The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Small Bowel Obstruction Due to a Paracecal Hernia Repaired with Laparoscopic Surgery
Yoshihito OhtaAsami UsuiKouta SunouchiYuichi YoshidaSatoshi ChibaHiroaki KurodaYasushi ShinoharaAkio Sakamoto
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2017 Volume 50 Issue 1 Pages 79-85

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Abstract

症例は73歳の女性で,2015年12月下旬,突然の右下腹部痛,嘔気,嘔吐で発症した.往診医の診療を受けたが症状改善しなかったため,当院救急外来を受診した.腹部診察所見では右下腹部に圧痛を認めた.来院時検査所見では特記すべき異常を認めなかった.腹部単純CTでは盲腸の背外側にclosed-loopを形成した拡張小腸を認めた.盲腸周ヘルニアによる絞扼性腸閉塞の診断となり,発症から約12時間で腹腔鏡下に緊急手術を施行した.回盲部から90 cmの回腸約20 cmが盲腸外側の傍結腸溝にある約2 cmの小孔から盲腸の背外側に嵌入していた.ヘルニア門を鈍的に広げ嵌頓小腸を整復した後,ヘルニア囊を切開開放した.嵌頓腸管に壊死所見を認めなかったので腸管切除は行わなかった.術後経過良好で第10病日退院となる.腹腔鏡下に治療しえた盲腸周囲ヘルニアの1例を経験したので報告する.

はじめに

盲腸周囲ヘルニアは盲腸周囲の腹膜のくぼみに腸管が嵌入することによって生じる内ヘルニアの一種である1)~3).今回,我々は腹腔鏡下に整復しえた盲腸周囲ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:73歳,女性

主訴:腹痛,嘔気,嘔吐

既往歴:膵炎,胃潰瘍,ヨード造影剤アレルギー,ペニシリンアレルギー.腹部手術の既往なし.

現病歴:2015年12月下旬,突然の右下腹部痛,嘔気,嘔吐で発症した.往診医による診療を受けたが症状が改善しなかったため,当院救急外来を受診した.

入院時現症:身長152 cm,体重50 kg,BMI 21.6 kg/m2,血圧143/70 mmHg,脈拍79回/分,体温37.6°C.腹部診察所見では右下腹部に圧痛を認めた.

入院時検査所見:白血球数7,900/ml,CRP 0.02 mg/dlと炎症所見はなく,特記すべき異常を認めなかった.

腹部単純CT所見:盲腸の背外側にclosed-loopを形成した拡張小腸を認め,その口側腸管は拡張し,肛門側腸管は虚脱していた(Fig. 1).

Fig. 1 

Closed-loop small bowel obstruction. CT shows a closed small bowel loop (arrows) caudal and lateral to the cecum (C).

以上の所見から,盲腸周囲ヘルニアの診断となり,発症から約12時間で腹腔鏡下に緊急手術を行った.

手術所見:臍部,右側腹部,左下腹部に5 mmポートを1本ずつ挿入し,3ポートでアプローチした.盲腸外側に嵌入した小腸が,腹膜を透して赤褐色の膨隆として透見された(Fig. 2A).小腸を排除し視野展開すると,傍結腸溝の約2 cmの小孔から小腸が嵌入していることが明らかになった(Fig. 2B).虚脱した肛門側腸管を牽引するも嵌入腸管を引き出すことは困難であったため,ヘルニア門を鈍的に拡張した後に整復した(Fig. 2C).回盲部から90 cmの回腸が約20 cm嵌入していた.嵌入腸管は鬱血・浮腫を来し,ヘルニア囊内には少量の血性腹水を認めたが,壊死や穿孔は認めなかったので,腸管切除は行わなかった(Fig. 2D, E).再嵌頓予防のためヘルニア囊は切開開放した(Fig. 2F).手術時間は15分,出血は少量であった.

Fig. 2 

Surgical findings. (A) A distended small bowel mass, enclosed in a membrane, is identified lateral to the cecum. (B) A loop of distal ileum is found incarcerated in the paracolic sulci near the cecum and strangulated. (C) The hernia gate is opened with forceps. (D) A 20-cm segment of viable ileum is released from the hernia sac. (E) Bloody ascites are identified in the hernia sac. (F) The hernia sac is dissected and opened completely.

