The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Cholesterin Granuloma of the Pancreas
Mikio OkumuraHidekazu NishinakaSeiji OhashiMasaki ShonoToru YamasakiSaburo Nishiura
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2016 Volume 49 Issue 5 Pages 426-432

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Abstract

症例は64歳の男性で,2型糖尿病で通院中である.過去2回,多量飲酒による急性膵炎での入院治療歴があった.今回,再度多量飲酒後,上腹部痛が出現し,急性膵炎の診断にて入院となった.USにて膵頭部に1 cm大の不均一な低エコー腫瘤を認めた.CT,MRCPにて膵頭部主膵管の不整狭窄とそれより尾側の主膵管拡張がみられ,同部で下部胆管の狭窄も認めた.ERCPでは,膵頭部主膵管に2 cm長の広狭不整像がみられた.腫瘍マーカーのCEA,CA19-9は基準値内であった.膵癌の可能性も否定できず亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(D2,subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy-II再建(SSPPD-II再建))を施行した.膵頭部に1.5 cm大の弾性硬の腫瘤を認めた.術後の病理組織学的検査にてコレステロール結晶とこれを取り囲む異物巨細胞が認められ,コレステリン肉芽腫と診断された.膵臓に発生したコレステリン肉芽腫は極めてまれである.

はじめに

コレステリン肉芽腫は,中耳における報告例が多く1)~3),その他に乳腺4)5),腎臓6),肝臓7),縦隔8),腹膜9),脾臓10)などでの報告が散見される.今回,我々は膵臓に発生したコレステリン肉芽腫の極めてまれな1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:64歳,男性

主訴:上腹部痛

家族歴:母親が膵癌であった.

飲酒歴:毎日ビール350 mlと焼酎2合を飲酒.

喫煙歴:20本/日を44年間.

既往歴:55歳時,61歳時に急性膵炎にて保存的治療を受けた.51歳から2型糖尿病にて治療中である.

現病歴:2012年末から暴飲暴食,多量飲酒にて2013年1月に上腹部痛が出現した.軽症急性膵炎の診断で内科入院となり保存的治療で改善した.入院中の腹部エコーで膵頭部に1 cm大の腫瘤,MRCPで主膵管および下部胆管の狭窄が認められ,精査加療目的に外科へ紹介となった.

入院時現症:身長163 cm,体重61.5 kg,体温35.6°C,血圧131/89 mmHg,脈拍78回/分,呼吸数18回/分.腹部は平坦,軟で上腹部に圧痛を認めたが,腫瘤は触知しなかった.筋性防御,反跳痛はなかった.貧血,黄疸を認めなかった.

入院時血液生化学検査所見:白血球は7,100/μlと正常値であったが,血清AMY 686 U/l,尿中AMY 2,706 U/l,CRP 2.6 mg/dlと高値で膵炎の所見であった.腫瘍マーカーはCEA 3.0 ng/dl,CA19-9 11.3 U/mlと正常範囲内であった.血清IgG4は3.0 mg/dl未満と正常範囲内であった.HgA1c(N)は7.3%であった.

腹部US所見:膵頭部に1 cm大の境界明瞭,辺縁不整,内部が不均一な低エコー腫瘤を認めた.腫瘤より尾側の主膵管の拡張を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

A US study shows a solitary, heterogeneous and hypoechoic mass with a clear margin, 1 cm in diameter, in the head of the pancreas (arrow).

腹部造影CT所見:膵全体に軽度の腫大がみられ,周囲脂肪織濃度の上昇を認め,Grade 1の膵炎の所見であった.膵体尾部の主膵管は拡張し,頭部で途絶していた.明らかな腫瘤は描出されなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal contrast-enhanced CT study shows a diffuse enlargement of the pancreas, demonstrating Grade 1 acute pancreatitis. Stenosis of the main pancreatic duct at the head of the pancreas and dilatation of the distal main pancreatic duct were revealed (A). No mass was detected in the pancreas (B).

腹部MRI所見:T1,T2強調像では膵腫瘤は認められなかった.

MRCP所見:膵頭部の主膵管に不整な狭窄を認めた.体尾部の主膵管は拡張していた.下部胆管に高度の狭窄が認められた(Fig. 3).

Fig. 3 

MRCP study shows stenosis of the main pancreatic duct at the head of the pancreas and dilatation of the distal main pancreatic duct. The lower common bile duct is smoothly compressed and almost completely obstructed (arrow).

