The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Usefulness of Preoperative CT Simulation for Anatomical Hepatectomy of Liver Metastases in a Patient with Right Sided Ligamentum Teres
Tomoko TanakaTakeshi IwasakiAtsushi TakebeKenro HirataTakeru MatsudaMasaaki MitsutsujiYoko MaekawaEtsuji Shimada
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2017 Volume 50 Issue 1 Pages 18-25

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Abstract

症例は71歳の女性で,貧血精査にて横行結腸進行癌および肝右葉傍正中領域(S5/8)に2個の転移性肝癌を指摘された.当初右肝円索と診断しておらず,肝病変切除には中央2区域切除が必要と判断した.同時切除は侵襲が大きいと考え結腸左半切除を先行した.術後,化学療法を6コース施行し,初回手術後5か月に肝切除の方針とした.肝切除前の3D-CTによる解析でRex-Cantlie線の右側に肝円索を認め右肝円索と診断した.肝切除ではCTシミュレーションにより術前に同定したグリソン枝をテーピング,阻血領域を確認した後,右傍正中領域背側のみの肝実質温存切除によりR0切除を得た.術後3年現在,再発を認めていない.右肝円索ではグリソン系変異を高頻度に伴うため,安全に解剖学切除を行うために,第一に術前本変異を認識すること,その上でCTシミュレーションを利用し綿密な切除計画を立てることが重要と考えられた.

はじめに

右肝円索(内臓逆位を伴わない左側胆囊)は胎生期の発生異常に起因する比較的まれな解剖学的変異で,その診断に至らぬまま肝胆道系の手術が行われることもある.右肝円索の多くは門脈変異を有し,区域解剖や区域間の容積比率が正常と異なるため,肝切除を行う際は特に注意を要する1)~3).今回,右肝円索を伴う大腸癌多発肝転移例において肝実質温存術式を企図するうえで,術前シミュレーションが有用であった1例を経験したので報告する.

症例

患者:71歳,女性

主訴:労作時呼吸困難

既往歴:特記事項なし.

生活歴:飲酒なし,喫煙なし.

現病歴:労作性呼吸困難の自覚により近医受診,血液検査にてHb 4.2 g/dlと高度の貧血を認めた.腹部CTにて脾彎曲部下行結腸に全周性の壁肥厚と肝腫瘍を指摘され当院紹介となった.精査にて下行結腸脾彎曲部に内視鏡が通過不能な全周性の2型大腸癌を認め,進行下行結腸癌および多発肝転移と診断された.この時点では右肝円索に気付いておらず,腫瘍局在を内側区域と前区域の深部2か所と診断した.したがって,中央2区域切除が必要で同時切除は高侵襲と判断し2013年4月,結腸左半切除術を施行した.大腸癌取扱い規約(第8版)に準じた結果はD,circ,type2,tub1>tub2>muc,pSE,pN1,sH1(Grade A),sP0,cM0,sR0,fStage IV,fCurCであった.その後FOLFOX+bevacizumabによる化学療法を6コース施行した.S2に新病変を認めたが,その他の転移巣は縮小し肝切除目的で再入院となった.

入院時現症:身長150 cm,体重39 kg,眼瞼結膜は貧血様,腹部は平坦,軟,上腹部正中に初回手術の手術瘢痕を認めた.

入院時血液検査所見:Hb 7.9(g/dl)と貧血を認めた.腫瘍マーカーは結腸切除前のCEA 210.1 ng/ml,CA19-9 2,041 ng/mlから各々,6.2 ng/ml,92.9 U/mlと低下していた(Table 1).また,ICG停滞率14.8%,ICG消失率0.138と化学療法による肝予備能低下を認めた.

Table 1  Preoperative laboratory data at first (colectomy) and second (hepatectomy) operation
Before
colectomy
Before
hepatectomy
​WBC 7,300 4,400 ​/μl
​RBC 191 323 ​×1,000/μl
​Hb 4.5 11.5 ​g/dl
​PLT 39.1 16.2 ​×1,000/μl
​ALB 3.1 4 ​g/dl
​T-Bil 0.37 0.5 ​mg/dl
​D-Bil 0.03 0.03 ​mg/dl
​AST 13 24 ​IU/l
​ALT 8 12 ​IU/l
​γ-GTP 15 33 ​IU/l
​LDH 181 278 ​IU/l
​PT% 108.5 124.8 ​%
​PT-INR 0.95 0.87
​CEA 210 6.2 ​ng/ml
​CA19-9 2,041 92.9 ​U/ml

腹部造影CT所見(結腸切除前):肝S5/8に2 cm大の肝転移を2か所認めた(Fig. 1a, b).この時点で右肝円索は認識できておらず,発達したV8を中肝静脈と誤認していた(Fig. 1c).そのため肝中央2区域切除が必要と考えられ,同時切除は侵襲が大きいと判断し結腸切除を先行した.

