The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Pancreatic Head Cancer with Adult Reversed Rotation Treated by Pancreaticoduodenectomy
Shinji TsutsumiYoshikazu ToyokiTakuji KagiyaToshiro KimuraNorihisa KimuraDaisuke KudoKeinosuke IshidoKenichi Hakamada
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 317-325

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Abstract

症例は54歳の男性で,黄疸,倦怠感,発熱を主訴に前医を受診した.膵頭部領域の腫瘍による閉塞性黄疸が疑われ,前医に入院し経皮経肝的胆道ドレナージを施行後に当院へ転院となった.腹部CTでは遠位胆管の壁肥厚と内腔の狭小化を認め,上腸間膜動脈は上腸間膜静脈の右側を走行していた.以上から,遠位胆管癌,腸回転異常症と診断し膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行した.術中,十二指腸水平脚に相当する部位は上腸間膜動脈の右腹側に位置しTreitz靱帯は認めなかった.また,上腸間膜動脈の背側に横行結腸が,右側に回盲部がそれぞれ位置しており,reversed rotation typeの腸回転異常症であった.病理組織学的検査では胆管および門脈への浸潤を伴う浸潤性膵管癌と診断された.Reversed rotation typeの成人腸回転異常症を伴う膵頭部癌に対してPDを施行した極めてまれな1例を経験したので報告する.

はじめに

腸回転異常症は新生児期から小児期に発症することが多く,成人になって発見されることはまれである1).さらに,腸回転異常症の中でもreversed rotation type(腸管逆回転症)はわずか4~6.7%程度と極めてまれな先天性疾患である2)3)

今回,我々はreversed rotation typeの成人腸回転異常症を伴う膵頭部領域癌に対して膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:54歳,男性

主訴:黄疸,発熱,倦怠感

家族歴:母親が膵癌,姉が乳癌

既往歴:27歳時に十二指腸潰瘍に対して保存的に治療した.38歳より糖尿病に対して内服にて加療中であった.

現病歴:1か月ほど前より黄疸,倦怠感を自覚し発熱もみられたため前医を受診した.膵頭部または遠位胆管の腫瘍による閉塞性黄疸が疑われたが十二指腸潰瘍瘢痕による変形のため内視鏡的胆道ドレナージが困難であり,経皮経肝的胆道ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage;以下,PTBDと略記)が施行され,手術加療目的に当院へ転院となった.

入院時現症:身長179.2 cm,体重76.6 kg,体温36.6°C,血圧120/75 mmHg,脈拍85回/分.腹部は平坦,軟であり,全身に黄疸を認め,右側腹部よりPTBDチューブが挿入されていた.

入院時血液検査所見:Hb 12.2 g/dl,Alb 2.8 g/dl,AST 84 U/l,ALT 75 U/l,ALP 513 U/l,γ-GTP 218 U/l,T-Bil 12.2 mg/dl,D-Bil 9.6 mg/dl,HbA1c 7.5%と貧血,低アルブミン血症,肝胆道系酵素の上昇,黄疸および耐糖能異常を認め,CA19-9 69 U/ml,Span-1 34.2 U/mlと腫瘍マーカーの上昇を認めた.

腹部造影CT所見:遠位胆管に全周性の壁肥厚と内腔の狭小化を認め,上流の胆管の拡張がみられた(Fig. 1A).膵頭部の膵実質の造影効果は比較的良好で均一であり膵腫瘍を疑わせる造影不良域などは確認できなかった(Fig. 1B).上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)は上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)の右側を走行しており(Fig. 1A, C),SMAおよびSMVの右腹側に十二指腸水平脚に相当する部位が,背側に横行結腸が走行していた(Fig. 1D).

Fig. 1 

Abdominal CT: The distal bile duct wall is thickened and enhanced (black arrows), with dilatation of the intrahepatic and extrahepatic bile duct, but the pancreatic head tumor is unclear (A, B). The SMA (white arrows) is located on the right side of the SMV (white arrowheads) (A, C). The third portion of the duodenum (dotted arrows) is located ventral to the SMA (white arrow) and the transverse colon (black arrowheads) dorsal to the SMA (D).

