The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Adenocarcinoma of the Duodenum with Cystic Local Invasion and Lymph Nodes Metastasis
Masashi InoueMasahiro TanemuraToshimitsu IreiShin NakahiraGenta SawadaShinya YamashitaMoon Chung HoYousuke ShimizuHarumi TominagaNobutaka HatanakaKazuya Kuraoka
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2016 Volume 49 Issue 9 Pages 873-881

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Abstract

症例は53歳の男性で,人間ドックにて膵頭部付近の多発囊胞を指摘された.6か月間に多発囊胞は増大した.それぞれの囊胞には囊胞内隔壁や壁内結節を認めず,主膵管との交通も認めなかった.上部消化管内視鏡検査で原発性十二指腸癌と診断され,全ての囊胞とあわせて膵頭十二指腸切除術を行った.切除標本の病理検索では十二指腸球部前壁を中心に5.5×4.2 cmの不整な周堤を伴う潰瘍性病変を認め,乳頭状腺癌と診断した.癌は著明な細胞外粘液を産生し多囊胞状となっていたが,膵内に囊胞は認められず,膵管内粘液性乳頭腫瘍は否定された.一部の囊胞周囲にリンパ節組織を含む部分を認め,多発囊胞は粘液産生細胞を含んだ癌細胞の局所浸潤とリンパ節転移によるものと診断した.粘液免疫染色検査では胃型形質を有していた.原発性十二指腸癌は消化器症状を契機に発見されることが多いが,十二指腸近傍に多発囊胞を認めた場合は本疾患も考慮されるべきである.

はじめに

乳頭部癌を除く原発性十二指腸癌は,消化管原発悪性腫瘍の0.3%程度を占める比較的まれな疾患であり,腹痛や嘔吐などの消化器症状を契機に発見されることが多い1)2)

今回,我々は消化器症状を示さず多発性囊胞を契機に発見された原発性十二指腸癌に対して,囊胞切除を含めた膵頭十二指腸切除を行った1例を経験したので報告する.

症例

患者:53歳,男性

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2011年まで毎年人間ドックの腹部超音波検査を受けていたが,異常を指摘されたことがなかった.2012年8月,人間ドックで膵頭部付近の多発囊胞を指摘され当院紹介となった.MRI,EUSを施行したが,囊胞内結節や膵内腫瘤は認めなかった.ERCPは希望されず,経過観察を行った.2013年3月,CT・MRIで胃十二指腸壁・膵頭部付近の囊胞の増加・増大を認めた.上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部後面に発赤および浮腫を認めたため生検したところ中分化管状腺癌が検出された.原発性十二指腸癌と診断され,当科紹介となった.

現症:身長170 cm,体重75.8 kg.腹部は平坦・軟で腫瘤の触知なし.眼瞼結膜に黄染なし.

血液検査所見:WBC 7,900/μl,Hb 14.5 g/dl,GOT 21 IU/l,GPT 29 IU/l,T-bil 1.1 mg/dl.CEA 0.7 ng/ml,CA19-9 7 U/ml.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸球部後壁に易出血性で不整な粘膜を認め,生検で中分化管状腺癌を認めた(Fig. 1A, B).

Fig. 1 

A, B: GIF shows easy bleeding lesion in the 1st portion of the duodenum.

腹部CT所見:十二指腸球部壁に浮腫状肥厚を認めた.膵頭部付近を中心に胃幽門部や十二指腸球部周囲にかけて大小多数の囊胞性病変が認められた(Fig. 2A~C).

Fig. 2 

A, B, C: Abdominal CT shows multiple cystic lesions around the pancreas head.

ERCP所見:Vater乳頭から粘液排泄は認めなかった.主膵管拡張はなく,主膵管と囊胞との交通は認めなかった.膵液細胞診で異形細胞は認めなかった.また,胆管3管合流部付近に外側から圧排されている所見を認めた(Fig. 3A, B).

Fig. 3 

A: ERCP shows the pancreatic duct was not dilated and did not communicate with cysts, while the common bile duct was compressed without obstruction or stricture. B: ERCP shows no mucinous discharge from the papilla of Vater. C: Endoscopic US shows no intramural nodule in the cystic lesion.

EUS所見:囊胞内に隔壁や壁内結節を認めなかった(Fig. 3C).

腹部MRI所見:十二指腸球部壁に,T2WIで淡い高信号およびDWIで高信号を認めた.膵頭部周囲を中心に大小多数の囊胞性病変を認めた.一部は十二指腸球部周囲にも認めた.経過を追った6か月間で囊胞の増大および増加を認めた(Fig. 4A, B).

Fig. 4 

A: Abdominal MRI shows multiple cystic lesions around the pancreas head. B: Six months later, multiple cystic lesions became bigger and increased in number.

FDG-PET所見:十二指腸にSUVmax7.1の集積を認めた.膵頭部に多発する囊胞内に有意な集積は認めなかった(Fig. 5A, B).

Fig. 5 

A, B: FDG-PET. FDG-PET revealed high FDG accumulation in the duodenum with an uptake value of 7.1. FDG accumulation was not found in any cyst.

