The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
Retroperitoneal and Mediastinal Pancreatic Pseudocyst Accompanied by Pancreas Divisum
Akira YasudaKaori WatanabeShiro FujihataTakahiro WatanabeKenichi NakamuraMinoru YamamotoHidehiko KitagamiYasunobu ShimizuTetsushi HayakawaMoritsugu Tanaka
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 49 Issue 6 Pages 517-523

Details
Abstract

症例は68歳のアルコール多飲歴のある男性で,呼吸困難を主訴に近医を受診し,右胸水貯留を指摘され,当院紹介となった.当院初診時の単純CTで右胸水貯留に加え,後腹膜から縦隔内の低吸収域,膵石を認めた.胸水中のアミラーゼは高値であった.胸水ドレナージ後の造影CTで,後腹膜から縦隔内の低吸収域は囊胞性病変と判断した.また,膵体尾部頭側には膵仮性囊胞を認めた.以上から,慢性膵炎に伴う,後腹膜・縦隔内膵仮性囊胞と診断した.膵管癒合不全のため,ERCPで縦隔内,肝背側囊胞への内瘻を描出できなかったが,MRCPでは膵体尾部頭側の囊胞から後腹膜囊胞への内瘻の存在を疑った.脾合併膵体尾部切除術を施行し,術後4か月のCTでは後腹膜,縦隔内囊胞は消失した.膵管癒合不全のため,縦隔内膵仮性囊胞への内瘻がERCPで確認困難な症例であったが,MRCPではその存在を疑うことができ,治療方針の決定に有用であった.

はじめに

膵仮性囊胞とは,膵外に存在し,成熟した明瞭な炎症性の壁により被包化された液体貯留で,慢性膵炎において,主膵管や分枝膵管の破綻により起こると定義されている1).縦隔内まで膵仮性囊胞が進展することはまれで,検索しえた範囲では本例を含め45例の報告があるのみである.今回,我々はERCPで膵管癒合不全のため内瘻の描出が困難であったが,MRCPでは瘻孔の存在を疑うことができ,膵体尾部切除にて治癒することができた後腹膜・縦隔内膵仮性囊胞の1例を経験したので報告する.

症例

症例:68歳,男性

主訴:労作時呼吸困難

既往歴:高血圧で内服治療中

飲酒歴:ビール1 L/日×40年

現病歴:当院紹介2週間前から労作時の呼吸困難が出現した.就寝時の咳嗽もみられ,徐々に呼吸困難が悪化したため近医受診した.胸部X線で右胸水貯留を認め,精査,加療のため当院紹介となった.

胸部X線検査所見:右胸水の貯留を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Chest X-ray shows a large right pleural effusion.

当院初診時血液検査所見:アミラーゼが380 U/lと上昇していた.CRPは1.02 mg/dlと軽度上昇していたが,白血球数は正常値であった.アルブミンが3.9 g/dlと軽度低下していた.

胸水検査所見:胸水穿刺を行ったところ,暗赤色の排液であった.胸水中アミラーゼが12,800 U/lと上昇していたため,膵性胸水と判断した.胸水の色調から悪性疾患の可能性もあると判断し,胸腔鏡検査を施行したが,胸膜生検では線維化のみで悪性疾患を疑う所見はなかった.胸腔鏡検査の際に胸腔内にドレナージチューブを留置したが,留置4日後には排液がなくなった.

胸腹部CT所見:当院初診時の単純CTで右胸水貯留に加え,後腹膜から縦隔内の低吸収域を認めた.胸腔ドレナージチューブ留置2週間後の胸腹部造影CTで,縦隔内から肝尾状葉背側に連続する低吸収域は囊胞性病変と判断した(Fig. 2A).胸水のドレナージ前と比較して囊胞は拡大していた.膵体部に膵石を認め,その尾部では主膵管が6 mmに拡張していた(Fig. 2B).その他にも膵体尾部には複数の小石灰化を認めた.少数ではあったが,膵頭部にも石灰化が存在した.

Fig. 2 

(A) Enhanced CT after drainage of the pleural effusion reveals a cystic lesion in the mediastinum and retroperitoneal space. (B) A pancreatic stone was recognized in the pancreatic body (arrow). The upstream main pancreatic duct of the stone was dilated.

MRI所見:MRCPで膵体尾部頭側に主膵管から連続する多房性囊胞状構造を認め,膵仮性囊胞と診断した.また,膵体尾部頭側囊胞から肝尾状葉背側囊胞への瘻孔の存在が,やや不明瞭であったが疑われた(Fig. 3A).T2強調像横断画像でも膵体尾部頭側の仮性囊胞から後腹膜囊胞への瘻孔が疑われた(Fig. 3B~D).

