The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Paraganglioma That Derived from Peripancreatic Tissue Preoperatively Diagnosed as Pancreatic Neuroendocrine Tumor
Yumi SuzukiKiyoshi HiramatsuTakeshi AmemiyaHidenari GotoTakashi SekiToshiyuki Arai
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2016 Volume 49 Issue 5 Pages 433-438

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Abstract

今回,我々は膵頭部周囲組織に発生し膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;以下,pNETと略記)と誤って術前診断したparaganglioma(以下,PGと略記)の症例を経験したので報告する.症例は64歳の女性で,健診超音波検査にて腹腔内腫瘤を指摘され受診した.身体所見上は腹部に腫瘤を触知せず,採血上は膵ホルモン,腫瘍マーカー異常を認めなかった.腹部CTでは膵頭部腹側やや右側に内部の造影効果不均一な腫瘤性病変を認めた.腹部MRIでは同病変はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈した.RetrospectiveにみるとPGを示唆する画像所見であったが,pNETと術前診断し,手術を施行した.腫瘍は球形の腫瘤で膵頭部前面から有茎性に発育しており,腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的所見上synaptophysin,chromogranin A,CD56,S-100陽性であり,膵頭部原発のPGと診断した.

はじめに

Paraganglioma(傍神経節腫;以下,PGと略記)は胎生期のneural crest(神経堤)から発生するまれな腫瘍である.頭頸部から骨盤内の全身に発生し,副腎髄質・大血管周囲・縦隔・後腹膜に多いとされる1).今回,我々は膵頭部周囲組織に発生し,膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;以下,pNETと略記)と術前診断したPGの1例を経験したので報告する.

症例

患者:64歳,女性

主訴:なし.

既往歴:高血圧,骨粗鬆症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:健診腹部超音波検査にて腹腔内腫瘤を指摘され,精査目的で当院を受診した.

来院時現症:身長152.8 cm,体重59 kg,体温36.4°C,血圧123/66 mmHg,脈拍81回/分,腹部は平坦・軟で圧痛を認めず,腫瘤は触知しなかった.

血液生化学検査所見:特に異常を認めなかった.腫瘍マーカー,膵関連ホルモンはいずれも正常範囲内であった.カテコラミン類は非測定であった.

腹部造影CT所見:膵頭部腹側やや右側に内部の造影効果不均一な3.5×4.0 cmの腫瘤性病変を認めた.同病変は早期相から濃染され,後期相においても造影効果の残存を認めた.腫瘤性病変と膵頭部膵実質との間に前上膵十二指腸動静脈の走行を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

CT. The tumor in the pancreatic head is well-enhanced at an early phase.

腹部単純MRI所見:CTと同様膵頭部腹側に腫瘤性病変を認め,同病変はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈した(Fig. 2).

Fig. 2 

MRI. The tumor shows low signal intensity in T1 weighted image (a), and high signal intensity in T2 imaging (b). The tumor is adjacent to the pancreatic head.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸に明らかな異常所見は認めなかった.

以上より,膵頭部非機能性pNETと診断し手術を施行した.

手術所見:腫瘍は膵頭部前面周囲組織から有茎性に発育し,膵実質との連続性はわずかであった.前膵十二指腸動脈のアーケードの分枝が栄養動脈となっていた.これを結紮切離し,腫瘍が接する膵実質の部分切除を含め腫瘍摘出術を施行した.

手術時間は1時間3分,術中出血量は30 mlであった.

摘出標本肉眼所見:標本は4 cm大の球状の腫瘤であり,割面は出血を伴った白色調を呈していた(Fig. 3).

Fig. 3 

The resected specimen. The solid, white tumor is 4 cm in diameter and contains hemorrhagic components.

病理組織学的検査所見:均一な類円形ないし楕円形核と細胞境界不明瞭な淡好酸性微細顆粒状からなる腫瘍細胞が,毛細血管網に囲まれながら胞巣状に増殖する像(いわゆるZellballen pattern)を示していた.細胞異型や核分裂像は目立たず,多形性や壊死像は認めなかった.合併切除した膵実質と腫瘍とはミクロレベルでは連続性がなく境界は明瞭であった.よって膵由来ではなく,膵頭部周囲組織由来であると診断した(Fig. 4).免疫染色検査では,synaptophysin,chromogranin A,CD56が陽性,S-100も支持細胞と思われる少数の細胞で陽性であった(Fig. 5).以上より,pNETではなく,膵頭部周囲組織原発のPGと病理組織学的に診断した.

Fig. 4 

Microscopic findings of the tumor. a: The borderline between the tumor and the normal pancreatic tissue is clear (HE, ×100). b: Epithelioid cells are arranged in nests and surrounded by spindle cells (HE, ×200).

Fig. 5 

a: Synaptophysin (×400), b: Chromogranin (×400), c: CD56 (×400), d: S-100 (×400). Immunohistochemical staining of the tumor. Both epithelioid and spindle cells are strongly positive for synaptophysin, chromogranin and CD56, and the spindle cells were weakly positive for S-100.

術後経過:経過良好にて第10病日軽快退院した.術後2年経過,再発徴候なく外来通院中である.