ERCP所見:膵頭部の主膵管に約2 cm長の広狭不整を認めた.尾側膵管は最大径5 mm大に拡張していた.下部胆管に1 cm長の狭窄像を認めた.肝側胆管は軽度に拡張していた(Fig. 4).膵液細胞診を試みたが,不成功であった.

Fig. 4 

ERCP study shows about 2 cm stenosis of the main pancreatic duct at the head of the pancreas and dilatation of the distal main pancreatic duct (arrows).

以上より,浸潤性膵癌など悪性腫瘍の可能性が否定できず,本人と家族に治療の功罪を十分に説明のうえ,手術を施行した.

手術所見:膵頭部に1.5 cm大の弾性硬の腫瘤を触知した.膵表面への露出はなく,門脈などへの血管浸潤の所見も認められなかった.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(D2,subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy-II再建(SSPPD-II再建))を施行した.

切除標本肉眼所見:膵頭部に 厚い被膜を有する1.5 cm大の腫瘤を認めた.内部に黄褐色の粥状物質の貯留を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

The resected specimen shows a 1.5-cm yellowish-brown mass well-demarcated and encapsu­lated. There is stenosis of the main pancreatic duct at the mass (arrow).

病理組織学的検査所見:腫瘤は線維性結合織の被膜を有していた.中心部にコレステロール結晶とこれを取り囲む異物巨細胞を認めた.コレステリン肉芽腫と診断された(Fig. 6).

Fig. 6 

Pathohistological examination of the resected specimen showed that the mass was composed of a thick fibrotic wall and cholesterin crystals and foreign body giant cells surrounding cholesterin crystals. A diagnosis of cholesterin granuloma was made.

術後経過:経過は良好で術後33日目に退院した.

考察

コレステリン肉芽腫は,血液の分解産物であるコレステリン結晶が組織内に沈着し周囲組織の異物反応を生じて形成される肉芽腫である11)12).発生部位は中耳における報告例が多くみられる.自験例のように膵臓に発症した症例は極めてまれである.医学中央雑誌で「膵臓」と「コレステリン肉芽腫」のキーワードで1977年~2013年の間,PubMedで「pancreas」と「cholesterin granuloma」のキーワードで1950年~2013年の間で検索したかぎり(会議録は除く)では2症例の報告があったのみである(Table 113)14)

Table 1  Reported cases of cholesterin granuloma confined within the pancreas
Case Author Year Age Sex Chief complaint Location Size Cause Diabetes Mellitus Operation
1 Kuroda13) 2009 79 M fatigue pancreas tail 2.0 cm acute pancreatitis (+) (+)
2 Sugawara14) 2012 50 F abdominal pain pancreas tail 2.8 cm unknown (–) (+)
3 Our case 64 M epigastric pain pancreas head 1.5 cm acute pancreatitis (+) (+)

年齢,性別でみると報告例では79歳の男性と50歳代の女性で,自験例では 64歳の男性であり特徴的な傾向はなかった.主訴は報告例の1例では口渇,頻尿,全身倦怠感で糖尿病悪化の症状であった.自験例を含む2例では腹痛が主訴であり,自験例では急性膵炎を合併していた.糖尿病合併は,3例中自験例を含む2例でみられた.膵内の発生部位は,報告例2例では膵尾部であるのに対して,自験例では膵頭部であり膵臓のあらゆる部位に発生しうると考えられた.大きさは報告例では2 cmと2.8 cmで,自験例では1.5 cmであり大差はなかった.

発症機序として,炎症,外傷,手術などによって生じた出血巣からコレステリン結晶が析出することによって生じるといわれている4)13).膵報告例の1例13)は12年前の急性膵炎が原因と考えられていた.自験例でも,外傷や手術の既往がなく,過去9年間で3回の急性膵炎を発症しており,繰り返す膵炎によって生じたものと考えられた.自験例の発症時期としては,3年前の2回目の膵炎発生時のCT所見で,腫瘤や主膵管の途絶・拡張などの所見は認められていなかったので,それ以降に発生したものと推測される.中耳2)3)15)や肝臓7)などの他部位での報告例でも過去の慢性的な炎症が発生原因と考えられており,炎症性疾患,手術,外傷の既往が本症を疑う重要なポイントであることが示唆された.また,膵報告例のもう1例14)では術後の病理組織学的検査にて孤立性線維性腫瘤による導管閉塞が原因と考えられていた.乳腺4)5)や腎臓16)などでも腫瘤や囊胞が出血の原因との報告例があり,腫瘤や囊胞が本症の発生原因となりうる.