Fig. 3 

(A) A cluster of small pancreatic pseudocysts were recognized in the pancreatic body and tail (arrowhead). We suspected that there was a fistula (arrow) between the pancreatic pseudocysts and the retroperitoneal cystic lesion on MRCP. (B–D) The fistula was also suspected in the axial images.

ERCP所見:主乳頭からの造影では膵頭部膵管のみが造影された(Fig. 4A).副乳頭への挿管は困難であったが,CTで膵体尾部が描出され,膵体尾部膵管の拡張がみられることから,膵管癒合不全と診断した.また,MRCPでも膵管癒合不全を確認することができた(Fig. 4B).

Fig. 4 

(A) ERCP from the main papilla does not visualize the pancreatic duct in the body and tail. (B) The pancreatic divisum is recognized on MRCP. S: duct of Santorini. W: duct of Wirsung.

以上のような所見から,慢性膵炎に伴う後腹膜・縦隔内膵仮性囊胞と診断した.右胸水は縦隔内囊胞が右胸腔に穿破したと判断した.血液検査でアミラーゼの上昇を認めたことから慢性膵炎の悪化があると判断し,蛋白分解酵素阻害剤投与,絶食で経過をみたが,肝背側の囊胞の増大を認め,ソマトスタチンアナログ製剤の投与も開始した.しかし,その後も囊胞が改善しなかったため,手術の方針とした.MRIで膵体尾部頭側の仮性囊胞から肝背側の仮性囊胞への内瘻が疑われたため,膵体尾部切除を行うこととした.膵管空腸側々吻合術も検討したが,術前に施行したCTで後腹膜囊胞の増大とともに,膵体尾部主膵管の拡張が改善していたため,膵体尾部切除術を選択した.

手術所見:上腹部正中切開で開腹し網囊腔に入ると,膵周囲に炎症による癒着を認めた.特に術前検査で仮性囊胞を認めた膵体尾部頭側の硬化が強かった.膵体部に硬結を触知し,術中超音波検査で膵石と判断した.術前の方針どおり,膵体部結石を含めた脾合併膵体尾部切除術を施行した.肝尾状葉背側から縦隔内の囊胞については,囊胞につながる膵体尾部を切除すれば縮小すると判断し,開放はしなかった(Fig. 5).手術時間は2時間35分,出血量は1,050 mlであった.

Fig. 5 

Pancreas continuing into the retro­peritoneal cyst through the fistula was resected by the distal pancreatosplenectomy.

病理組織学的検査所見:切除断端近傍の主膵管内に4 mm大の膵石を認め,その尾側主膵管は拡張していた.膵実質は腺房の脱落,線維化が目立ち,慢性膵炎の所見であった.

術後経過:術後膵液瘻を認めたが保存的治療で軽快し,術後第30病日退院となった.縦隔内,肝背側の仮性囊胞は徐々に縮小し,術後4か月のCTでは消失した.その後は仮性囊胞の再発を認めていない.

考察

縦隔内膵仮性囊胞は膵炎の胸部合併症の一つで,膵炎による膵管破綻が膵後面におこり,膵液が後腹膜から食道裂孔や大動脈裂孔を通り縦隔内に流入して仮性囊胞を形成するとされている2).縦隔内膵仮性囊胞はまれな合併症であり,1977年から2014年12月までの医学中央雑誌で「縦隔」と「膵仮性囊胞」をキーワードとして検索したところ,本邦では我々の症例を含めて45例の報告があるのみであった.年齢の中央値は51歳で,男性43例,女性2例であった.本例のように膵管癒合不全を伴った縦隔内膵仮性囊胞は過去に報告がなかった.飲酒歴について記載のあるものでは,1例を除き飲酒歴を認めた.飲酒歴のない1例は非アルコール性慢性膵炎の既往があった3).本症例では胸水が診断のきっかけとなったが,胸水は45例中33例(73.3%)に認め,縦隔内膵仮性囊胞を認める際には,胸水貯留を併発することが多かった.縦隔内囊胞の存在の確認は,CTなどで比較的容易であるが,膵性胸水を認める場合には膵管内圧が減圧されるため,腹痛などの腹部症状がなく,呼吸困難,胸痛などの胸部症状のみを自覚する場合もあり,縦隔内膵仮性囊胞の診断が遅れることもある4)5).本症例でも腹部症状を認めなかったが,CTで慢性膵炎による膵内の石灰化を認め,胸水中アミラーゼの上昇もあったため,膵性胸水と診断した.アルコール多飲歴,慢性膵炎の既往がある患者に胸水貯留を認める場合は,膵性胸水を念頭に置き,胸水中アミラーゼを測定するべきであると思われる.膵管から縦隔内囊胞への経路(内瘻)の確認方法としてはERCPがあるが6),CTや本症例のようにMRCPといった,より侵襲の少ない検査での内瘻の指摘が報告されている3)7)~13).縦隔内膵仮性囊胞の治療法は,従来は膵尾側切除などの膵切除,囊胞消化管吻合,囊胞ドレナージなどの外科的治療が選択されることが多かったが6),最近では内視鏡的膵管ドレナージが有効とする報告もみられる3)14)~16).また,ソマトスタチンアナログ製剤投与などによる保存的治療のみで改善した症例も報告されている8)11)17)~19)

