The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
ORIGINAL ARTICLE
Carcinoma Associated with Anal Fistula: A Clinicopathologic Study of 25 Patients
Taichi SatoKazutaka YamadaShunji OgataYoriyuki TsujiKazutsugu IwamotoYasumitsu SaikiMasafumi TanakaMitsuko FukunagaTadaaki Noguchi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 49 Issue 7 Pages 579-587

Details
Abstract

目的:痔瘻癌の臨床病理学的検討を行った.方法:1997年から2014年までに経験した痔瘻癌25例の臨床病理学的特徴と治療成績を検討した.結果:平均年齢は58歳(34~82歳),男性23例,女性2例であった.痔瘻癌の診断までの痔瘻罹病期間は中央値12年(1~50年)で,7例がクローン病合併例であった.確定診断に至った方法は,腰椎麻酔下生検が14例,内視鏡下生検が6例,局麻下生検が3例,細胞診が1例,開腹手術中の迅速組織診が1例であった.確定診断までの検査回数は平均2回(1~4回),診断までに要した検体数は平均7個であった.14例に腹会陰式直腸切断術,10例に骨盤内臓全摘術,1例にハルトマン手術が行われた.組織型は粘液癌が68%,リンパ節転移陽性症例が40%,4例に鼠径リンパ節転移を認めた.全25例における5年生存率は45.8%であった.根治度別にみると,根治度AB症例は根治度C症例と比べて有意に予後良好であった(P<0.0001).クローン病合併の有無で痔瘻癌を2群に分けて臨床病理学的因子を比較したが,クローン病合併例は癌診断年齢が有意に若いこと以外,2群間で有意差を認めなかった.結語:長期の難治性痔瘻症例は臨床症状の変化,悪化に着目し,痔瘻癌が疑われた場合は,積極的に生検組織診断を繰り返し行うことが重要である.切除可能な症例に対しては完全切除を目指した積極的な拡大手術が望まれる.

はじめに

痔瘻癌は痔瘻が慢性化し,癌化した比較的まれな癌であり,本邦では肛門部悪性腫瘍の6.9~8.2%といわれている1)2).また,近年,本邦においてもクローン病に合併した大腸癌の報告も増えてきている.その特徴を見ると,欧米では右側結腸癌の割合が59~78%と多いのに対し3)4),本邦では痔瘻癌を含めた直腸肛門管癌が55~68%と過半数を占める5)~7).今回,我々は当院で経験した痔瘻癌25例の臨床病理学的特徴と治療成績を検討した.

方法

1997年から2014年までに当院において虫垂,肛門管領域を含めた大腸癌手術症例1,752例中,痔瘻癌25例(1.4%)を対象とした.臨床病理学的検討は大腸癌取扱い規約第8版8)に準じて行った.統計学的有意差検定はカイ二乗検定(Fisherの直接確率試験)とt検定を用い,5%以下を有意差ありとした.Kaplan-Meier法から累積生存率を算出し,log-rank検定を用いて評価した.

結果

対象症例の臨床所見をTable 1に示す.手術時の平均年齢は58歳(34~82歳)で,男性23例,女性2例であった.主訴は肛門痛,排膿,下血,腫瘤触知,狭窄感であった.当院における同期間の痔瘻手術症例数は5,065例であり,痔瘻手術症例における痔瘻癌の割合は0.5%であった.痔瘻癌症例における痔瘻の分類(隅越分類9)による)は,II型が5例,III型が3例,IV型が17例と深部痔瘻(III型,IV型)が多くを占めた.深部痔瘻に限ると,当院における同期間の痔瘻手術症例数は835例であり,深部痔瘻における痔瘻癌の割合は2.4%(835例中20例)であった.さらに,IV型痔瘻における痔瘻癌の割合は7.1%(241例中17例)と比較的高率であった.痔瘻癌の診断が得られるまでの痔瘻の罹病期間は中央値12年(1~50年)であった.クローン病に合併した痔瘻癌は7例であったが,当院における同期間のクローン病手術症例数は216例であり,クローン病手術症例におけるクローン病に合併した痔瘻癌の割合は3.2%であった.

