The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Lymph Nodes Surrounding the Inferior Mesenteric Vein
Masaharu IshidaNaoaki SakataMunetoshi KatagiriGunpei YoshimatsuShinobu OhnumaMasaaki KitadaFuyuhiko MotoiTakeshi NaitohMichiaki Unno
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 261-266

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Abstract

目的:左側結腸癌に対する手術において,下腸間膜静脈の処理については一定した見解がなく,下腸間膜静脈とその周囲組織は一般的に郭清の対象として考えられていない.また,下腸間膜静脈周囲のリンパ節の存在自体も明らかにされていない.著者は以前,下腸間膜静脈周囲リンパ節に転移を認めた下行結腸癌の症例を経験した.その経験に基づき,複数の解剖実習体を用いて下腸間膜静脈周囲リンパ節の探索を行い,その存在を明らかにすることを試みた.方法:10例の解剖実習体を用いて下腸間膜静脈周囲リンパ節の探索を行った.下腸間膜静脈の肉眼的観察の後,周囲組織を含めて下腸間膜静脈を採取し,顕微鏡下にリンパ節を検索した.結果:全10例中8例に,下腸間膜静脈周囲リンパ節を認めた.うち4例において脾静脈・上腸間膜静脈合流部からも左結腸動脈交差部からも離れた中間部にリンパ節を認めた.以上より,下腸間膜静脈周囲リンパ節は比較的高頻度に存在するものと考えられた.結語:下腸間膜静脈周囲リンパ節は古くは1900年代の教科書にも記載されているが,今日の大腸癌手術においてはほとんど顧みられていない.しかしながら,左結腸リンパ流の主経路にある左結腸リンパ節が腫瘍の転移などで閉塞した場合は下腸間膜静脈に沿ってリンパ節転移する可能性がある.下腸間膜静脈周囲リンパ節の臨床的な意義を明らかにするためにも今後の臨床データの蓄積が必要である.

はじめに

大腸癌ガイドラインによると,大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は,術前の臨床所見および術中所見によるリンパ節転移の有無と腫瘍の壁深達度から決定し,リンパ節転移が疑われる場合にはD3郭清を行い,リンパ節転移を認めない場合には,壁深達度に応じたリンパ節郭清を行うとされている1)2).下行結腸癌など,左結腸動脈支配領域の結腸癌に対するリンパ節の郭清範囲は,D2郭清は左結腸リンパ節(#232)まで,D3郭清は下腸間膜根リンパ節(#253)までとなっている2)~4)

リンパ節郭清において,動脈系の処理は確立されているが,一方,静脈系である下腸間膜静脈の処理に関する指針はない.既報では,下腸間膜動脈の起始部と同じ高さで下腸間膜静脈を処理する手技3)や,横行結腸間膜切離部で処理する方法4),膵下縁の高さで処理する手技5)などが報告されているが,確立された手技は今のところ存在しない.下腸間膜静脈の処理が統一されていない理由として,下腸間膜静脈に沿ったリンパ経路の存在自体が疑問視されていることが挙げられる.下腸間膜静脈を上行するリンパ経路・リンパ節は,はるか以前から示唆されているが6)~8),その存在や臨床的な意義については,いまだ決着に至っていない9).下腸間膜静脈周囲のリンパ管,リンパ節に関する本邦での研究は,佐藤ら9)の解剖実習体6例の検討で,下腸間膜静脈に伴走するリンパ管は認めなかったという報告がある一方,岸本ら10)は,メチレンブルー染色によるヒト胎児の検討において,下腸間膜静脈周囲リンパ節は50例中27例に確認されたと報告している.著者は以前に,下腸間膜静脈周囲リンパ節に転移したと推測される下行結腸癌の1例を報告しており,以来,下腸間膜静脈に沿ったリンパ流の存在が臨床的にも意義があると考えている11)

今回,我々は解剖検体を用いて下腸間膜静脈に沿ったリンパ節の存在を解明することを目指した.そして,下腸間膜静脈リンパ節が存在した場合,その臨床的意義についても検討することとし,以下の研究を行った.

方法

本研究は東北大学倫理委員会の承認のもと,解剖実習用成人献体10体を用いて行った.下腸間膜静脈周囲組織の剖出と採取は以下の手法で行った.