本症例は膵性胸水,後腹膜・縦隔内膵仮性囊胞を伴った慢性膵炎であったが,一般的に慢性膵炎の原因としては飲酒が最も多い20).膵管癒合不全も膵炎の原因となりうるが21),膵管癒合不全のみで慢性膵炎の成因となることは少なく,膵管癒合不全に伴う慢性膵炎は,副乳頭が主乳頭に比べ機能的,器質的に劣っているため膵液の流出障害を生じやすいことに,アルコール,脂肪などの後天性の負荷因子が加わることによって背側膵に発生すると考えられている22).そのため膵管癒合不全に伴う慢性膵炎例では,副乳頭開口部から比較的均一な単純拡張を示す背側膵管像を呈することが多い23).本症例では膵管拡張は膵体部に認めた膵石の尾側のみであり,副乳頭から膵石までの間の膵管拡張はなかった.また,膵管癒合不全に伴う慢性膵炎は背側膵にみられることが多いが,本例では膵体尾部に比べると少数ではあるが,膵頭部の腹側膵領域にも膵石を認めている.以上のような膵管拡張の所見や,膵炎が背側膵に限局していないことから,本症例の慢性膵炎の原因は,膵管癒合不全ではなくアルコール多飲と判断した.胸腔ドレナージ後,胸水の流出がとまった後のCTで,囊胞は拡大し縦隔内から肝尾状葉背側まで連続していた.前述の縦隔内膵仮性囊胞の発生機序によって縦隔内までひろがる膵仮性囊胞が形成されたが,右胸腔内に穿破したため囊胞は一旦縮小し,胸水のドレナージ後に胸腔への瘻孔が閉鎖したため,仮性囊胞が再度増大したと推察される.囊胞内に感染を伴っていなかったため,絶食,蛋白分解酵素阻害剤,ソマトスタチンアナログ製剤投与による保存的治療を行ったが,仮性囊胞は増大した.内視鏡的膵管ドレナージも検討したが,膵管癒合不全により困難と判断し,外科的治療を選択した.慢性膵炎に対する手術法としては膵切除術や,Frey手術やPartington手術といった膵管ドレナージ術がある24).膵管ドレナージ術においては,主膵管の拡張が高度で膵頭部に腫大や多数の膵石が存在する場合などにFrey手術が,膵管拡張のみで膵頭部に所見が乏しい場合には膵管空腸側々吻合術が選択される25).本例では膵頭部の膵石はわずかで,膵炎は膵体尾部主体であったためFrey手術は選択しなかった.後腹膜囊胞が増大し,膵体尾部膵管内圧が減圧され,膵体尾部主膵管拡張の改善を認めたため,膵管空腸側々吻合に比較し膵体尾部切除術の方が安全に施行できると判断した.また,囊胞と消化管の吻合に関しては,囊胞は後腹膜に存在し,腹側には肝臓が存在していたため困難であると考えた.膵管ドレナージ術や囊胞消化管吻合術の方が,膵機能温存のためには有利と思われたが,以上のような理由により膵切除の方針とした.CTで膵体尾部頭側に集簇した仮性囊胞を認めていたが,肝尾状葉背側から縦隔内へつながる囊胞との連続性を指摘できなかった.膵体部に膵石が存在し,その尾側主膵管が拡張していたことから,膵体尾部頭側に形成された仮性囊胞から尾状葉背側・縦隔内囊胞に内瘻が存在することは予想されたが,膵頭部にも少数ではあるが膵石を認めており,膵頭部から囊胞への内瘻が形成されている可能性もあった.MRCPを詳細に検討すると,不明瞭ではあったが膵体尾部頭側囊胞から尾状葉背側の囊胞への内瘻を疑った.このことによって,膵体部膵石を含めた膵体尾部切除術を施行すれば,縦隔内に至る膵液の漏出部位が取り除かれると判断した.

ERCP,MRCPで内瘻が確認できる頻度はそれほど高くなく50%弱との報告がある26).本症例ではMRCPでの内瘻の描出は不明瞭であるが,過去の報告でも良好に描出されるものがある一方12),やや不明瞭な描出にとどまるものもある9).内瘻を確認することは本例のように手術法などの治療方針の決定に重要であり,内瘻の存在を疑って入念に画像を検討する必要がある.また,MRCPはERCPに比べて低侵襲というだけでなく,膵管癒合不全などによってERCPで内瘻が造影できない症例において,有用であると思われる.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top