Table 1  Clinical characteristics
Case Age Gender Symptoms Classification of
anal fistula
Interval of
anal fistula
(years)
Crohn’s disease Interval of
Crohn’s disease
(years)
1 66 M pain II 10
2 70 M pain, pus discharge IV 1
3 70 M pain IV 12
4 70 M stenosis IV 1
5 52 M pain, anal bleeding II 30
6 56 M pain IV 1
7 63 F pain, pus discharge III 38
8 47 F pain, pus discharge IV 25 + 21
9 72 M pain, anal bleeding IV 2
10 52 M stenosis IV 2 + 29
11 52 M pus discharge IV 20
12 60 M pus discharge, anal bleeding II 30
13 82 M pus discharge, induration III 35
14 63 M pus discharge IV 1
15 34 M pain IV 12 + 12
16 42 M pus discharge IV 27 + 25
17 52 M pus discharge III 10
18 50 M pain II 8 + 19
19 53 M pain, pus discharge IV 27
20 43 M pain, pus discharge IV 19 +
21 63 M pus discharge, induration II 10
22 71 M stenosis IV 49
23 55 M pain, pus discharge IV 8
24 39 M pain IV 19 + 23
25 77 M pain IV 50

各症例における検査・診断方法をTable 2に示す.確定診断に至った方法は,腰椎麻酔下生検が14例,内視鏡下生検が6例,局麻下生検が3例,コロイドの細胞診が1例,開腹手術中の迅速組織診が1例であった.確定診断までの検査回数は平均2回(1~4回),診断までに要した検体数は平均7個,中央値6個(1~25個)であった.生検は腫瘤(硬結部)や瘻管(一次口,二次口,膿瘍壁)からなされていたが,腫瘍の生検診断陽性率(陽性検体数/採取検体数)は平均69%であるのに対し,瘻管の生検診断陽性率は平均15%と低かった.コロイドの流出は16例(64%)に認められ,うち14例で細胞診がなされ,6例(43%)で陽性であった.腫瘍マーカーCEAの上昇は9例(36%)に,CA19-9の上昇は10例(40%)で認められた.MRIでは粘液癌に特徴的とされる,T2強調画像での顆粒状の高信号の集合所見10)が9例に認められた.FDG-PETは6例に施行されており,4例(66%)に集積を認めた.

Table 2  Method of diagnosis
Case Diagnostic procedure Number of times examined Location of biopsy Biopsy positive rate* Mucinous material Mucus cytology Elevation of CEA Elevation of CA19-9
1 biopsy under lumbar anesthesia 1 mass 1/1
2 biopsy under local anesthesia 2 mass 3/3 +
3 mucus cytology 3 fistula 0/2 + + +
4 biopsy under lumbar anesthesia 1 mass 2/4 +
5 biopsy under lumbar anesthesia 1 fistula 2/6
6 endoscopic biopsy 3 fistula 4/9 + +
7 biopsy under local anesthesia 1 mass 1/2 + + +
8 biopsy under local anesthesia 1 mass 3/3
9 endoscopic biopsy 2 mass 5/7 +
10 biopsy at operation 4 mass 1/4 + + +
11 biopsy under lumbar anesthesia 4 fistula 2/10 + +
12 biopsy under lumbar anesthesia 4 fistula 1/21 +
13 endoscopic biopsy 1 mass 8/11 + +
14 biopsy under lumbar anesthesia 3 fistula 2/18 +
15 endoscopic biopsy 1 mass 2/2 + +
16 endoscopic biopsy 1 mass 2/2
17 biopsy under lumbar anesthesia 2 fistula 1/25 +
18 biopsy under lumbar anesthesia 2 fistula 1/12 + +
19 biopsy under lumbar anesthesia 1 mass 7/11 + + +
20 biopsy under lumbar anesthesia 2 mass 2/2 + + +
21 endoscopic biopsy 1 mass 2/3
22 biopsy under lumbar anesthesia 1 mass 5/6 + +
23 biopsy under lumbar anesthesia 2 mass 1/3 + + +
24 biopsy under lumbar anesthesia 1 mass 1/1 +
25 biopsy under lumbar anesthesia 2 fistula 3/6 + + + +