開腹し,腹腔内に到達,十二指腸空腸曲の左側に下腸間膜静脈を同定した(Fig. 1).そのレベルから膵臓側(脾静脈側)の下腸間膜静脈を,周囲組織をつけるようにして摘出した.下腸間膜静脈を長軸とした場合の短軸方向の周囲組織の切離範囲は,実際の手術における郭清を念頭に置き,必要最低限と思われる範囲で切離した.

Fig. 1 

Macroscopic view of the inferior mesenteric vein. Two representative cases of the inferior mesenteric vein. It runs cranio-caudally around the paraduodenal recess. Cranially, it travels under the transverse mesocolon to the splenic vein, and overlaps with the left colic artery caudally. Half of the cases show a thin ligament along the inferior mesenteric vein (arrowheads).

上記の方法を標準的な採取方法として,全10例中8例(症例I~VIII)に行い,下腸間膜静脈に沿ってen blocに摘出した(Fig. 2A).その8例の下腸間膜静脈に沿った長軸方向の長さの平均は6.3 cm(5~8 cm)であり,短軸方向の長さ(厚み)は2.2 cm(1.5~3 cm)であった(Fig. 2A).残り2例(症例IX,X)は,下腸間膜静脈を分割して採取した.脾静脈合流部から膵下縁までを脾静脈合流部,膵下縁から尾側を中間部として二つに分けて採取した.

Fig. 2 

Specimen. The inferior mesenteric vein was excised en bloc between the splenic vein and the level of the duodenum as the standard sampling method. A: the two representative specimens of the inferior mesenteric vein with its adjacent tissue. B: The specimens were sliced vertically into sections 5–10 mm thick, after fixation, and numbered from the junction to the splenic vein.

摘出した標本は10%ホルマリンにて固定した後,下腸間膜静脈をen blocに採取した8例(症例I~VIII)は,短軸方向に沿って,1 cm弱の間隔で全割し,膵臓側(脾静脈側)から尾側(末梢側)に向けて切片に1から番号をつけたところ,切片の平均数は9.4枚(8~11枚)であった(Fig. 2B).脾静脈合流部(pancreatic part)と中間部(intermediate part)の下腸間膜静脈周囲組織に分けて採取した2例(症例IX,X)は,半割してパラフィンに包埋した.薄切の後,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い,顕微鏡下に観察した.

本稿においては,採取した範囲に認められるリンパ節を,広義の下腸間膜静脈周囲リンパ節と定義した.下腸間膜静脈の脾静脈・上腸間膜静脈の合流部付近では,膵臓のリンパ節を含む可能性が,また尾側では左結腸動脈に沿ったリンパ節を含む可能性があるため,いずれからとも離れた中間部に認められるリンパ節を狭義の下腸間膜静脈周囲リンパ節と定義した.

結果

1. 下腸間膜静脈周囲の肉眼的観察所見

今回の研究に用いた10例全例において下腸間膜静脈の同定は可能であった(Fig. 1).

下腸間膜静脈とその周囲組織は,固定後に顕微鏡下に観察予定であったため,リンパ節検索を目的とした下腸間膜静脈周囲組織の剥離は行わず,肉眼的な観察のみであったが,1例において肉眼的にリンパ節が一つ同定された.残り9例においては肉眼的な観察では明らかなリンパ節は同定されなかった.しかしながら,リンパ管もしくは神経と思われる索状の構造物は,半数に同定された(Fig. 1).

2.顕微鏡的観察

全10例中8例(80%)に広義の下腸間膜静脈周囲リンパ節を認めた(Table 1, Fig. 3).顕微鏡的な観察の結果をTable 1に示す.

Table 1 

Lymph nodes around the inferior mesenteric vein

The en bloc excised inferior mesenteric veins (Case I to VIII) were sliced and numbered cranio-caudally. The number on the cells is the number of the lymph nodes of origin. “a” shows that any artery was observed on the same slice. In Cases IX and X, the specimens were extracted separately as a pancreatic or intermediate part. The number on the cells is the number of the lymph node of origin for each part. The total number of lymph nodes around the inferior mesenteric vein and the maximum diameter of the lymph nodes are shown on the right side of the table. An asterisk (*) is shown to indicate the slice where the lymph node with the maximum diameter was observed.