以上の所見より,原発性十二指腸球部進行癌と診断し,多発囊胞の増大傾向より後腹膜原発囊胞腺癌などの悪性病変の可能性も否定できないことから,多発囊胞の切除を含めた膵頭十二指腸切除術を予定した.

手術所見:上腹部正中切開で開腹した.肝転移,腹膜播種を認めなかった.膀胱直腸窩,モリソン窩での術中洗浄腹水の細胞診での癌細胞は陰性であった.十二指腸下行脚の壁は硬く漿膜面は一部白色に変化が見られた.また,十二指腸下行脚から胃前庭部漿膜面にまで小指頭大~示指頭大の硬い囊胞が認められた(Fig. 6A).16a2/b1リンパ節を廓清し術中迅速組織診断で悪性所見を認めなかった.多発囊胞を含めた局所切除が可能であることより,膵頭十二指腸切除術を術式選択した.多発囊胞はいずれも破損することなく切除できた.再建はChild変法で行った.

Fig. 6 

A: Each cyst ranged from the 2nd portion of the duodenum to the antrum of stomach. B: The resected specimens showed an ulcerative lesion of the duodenal bulb and cystic lesions in the duodenal and antrum wall.

摘出標本所見:十二指腸球部前壁を中心に5.5×4.2 cmの不整な周堤を伴う潰瘍性病変を認めた.この潰瘍性病変および十二指腸粘膜面に囊胞性変化は認められず,十二指腸漿膜面や胃前庭部漿膜面に透明な粘液を含んだ薄く内面平滑な壁を有する囊胞が多発していた.膵臓および膵管には明らかな異常所見を認めなかった(Fig. 6B).

病理組織学的検査所見:潰瘍底には囊胞状変化を示さない原発巣とみなされる十二指腸粘膜内乳頭状腺癌が認められた(Fig. 7A, B).これと連続して粘膜下層以深では癌細胞は著明な無色の細胞外粘液を産生し,薄く内面平滑な多囊胞状となっていた.膵内に囊胞は存在せず,膵実質および膵管に著変はなく,膵管内粘液性乳頭腫瘍は認められなかった(Fig. 7C).一部の多発囊胞の周囲にはリンパ節組織が認められ,いずれの囊胞壁にも膵組織は認められず,裏装上皮様の癌細胞に裏打ちされていた(Fig. 7D).これらの囊胞は粘液産生細胞を含んだ癌細胞の局所浸潤とリンパ節転移によるものと診断した.TNM分類ではT4,N3a(peri-duodenum7/12),ly0,v0,M0,P0,CY0,Stage IIIcであった.粘液染色検査の結果,MUC2染色陰性,MUC5AC染色陽性,MUC6染色陽性であり,胃型形質を有していた(Fig. 8A~C).

Fig. 7 

Histological findings. HE staining (A ×20,B ×200 (Fig. 7A), C ×20, D ×200). A, B: Histological examination of duodenal lesion shows papillary cystic adenocarcinoma. C: Cysts were located in the duodenal wall. The pancreas was intact. D: Mucinous nodules with malignant cells arose from the base of the lymph nodes.

Fig. 8 

Histological findings. A: MUC2 (×200) is negative. B: MUC5AC (×200) is positive. C: MUC6 (×200) is positive.

術後は膵頭十二指腸切除術後の補助化学療法としてS-1療法を行い,術後6か月後にリンパ節再発,腹膜播種,肺転移を認めた.以降,PTX療法を13か月行い,腹膜播種増大のため,FOLFIRI療法に変更し,8か月後に腹膜播種・肺転移の増大を認めたため,現在までFOLFOX療法を行っている.術後2年10か月現在外来通院中である.

考察

本症例では原発性十二指腸癌は囊胞状リンパ節転移を示しうることを報告した.原発性十二指腸癌は比較的まれな疾患であり,剖検例では全消化器癌の0.3%と報告されている.医学中央雑誌で1977年~2014年の期間で「十二指腸癌」をキーワードに検索したところ,本邦で原発性十二指腸癌10例以上をまとめた報告は8編あった(Table 13)~10).これらの報告例でみると,男女比は男性に多く,平均年齢は62~73歳であった.有症状率は55~100%であり,嘔吐や腹痛がみられることが多く,閉塞性黄疸を呈した症例も認められた.局在は第2部に最も多く,リンパ節転移率は35~75%と比較的高率に認められた.局在とリンパ節転移の範囲を反映し,膵頭十二指腸切除術に準じた術式が選択されることが多い.組織系は高分化,中分化腺癌が多い傾向にあり,予後は3年生存率35~85%,5年生存率30~68%と報告されている.

