The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Splenectomy for Splenomegaly over 3,000 cm3 Suspected to Be Hairy Cell Leukemia Japanese Variant
Toru WatanabeKoshi MatsuiTetsuji YamaguchiIsaya HashimotoKazuto ShibuyaSyozo HojoIsaku YoshiokaTomoyuki OkumuraTakuya NagataKazuhiro Tsukada
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 326-333

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Abstract

症例は56歳の女性で,2013年7月労作時息切れを主訴に紹介され内科に緊急入院となった.腹部CTにて巨脾を認め,血液生化学検査にて異型リンパ球増多を認めた.骨髄生検塗抹標本と細胞表面マーカー解析によりhairy cell leukemia Japanese variant(HCLjv)が疑われた.入院3週間で脾臓が2,125 cm3から3,207 cm3と急速に増大し,汎血球減少の進行を認めたため手術目的に当科紹介となった.症状緩和および確定診断目的に開腹脾摘術を施行した.出血コントロールと脾臓容積減少目的に術直前にバルーンカテーテルによる脾動脈塞栓を行い,出血量30 ml,縮小した脾臓は2,657 gであった.巨脾に対してバルーンカテーテルによる脾動脈塞栓が出血コントロールに有用である.

はじめに

リンパ系悪性疾患に対する脾摘術は脾腫による血球減少や多臓器への圧迫が見られる場合,または病理学的な確定診断を目的として施行され,その予後に関しては病型によるとされている1)~3).今回,腹部圧迫症状が顕著で急速に進行する巨脾を呈したhairy cell leukemia Japanese variant(以下,HCLjvと略記)疑い症例に対して,確定診断および症状緩和目的で脾摘術が有効であった貴重な1例を経験した.巨大脾腫に対して,術直前の脾動脈バルーン塞栓を行うことで 安全に脾摘術を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.

症例

患者:56歳,女性

主訴:労作時息切れ・腹部圧迫感

既往歴:40歳 子宮筋腫,左下肢静脈瘤,51歳 高血圧症,53歳 発作性心房細動

現病歴:2013年7月,労作時息切れを主訴に当院紹介となり頻脈誘発性心筋症による心不全と診断され内科に緊急入院した.腹部CTにて巨大脾腫を指摘され,血液生化学検査にて異型リンパ球の増多を認め,骨髄生検よりHCLjvが疑われた.経過中に汎血球減少の進行と腹部圧迫症状の増悪を認め,診断加療目的に当科紹介となった.

入院時現症:身長149 cm,体重51 kg(−10 kg/年),盗汗著明.眼瞼結膜に貧血あり,眼球結膜に黄疸なし.表在リンパ節触知せず.心雑音・肺雑音聴取せず.左季肋下から正中にかけて巨大な腫瘤を触知した.四肢に浮腫なし.

血液生化学検査所見:Table 1に示す.外科転科時,汎血球減少と異型リンパ球の上昇,また可溶性IL-2Rの上昇を認めていた.

Table 1  Laboratory data on admission
Hematology Chemistry
 WBC 2,810​/μl  TP 6.1​ g/dl
 RBC 312×104​/μl  Alb 3.5​ g/dl
 Hb 7.5​ g/dl  AMY 54​ IU/l
 Ht 23.4​%  CPK 20​ IU/l
 MCV 75.0​ fl  T-Bil 0.5​ mg/dl
 MCH 24.0​ pg  D-Bil 0.2​ mg/dl
 MCHC 32.1​ %  GOT 23​ IU/l
 PLT 10.7×104​/μl  GPT 9​ IU/l
 Aty-Lym 46​%  LDH 266​ IU/l
Coagulation  γGTP 14​ IU/l
 PT-INR 1.00​  UA 4.8​ mg/dl
 aPTT 43.0​ s  BUN 14​ mg/dl
 Fib 459​ mg/ml (200–400 mg/ml)  CRE 0.5​ mg/dl
 D-Dimer 7.3​ μg/ml (0–1.0 μg/ml)  CRP 5.35​ mg/dl
Tumor marker  Na 136​ mEq/l
 CEA 1.4​ ng/ml  K 4.1​ mEq/l
 CA19-9 2​ IU/ml  Cl 101​ mEq/l
 AFP 1.2​ ng/ml (0–6.2 ng/ml)  Ca 8.6​ mg/dl
 rIL-2R 3,192​ U/ml (122–496 U/ml)  BNP 103.1​ pg/ml​ (0–18.4​ pg/ml)