Abbreviation: *=biopsy positive number/total biopsy number

治療方法と病理学的所見に関してTable 3に示す.14例に腹会陰式直腸切断術が(2例に仙骨合併切除),10例に骨盤内臓全摘術が(7例に仙骨合併切除)行われた.腫瘍が骨盤内全体を占めるものや,骨盤壁まで浸潤しているものもあり,剥離断端陽性を25%(24例中6例)に認めた.1例は術前より根治切除不可能と判断しており,原発性肝癌,肝硬変も合併していたことから,姑息的手術としてハルトマン手術が行われた.各症例の病理組織学的所見として,肉眼型はtype 1/2/3/4/5が1/0/1/2/21例と5型が多く,最大腫瘍径は平均8.9 cm(2~20 cm)であった.組織型は粘液癌が17例(68%)と過半数を占め,その他に高分化腺癌3例,中分化腺癌2例,扁平上皮癌3例であった.組織学的リンパ節転移はpN 0/1/2/3が15/4/0/6例であり,リンパ節転移陰性症例が多かった.鼠径リンパ節廓清は術前の画像診断(CT,超音波検査)で転移が疑われた9例に施行され,4例に転移を認めた.組織学的深達度はT3/4が10/15例であった.病期はStage II/III/IVが15/5/5例であり,根治度はA/B/Cが15/3/7例であった.予後に関して5年全生存率(overall survival rate)と5年無再発生存率(relapse-free survival rate)をFig. 1に示す.全25例の観察期間中央値は42.4か月,平均観察期間は40.9か月であった.治癒切除有無別(根治度別)にみると,根治度AB症例は根治度C症例と比べて有意に予後良好であった(5年生存率63.0% vs 0%,P<0.0001)(Fig. 1A).根治度A,Bの18例のうち7例に再発を認めた.初発再発部位は局所2例,鼠径リンパ節2例,肝臓1例,腹膜2例であり,5年無再発生存率は51.6%であった(Fig. 1B).さらに,クローン病に合併した痔瘻癌7例(CD群)と合併していない18例(非CD群)で,両群における臨床病理学的因子を比較した(Table 4).癌診断年齢はCD群で有意に低かった(平均年齢44歳vs 64歳,P<0.0001).それ以外の因子では有意差を認めず,予後においても有意差を認めなかった.

Table 3  Treatments and pathological findings
Case Procedure Type Size (cm) Histology T N Inguinal LN metastasis Stage Cur
1 APR 5 6 tub2 3 0 N.A. II A
2 APRS 5 10 tub2 4 1 positive IIIA C
3 TPE 5 9 muc 3 1 N.A. IIIA A
4 APR 5 6 muc 3 3 N.A. IV (LYM) C
5 APR 1 2 tub1 4 0 N.A. II A
6 APR 5 10 muc 4 3 N.A. IIIB C
7 APR 5 8 muc 4 0 negative II A
8 TPES 5 14 scc 4 1 positive IIIB A
9 Hartmann’s 5 10 muc 4 3 N.A. IV (LYM) C
10 APR 5 4 muc 3 0 N.A. II A
11 TPES 5 3 muc 4 0 N.A. II A
12 APR 5 6 scc 3 0 N.A. II A
13 APR 5 15 muc 4 0 N.A. II A
14 TPES 5 10 tub1 3 0 negative II A
15 TPE 4 8 muc 4 3 positive IV (LYM) B
16 TPES 5 15 tub1 3 0 N.A. II A
17 TPES 5 10 scc 3 0 negative II A
18 APR 5 10 muc 3 0 negative II A
19 TPES 5 13 muc 4 1 positive IIIA A
20 TPE 5 20 muc 4 3 N.A. IV (LYM) C
21 APR 5 6 muc 4 0 N.A. II A
22 APRS 3 4 muc 4 0 N.A. II A
23 TPES 5 8 muc 3 0 negative II A
24 APR 4 9 muc 4 3 N.A. IV (LYM) C
25 APR 5 7 muc 4 0 N.A. II C

Abbreviations: APR=abdominoperineal resection; APRS=abdominoperineal resection with sacral resection; TPE=total pelvic exenteration; TPES=total pelvic exenteration with sacral resection; LN=lymph node; N.A.=not applicable

Fig. 1 

A: The 5-year overall survival rates according to curability were 63.0% for Cur A and Cur B patients and 0% for Cur C patients (Kaplan-Meier method). B: The 5-year relapse-free survival rate for Cur A and Cur B patients was 51.8% (Kaplan-Meier method). Local recurrence occurred in 2 patients, inguinal lymph node metastasis in 2 patients, liver metastasis in 1 patient, and peritoneal metastasis in 2 patients.

