The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Ampullary Adenocarcinoma Presenting with Acute Pancreatitis
Satoshi TakadaTatsuo NakanoEisuke OjimaYoshio Michiwa
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 276-284

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Abstract

症例は59歳の男性で,急性膵炎の原因精査にて十二指腸乳頭部腫瘍を認めた.内視鏡下生検では腺腫の診断であった.腺腫内癌の合併頻度が高いこと,現在の画像診断の精度では良悪の鑑別や進展度の評価が困難であることから,膵炎の保存的加療後に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査では粘膜内に腺癌成分を認め,共通管および膵管内腔を占居するように腫瘍が増殖し膵液流出障害を来したことが推察された.最終診断は早期乳頭部癌,非露出腫瘤型,15×15 mm,H0,pPanc0,pDu0,P0,pN0,M(–),St(+),pT1(m),Stage Iであった.十二指腸乳頭部腫瘍は黄疸などで発症することが多く,膵炎を伴う症例はまれである.急性膵炎を合併した十二指腸乳頭部腫瘍の本邦報告例をまとめ,本症例とあわせて考察を行った.

はじめに

十二指腸乳頭部腫瘍は黄疸などで発症することが多く,膵炎を伴う症例はまれである1).今回,我々は急性膵炎にて発症した十二指腸乳頭部腺腫内癌を経験したが,術前に良悪の鑑別や進展度の評価が困難であり,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.急性膵炎を合併した十二指腸乳頭部腫瘍の本邦報告例をまとめ,本症例とあわせて考察を行った.

症例

症例:59歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:高血圧

家族歴:特記事項なし.

現病歴:来院約2週間前より心窩部痛を自覚し近医にて対症療法となっていた.症状増悪し当院紹介受診となった.

入院時身体所見:身長169 cm,体重61 kg,BMI 21.4.胸部 両側呼吸音清,心音異常なし.腹部 軽度膨満,軟,心窩部圧痛あり,腹膜刺激兆候なし.

血液検査所見:WBC 14,800/μl,Plt 30×104/μl,CRP 0.44 mg/dl,BUN 13 mg/dl,Cre 1.2 mg/dl,LDH 219/l,Amy 1,552 U/l,T-bil 0.6 mg/dl,Ca 8.6 mg/dl.腫瘍マーカー CEA 1.9 ng/ml,CA19-9 15.7 U/ml.血液ガス分析 pH 7.32,pCO2 42.3 mmHg,pO2 95.7 mmHg,BE –4.6 mmol/l.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸乳頭部に退色調の粘膜に覆われた20 mm大の腫瘤性病変を認めた(Fig. 1).腫瘤部を2度生検したが,いずれも腺腫の診断であった.

Fig. 1 

Esophagogastroduodenoscopy shows an enlarged papilla of Vater.

腹部造影CT所見:膵臓は軽度腫大し,周囲に液体貯留あり.膵体部に小範囲の造影不良域あり.十二指腸乳頭部に約15 mmの著明な造影効果を伴う腫瘤性病変あり.総胆管拡張あり.胆囊は腫大し,胆石を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

a: Abdominal CT scan shows fluid collecting around the edematous pancreas (white arrow). Gallstones are detected (black arrow). b: An enhanced tumor is detected at the papilla of Vater (arrowhead).

腹部造影MRI所見:Vater乳頭部に15 mm大の境界明瞭・表面平滑な腫瘍あり.T1WI・T2WIともに軽度低信号であり,造影効果は均一であった.MRCPで主膵管は膵頭部領域に5 mm程度の拡張を認め,総胆管は11 mmと拡張を認めた.副膵管は描出されなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

MRCP shows distention of the common bile duct and limited dilatation of the main pancreatic duct at the pancreatic head. Accessory duct of Santorini was not detected.

腹部超音波検査所見:十二指腸は観察困難であった.肝臓に明らかな腫瘤性病変を認めなかった.

腹部血管造影検査所見:前上膵十二指腸動脈の十二指腸枝に腫瘍膿染を認めた.動脈の途絶や不整像なし.肝臓に明らかな腫瘤性病変を認めなかった.