腹部血管3D再構築画像所見:SMAがSMVの右側を走行しており,末梢側でSMVがSMAに巻き付くような形態を呈していた(Fig. 2).

Fig. 2 

3D reconstruction imaging of CT also shows the SMA (white arrows) located on the right side of the SMV (white arrowheads), and the SMV turning around the SMA (black arrow).

以上から,遠位胆管癌(cT2,cN0,cM0,cStage IB),腸回転異常症と診断し,PDを施行した.

手術所見:十二指腸周囲には大網および横行結腸が高度に癒着していた(Fig. 3).これらを剥離すると十二指腸水平脚に相当する部位はSMAの右腹側を下降しておりTreitz靱帯は存在しなかった.また,横行結腸はSMAの背側を,回盲部はSMAの右側にそれぞれ位置しており,reversed rotation typeの腸回転異常症であった(Fig. 4).膵頭部に硬質な腫瘍を触知し,遠位胆管癌ではなく膵頭部癌の胆管浸潤が疑われた.十二指腸水平脚に相当する部位がSMAの右腹側に位置していたため,十二指腸をSMAの背側を通して引き抜く操作が不要であり,またSMAがSMVの右側に位置していたため,SMA周囲神経叢の郭清においてはSMVを左側に牽引せずともSMAを直視下にとらえることが可能であった.また,SMVがSMAの左側に位置しているため,本来のSMV右縁より左側でSMV背側に位置する部位である鉤状突起は存在しなかった(そのため,ここではSMA腹側の膵頭部下縁より尾側でSMA右側に接する部位を鉤状突起部とした)(Fig. 5).一方で,十二指腸とSMAが近接していたため血管処理に関しては,細心の注意を払いSMAおよび小腸への分枝を損傷しないように心懸けた.一部で門脈への腫瘍の浸潤を認めたため,門脈を楔状に合併切除した.消化管再建は空腸を結腸前で挙上し,Child変法で行い,Braun吻合を付加した.

Fig. 3 

Intraoperative findings 1: The greater omentum and transverse colon are tightly attached to the duodenum (gray zone). The omental bursa cavity is shown as the red zone, and the blue zone indicates the holdfast range of the greater omentum.

Fig. 4 

Intraoperative findings 2: A is a photograph, and B is a diagram of A. There was no ligament of Treitz. The third portion of the duodenum (black arrows) is located at the anterior right side of the SMA. On the other hand, the transverse colon (black arrowheads) was posterior to the SMA. Ph: pancreatic head, St: stomach.

Fig. 5 

Diagram of the pancreatic head: SMA is located on the right side of the SMV. The third portion of the duodenum is located ventral to the SMA. IPD and J1 each branched from the SMA separately. The pancreatic head tumor invaded to the PV. IPD: inferior pancreatico­duodenal artery, J1: First jejunal artery, UP: uncinate process, GCT: gastrocolic trunk, PV: portal vein.

手術時間は502分であり,出血量は1,810 gであった.

切除標本所見:膵頭部に境界不明瞭な腫瘍を認め,膵実質から胆管および門脈まで浸潤性発育を示していた(Fig. 6A, B).

Fig. 6 

Macroscopic findings and pathological findings of the resected specimen: The tumor, which had an indistinct border, was located in the pancreatic head (area surrounded with red lines), and spread to the bile duct (white arrowheads) and portal vein (white arrow) (A, B). Microscopically, well- to moderately-differentiated adenocarcinoma grew mainly in the pancreatic head parenchyma and spread to the bile duct (C) (HE, ×100). In the bile duct mucosa, normal cells with inflammatory atypia (black arrowheads) were interposed between the neoplastic cells (D) (HE, ×100).

病理組織学的検査所見:高~中分化型管状腺癌が膵実質を中心に発育し胆管および門脈へ浸潤していた.腫瘍の主座が膵実質にあること,また胆管粘膜上皮において腫瘍性上皮間に非腫瘍性上皮が介在している像が認められることから,胆管癌の膵浸潤ではなく浸潤性膵管癌の胆管浸潤と診断された(Fig. 6C, D).Ph,浸潤型,TS2,pT4,CH(+),DU(–),S(–),RP(+),PV(+),A(–),PL(–),OO(–),INFγ,intermediate type,tub2,ly3,v2,ne3,pN2,pStage IVB.