画像診断に関しては,USでは膵報告例の1例13)は不均一な高エコー腫瘤の所見であった.他部位での報告例でも同様の所見であった5)16).CTでは膵報告例の1例13)は造影効果のない均一な低濃度腫瘤の所見であった.膵報告例のもう1例14)は造影効果の乏しい高濃度腫瘤であった.他部位での報告例でも境界明瞭な均一濃度の腫瘤で,造影効果がないかあっても乏しいという所見が多かった3)6)8)17).しかし,境界不明瞭で不均一濃度の腫瘤として描出され,悪性腫瘍も否定できないとの報告もあり18),本症に特徴的な所見の傾向は見いだせなかった.MRIでは膵報告例の1例13)ではT1強調像で不明瞭,T2強調像でやや高信号を呈し,膵報告例のもう1例14)はT1,T2強調像ともに淡い高信号を示していた.他部位での報告も同様で,内部の血液成分を反映してT1,T2強調像で高信号を呈するものと考えられ,本症に特徴的な所見といえる3)6)8)17).自験例ではUSにて辺縁不整で不均一な低エコー腫瘤として描出され,CTやMRI(T1,T2強調像)では腫瘤は描出されず,本症の既報告例の画像所見とは合致しなかった.CTやMRI(T1,T2強調像)で腫瘤が描出されなかった原因としては,腫瘤が膵実質と同等のdensityを呈していたためと考えられる.大きさ(1.5 cmと小さい)や発症経過期間などが原因ではないかと推察される.また,膵悪性腫瘍の診断にPETが有用と報告されている15)が,悪性腫瘍と炎症の鑑別は困難である.自験例では急性膵炎を発症しており,悪性腫瘍との鑑別は困難と考えPETは施行しなかった.画像診断にて膵腫瘤の質的診断がつかない症例ではEUS-FNAの有用性が報告されており19)20),自験例でも施行すべきであったと考えられる.

本症の鑑別診断としては,悪性腫瘍,急性膵炎の修復過程,慢性膵炎に伴った肉芽腫,肉芽腫形成性感染症(結核や梅毒),全身性肉芽腫性疾患(サルコイドーシス,クローン病やhistiocytosis X)などが挙げられる21)~24).自験例ではアルコール多飲者で急性膵炎を繰り返していること,CTやMRIで腫瘤が同定されていないこと,ERCPで主膵管の広狭不整がみられたことより,急性膵炎の修復過程の可能性は否定できなかった.膵臓の石灰化や膵全体にみられる主膵管の不整な拡張と不均等に分布する不均一かつ不規則な分枝膵管の拡張などの慢性膵炎の所見は認められなかった.自己免疫異常などに伴う腫瘤形成性膵炎は主膵管の不整狭細像などの画像所見がないこと,IgG4が正常値であることより否定的であった.膵頭部以外には腫瘤性病変は認められず,肉芽腫形成性感染症や全身性肉芽腫疾患は否定的であった.腹部USで不整形な低エコー腫瘤を認め,CT,MRCP,ERCPにて主膵管および胆管の不整な狭窄像を認めたことより,報告例の2例と同様に悪性腫瘍を完全には否定できず切除する方針となった.以上のように本症の術前診断は困難といえる.

病理組織学的所見では,いずれの症例も平行ないし放射状に配列した針状のコレステリン結晶とこれを取り囲む異物巨細胞が認められ,コレステリン肉芽腫と容易に診断された.

本症は良性疾患であるため,本症と診断がつけば手術をせずに経過観察で良いのではないかと推察される.しかし,一旦形成された肉芽腫は出血しやすく,出血を繰り返すことにより病変が増大していくとの報告がみられる3).さらには,中耳領域では,炎症が慢性化し脳膿瘍や骨破壊を来した症例も報告されている14)25).膵臓に発生したコレステリン肉芽腫においても,経過観察を行った場合は出血の増大や炎症の慢性化(膿瘍化)などに留意しながら,慎重に経過観察を行う必要がある.

今回,膵臓に発生したコレステリン肉芽腫のまれな1例を経験した.膵臓の悪性腫瘍が疑われる症例では,本症も鑑別疾患の一つとして認識しておく必要があると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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