急性膵炎の重症度判定は,予後因子1点,造影CT Grade 1であり軽症と判断し禁食・補液・メシル酸ガベキサート投与にて保存加療を行った.腫瘤成分の生検では腺腫の診断であったが,腺腫内癌の合併頻度が高いこと,現在の画像診断の精度では良悪の鑑別や進展度の評価が困難であることから,膵炎の保存的加療後に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が妥当と判断した.入院20日目の腹部造影CT所見では膵周囲の液体貯留は消失しており,膵頭部前面の脂肪織濃度上昇を認めたものの膿瘍形成などは認めなかったことから,膵炎の手術への影響は低いと判断した(Fig. 4).

Fig. 4 

Abdominal CT scan after 20 days from admission shows contrast enhancement of the mesentery on the anterior surface of the pancreas (white arrows).

手術所見:入院32日目に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.非腫瘍部の膵周囲は膵炎の影響で鹸化しており,特に前面は横行結腸間膜が剥離できず合併切除する形となった.リンパ節郭清範囲はD1,再建はChild変法で行った.切除標本では乳頭部は腫大していたが腫瘍の露出の判断は肉眼的には困難であった(Fig. 5).

Fig. 5 

Resected specimen shows a non-exposed protruded type tumor at the papilla of Vater.

術後Grade Bの膵液漏を認めたがドレーン管理にて改善を認め,術後第74病日に退院となった.

病理組織学的検査所見:乳頭部の先端には腺腫成分の露出を認めた(Fig. 6).共通管・膵管内腔を占拠するように腫瘍成分の増殖を認め,管状絨毛腺腫の成分と乳頭管状腺癌成分が不規則に混在しており,腺腫から癌化したものと考えられた.腫瘍は粘膜内にとどまり,膵管上皮との明瞭なabrupt transitionを認めた(Fig. 7).非腫瘍部の膵組織には炎症細胞浸潤はごく軽度であった.

Fig. 6 

a: Surface of the papilla of Vater is covered with adenoma tissue (HE stain ×4). b: Transition between adenoma and normal duodenal mucosa (black arrow) (HE stain ×20). c: Carcinoma tissue appears in the common channel (HE stain ×20).

Fig. 7 

a: Tumor occupying the common channel (*) and the main pancreatic duct (**). Invasion to the Oddi and pancreas (※) could not be detected (HE stain ×4). b: Papillotubular adenocarcinoma is mixed in the adenoma tissue (HE stain ×20). c: Abrupt transition (white arrow) is detected in the pancreatic duct mucosa (HE stain ×20).

最終診断: 早期乳頭部癌,非露出腫瘤型,15×15 mm,H0,pPanc0,pDu0,P0,pN0,M(–),St(+),pT1(m),Stage I.

考察

本症例は,膵炎を契機に発見された十二指腸乳頭部腫瘍であり,生検では腺腫の診断であったが,手術後の病理組織学的検査において腺腫内癌と診断された.

十二指腸乳頭部癌の初発症状としては,閉塞性黄疸が多く,急性膵炎を初発症状とする症例はまれである.本邦での急性膵炎全国調査では,重症・中等症急性膵炎のうち十二指腸乳頭部癌が原因であったのは2,490例中3例(0.1%)と報告されている1)

十二指腸乳頭部腫瘍の外科治療時に問題となるのは,良悪性の鑑別・進展度の評価・縮小手術の適応などである.腺腫内癌の鑑別に関して,長谷川ら2)の報告では腫瘍径の違いによる鑑別は困難である.初回生検の陽性例は80~88%とされるが3)4),本症例のように癌成分が露出していない場合には鑑別は困難である.また,悪性の診断を得たとしても深達度の評価は難しく,EUSやintraductal ultrasonography(以下,IDUSと略記)を用いたとしてもOddi筋の正確な描出や浸潤の判定はいまだ十分とはいえない5).腺腫内癌(Tis)ではリンパ節転移は認めず,予後も良好であるが6),Oddi筋への浸潤を認める癌はリンパ節転移頻度が9~42%にも及ぶといわれている7)~9).このような背景から,これまで切除術式は膵頭十二指腸切除術を推奨する意見が多かったが,手術侵襲の大きさや術後QOL低下のリスクを考慮すると,全ての症例に適応することは難しい.縮小手術としての乳頭局所切除術は,主に良性腫瘍や高齢者などの高リスク症例に対し行われてきたが,近年は内視鏡下に行われることもある.腺腫と診断されれば診断と治療を兼ねた内視鏡治療を選択する症例も増えているが,遺残腺腫の癌化や腺腫内癌の合併のリスクもありその適応についてはまだコンセンサスは得られていない.