術後経過:術後経過は良好で,第10病日に退院となった.

考察

盲腸周囲ヘルニアは盲腸周囲の腹膜のくぼみに腸管が嵌入することによって生じる内ヘルニアの一種である1)~3).内ヘルニアの6~13%を占め,欧米では傍十二指腸ヘルニアに次いで2番目に多く,本邦では腸間膜裂孔ヘルニア,傍十二指腸ヘルニア,網囊孔ヘルニアに次いで4番目に多いとされている1)~3)

本疾患の成因としては,胎生期の腸管回転異常や癒着障害などの先天的な要因と,腹腔内圧の上昇や加齢による組織の脆弱化を原因とする後天的な要因とが指摘されてきたが,高齢者だけでなく若年者にもみられることから,両要因が重なり発症するものと考えられている1)2)4)5)

医学中央雑誌で2000年から2015年までの16年間で「盲腸周囲ヘルニア」,「盲腸後窩ヘルニア」,「盲腸窩ヘルニア」のそれぞれをキーワード検索した結果,41編47症例を認めたので,自験例を含む48症例をTable 1にまとめた4)~10)

Table 1  Summary of 48 reported cases of paracecal hernia, 2000–2015, in Japan
Variables No. (%) of patients
Age, y (n=48)
 <10 0 (0.0)
 10–19 1 (2.1)
 20–29 1 (2.1)
 30–39 0 (0.0)
 40–49 2 (4.2)
 50–59 3 (6.3)
 60–69 3 (6.3)
 70–79 16 (33.3)
 80–89 20 (41.7)
 ≥90 4 (8.3)
 Mean (Range) 77 (12–100)
Sex (n=48)
 Male 17 (35.4)
 Female 31 (64.6)
Previous history of abdominal surgery (n=45)
 none 39 (86.7)
 Appendectomy 3 (6.7)
 Other surgery 3 (6.7)
BMI, kg/m2 (n=27)
 <18.5 7 (25.9)
 18.5–<25 19 (70.4)
 ≥25 1 (3.7)
 Mean (Range) 20.2 (15.6–25.6)
Preoperative diagnosis (n=48)
 Paracecal hernia 21 (43.8)
 Ileus 15 (31.3)
 Internal hernia 8 (16.7)
 Appendicitis 3 (6.3)
 Obturator hernia 1 (2.1)
From onset to operation, d (n=45)
 0–7 29 (64.4)
 8–14 12 (26.7)
 15–21 0 (0.0)
 22– 4 (8.9)
 Mean (Range) 6 (1–30)
Type of surgery
 Open 38 (79.2)
 Laparoscopic 10 (20.8)
Type of paracecal hernia (n=48)
 Retrocecal 31 (64.6)
 Paracolic 10 (20.8)
 Inferior ileocecal 5 (10.4)
 Superior ileocecal 1 (2.1)
 N/A 1 (2.1)
Size of hernial gate, cm (n=22)* 2.3 (1–5)
Length of incarcerated bowel (n=43)
 ≤20 35 (81.4)
 21–40 4 (9.3)
 41–100 0 (0.0)
 ≥100 4 (9.3)
 Mean 24.4
Treatment of hernial gate (n=44)
 Opening 23 (52.3)
 Closure 21 (47.7)
Resection of incarcerated intestine (n=48)
 Yes 15 (31.3)
 No 33 (68.8)
Postoperative complication (n=47)
 Yes 6 (12.8)
 No 41 (87.2)
Postoperative hospital stay, d (n=40)* 18 (5–97)
Mortality (n=48) 1 (2.1)

* Mean (Range), N/A: not applicable

性差は男性17例女性31例と女性に多く,平均年齢は77歳であった.年齢分布は80代がピークで,70代と80代で36例(75.0%)と高齢者が多数を占めていた.平均BMIは20.2 kg/m2と標準範囲内ではあるもののやや低値で,BMI 25以上の肥満例は記載のある27例中1例(3.7%)と少なかった.開腹手術の既往を有する例が6例あり,うち3例(6.7%)は虫垂切除術を受けていた.