Table 4  Comparison of clinicopathological features between the CD and non-CD groups
Feature CD group (n=7) Non-CD group (n=18) P
Age (mean±S.D.) 44±6 64±9 <0.0001
Gender (male : female) 6 : 1 17 : 1 0.49
Interval of anal fistula (year, mean±S.D.) 16.0±9.1 18.6±16.8 0.70
Histology (tub : muc : scc) 1 : 5 : 1 4 : 12 : 2 0.89
Depth of invasion (T3 : T4) 3 : 4 7 : 11 >0.99
Lymph node metastasis (negative : positive) 3 : 4 12 : 6 0.38
Distant metastasis (negative : positive) 4 : 3 16 : 2 0.11
Stage (II : III : IV) 3 : 1 : 3 12 : 4 : 2 0.23
Recurrence or remnant (negative : positive) 5 : 2 9 : 9 0.41
5-year survival rate (%) 38.1 50.1 0.53

Abbreviation: CD=Crohn’s disease

考察

痔瘻癌は進行した状態で発見されることが多く,組織学的に痔瘻から発生したことを証明することは困難である.それゆえ診断基準としては,臨床経過を重視した以下の5項目が用いられている.すなわち,①痔瘻が長期(10年以上)にわたって慢性炎症を繰り返している,②痔瘻の部分に疼痛,硬結がある,③ゼリー(ムチン)様の分泌物がある,④原発性の癌を直腸肛門部以外に認めない,⑤痔瘻開口部が肛門管または肛門陰窩にある,である11)~13).しかし,この基準には,上記の項目のいくつ以上満たした場合に痔瘻癌と診断をするかについての定義がない.今回検討した25例中8例が痔瘻罹病期間10年以下であった.しかし,全例とも上記の②④⑤の条件を満たし,5例は③の条件も満たしたことから,総合的に痔瘻癌と診断した.過去の報告でも痔瘻罹病期間が10年以下の症例は36%(165例中60例)1),17%(30例中5例)14)と少なくない.痔瘻癌は管外性,深部に発育するものも多く,自覚症状がなかなか出現しないことが,罹病期間が短い症例が存在する原因の一つと考えられる.痔瘻癌の頻度は全痔瘻の0.1%15),全大腸癌の0.5~1.3%16)~18)といわれており,その頻度は決して高くない.今回の検討でも痔瘻癌の頻度は痔瘻手術例の0.5%であった.しかし,深部痔瘻に限ると発生頻度は深部痔瘻手術例の2.4%,IV型痔瘻手術例に限ると7.1%とかなり高頻度に認められた.

痔瘻癌の予後改善には早期診断が必須である1)19)20).慢性難治性で長期経過をたどる痔瘻症例で,以前にはなかった疼痛の悪化,粘液分泌,狭窄,硬結,腫瘤の出現など,臨床症状が変化したり悪化したりした場合に痔瘻癌を疑う13)16)21)22).痔瘻癌症例の80%に新たな異なる症状が出現し,症状の変化が見られたとの報告もある14).しかしながら,症状が増悪したときにはかなり進行していることも多い.普段から痔瘻(特に深部痔瘻)の長期経過例,難治例は痔瘻癌を念頭に置いた診察が必要と考える.痔瘻癌を疑ったら,硬結部,瘻管,一次口,二次口,狭窄部などからの生検を行う17)21)22).特に瘻管内,一次口が望ましいとの報告もある23).管外に主座を有することが多い痔瘻癌は,内視鏡下生検で確定診断が得られることは少なく,腰椎麻酔下生検が有用である22).今回の検討においても,通常の生検(内視鏡下,局麻下)での確定診断は3分の1程度にとどまり,過半数が腰椎麻酔下生検により確定診断が得られた.加瀬ら24)は1回の生検のみでの診断率は42.9%と偽陰性が多いと報告している.臨床所見から痔瘻癌が疑われる場合は,初回の生検結果が陰性であっても繰り返し生検を行うことが肝要である21)22).今回の検討においても1回の検査で確定診断に至ったのは12例(48%)であり,4回目で確定診断に至った症例もみられた.分泌物(粘液)の細胞診も有用であり17)21)22),本検討でも陽性率は43%であった.腫瘍マーカーは56%の症例に上昇を認めたが,腫瘍マーカー陽性症例は進行症例が多く,早期診断には適さなかった.画像診断としては,CT,MRI,FDG-PETなどがあげられる.MRIでは粘液癌に特徴的とされる,T2強調画像での顆粒状の高信号の集合所見の所見が有名であり10),今回検討できた23例中9例にその所見を認めた.浸潤範囲の同定にも有用と報告されている.FDG-PETは粘液癌の陽性率が41~58%と低い25)ことから,粘液癌を合併することが多い痔瘻癌の検査には適さないとされている22).本検討では6例中4例に集積を認めた.