急性膵炎合併の十二指腸乳頭部腫瘍の本邦報告例を医中誌Web(キーワード「十二指腸乳頭部癌もしくは腺腫」+「急性膵炎」,1977~2014年,会議録は除く)で検索を行ったところ17例を認めた10)~26).本症例を含めTable 1にその内訳を示す.男女比は11:7,平均年齢61歳,膵炎の重症割合はおよそ3割であった.病理組織学的診断は腺腫3例,腺癌12例(1例はde novo),腺扁平上皮癌1例,カルチノイド1例,gangliocytic paraganglioma 1例であった.平均最大腫瘍径は記載のあるものに限ると腺腫30 mm,腺癌15.8 mmであった.治療内容はPD/PPPDを施行されたのは13例,内視鏡的乳頭切除2例,開腹乳頭切除1例であった.深達度は腺癌12例のうち膵浸潤3例,m癌6例であった.副膵管の開存に関しては,坂部ら23)の報告では病理組織学的に確認できなかったと記載があるものの,その他の報告では言及されていなかった.

Table 1  Reported cases of ampullary tumor presenting with acute pancreatitis in Japan
Case Author/
Year
Age/Sex Severity of pancreatitis Pathology Gross morphology* Size
(mm)
Invasion depth* Lymphnode metastasis Accesory pancreatic duct Treatment Wating time for surgery Postoperative complications
1 Shundo10)/
1979
50/
M
mild adenoma N.A. N.A. observation
2 Ohya11)/
1991
65/
F
severe adenosquamous carcinoma N.A. N.A. N.A. + N.A. observation
3 Shimomura12)/
1996
64/
F
mild carcinoid 18 Du N.A. PD 42 days
4 Matsumoto13)/
1997
67/
M
N.A. adenocarcinoma predominant protruded type 17 Panc1b + N.A. PPPD N.A. N.A.
5 Kai14)/
1997
36/
M
mild adenocarcinoma N.A. N.A. N.A. N.A. N.A. EP
6 Kinoshita15)/
2000
65/
M
mild adenocarcinoma exposed protruded type 25 Panca, Du2 N.A. PPPD N.A. N.A.
7 Uematsu16)/
2001
70/
F
mild adenocarcinoma (de novo) non-exposed protruded type 8 m N.A. PPPD 2 months DGE
8 Kurumiya17)/
2002
47/
M
mild adenocarcinoma non-exposed protruded type 25 m N.A. PPPD 24 days
9 Amikura18)/
2002
61/
F
mild adenocarcinoma non-exposed protruded type 5 m N.A. PPPD 13 months
10 Iizuka19)/
2003
72/
M
mild gangliocytic paraganglioma 40 N.A. N.A. N.A. transduodenal papillectomy
11 Igarashi20)/
2004
67/
F
mild adenocarcinoma exposed protruded type 15 m N.A. PD N.A.
12 Ishiwatari21)/
2006
67/
F
severe adenoma 40 N.A. EP
13 Tsuji22)/
2006
67/
M
mild adenocarcinoma non-exposed protruded type 8 m N.A. PPPD 2.5 months N.A.
14 Sakabe23)/
2007
58/
M
severe adenocarcinoma exposed protruded type 15 Du2 + PPPD N.A. DGE
15 Terai24)/
2008
45/
F
severe adenoma 20 N.A. PPPD 70 days N.A.
16 Koduki25)/
2011
80/
M
severe adenocarcinoma exposed protruded type N.A. Panc1 N.A. N.A. PD N.A. N.A.
17 Yamada26)/
2011
70’s/
M
severe adenocarcinoma predominant protruded type 25 Panc2, Du2 N.A. PD 53 days
18 Our case 59/
M
mild adenocarcinoma non-exposed protruded type 15 m PPPD 32 days PF

