triangle mark indicates the 5-mm port.

Fig. 4 

Intraoperative findings. The left side of the image shows the cranial aspect, the upper part shows the ventral aspect. a) Laparoscopy showed that the small intestine had herniated into the intersigmoid fossa (yellow arrowheads). b) The hernia orifice was 2 cm in diameter (yellow arrow). c) The hernia orifice was closed with interrupted sutures.

術後経過:術翌日より経口摂取を開始し,経過良好で術後4日目に退院となった.

考察

内ヘルニアが原因の腸閉塞は,腸閉塞全体の約1~2%で,そのうちS状結腸間膜に関連するものは内ヘルニア全体の約5%とされ,まれである1)2).S状結腸間膜関連ヘルニアは,①intersigmoid hernia(S状結腸間膜窩ヘルニア:S状結腸間膜付着部の陥凹部に腸管が嵌頓するもの),②intermesosigmoid hernia(S状結腸間膜内ヘルニア:S状結腸間膜左葉の欠損部に腸管が嵌頓するもの),③transmesosigmoid hernia(S状結腸間膜裂孔ヘルニア:S状結腸間膜の左右両葉の貫通性の欠損部に腸管が嵌頓し対側腸間膜に脱出するもの)の3型に分類される3).自験例はS状結腸間膜窩ヘルニアであり,S状結腸間膜に関連する内ヘルニアの34%を占めるとされるが,これまで腹腔鏡下に治療した報告は少ない4).我々が医学中央雑誌を用いて,「S状結腸間膜窩ヘルニア」,「腹腔鏡」をキーワードに本邦報告例を検索したかぎりでは,1977年から2014年10月までの期間で会議録を除くと,自験例を含めて8例の報告があった(Table 15)~10).この8例を検討すると,平均年齢は46歳(33~64歳)で,男女比は5:3であった.S状結腸間膜窩ヘルニアは,自覚症状として突然の腹痛や嘔気・嘔吐を認めるが,その程度は症例毎にかなり差がある.このため激しい自覚症状を伴い緊急手術を要する症例と,穏やかな経過をたどり保存的治療が先行して行われる症例とに二分される特徴がある5)11).これは検討した8例にも共通して認められ,入院から手術に至るまでに,最長16日間から最短4時間と大きな幅があった.また,この8例にはいずれも腹部手術歴を認めなかった.

Table 1  Previously reported Japanese cases of intersigmoid hernias treated with laparoscopic surgery
Case Author Year Age/
Sex
Preoperative examination Interval time between admission and surgery Surgical time (min.) Size of hernia orifice (cm) Bowel resection Repairing method of hernia orifice Postoperative hospital stay (day) Recurrence of intersigmoid hernia
1 Maruyama5) 2005 33/M CT/small bowel series 16 days 83 2.5 no Simple closure 11 no
2 Murakami6) 2012 64/M CT/small bowel series 4 days 2.0 no Dissection 10 no
3 Nisida7) 2013 55/F CT 87 2.0 no Simple closure 6 no
4 Toyoda8) 2013 35/M CT 14 hours 106 2.0 no Simple closure 7 no
5 Toyoda8) 2013 37/M CT 10 hours 74 1.0 no Simple closure 7 no
6 Fukuzawa9) 2014 39/M CT/small bowel series 6 days 44 no No 10 no
7 Owada10) 2014 50/F CT/small bowel series 4 days no Dissection 3 no
8 Our Case 51/M CT 4 hours 57 2.0 no Simple closure 4 no

S状結腸間膜窩ヘルニアの診断には,一般的にCTが用いられるが,術前に確定診断に至ることは困難とされる6).自験例は術前のCT所見で,S状結腸の左外側に壁肥厚を伴いダンベル型を呈する小腸を認め,内ヘルニアによる腸閉塞を疑ったが,診断確定には至らなかった.しかし,嵌頓腸管に造影効果は認めるものの,静脈還流障害による鬱血を示す壁肥厚を伴っており,腹痛・嘔吐などの自覚症状も強く,完全虚血による腸管壊死に進行する可能性を否定できないと考え,嵌頓の解除を目的に緊急手術へ踏み切った.これまでの報告でも,CTではS状結腸間膜に関連する内ヘルニアとまでの診断が限界とされ,試験開腹術による術中所見から確定診断がなされてきた6).しかし,腹腔鏡下手術の進歩と普及に伴い,腹腔鏡下に診断および治療された例が報告されるようになった5)~10)