Fig. 3 

Microscopic image of a lymph node around the inferior mesenteric vein. A representative image of the lymph node around the inferior mesenteric artery from Slice 2 of Case III. A: Low power, B: High power.

症例I〜VIIIは,脾静脈・上腸間膜静脈合流部側から切片の番号をつけているため,番号が小さい切片は脾静脈合流部付近である.切片の番号が大きくなるにつれ尾側となり,左結腸動脈に近づくため,動脈が観察される切片に“a”をつけている.標本VIIを除いた全ての標本において下腸間膜静脈の尾側(末梢側)では動脈分枝を認めた.標本Vはほぼ全長にわたって下腸間膜静脈と伴走しており,Riolan動脈弓を形成していたと推測される.

切片1にあたる脾静脈合流部付近のリンパ節と,切片番号が大きく動脈も存在する切片におけるリンパ節を除いた,狭義の下腸間膜静脈周囲リンパ節は症例I,II,IX,Xの計4例(40%)に認めた.

考察

今回,我々は解剖実習体10例に対する顕微鏡を用いた検討を行い,8例において下腸間膜静脈周囲にリンパ節(広義の下腸間膜静脈周囲リンパ節)を確認し,そのうち4例においては,膵臓とも左結腸動脈とも離れた部位にリンパ節の存在を認めた.このリンパ節は下腸間膜静脈に所属するリンパ節(狭義の下腸間膜静脈リンパ節)であると考えられた.

本邦における下腸間膜静脈周囲のリンパ節に関する研究を検索するため,医中誌Webにおいて「下腸間膜静脈」をキーワードに検索したところ,1977年以降2014年までに277件を認めたが,下腸間膜静脈リンパ節に関する検討は前述のごとく佐藤ら9)と岸本10)の2点であり,相反する結果であった.一方,海外の文献では,1909年のJamiesonら6)7)の大腸癌手術の解説には下腸間膜静脈周囲リンパ節の記載があり,その後のリンパ学のテキスト8)にも下腸間膜静脈周囲リンパ節の記載がある.本邦でも広く使用されているNetter12)の解剖学アトラスにも直接の記載ではないが,下腸間膜静脈に沿ったリンパ管の描写がある.以上のことと,本研究の結果を含めて鑑みると,下腸間膜静脈周囲のリンパ節は少なくとも顕微鏡的には高頻度に存在すると考えられる.

下腸間膜静脈周囲リンパ節の臨床的な意義についてであるが,本邦においてはその存在が明白な前提となっておらず,郭清や治療の対象として捉えられてきたとはいいがたいため,過去の研究から臨床的な意義を検索するのは困難である.今後は,下腸間膜静脈周囲リンパ節が存在するという前提に立った,手術手技および標本整理を行い,臨床的なデータを積み上げていく必要があり,その段階で下腸間膜静脈周囲リンパ節の臨床的な意義を論じるべきである.

しかしながら,以前に筆者が報告したとおり11),左側結腸癌において左結腸動脈に沿ったリンパ流が,その経路上のリンパ節転移によってその流れがせき止められると,傍流としての下腸間膜静脈に沿ったリンパ流を介した転移が起こる可能性は考えられる.下腸間膜静脈に沿ったリンパ節の郭清は比較的安全かつ容易に施行可能であることから,症例に応じて郭清することは全く問題ないと思われる.

今後,左側結腸癌の手術においては,下腸間膜静脈周囲リンパ節が高頻度に存在することを念頭に置き,腫瘍の進行度に応じて同リンパ節の郭清を行い,独立した下腸間膜静脈周囲リンパ節として顕微鏡的に検索をすることを検討する.このことは,R0手術を達成するためだけでなく,下腸間膜静脈周囲リンパ節の臨床的意義を明らかにするためにも重要である.

本研究で検討した10例中8例に下腸間膜静脈周囲リンパ節を認めた.腫瘍の進行度によっては同リンパ節は郭清の対象になりうると考えられた.

謝辞:本研究における献体の解剖は,東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野・人体構造学分野教授出澤真理先生の協力のもとに行われました.ここに心より感謝の意を表します.

利益相反:なし

文献
 

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