骨髄塗抹標本所見:May-Gimsa染色にてM/E比は3.23であった.成熟した小型リンパ球で異型に乏しく,明らかな濾胞形成や形質細胞分化を認めなかった.また,細胞の絨毛を認めなかった(Fig. 1).免疫組織化学検査ではCD20>CD30,CD5−,CD10−,Bcl2−,CD23−,CD43 aberrant expressionを示し成熟した小型B細胞腫瘍の骨髄浸潤を認めた.

Fig. 1 

Bone marrow smear shows nodular proliferation of large atypical lymphocytes. However it does not show unevenly distributed microvilli on the margin of the cytoplasm (May-Giemsa stain, original magnification ×1,000).

骨髄血のフローサイトメトリー所見:細胞表面マーカー解析ではCD5−,CD10−,CD19+,CD20+,CD11c‍+,CD5−などを示した一方でCD25−,CD103−,SmIg−なども示した.HCLjvが示唆されるも典型的でなく確定診断は困難であった.

FDG-PET/CT所見:脾臓にSUV5.32,大動脈周囲リンパ節にSUV3.39とFDGの集積を認め,さらに脊椎大腿骨の赤色骨髄分布に一致してSUV3.52~4.78とFDGの集積を認めたことから骨髄転移が示唆された(Fig. 2).

Fig. 2 

Sagittal image of FDG-PET/CT shows diffuse FDG high uptake in the spleen and the spinal bone marrow.

腹部造影CT所見:初回内科入院時と外科転科後術前の腹部CTの比較を示す(Fig. 3).画像解析ソフトであるボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENTTMを用い測定した脾臓volumetoryにおいて,初回2,125 cm3であった巨脾は術前には3,207 cm3となり3週間の経過で+1,082 cm3(+50.9%)もの急激な増大を示した.

Fig. 3 

CT shows a remarkably swollen spleen from 2,125 ml to 3,207 ml in volumetry. A and B are axial and coronal images on admission. C and D are images 3 weeks after admission.

以上より,薬物治療も考慮されたが,急激な症状増悪を来したHCLjv疑いの巨大脾腫に対して症状緩和の優先および確定診断目的に開腹脾臓摘出術を選択した.

手術所見:多軸血管撮影装置「Artis zeegoTM(SIEMENS社)」を導入したhybrid手術室にて,術開始直前に出血コントロールと脾臓容積減少を目的として,脾動脈内にバルーンカテーテルを留置すべく血管造影検査を行った.解剖学的に腹腔動脈幹は脾動脈と左胃動脈のみであり,上腸間膜動脈より総肝動脈が分岐するhepato-mesenteric typeであった.動脈の分岐を確認後,脾腫および拡張した脾動脈を確認しバルーン拡張による動脈塞栓術を試行し造影にて大幅な血流低下を確認した(Fig. 4).上下腹部正中切開にて開腹脾摘術を施行した.巨脾にて脾門部処置が困難であったが,周囲間膜処理後に体外脱転が可能となり脾門部処理操作が可能となった(Fig. 5).脾動脈塞栓にて縮小した脾臓の大きさは20×25×8 cmで脾重量2,657 g,出血量は30 ml,手術時間146分であった.

Fig. 4 

This arteriography demonstrates the splenic artery after balloon occlusion.

Fig. 5 

Intraoperative findings. The spleen was reduced to 20×25×8 cm and 2,657 g due to balloon occlusion of the splenic artery. Red tape: main splenic artery, Blue tape: a branch of the lower pole.