考察

PGは胎生期の神経堤(neural crest)由来の傍神経節(paraganglion)から発生する神経内分泌腫瘍である.副腎髄質由来のものを褐色細胞腫と呼び,副腎以外の傍神経節から発生するものをPGと呼んでいる1).PGの発生部位は頭頸部・後腹膜・縦隔・肺・腸管・膀胱など頭頸部から骨盤内の全身に分布し,約90%は頭頸部・後腹膜に発生しているとの報告がある1)2).川原田ら3)は,PGをクロム親和性の有無と内分泌症状による機能性・非機能性により分類した.機能性・非機能性で分類する場合,症候的に分けるか内分泌的に分けるかでその分類が曖昧となるが,諸家の報告では高血圧を呈するなど,症候的な特徴を示すものを機能性に分類する場合が多くみられる4).本症例においては,既往に高血圧を認めていたものの術前内服によるコントロールは良好で術中に大きな血圧の変動はなく,術後も高血圧症の改善は認められていない.したがって,非機能性であると考えられる.ただし,術前に誤ってpNETと診断していたので,膵関連ホルモンが正常範囲内であることは確認していたが,PGを念頭に精査していないので,血中・尿中カテコラミン検査は施行していなかった.

PGの診断は血液生化学検査,画像検査,病理組織学的検査により診断される5).血液生化学検査では,機能性であれば血中カテコラミンの上昇,尿中VMAの高値がみられることが多い.画像検査では,超音波・CT・MRIで血管の豊富な高血流性充実性腫瘍として描出されることが多く,出血・壊死による囊胞状変化を伴うこともある6).ダイナミックスキャンでは高血流性であるため早期からの濃染が特徴的であり診断上有用である7).本症例の腫瘍は,膵実質外に発育する腫瘍であり,造影CT上早期濃染の所見を示しており,retrospectiveにみると典型的なPG所見を示していたにもかかわらず,PGを鑑別として挙げられなかったことが反省すべき点と考えられる.

病理組織学的所見では,基本的には副腎髄質と類似した構造を示し,腫瘍細胞の胞巣状集合体の周囲を支持細胞と毛細血管が取り囲むZellballenと呼ばれる配列をとる1).免疫染色検査ではpNETと同様,chromogranin A,synaptophysin,CD56といった神経内分泌マーカーが発現するため陽性を呈する.また,PGでは,支持細胞においてS-100が本症例のように陽性である.悪性の指標として被膜浸潤や脈管侵襲・周囲脂肪組織内への進展・壊死・細胞密度の上昇などが指摘されているが,明らかな周囲組織への浸潤や転移がなければ良悪の鑑別は困難なことが多く,最終的には臨床経過によって判断される8)

医学中央雑誌(2000~2015年)4月の期間で「膵頭部paragaglioma」をキーワードとして検索した結果,膵頭部周囲のPGは20例の報告があった.本症例は膵実質と腫瘍との連続性はなく境界は明瞭であり,膵由来であるpNETではなく,膵頭部周囲組織に存在する神経節から発生したPGと考えられる.成人膵組織には通常傍神経節は存在しないが,胎児膵組織内には間質の神経線維束に沿って神経周膜下に傍神経節と考えられる神経内分泌マーカー陽性の細胞集団が多数認められることから,膵臓がPGの発生臓器になりうるともされている9)

PGとpNETとを比較すると同じ神経内分泌細胞由来の多血性腫瘍ではあるが,膵外に発育するという点から,術前にPGと診断しえたと考えられる.しかし,占居部位が解剖学的に近接している場合,これらを術前に鑑別診断することは困難である場合も考えられる.FDG-PETは無症候性PGの転移巣検索に有用との報告があるが10),pNETで同様にFDG-PETの集積を認めた例11)も報告されており,その術前鑑別診断への有用性は明らかではない.EUS-FNAによる術前診断の有用性も示唆されているが12),本症例のように膵頭部は他臓器に被ってしまい生検が困難な場合も少なくない.林ら13)によると,膵PG 15例の報告例のうち,本症例と同様に4例が腹部超音波検査で偶然発見されており,5例が術前にpNETと診断されていた.また,術前からPGの診断がついていたものは1例も認めず,PGの術前診断が困難であることを示唆しているが,pNET・PGのいずれも外科的切除の適応となるため,pNET・PGのいずれにせよ,診断的治療としての切除を行うことが多いと考えられる.

膵臓の前面に発生したPGは報告例が少なく予後については明らかではない.前述の林ら13)はリンパ節転移を認めた報告がある14)が,多くは外科的切除によって良好な術後経過が得られているとしている.ただし,後腹膜原発PGでは悪性例が9.5%,5年生存率が73%との報告15)もあり,本症例においても術後慎重な経過観察が必要であると考えられる.pNETにおいても,リンパ節転移・遠隔転移することが知られており16)17),転移・再発の可能性を念頭に経過観察することは重要である.よって,PGかpNETのいずれであってもmalignant potentialの可能性を考慮し積極的な外科的切除と慎重な経過観察が望ましい.

また,本症例は幸い非機能性PGであったが,機能性PGであると,術中異常高血圧症などの周術期管理に注意を要する.よってpNETと思われる症例であっても機能性PGの可能性も念頭に,精査を進めるべきであり,今回の症例に関しても術前PGと診断がついていれば,周術期の管理についても機能性であった場合を念頭に慎重に行うことが可能であったと考えられる.

利益相反:なし

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