The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Splenic Sarcoidosis without an Extrasplenic Lesion That Developed Iridocyclitis Postoperatively
Yoshifumi WatanabeHiroyuki NakabaEiji TaniguchiHiroyuki KikkawaHiroshi TamagawaMasaru Sasaki
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2017 Volume 50 Issue 1 Pages 67-72

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Abstract

症例は74歳の女性で,2015年2月初旬より腰痛を自覚したため近医受診し,CTで脾臓内に多発性病変を指摘された.上部と下部消化管内視鏡検査で異常所見はなく,PET-CTでは脾臓に限局してFDGの異常集積亢進を認めた.脾原発性悪性リンパ腫を疑われ,手術による組織診断目的に当院紹介となった.当院で腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.病理組織学的検査で類上皮細胞および星芒小体を伴う多核巨細胞増生から形成される大小多数の非乾酪性類上皮肉芽腫を認め,脾サルコイドーシスと診断した.術後は無治療で経過観察したが,術後3か月目に虹彩毛様体炎が出現したためサルコイドーシスの再発と診断し,ステロイド点眼にて加療している.術後に眼病変で再発した脾限局性サルコイドーシスのまれな1例を経験したので報告する.

はじめに

サルコイドーシスは原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とする全身性の炎症性疾患であり,両側肺門リンパ節,肺,皮膚に好発する.脾病変は肝臓などの他臓器病変と合併する例が多数を占めており1),脾臓に限局したサルコイドーシスはまれである2)~17).今回,我々は脾限局性サルコイドーシスに腹腔鏡下脾臓摘出術を施行したが,術後に眼病変で再発したサルコイドーシスの1例を経験したので報告する.

症例

患者:74歳,女性

主訴:腰痛

既往歴:脂質異常症,甲状腺機能低下症.2011年5月に両側白内障の手術を受け,術後より6か月毎に近医眼科へ通院していた.2015年2月の診察時に眼所見の異常は認めなかった.腹部手術歴なし.

家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:2015年2月初旬より腰痛を自覚したため近医受診した.精査のCTで脾臓内に多発する腫瘤を指摘された.上部と下部消化管内視鏡検査で異常所見はなく,PET-CTでは脾臓のみにFDGの異常集積亢進を認めた.脾原発性悪性リンパ腫が疑われたため,手術による組織診断目的に当院紹介となった.

腹部所見:平坦,軟.圧痛なし.肝脾は触知せず.

血液検査所見:WBC 4,870/μl,Neut 67.4%,Lym 27.7%,RBC 427×104/μl,Hb 12.9 g/dl,Plt 16.4×104/μl,TP 7.5 g/dl,Alb 4.5 g/dl,AST 21 IU/l,ALT 13 IU/l,LDH 212 U/l,ALP 184 U/l,Na 141 mEq/l,K 3.7 mEq/l,Cl 105 mEq/l,BUN 8.9 g/dl,Cre 0.57 ml/min/1.7,CRP 0.11 mg/dl,可溶性IL-2受容体抗体 399 U/ml,ACE 14.3 U/l,CEA 1.2 ng/ml,CA19-9 3.2 U/ml,HBs抗原0.00 IU/ml,HCV抗体 0.08 S/CO.

心電図検査所見:正常洞調律.心拍数67回/分,整.

CT所見:脾臓内に多発性の淡い造影効果を伴う低吸収領域を認めた(Fig. 1).腹腔内に他の腫瘤性病変を認めず,肺門部リンパ節にも腫脹を認めなかった.

Fig. 1 

Abdominal contrast enhanced CT. Contrast enhanced CT shows multiple low density areas enhanced slightly in the spleen (arrowheads).

PET-CT所見(前医):脾臓内に最大でSUV max 5.8のFDG集積亢進部を多数認めた.リンパ節などの他部位には異常集積亢進を認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

PET-CT. FDG-PET shows abnormal uptakes only in the spleen (arrowheads).

手術所見:腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.右側臥位として,左肋骨弓下に12 mmトロカールを1本,5 mmトロカールを3本留置した.腹腔内に白色結節を伴う脾臓を認めたが,可視範囲内に他臓器病変は認めなかった.脾臓と大網の癒着を剥離後,胃脾間膜を切離した.膵尾部と脾臓を後腹膜より脱転後,脾門部をリニアステープラーで離断して脾臓を切除した.脾臓は原形を保って摘出するため,12 mmトロカール孔を10 cmの小切開創へと創延長を行い,同部位より脾臓を摘出した.5 mmトロカール孔よりプリーツドレーンを左横隔膜下に留置後,閉創して手術を終了した.

切除標本肉眼検査所見:摘出した脾臓内には,大小多数の境界明瞭な黄白色の充実性腫瘤を認めた.

病理組織学的検査所見:類上皮細胞および星芒小体を伴う多核巨細胞増生から形成される大小多数の非乾酪性類上皮肉芽腫を認めたため,脾サルコイドーシスと診断した(Fig. 3).

Fig. 3 

Histopathology of the resected spleen. a: There were multiple well-demarcated, yellow-whitish-colored solid masses in the resected spleen. b: Noncaseating granulomas composed of epithelioid cells and multinucleated giant cells with asteroid bodies (HE, ×400).