今回の検討では,肉眼型は下部直腸・肛門管粘膜面に腫瘍性病変を認めず,5型と診断したものが84%を占めており,平均腫瘍径も8.6 cmと管外性に大きく発育するものが多く,粘液癌が68%を占めた.過去の報告でも肉眼型は5型が75.2%1),粘液癌が60.8%1),74%16)と,今回の検討と同様であった.また,扁平上皮癌を3例に認めた.これらは全て病理学的に瘻管内に腫瘍細胞が存在しており,肛門管扁平上皮と連続していなかったことから痔瘻癌と診断した.肛門腺を構成する細胞として円柱上皮,移行上皮,扁平上皮があり14)26),痔瘻癌が扁平上皮癌の組織像を呈する割合は3.2%1),7.4%14)である.リンパ節転移に関しては,40%が転移陽性であった.過去の報告でもリンパ節転移陽性率は28.9%1),30%14),39%16)と,高度浸潤症例が多い割にリンパ節転移陽性頻度が低い.鼠径リンパ節転移は全症例の16%に認め,廓清症例においては44%(9例中4例)に転移を認めた.過去の報告では15.4%1),6.7%14),9%16),21.4%27)であった.術前に転移を疑う症例については鼠径リンパ節郭清を行うべきと考える.

痔瘻癌は大部分が腺癌であることから,その治療は外科的切除が原則である.しかし,痔瘻癌は管外性発育を来すことから,切除断端陽性率が100%17),47%14),43%18),33%1)と高率であると報告されている.今回の検討では腫瘍切除を行った24例中6例(25%)が断端陽性であったが,既報告に比べて若干低率であった.その理由としては,当院では他臓器浸潤を有する症例に対しては積極的に骨盤内臓全摘術(場合により仙骨合併切除も併施)を行っており,それにより切除断端確保が可能な症例を認めたことが考えられる.しかしながら,骨盤壁まで浸潤する症例は本術式でも根治切除不能であり,今回の検討での断端陽性6例は,全例骨盤壁浸潤のため治癒切除不能となった症例であった.なお,扁平上皮癌の3例について,クローン病を合併していない2例は非常に複雑かつ広範囲に広がっていたこと,クローン病を合併した1例は多発の腟瘻を認め,また腺扁平上皮癌の可能性もあったことから,化学放射線療法ではなく手術を施行した.

予後については,今回の検討では全25例の5年生存率は45.8%であったが,治癒切除有無別でみると根治度AB:C=63.0%:0%と根治度AB症例は比較的予後良好であった.過去の報告でもpR0症例は74%16),64.3%14)と比較的良好である.切除可能な症例に対しては完全切除を目指した積極的な拡大手術が望まれる.

近年,切除断端の確保が困難な痔瘻癌症例に対して化学放射線療法を施行し,有効であったという報告が散見される28)~31).一方,粘液癌に対しての有効性は乏しいとの報告もある32).進行痔瘻癌に対する化学放射線療法の有効性については,今後も症例数を重ねて検討すべきと思われる.

欧米ではメタアナリシスにより,広範囲に炎症のあるクローン病患者では潰瘍性大腸炎と同様の大腸癌リスクがあることが示されている33)34).欧米では大腸癌の好発部位は右側結腸とされているが3)4),我が国では直腸肛門部の癌,特に痔瘻癌が多い5)~7).今回の検討では7例のクローン病に合併した痔瘻癌を認めた.7例ともクローン病の罹病期間は10年以上の長期経過例であった.クローン病合併の有無で痔瘻癌の臨床病理学的因子や予後を比較したが,癌診断年齢がクローン病合併群で若年である以外,差を認めなかった.潰瘍性大腸炎関連大腸癌は散発性大腸癌と比べて若年発症が多く,粘液癌,印環細胞癌が多いとされている35).若年発症という点では一致したが,組織型については潰瘍性大腸炎とは異なる結果であった.クローン病に対する大腸癌サーベイランスは確立されてはいないが,クローン病罹病期間が10年以上の長期経過例や肛門病変を有する症例に対しては,定期的な肛門診察を行い,痔瘻病変の増悪,排膿の増加といった臨床症状の変化,悪化を認めたときには,組織採取を含めた精査を行うことが痔瘻癌の早期発見につながると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top