Fig. 1 

Abdominal contrast enhanced CT before colectomy demonstrates 2 tumors in segments 8 (a, white arrowhead) and 5 (b, black arrowhead) of the liver. The branch of the middle hepatic vein (V8) is confounded with the middle hepatic vein on this occasion (c, red arrow). UP, umbilical portion; RHV, right hepatic vein; GB, gallbladder; IRHV, inferior right hepatic vein.

腹部造影CT所見(肝切除前): S2に新病変の出現を認めたが,右葉の腫瘍は縮小していた(Fig. 2a~c).門脈右傍正中領域グリソン枝が右グリソンに認めず,門脈臍部より分岐する解剖学的変異(Fig. 2a)に気付いたことから,胆囊床が肝円索の左側にあることも判明し右肝円索と診断した.

Fig. 2 

Abdominal contrast enhanced CT before hepatectomy shows that both tumors in segments 8 (a, arrowhead) and 5 (b, arrowhead) reduced in size after chemotherapy, while a new lesion developed in segment 2 (c, white arrowhead). It can be noted that the right portal vein lacks the right paramedian portal branch, which originates from the umbilical portion instead (a, red arrow), indicating the presence of portal system anomalies. Furthermore, it demonstrates that the gallbladder is located in the left side of the umbilical portion. In the plane of the Rex-Cantlie line, the middle hepatic vein is identified (c, red arrowhead). UP, umbilical portion; RCL, Rex-Cantlie line; GB, gallbladder.

3D-CT所見:画像解析ソフト(Ziosoft社)を用いた門脈構築像では門脈右枝から右傍正中領域への分枝が欠損し,同領域は門脈臍部からの分枝によって支配されていることが確認された(Fig. 3a).また,門脈支配領域の解析によりRex-Cantlie線に一致する肝左右葉境界が肝円索より左側にあることが確認され(Fig. 3b),右肝円索と確定診断した.門脈臍部盲端部背側の門脈支配領域内に右葉側の腫瘍が全て含まれていることも確認した(Fig. 3c, d).Rex-Cantlie線より中肝静脈を同定したうえでこの領域が右前区域(右傍正中領域)背側部であると判断し切除する方針とした.手術は担癌グリソンを処理し右肝静脈の腫瘍浸潤部分も一部切除,尾側では右後区域グリソンをランドマークとして切除する計画とした.予測切除容積は108 mlであった.

Fig. 3 

Three-dimensional CT analysis reveals the anomaly of the portal branches where the right paramedian portal veins arose from the umbilical portion instead of the right portal vein (a). The CT simulation of the portal segmentation demonstrates that the border between the right and left hemilivers coincide with the Rex-Cantlie line and is located in the left side of the ligamentum teres (b), at the diagnostic site of the right sided ligamentum teres. The brown areas indicate the dominant portions supplied by the dorsal branch arising from the cul-de-sac of the umbilical portion (a, c, red arrow), which covers both tumors in the right lobe (c, d, e). We planned an anatomical hepatectomy with the division of the tumor-bearing Glisson’s pedicle followed by the parenchymal transection along the demarcation lines in conjunction with the segmental resection of the right hepatic vein abutted by the tumor in segment 8 (c). UP, umbilical portion; RCL, Rex-Cantlie line; RHV, right hepatic vein; IRHV, inferior right hepatic vein.

手術所見:初回手術より5か月後,肝右葉前区背側域切除およびS2部分切除を施行した.2本の右前区域グリソンにテーピングを行い,背側域グリソンのクランプにより想定したdemarcation lineが確認できたため,虚血域に沿って肝離断をすすめ,背側の右肝静脈浸潤部を一部合併切除した(Fig. 4a~c).切除標本では切離面への腫瘍の露出は認めず,右側の切除量は106 gであった.

Fig. 4 

Intraoperative photos shows that the ligamentum teres (a, arrowhead) is found in the right side of the gallbladder bed (a, arrow). The dorsal branch of the right paramedian Glisson’s pedicle is isolated (b, arrowhead). The cut surface after hepatectomy shows the stump of the resected Glisson’s pedicle (c, red arrow) and the right lateral portal pedicle (c, red arrowhead). The right hepatic vein is resected segmentally (c, asterisks).

病理組織学的検査所見:大腸由来のadenocarcinomaの転移として矛盾しない所見であった.

術後経過は良好で第14病日に軽快退院となった.初回手術後3年の現在,無再発生存中である.