病理組織学的検査所見:摘出した脾臓は組織学的に,白脾髄が萎縮し赤脾髄には異型に乏しい小型リンパ球がびまん性に浸潤していた.やや荒い核クロマチンを有する小型各細胞が主体であり形質細胞への分化は明らかでなく,免疫組織学的にCD20+,CD79a−>+,bcl2+,bcl6−,CD3−,CD5−,CD10,CD23−,cyclinD1−であった.細胞表面マーカー解析にてFMC7 83.1%,CD11c 88.5%,CD10 0.2%,CD25 0.6%,CD103 0.9%などを示したことからHCLjvと最終診断した(Fig. 6).

Fig. 6 

Representative figures of flow cytometry for the excised spleen are shown. The percentage of FMC7 was 83.1%, CD11c 88.5%, CD10 0.2%, CD25 0.6% and CD103 0.9%. Thus these patterns revealed that this patient was more likely to be HCLjv than HCL or HCLv.

本症例は術後一過性の肝機能障害を認めたものの自然軽快し,巨脾摘出後に多いとされる門脈塞栓症4)5)などの重篤な合併症は認めず第19病日に退院した.晩期障害なく血液学的に寛解を維持していることから化学療法などの追加治療は行わず,現在術後19か月無増悪生存中である.

考察

HCLは慢性リンパ性白血病の一種に分類され,発病年齢は50歳代以降が主で,男性が女性より3~4倍多い.臨床経過は緩慢であり主症状は全身リンパ節の腫大を伴わない脾腫でありしばしば汎血球減少を伴う.欧米ではリンパ性白血病の約2%を占めるが,本邦ではさらにまれとされている6).その中でも日本人HCLは欧米における典型的HCL(HCL classical;以下,HCLcと略記)や変異型HCL(HCL variant;以下,HCLvと略記)と異なった特徴を有しており,特有の亜型のHCLjvとして区別される7)8)

本疾患は非常にまれであり治療に関する症例報告は少ない.医学中央雑誌において,1977~2014年,検索キーワード「hairy cell leukemia」,「Japanese variant」にて検索したところ本邦報告例は自験例を含めて6例であり(会議録を除く),年齢中央値は72歳,男女比は5:1であった(Table 29)~13).白血球増多と脾腫を認めたものの病状が軽度であるために経過観察された1例を除いて全例に何らかの治療介入がなされていた.自験例以外の全ての症例でcladribine,interferon-α,rituximabなどの薬物治療が行われていた.牧田ら11)は10 Gyの脾照射,脾摘後にrituximab+melphalanを行い集学的に治療し奏効したと報告している.一方で脾摘術のみで病勢がコントロールされ経過観察されている報告は自験例以外にはみられなかった.

Table 2  Reported cases of hairy cell leukemia Japanese variant in Japanese literature
No. Author Year Age/
Sex
Symptom Splenomegaly Splenectomy Drug treatment Radiation Outcome
1 Miyazaki9) 2004 67/M Abdominal distention Yes No interferon-α, cladribine No 8m CR
2 Imamura10) 2004 76/M Leukocytosis Yes (1,950 g) Yes Rituximab No 18m CR
3 Makita11) 2005 60/M Thrombocytopenia Yes No Rituximab, melphalan 10 Gy 6m CR
4 Nakamura12) 2010 78/M Leukocytosis Yes No No No 5m observation
5 Yuda13) 2011 83/M Anemia, leukocytosis Yes (17×11 cm) No Cladribine No 24m CR
6 Our case 56/F Pancytopenia, abdominal distention Yes (3,207 cm3) Yes No No 19m CR

CR: complete response

HCLjvと診断する際に鑑別すべき疾患としてはHCLcやHCLv,脾辺縁帯リンパ腫(splenic marginal zone lymphoma;以下,SMZLと略記)がある.それぞれの特徴をTable 3に示す14)15).自験例においてHCLcを否定する理由として,脾腫が増悪する前の内科入院時には白血球増多を示していた点や,骨髄生検において骨髄線維化を認めなかった点がまずあげられる.また,骨髄血の細胞表面マーカー解析上CD25−,CD103−などを示したことがHCLcに加えHCLvとも相違があった.骨髄塗抹標本における細胞形態からSMZLは否定されたものの,異型リンパ球表面に絨毛を認めなかったことや細胞表面マーカー解析にてSmIg発現が陰性であったことがHCLjvの特徴と異なっていたため,確定診断を得るのに難渋した.摘出した脾臓から免疫組織学的評価と細胞表面マーカー解析を行うことで総合的にHCLjvと最終診断できた.