N.A.: not available, PD: pancreaticoduodenectomy, PPPD: pylorus-preserving pancreaticoduodenectomy, EP: endoscopic papillectomy, DGE: delayed gastric emptying, PF: pancreatic fistula. *: according to the classification of biliary tract carcinoma published from the Japanese Society of Biliary Surgery.

腺癌の腫瘍径が比較的小さいことは,組織が硬いために腫瘍径が小さくても膵液流出障害を来しやすい可能性が示唆された.また,m癌のうち5例は非露出腫瘤型で生検による組織診断が困難であることがうかがえる.山口ら27)によると,腫瘤型の露出部では組織学的異型度がより軽度であると報告されており,本症例でも腺癌成分は露出しておらず,非露出腫瘤型と最終的に判断した.

病理組織学的に,本症例は共通管および膵管内腔に占拠性に腫瘍の増殖をみており,膵炎発症の原因になったと考えられるが,上皮の詳細な発生部位は不明であった.過去の報告でも膵浸潤は3例に認めているがいずれも軽度であり,膵浸潤巣が膵液流出を直接障害したと判断できる症例はなかった.

本症例の副膵管の開存に関してはERCPや標本造影を施行しておらず不明であるが,少なくともMRCPでは描出されておらず,病理組織学的にも副膵管は同定できていない.神澤28)の報告によると,急性膵炎例のERCPにおける副膵管の開存率は17%と通常の43%に比べ有意に低いとされ,本症例でも副膵管が開存していなかった可能性が高い.

治療方針に関しては,EUSやIDUSが施行できておらず,術前の評価が十分に行えたとはいえない.しかし,現在の画像診断の精度では切除術式を厳密に判断することが難しい症例も少なからず存在する.本症例は病理組織学的には膵管内に占居性病変を有しており,軽度であるが膵管内進展を認めることから,局所切除では腫瘍の遺残・出血・膵炎再発などのリスクも高いと予想され,膵頭十二指腸切除術が妥当であったと考えられる.

膵炎発症から膵切除術までの適切な待機期間に関しては過去の報告においても言及されていない.Table 1において,PD/PPPD前の待機期間が記載されている症例は8例あり,24日から13か月と検査内容や治療方針に伴って大きな差が出ていた.本症例は約1か月の待機期間中にCT所見で膵炎の炎症は改善していたものの,鹸化した部分が残存し手術操作はやや困難であったことから,腫瘍の進行度や患者の状態によっては長期間の待機も選択肢となりうるであろう.膵炎の炎症残存と膵液漏との関連性も不明である.Dumitraşcuら29)の報告では,壊死性膵炎を合併した乳頭部癌に対し,necrosectomyと膵頭十二指腸切除を施行し,膵断端は二期的に再建を行った症例もある.壊死を伴うような強い炎症が残存している場合には,膵切除・再建を伴う手術は合併症のリスクが高いと予想されるが,術中所見により二期的再建や縮小手術も考慮されるであろう.

今回,我々は急性膵炎にて発症した十二指腸乳頭部腺腫内癌という比較的まれな症例を経験したが,腫瘍の良悪性の鑑別・進展度の評価・縮小手術の適応や,膵炎後の手術時期の判断などの多くの課題が存在した.術前により適切な術式選択が可能となるように,EUSやIDUSなどをはじめとした詳細な画像検査が必要であるとともに,強い炎症の残存していた場合の有効な手術術式の検討も必要であろう.

本症例報告において多大なご尽力を頂いた,駒井啓吾検査技師長(浅ノ川総合病院)に深謝いたします.

利益相反:なし

文献
 

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