考察

右肝円索(左側胆囊)は手術症例や術前画像において0.24)~1.2%5)の頻度でみられる解剖学的変異で,Hochstetter6)の報告を嚆矢とし画像診断の進歩に伴い近年報告例が増加している.この解剖学的変異の主因は,胆囊の位置異常でなく,本来胎生3か月で閉鎖すべき右臍静脈の遺残によるものとの報告が本邦からなされて以来1)2)4),従来の「左側胆囊」を用いず「右肝円索」とすることが多い3)7).これまでの症例報告や本症の集積報告からは,右肝円索では門脈や胆管などの脈管の破格を伴うことが示されている.右肝円索は通常門脈変異を伴い,多くの症例で右葉系が発達する一方,内側区域は低形成となるなど区域間の容積比も通常と異なる.それゆえ,肝切除に際しては門脈分岐形態とその領域区分を術前に十分把握する必要がある4)8)9).自験例では右傍正中領域の容積が大きく,中肝静脈枝であるV8が目立っていたため当初中肝静脈と誤認した.そのため中央2区域切除を要すると判断していた.最近Shindohら10)は右肝円索35例の3D-CT解析による検討で門脈分岐形態を2分岐型,同時3分岐型,右外側枝独立型の3型に分類し,各々10,8,17例と右外側枝独立型の頻度が最も多いと報告しており,右外側枝独立型では,左葉切除時に左門脈根部の切離によって前区域領域まで広範囲の阻血に陥る危険性も指摘されている.また,肝静脈を領域(sector)間の境界とするCouinaud分類に肝静脈の走行が合致しない例はなく,全例中肝静脈にRex-Cantlie線が存在したことも同時に報告し,右肝円索の複雑な区域解剖の理解には,解剖学的変異の少ない肝静脈系に注視する必要性を示している.

右肝円索では門脈のみならず胆管,肝動脈などの変異を念頭にvolumetryを含めた術前シミュレーション解析による,特に慎重な切除計画が必要とされる2)11)~13).Couinaudによれば胆管・肝動脈の分岐形態は門脈分岐に必ずしも従わないとされるが,今回の症例では腹部造影CTとDIC-CTのフュージョン画像により,胆管・肝動脈は門脈に沿ったグリソン鞘内を走行していることが確認できていた.予定した肝切除は門脈臍部末梢でのグリソン枝切離であったので,胆管・肝動脈の損傷回避の念頭に肝門側グリソン鞘へ切り込まないことに留意した.

肝・胆道系手術において,術前より本変異を認識することは重要で,肝切除を計画する際,特に門脈走行異常例において,右肝円索が存在している可能性は常に意識しておく必要がある.腹腔鏡下胆囊摘出術時においても変位した肝円索が視野や操作の妨げにもなり思わぬ損傷を生じる危険性も指摘されている8)14).特に放射線科の読影所見では病的意義が乏しいことから見過ごされていることも少なくないため,外科医が認識する必要がある.Shindohら10)は門脈走行異常の他に右肝円索の診断につながる所見として①門脈臍部の右側への強い偏位,②胆囊と門脈臍部の間に肝実質がない(胆囊と門脈臍部が近接している),③静脈管索裂(門脈臍部立ち上がりの部位)の溝が深いことを挙げている.今回,我々も門脈前区域枝の変異と所見②から本変異を疑い,術前シミュレーション解析により,肝静脈と各区域の同定に至った.

肝切除の術前シミュレーションはMD-CTのデータより立体画像を構築し任意の血管の支配領域を計算・表示するもので,本邦において複数のソフトが普及している.術前シミュレーションの有用性は当初,生体部分肝移植においてグラフト容積の推定や中肝静脈分枝の再建計画・ドナー肝のうっ血領域の予測など生体部分肝移植術で数多く報告され,その信頼性が実証されてきたが15)~17),近年拡大切除や再肝切除など高難度肝切除例においての報告も増えている18)~20).今回,我々は解剖学的変異を認識せず発達したV8を中肝静脈と当初誤認しており,術前シミュレーションを行わず肝切除を行った場合に,重篤な合併症を併発する危険が潜在していた.術前に正確なRex-Cantlie線を同定することは,萎縮胆囊や胆囊摘出術後では時に困難で,術前シミュレーションが有用といえる.最近進藤ら21)は右肝円索の術前診断困難例において本変異の診断に,3D-CTシミュレーションが有用であった症例を報告している.一方,右肝円索において胆管,肝動脈の走行を包括して分析した多数例の報告はなく,胆管切除を伴う肝切除などさらに複雑な肝切除では,より慎重な解析が必要と考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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