術後経過:術後にGrade B(ISGPF分類4))の膵液瘻を認めたが,抗生剤投与とドレナージにて軽快し,術後50日目に退院となった.

考察

腸回転異常は,胎生期に生理的臍帯ヘルニアの状態の中腸が上腸間膜動脈を中心として反時計方向に270°回転し腹腔内に還納・固定される過程に生じる異常である1)5)

Wangら6)は腸回転異常を,nonrotation type(回転が90°で停止したもの),malrotation type(回転が180°で停止したもの),reversed rotation type(逆回転したもの),paraduodenal herniaの4型に分類している.発生頻度はnonrotation typeとmalrotation typeが多いとされており,加藤ら2)はnonrotation typeが53.3%,malrotation typeが31.1%,paraduodenal herniaが8.9%,reversed rotation typeが6.7%と報告している.また,Aldridge3)によればreversed rotation typeは全腸回転異常症のわずか4%程度と報告されておりまれである.Amir-Jahed7)は腸管逆回転症を結腸と上腸間膜動脈との位置関係によりprearterial typeとretroarterial typeとに分類し,さらにこれを盲腸の位置によりright-sided cecumとleft-sided cecumとに分けて4型に分類している.

自験例では十二指腸がSMAの前方に,横行結腸がSMAの後方に位置し,盲腸が右側に存在していたことよりAmir-Jahed分類のretroarterial right-sided cecum typeに相当すると判断した.

腸回転異常症は約80%が新生児期に発症するとされているが1),成人の腸回転異常症では症状の発現頻度が低く,自験例のように他疾患の検査中や術中に偶然発見されることが多い.一方で,腸管逆回転症に限ると約75%が成人で発症するとされており対照的である8).

その発生機序としてDaviesら8)は,①SMAによる横行結腸の圧迫,②右側結腸あるいは中腸全体の軸捻転,③十二指腸空腸移行部の閉塞をあげている.そのため本症の臨床症状は腸閉塞に基づくものであり,ほとんどの症例が反復する胆汁性嘔吐,腹痛を訴えている9)10).しかし,索状物の圧迫のみでは腸閉塞を発症することはまれであり,軸捻転や腸管のねじれ,あるいはその反復による局所の浮腫,癒着が加わることで発症すると考えられている10).これらの理由から小児期には腸閉塞までは至りにくく,成人になって発症する症例が多いのかもしれない.実際,経過は比較的長いものが多く,小児期に周期性嘔吐症や心身症と診断されていた症例も少なくないとされている9)10)

腸回転異常症には,さまざまな先天奇形の合併が報告されているが,動門脈系については肝腸管膜動脈幹や十二指腸前門脈が報告されている11)12).特に十二指腸前門脈の合併奇形として腸回転異常症は60~80%といわれている11).これらは腸回転異常が門脈形成や腹側内臓動脈の形成と同じ胎生期に起こるためと考えられている.また,胆道系の合併奇形としては左側胆囊,重複胆囊管を伴う二葉胆囊,総胆管囊腫などの報告が散見される程度であるが11)13)14),これらも胎生期の発生異常のため腸回転異常を合併しやすいと考えられる.実際,Peoplesら15)は多脾症の57%に消化管位置異常(腸回転異常も含む)を,20%に胆囊・胆道系異常を合併すると報告している.