Table 1  More than 10 reported cases of duodenal adenocarcinoma in Japan
Case Author/Year Number Average age Male Female Symptomatic rate Chief complaints Location Histology Lymph node metastasis Prognosis
1 Higuchi3)/1987 10 66 4 6 100% anemia 8
weight loss 7
abdominal pain 6
ileus 5
jaundice 2
suprapapillary 8
infrapapillary 2
well 10 75% 5-year survival 36%
2 Eriguchi4)/1993 12 64 3 9 100% abdominal pain 4
vomiting 3
anemia 2
general fatigue 1
jaundice 1
bleeding 1
1st 4
2nd 5
3rd 3
42%
3 Hirai5)/1994 11 66 7 4 100% bleeding 7
vomiting 6
abdominal pain 5
jaundice 2
suprapapillary 6
infrapapillary 5
well 7
undifferentiated 1
mucinous 1
unknown 2
64%
4 Sugawara6)/2001 20 63 14 6 90% vomiting 11
epigastralgia 7
1st 3
2nd 14
3rd 3
tub1 6
tub2 10
por 3
pap 1
75%/No. 13a 60%
   No. 8a 25%
   No. 4d 20%
   No. 6 15%
   No. 14p 20%
   No. 16 5%
3-year survival 35%
5-year survival 30%
5 Onoue7)/2006 10 73 8 2 100% vomiting 5
abdominal pain 2
1st 3
2nd 6
3rd 1
tub1 2
tub2 5
por 2
70%/No. 13a 20%
   No. 13b 10%
   No. 8a 20%
   No. 6 10%
5-year survival 58%
6 Takahashi8)/2008 20 62 15 5 55% abdominal pain 7
jaundice 2
1st 4
2nd 13
3rd 3
tub1 7
tub2 8
por 2
pap 2
muc 1
35%/No. 13 25%
   No. 17 20%
   No. 8a 10%
   No. 6 5%
   No. 16 10%
3-year survival 85%
5-year survival 68%
7 Ogawa9)/2009 10 66 5 5 100% epigastralgia 5
jaundice 4
1st 2
2nd 8
3rd 0
70%/No. 13a 40%
No. 13b 20%
   No. 17 20%
   No. 6 20%
   No. 12a 20%
8 Inose10)/2009 27 67 17 10 66.7% abdominal pain 10
vomiting 2
jaundice 2
anemia 2
1st 4
2nd 13
3rd 3
tub1 16
tub2 10
por 1
66.70% 5-year survival 50%

自験例では,多発囊胞を契機に十二指腸癌が発見された.リンパ節転移の囊胞化を来す癌として甲状腺乳頭癌が知られており,武者ら11)によると甲状腺乳頭癌症例103例中5例(4.2%)に肉眼的に囊胞病変を認めたと報告している.甲状腺乳頭癌のリンパ節転移が囊胞状を呈する機序としてToviら12)は転移巣の腫瘍の急速な増大により液状壊死を来し液体を満たした囊胞状のリンパ節転移を形成するとしている.自験例は,十二指腸球部の周堤の低い潰瘍性病変であり症状は見られなかったが,十二指腸周囲のリンパ節に粘液産生細胞を含んだ乳頭状腺癌細胞が転移し形成された囊胞を契機に発見された.このような多囊胞状変化を認めた原発性十二指腸癌の症例は我々が文献検索した範囲では認められず,本症例がその第一例である.

また,免疫染色検査による形質発現の表現型についても検討した.原発性十二指腸癌のリンパ節転移陽性例であった場合,胃癌や大腸癌と同様に補助化学療法が選択されることが多いが,薬剤の選択については一定のコンセンサスは得られていない.粘液免疫組織学的には胃腺窩上皮粘液はMUC5AC陽性粘液,幽門腺ならびに腺頸部副細胞にはMUC6陽性粘液が証明される.一方腸上皮化生腺管の杯細胞ではMUC2陽性粘液を認める.自験例においての粘液免疫染色検査の結果はMUC5AC染色陽性,MUC6染色陽性であり,胃型形質を有していた.胃癌において胃型腺癌は細胞・組織異型度が低く,低異型度で高分化型の形態のまま粘膜下層以深に浸潤し脈管侵襲を伴う頻度が高いことなど13)が知られており,本症例の特徴と一致していた.進行胃癌の形質発現と予後との関連については,組織分化度に匹敵する因子となる可能性は報告されておらず,形質発現の表現型により治療法を変更することはされていない.原発性十二指腸癌における粘液形質発現を評価した症例はこれまでに1例あるのみであり,術後化学療法は行われず,経過観察の後,術後1年3か月目に腹膜播種再発で死亡されている14).本症例では膵頭十二指腸切除術後の補助化学療法として胃癌に準じS-1療法を行い,二次治療としてPTX療法を行った後,切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法としてFOLFIRI療法,FOLFOX療法を行った.今後,原発性十二指腸癌の形質発現と予後との関連については症例の蓄積が必要である.

原発性十二指腸癌は多囊胞状変化を呈しうることを示し,免疫染色検査により形質発現の表現型を調べ検討した.腹腔内に多発囊胞を認めた場合,囊胞状リンパ節転移の可能性も考慮して消化管精査をする必要がある.本例のような消化器症状を示さない囊胞状局所浸潤やリンパ節転移は発見されずに放置される可能性もある.今後発見される機会が増え,症例の蓄積によって発生との関連や生物学的悪性度との相関および化学療法の効果についての検討が期待される.

利益相反:なし

文献
 

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