S状結腸間膜窩ヘルニアの治療は,手術治療が第一選択となる.近年,本疾患のような術前診断困難な急性腹症に対して,腹腔鏡下手術の有用性が報告されている12)~16).急性腹症の術前診断は,USやCTに代表される画像診断法の進歩した現在でも,本疾患のように困難な例が少なくない12).急性腹症に対する画像診断の正診率が80%程度にとどまるのに対し,腹腔鏡による正診率は93~100%とされ,その正確さは開腹手術と同等とする報告もある17).さらに,腹腔鏡を用いることで,確定診断に引き続いて腹腔鏡下手術が可能か,開腹手術へ移行が必要か,あるいは治療の必要なく経過観察が可能かを見極めることができる12).しかし,急性腹症に対する腹腔鏡下手術の適応にはいまだ明確な基準はなく,全身麻酔が可能で,気腹の非適応症例ではなく,大量の腸管壊死を伴わないことなどを前提とする報告もある13).具体的な疾患としては,虫垂炎・胆囊炎・消化管穿孔などの炎症性疾患に対しその有用性が早期から報告されている.しかし,その一方で,腸閉塞への適応に関しては議論がある15).腸閉塞に対し腹腔鏡下手術を行う際には,術中の視野確保の面で,腸管拡張が問題となる.一般的に,腸管拡張を有する疾患に対し腹腔鏡下手術を行う場合には,術前のイレウス管挿入が必須とされる12).イレウス管を挿入し腸管内を減圧することで,安全なポート挿入と操作スペースの確保が可能になり,イレウス管をガイドに責任部位の検索も行うことができる14).また,イレウス管より小腸造影を行うことで,正確な狭窄部位を確認でき,術前検査としても有用である5).イレウス管にて十分に腸管内が減圧された単純性癒着性イレウスは腹腔鏡下手術の良い適応とされる13).一方,絞扼性イレウスに対しては,腹腔鏡下手術の技術的に難易度が高く時間を要する欠点から一般的に適応とならない.しかし,絞扼性イレウスにおいても,疑診の場合で全身状態が安定していれば腹腔鏡下手術の適応になりうるとの報告もある13)~16).自験例では患者の自覚症状が強く絞扼性イレウスが疑われたこと,腸管拡張が軽度で鏡視下操作が可能と判断したことから,イレウス管挿入よりも手術治療を優先した.検討した8例のうち,自験例を含めた4例は術前にイレウス管挿入を行っておらず,これらは全て入院当日に緊急手術となった症例であった.4例とも術中の合併症はなく,腹腔鏡下に手術は完遂されており,術後経過も良好であった.術前に時間的猶予があれば,イレウス管挿入は考慮されるべきであるが,自験例のように絞扼性イレウスが疑われ緊急手術を要する場合には,診断をかねた腹腔鏡下手術を優先することは許容されると考えられる.さらに,本疾患は腸管虚血を来しにくいとされ,発症からかなり時間が経過した症例でも,腸管切除が不要であったとの報告が散見される10).今回検討した8例でも,腸管切除を要する症例はなかった.このため,自験例のように鏡視下に手術が完結する可能性が高い疾患といえる.また,仮に腸管切除が必要な場合でも,鏡視下に腹腔内を観察することで,適切な位置に開腹創を置く一助になると思われる16).手術手技に関しては,自験例を含めた8例全例で多孔式での腹腔鏡下手術が行われており,単孔式での報告はなかった.多孔式に比べ整容性に優れる一方,操作性に劣り手術時間が長くなる傾向のある単孔式腹腔鏡下手術は,本疾患のような腸管拡張を伴い操作スペースが制限される疾患,特に絞扼性イレウスを疑う症例への適応は限られると考える18).手術時間に関しては,8例中記載のあった6例の平均は75.2分(44~106分)であった.腸管の嵌頓解除に関しては,自験例を含めた8例とも牽引のみで可能で,ヘルニア門の開大や切開の必要はなく,腸管損傷などの合併症もなかった.ヘルニア門処理に関しては,8例中自験例を含めた5例が鏡視下に縫合閉鎖を,2例が切開開放を行った.縫合閉鎖に用いた縫合糸に関しては,自験例を含めた4例で吸収糸が使用されており,1例は詳細な記載がなかった.今回検討した8例ではいずれも再発を認めていないが,症例数自体が少なく,現時点では長期予後の追跡も十分とはいえない.このため,今後の更なる症例の集積と十分な経過観察が必要と考えられる.

S状結腸間膜窩ヘルニアは術前診断が困難である一方,腸管切除を必要とせず,ヘルニア門の閉鎖や切開開放のみで治療できる可能性が高い疾患である.自験例では診断と治療の両面で,腹腔鏡下手術が有用であった.

利益相反:なし

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