術前診断可能例は2000年の古川ら6)の報告では11.9%にとどまっており診断困難とされていたが,2005年の米満ら7)の報告では18.8%,2008年の服部ら8)の報告では37%,我々の集計では43.8%と経年的に向上している.診断には腹部CTが有用とされており,診断可能例では全例で行われていた.特に断層面再構成画像が有用と報告されており,自験例でも冠状断による再構成画像で盲腸外側にclosed-loopを形成した小腸を確認できたことが診断の一助となった9)11)

盲腸周囲ヘルニアは,盲腸周囲のくぼみである上回盲窩,下回盲窩,盲腸後窩,傍結腸溝のいずれに嵌頓するかで分類される(Fig. 312)~14).48例の内訳では盲腸後窩が31例(64.6%)と最も多く,次いで傍結腸溝10例(20.8%),下回盲窩5例(10.4%),上回盲窩1例(2.1%)であった.自験例は盲腸外側の傍結腸溝にヘルニア門を認め,そこから頭側に回腸が約20 cm嵌入していた.

Fig. 3 

Anatomy of the pericecal area and possible sites for paracecal hernias.

記載のあった45例中41例(91.1%)が2週間以内に手術を受けており,平均病悩期間は6日であった.24時間以内に緊急手術となった症例も自験例を含む14例(31%)認めた.

ヘルニア門の大きさは平均2.3 cmで,嵌頓腸管の長さは平均24.4 cmであった.嵌頓腸管が100 cmを超える症例を4例認めたが,うち3例は下回盲窩,1例が傍結腸溝に嵌頓した症例であった.下回盲窩に嵌頓した症例では5例中3例(60%)で100 cmを超えており,長く嵌入する傾向が窺えた.

手術方法としては,嵌入腸管の整復とヘルニア門の閉鎖または開放が必要で,腸管が壊死していれば腸切を追加することになる2)13).本集計では腸管切除を要した症例は15例(31.3%)と比較的高率であった.

術後合併症を認めた症例は6例(12.8%)で,その内訳は誤嚥性肺炎2例,心不全1例,敗血症1例,絞扼性イレウス1例,多臓器不全から死亡1例となっていた.平均術後在院日数は17.9日であったが,術後合併症を有する6症例では44日と長期の入院を要した.

検索しえた範囲では保存的治療で治癒した症例はなく,全例で手術が行われていた.死亡例は1例(2.1%)のみで,手術を行えば予後良好であった10)

手術のアプローチ方法として腹腔鏡を選択した10例と開腹38例を比較した(Table 2).腹腔鏡例では術後合併症はなく,平均術後在院日数も11日と開腹例の20日より短い傾向があった.一方,腹腔鏡例ではイレウス管による減圧を行った症例が9例(90%)と多いため,平均病悩期間は11日と開腹例の6日より長くなる傾向があった.

Table 2  Characteristics and clinical outcomes in open or laparoscopic groups
Variables Open surgery (n=38) Laparoscopic surgery (n=10)
Age, y; Mean (Range) 77 (50–89) 76 (12–100)
Sex
 Male, n (%) 14 (36.8) 3 (30.0)
 Female, n (%) 24 (63.2) 7 (70.0)
Long nasointestinal tube (n)* (n=35) (n=10)
 Yes, n (%) 15 (42.9) 9 (90.0)
 No, n (%) 20 (57.1) 1 (10.0)
From onset to operation, d; Mean (Range) 6 (1–23) 11 (1–30)
Postoperative complication (n)* (n=31) (n=10)
 Yes, n (%) 6 (16.2) 0 (0.0)
 No, n (%) 25 (83.8) 10 (100)
Postoperative hospital stay, d; Mean (Range) 20 (8–97) 11 (5–19)

* No. of patients described about the variable.

Meyerら12)は保存的に経過をみた例は全例死亡したと報告しており,診断がつけば早期の手術を考慮すべき疾患だといえる13)14).当院では内ヘルニアは診断がつき次第緊急手術を行う方針とし,アプローチ方法にこだわることなく救命を優先させている.自験例は腹部CT所見で陥入部より口側腸管の拡張が軽度であったため,侵襲の少ない腹腔鏡下手術を選択し,良好な術後経過を得ることができた.

利益相反:なし

文献
 

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