The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Long-term Outcome in Elderly Patients with Colon Cancer Determined Using the Estimation of Physiologic Ability and Surgical Stress Scoring System
Yasutomo OjimaMasao HaranoNoriaki TokumotoMasazumi Okajima
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2016 Volume 49 Issue 7 Pages 588-593

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Abstract

目的:高齢者の悪性腫瘍に対する手術は,根治性とともに術前の機能状態へ早期回復できるような治療方針を考慮すべきと考えられる.しかし,手術侵襲が長期予後に影響を与えるか検討された報告は少ない.そこで周術期の侵襲度評価にestimation of physiologic ability and surgical stress (以下,E-PASSと略記)scoring systemを用いて,手術侵襲が高齢者大腸癌の長期予後に与える影響を検討した.対象と方法:2007年1月から2009年12月までに手術を施行した,腫瘍占居部位が盲腸から直腸S状部(RS)までの75歳以上,根治度A切除が可能であった83例を対象とした(多発癌,緊急手術症例は除外した).E-PASS scoring systemの総合リスクスコア(comprehensive risk score;以下,CRSと略記)を用いて手術侵襲を評価し検討した.結果:CRS高値群はCRS低値群に比較して周術期合併症が増加し,自宅退院率が低下し,5年生存率も有意に低かった.結語:高齢者大腸癌手術において,E-PASS scoreから侵襲度を評価して長期予後を検討すると,周術期の侵襲が短期予後のみでなく長期予後にも影響を与える可能性が示唆された.

はじめに

高齢者に対する悪性腫瘍の手術方針は,根治性を追求することに加え,術後早期に術前の機能状態へ回復可能なことも加味して決めるべきである.高齢者の術前状態と手術侵襲が,術後早期の合併症の発症や短期予後に影響することは多数報告されている1).しかしながら,手術侵襲が長期予後に影響を与えるか検討された報告は少ない2).そこで,estimation of physiologic ability and surgical stress(以下,E-PASSと略記)scoring systemを用いて周術期の侵襲度評価を行い,高齢者大腸癌に対する手術侵襲が長期予後に与える影響を検討した.

対象と方法

当院で2007年1月から2009年12月までに手術を施行した大腸癌症例479例中,腫瘍占居部位が盲腸から直腸S状部(RS)までの,75歳以上,根治度A切除が可能であった83例を対象とした(多発癌,緊急手術症例は除外した).E-PASS scoring systemの総合リスクスコア(comprehensive risk score;以下,CRSと略記)を用いて手術侵襲度を評価し検討した.

E-PASS scoring systemは術前リスクスコア(preoperative risk score;以下,PRSと略記),手術侵襲スコア(surgical stress score;以下,SSSと略記)からなり,これらの値からCRSを算出する.PRSは年齢,重症心疾患の有無,重症肺疾患の有無,糖尿病の有無,PS,ASAの麻酔スコアから算出する.SSSは体重あたりの出血量,手術時間,手術切開創の範囲から算出する(Fig. 13).臨床病理学的事項は大腸癌取扱い規約第7版に準じた4).統計学的有意差検定はχ2検定,2群間の有意差検定にはMann-Whitney’s U検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした.生存率はKaplan-Meier法にて算出,生存率の検定はlog-rank法を用いた.さらに,Coxの比例ハザードモデルにてハザード比を検討した.統計解析ソフトはJMP 11を用いた.合併症の程度はClavien-Dindo分類5)を用いて評価した.

Fig. 1 

Equation for E-PASS scores: preoperative risk score (PRS), surgical stress score (SSS), and comprehensive risk score (CRS). Haga et al.3)

結果

全症例の年齢の中央値81歳(75~96),性別は男性41例,女性42例,アプローチ法別では腹腔鏡下手術25例,開腹術58例であった.全例のPRSの中央値0.535(0.257~1.259),SSSの中央値0.105(–0.249~0.378)であり,これらから算出されるCRSの中央値は0.252(–0.266~0.939)であった.そこでCRS 0.252をカットオフ値としてlow CRS(以下,L群と略記)とhigh CRS(以下,H群と略記)で分類し,長期予後に関して検討した(Table 1).L群は42例,H群は41例であった.

Table 1  Patient characteristics
All patients Low CRS High CRS
Cases 83 42 41
PRS 0.535 0.477 0.669
SSS 0.105 –0.220 0.130
CRS 0.252 0.085 0.432

Value are expressed as median

患者背景として性別,腫瘍占居部位,進行度には有意差を認めなかったが,H群で有意に高齢であった.また,リンパ節郭清度,手術時間には有意差を認めなかったが,アプローチ法は,L群で開腹21例,腹腔鏡21例,H群では開腹37例,腹腔鏡4例であり,L群で有意に腹腔鏡手術が高率であった.手術時間に有意差は認めないものの,出血量はL群で有意に少量であった(Table 2, 3).

Table 2  Patient characteristics
Low CRS High CRS P-value
Cases 42 41
Age Mean 79 82 0.0008
Range (75–87) (75–96)
Gender Male:Female 18:24 23:18 NS
Operative approach (OPEN:LAP) 21:21 37:4 <0.0001
Location C 5 7
A 11 8
T 7 5 NS
D 2 4
S 10 10
RS 7 7
Table 3  Patient characteristics
Low CRS High CRS P-value
Stage 0 0 1
I 8 4
II 19 22 NS
IIIa 8 10
IIIb 7 4
Lymph node dissection D1 2 3
D2 12 14 NS
D3 28 24
Operation time (min) Mean 195 176 NS
Range 73–320 92–301
Blood loss (g) 30 60 0.001

術後合併症に関しては,L群8例(19%),H群19例(46%)と,H群に有意に高率であった(Table 4).合併症の程度をClavien-Dindo分類5)(以下,CD分類と略記)にて評価すると,L群では全例CD分類II以下であったが,H群ではCD分類III以上を7例(17%)に認め,H群で有意に高率であった(P=0.01, Table 5).