Table 3  Comparison of clinical and laboratory characteristics of classical hairy cell leukemia (HCLc), hairy cell leukemia variant (HCLv), hairy cell leukemia Japanese variant (HCLjv), and splenic marginal zone lymphoma (SMZL)
Characteristics HCLc HCLv HCLjv SMZL
WBC count Low High High High
Cytoplasmic projection Uneven microvilli Uneven microvilli Uneven microvilli Usually polar
Nuclei Oval, indented, biobed Round, occasionally biobed Round Round
Nucreoli Indistinct Prominent (60%) Inconspicuous Small (50% dinstinct)
Histology of bone marrow involvement Intersinusoidal Usually interstitial, subtle intersinusoidal Usually intersinusoidal Predominantly intersinusoidal
Histology of spleen Leukemic infiltration of red pulp Leukemic infiltration of red pulp Red pulp infiltration White pulp infiltration
TRAP activity Positive Negative Absent to week Weak
Immunophenotype of leukemic cells CD11c+, CD25+, CD103+, CD123+, CD10−/+ CD11c+/−, CD25−, CD103+/−, CD123−, CD10+/− CD11c+, CD25−, CD10− CD11c+, CD25+/−, CD103−
Surface Ig SIgM SIgG SIgG SIgM
Response to IFN Good Poor Poor Poor
Response to PNA High CR rate PR −50% Low CR rate Low CR rate

TRAP: tartrate-resistant acid phosphatase; IFN: interferon; PNA: purine nucleoside analog; CR: complete response

HCLに対する治療に関して,一般的には診断された時点で症状が乏しい場合は経過観察され,有症状の場合に治療介入がなされる.Robak15)16)は有症状のHCLcやHCLvに対する治療戦略に対し,cladribine,pentstatinなどのプリン核酸製剤を使用し,反応に乏しい場合はrituximabやinterferon-αなどを使用するよう推奨している.ただし,高度な血球減少や増大する脾腫を認める場合は脾摘を優先することも考慮するよう述べている.一方でNaikら17)は有症状のHCLcに対する治療に際し,薬物療法で効果のなかった症例に対して脾摘術を考慮することを述べており,一般的には薬物治療に難渋する症例で手術療法が選択されると述べている.HCLjvに対する治療戦略については報告例が少なく一定のコンセンサスを認めていないが,自験例では急激に進行する汎血球減少と脾腫のさらなる増大にて腹部圧迫症状の増悪を認めており,脾摘は薬物療法より優先しうる治療選択肢であったと考えられた.また,Table 3に示す如くRobak15)によればHCLjvやHCLvはHCLcに比べてプリン核酸製剤やinterferon-αなどの薬物治療に対する効果が乏しいとされる.このことからも脾摘がより有効であった可能性が考えられ,結果的に脾摘のみで現在血液学的にも寛解を維持している.

近年,消化器外科領域において腹腔鏡手術が進歩し,腹腔鏡下の摘脾に関しても低侵襲で安全に施行可能となりつつある.関本ら18)は1,000 gを超えない症例では無理なく腹腔鏡下脾臓摘出術を行えるが,1,000 gを超える症例ではhand-assistedを用いて操作性と視野を確保すべきと述べている.我々の施設ではこれまで腹腔鏡下脾臓摘出術において出血リスク軽減,脾臓容積減少目的に多軸血管撮影装 Artis zeegoTM(SIEMENS社)を導入したhybrid手術室にて,術開始直前に脾動脈内バルーンカテーテルによる動脈閉塞の手技を用いてきた.自験例では術直前の腹部CT上,脾臓volumetoryで3,207 cm3であった巨脾に対して開腹による脾摘術を施行した.脾動脈閉塞を行うことで脾容積が17.1%減少し,開腹術においても操作性の向上と視野確保に寄与し安全な手術を施行しえたと考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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