医学中央雑誌(1977年から2014年11月)で(「腸回転異常」または「腸管逆回転」)×「膵頭十二指腸切除」をキーワードとし会議録を除き,またPubMed(1950年から2014年11月まで)で(「malrotation」または「reversed rotation」)×「pancreaticoduodenectomy」をキーワードとして,それぞれ検索したところ腸回転異常を伴う症例にPDを施行した報告はわずか8例であり(Table 112)16)~21),reversed rotation typeに対するPDの報告は1例のみであった16)

Table 1  Reported cases of pancreaticoduodenectomy in adult intestinal malrotation in the literature
Case Author
(Year)
Age/Gender Type Reconstruction Primary disease Addition of Ladd’s operation or intestinal fixation Preoperative diagnosis of malrotation
1 Jagannath16)
(1995)
59/M reversed rotation Whipple pancreatic cancer not described No
2 Sato17)
(1997)
44/F nonrotation not described duodenal adenoma not described Yes
3 Mateo18)
(2005)
71/M probably non rotation* Traverso pancreatitis done Yes
4 Mateo18)
(2005)
43/M probably non rotation* not described ampullary cancer not done No
5 Hayashi12)
(2010)
61/M nonrotation not described bile duct cancer not described No
6 Plackett19)
(2011)
69/F nonrotation Child pancreatic cancer not done Yes
7 Owada20)
(2012)
54/M nonrotation Child pancreatic cancer done Yes
8 Kawahara21)
(2013)
63/M incomplete fixation not described ampullary cancer not described Yes
9 Our case 54/M reversed rotation Child pancreatic cancer not done Yes

* The details are not described, but it is guessed by the contents of the article that type is non rotation.

PDにおけるSMA周囲の手術操作では,不用意な血管処理が小腸などの血行障害につながる恐れがあり,腸回転異常症を合併した症例においては膵頭部付近でSMAが空腸に近接しておりSMAより短い空腸枝が直接流入しているため,鉤状突起部の剥離操作やSMA周囲の郭清操作において特に気をつけるべきとされている16)19).自験例においても,術中,十分な剥離操作により解剖学的位置関係を明らかにし,また血管処理に先立ってtest clampを施行してSMAの拍動や小腸の色調を確認するなど,慎重な手術操作を心懸けた.一方で過剰な剥離操作は腫瘍を露出させる恐れがあるため,腫瘍近傍での剥離は最小限に留めた.

CTなどの画像診断技術の発達から,術前に詳細な血管走行や分岐状態,破格の有無などの情報を得ることが可能であり,他疾患に合併した腸回転異常症も術前にある程度は予測可能である.腸回転異常症のCT所見としてはSMVがSMAの左側を走行するSMV rotation sign22)や,中腸軸捻転症を合併する症例では軟部組織がSMA周囲に渦巻き状に取り囲むwhirl-like pattern23)などがある.一方で詳細な病型診断は困難であり,自験例のように開腹してreversed rotation typeであることが明らかとなることが多い24)

腸回転異常症に対しては,十二指腸と上行結腸をつなぐLadd靱帯を切離し,小腸を腹腔内右側に,結腸を左側に配置して腸管をnon rotationの位置にするLadd手術25)が基本であり,Ladd手術に準じた腸管固定術はreversed rotation typeへも応用されている9).腸回転異常症を合併した膵頭十二指腸切除施行例における再建方法については明記されていないものが多いが,Ladd手術もしくはそれに準じて腸管をnon rotationの位置にする腸管固定術を付加した報告では良好な経過を得ている17)20).一方で,偶発的に発見された腸回転異常症ではLadd手術や腸管固定術は必要としないとする報告もみられており26)27),一定の見解が得られていないのが現状である.自験例ではSMAによる横行結腸の圧迫もみられず,すでに回盲部を含めた右側結腸が後腹膜に固定されていたため腸管固定術は加えず,結腸前で空腸を挙上して,Child変法にて再建した.その結果,術後にGrade B(ISGPS分類28))の胃内容排出遅延を認めたものの通過障害はみられなかった.

Reversed rotation typeの成人腸回転異常症を伴う膵頭部癌に対してPDを施行した極めてまれな1例を経験したので報告した.術前に腸回転異常症の存在を疑った場合には,術中に血管走行,腸管の位置関係を十分に明らかにしたうえで,温存腸管の血流を確認するなど慎重な手術操作を心がけることが重要であると考えられる.一方でPDが必要な悪性腫瘍においては切除が根治を望める唯一の治療法であることが多いため,剥離操作による腫瘍露出や散布を防ぐといった腫瘍外科の原則も忘れてはならない.

利益相反:なし

文献
 

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