Table 4  Postoperative complications
Low CRS High CRS P-value
Superficial SSI 5 1
Delirium 0 2
Leakage 0 1
Small bowel obstruction 1 3
Brain infaction 0 1
Pneumonia 0 2
Cholecystitis 0 1
Urinary tract infection 0 2
Others 2 6
Total case 8 (19%) 19 (46%) P=0.01
Table 5  Postoperative complications (Clavien-Dindo classification 5)
Low CRS High CRS P-value
Grade I 7 5
II 1 7
IIIa 0 2
IIIb 0 2
IVa 0 0
IVb 0 0
V 0 3
Total case 8 (19%) 19 (46%) P=0.01

在院死亡を除いた術後の在院日数はL群で有意に短い傾向を認めた.また,退院経路に関しては,L群では自宅への退院が38例(90.5%)であったが,H群では30例(73.2%)とやや低率であった(Table 6).

Table 6  Postoperative course
Low CRS High CRS P-value
Post operative hospital stay Mean 13 14.5 0.001
Range 9–20 9–141
Discharge course Going home 38 (90.5%) 30 (73.2%) NS
Hospital transfer 4 (9.5%)  8 (19.5%)

長期予後を検討すると,L群では原病死3例,他病死2例,H群では原病死8例,他病死4例(在院死亡3例を含む)であった.在院死亡症例を除いて長期予後を検討すると,5年生存率はL群で92%,H群で63%であり,L群で有意に良好であった(Fig. 2).CRSの長期予後への寄与をCox比例ハザードモデルで検討すると,ハザード比は0.29(95%信頼区間0.08~0.86)と有意であった(P=0.03).

Fig. 2 

Overall survival.

考察

日本では2007年に高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が21%を超え超高齢社会を迎えた.2014年8月1日現在の人口推計による高齢化率は25.8%に達し,75歳以上の人口は15,859,000人で,総人口の12.5%を占める状況となっている6)

高齢者大腸癌の組織型,病期,予後は非高齢者大腸癌とほぼ同様であり,生物学的悪性度にも差がないとする報告が多い7)8).しかし,高齢者では,種々の臓器の機能低下や術前の合併症を有しているため,治療法の選択や手術のアプローチ法の選択に迷う症例も多く,一旦術後合併症を生じると,予備能が低下しているために重症となることも経験する.合併症を乗り切れても,高齢者では術後ADLの低下が大きいとする報告もあり,予後への影響も考えられる9)

そこで本研究では,75歳以上の高齢者大腸癌において手術侵襲が長期予後にどの程度影響を与えるかについて検討した.

手術侵襲の評価にはE-PASS scoring systemを使用した.

E-PASSは1999年Hagaら3)が提唱し,これまでにその有用性が報告されてきた.E-PASS scoring systemのPRSとSSSを計算し,これらの値から算出されるCRSを2群(H群,L群)に分け検討した.PRSもSSSのいずれもH群で有意に高い傾向を認めたが,これは前述のようにCRS算出にPRSとSSSを用いていることによる.また,L群に腹腔鏡下手術が高率であるが,SSSの算出の際,手術創の大きさとして,腹腔鏡下手術の場合0を,開腹術の場合1を挿入する影響があると考えられる.

CRSが増加するほど,術後合併症が増加することが報告されている2)10).しかしながら,手術による侵襲が長期予後に影響を与えるか否かを検討した報告は少ない2)

一方でAmemiyaら9)は,75歳以上の大腸癌・胃癌症例の検討で,CRSが大きい症例ほど術後ADLの低下が大きく,回復までに時間を要することを報告している.本研究においても,H群では自宅への退院症例が少ない傾向を認め,上記の結果を裏付けていると考えられた.

万井ら11)は,75歳以上の高齢者大腸癌の独立予後因子として根治度,リンパ節転移の有無,術後合併症の有無と報告している.本研究では全例根治度Aの切除がなされており,またリンパ節転移の頻度も両群間に差を認めなかった.したがって,上記の予後因子の内で術後合併症の有無が今回の検討結果が得られた要因として挙げられると考えられた.術後合併症はH群に多く,CD分類でも重篤なものを多く認めており,この結果もH群の生存率を低下させた一因と考えられた.

H群の生存率は,L群に比べ有意に不良であった.H群はPRSもL群に比べ有意に高値であり,主要臓器の予備能低下から全身状態の低下を生じ,予後に影響を与えた可能性も否定できない.

Hagaら2)は胃癌における同様の研究で,高度の手術侵襲が術後ADL,栄養状態,免疫機能の低下を惹き起こし生存率の低下につながったのではないかと推測している.

今回の検討から高齢者大腸癌の場合,高度な周術期の侵襲は早期術後合併症の発生に影響するのみではなく,長期予後にも影響する可能性が示唆された.したがって,CRSをできるかぎり低値とするような治療選択が必要で,特に術前PRS高値の症例に対してはSSSを低減するように手術療法を考慮すべきである.手術に際して,可能であれば腹腔鏡下手術で,短い手術時間,少ない出血量で手術を行う必要性を再認識した.

利益相反:なし

文献
 

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