術後経過:術後尿路感染症を合併したが,術後第17病日に退院した.手術により認識しうる病変は消失したため,術後は経過観察のみを行った.術後3か月目に左霧視が生じ,近医眼科で両眼に隅角結節,豚脂様角膜後面沈着物を認める肉芽腫性虹彩毛様体炎を指摘された.サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き2015における眼所見の6項目中2項目を有しており,また術前に眼所見の異常は認められなかったことから,眼病変によるサルコイドーシスの再発と診断した.ステロイド点眼で加療し,現在は症状の改善傾向を認めている.

考察

サルコイドーシスの国内剖検例での病変分布は,肺78.3%,心臓71.0%,肝臓42.4%,脾臓41.6%,リンパ節87.4%とされる.脾病変を有する症例は,他臓器病変も高頻度に合併しており,肝病変との合併例は78.8%と報告される1).脾臓のみに限局したサルコイドーシスの症例はまれであり,医学中央雑誌で1977年から2016年1月の期間で,「脾」,「サルコイドーシス」をキーワードとして検索した結果より(会議録除く),リンパ節病変を含む他臓器病変の合併例を除外した報告例は16症例のみであった(Table 12)~17)

Table 1  Reported cases of splenic sarcoidosis without extrasplenic lesions in Japan
Case Author Year Age/Sex Lesion ACE IL-2R CT PET/Ga scintigraphy Histopathologic examination
1 Takayama2) 1989 57/F multiple Splenectomy
2 Tsuda3) 1993 51/F multiple normal low Splenectomy
3 Hayashi4) 1996 55/M multiple low positive Laparoscopic biopsy
4 Inoue5) 2000 59/F multiple normal low positive Splenectomy
5 Nagata6) 2003 52/F solitary normal low Splenectomy (Laparoscopic)
6 Mori7) 2004 81/F multiple high low Splenectomy
7 Tanaka8) 2005 60/M multiple high low positive Splenectomy (Laparoscopic)
8 Matsuo9) 2008 51/F multiple normal low Splenectomy (Laparoscopic)
9 Tasaki10) 2009 36/M multiple normal low positive Splenectomy (Open)
10 Hoshino11) 2009 58/F solitary high low positive Splenectomy (Open)
11 Ogiwara12) 2010 71/F solitary positive Splenectomy
12 Yamada13) 2011 59/M multiple normal low Splenectomy (Open)
13 Yagi14) 2012 76/F multiple low Splenectomy
14 Nomura15) 2012 57/F multiple normal normal low positive Splenectomy (Laparoscopic)
15 Kubo16) 2014 75/M multiple normal low Splenectomy (Laparoscopic)
16 Kondou17) 2015 56/M multiple normal high low negative Splenectomy (Open)
17 Our case 74/F multiple normal normal low positive Splenectomy (Laparoscopic)

自験例を含む17例の患者背景は,平均年齢60歳,男女比6:11で女性に多い傾向であった.血清ACE活性は脾臓病変を有するサルコイドーシスで有意に高値を示すとの報告もあるが18),本邦の脾臓内に限局するサルコイドーシス報告例では,いずれの症例でも血清ACE活性の高値を認めなかった3)5)6)15)17).CTでは低吸収域を示し,単発:多発  3:14と複数の病変を有する傾向を認めた.

脾臓内に発生したサルコイドーシスは,脾臓の画像所見のみでは悪性リンパ腫との鑑別は困難であり,肺門部リンパ節などの全身の病変分布が鑑別診断の手掛かりとなる19).PET-CTはサルコイドーシスの特徴的な病変分布を明瞭に検出しうるため有用であり20),術前検査として施行されるのが望ましいと考えられる.今回集計した脾限局性サルコイドーシス17例中,PETやGaシンチグラフィを施行した報告は9例あり,1例は集積を認めなかったが17),その他の8例では脾臓に限局して集積を認めた4)5)8)10)~12)15)

脾臓限局性腫瘤の確定診断目的に病理組織学的検査が必要となるが,方法に経皮的針生検,腹腔鏡下針生検,脾臓摘出術が挙げられる.経皮的針生検の合併症の頻度は2.2%と低く安全に施行可能であると近年に報告され,脾臓摘出後の感染や血栓症のリスクを回避するため生検を施行した報告例もみられる21).しかし,悪性疾患の可能性も否定できずimplantationの危険性が懸念されるため,脾臓摘出術を施行した報告例は多く,現時点では診断的加療目的に脾臓摘出術を選択するのは妥当と考えられた.腹腔鏡を用いた報告例は自験例を含めて6例あり6)8)9)15)16),直近の報告では開腹手術と比較して低侵襲である腹腔鏡手術を選択する傾向を認めた.

脾限局性サルコイドーシスの術後再発に関して,今回集計した報告の中に記載があるものは1例のみであり,術後5か月目に皮膚病変が出現していた8).眼病変はサルコイドーシスの初診患者の49%に認めるが,自験例では手術前の眼科診察で眼所見の異常を認めず,術後3か月目に初めて眼病変を指摘されたことから,サルコイドーシスの術後再発と診断した.診断時にサルコイドーシスが脾臓に限局していても,異時性に他臓器病変が出現する可能性が示唆された.

以上より,脾限局性サルコイドーシスはまれであるが,脾腫瘤の鑑別診断の際には念頭に置くことが重要と考えられた.また,サルコイドーシスは異時性にも多臓器に及ぶ病変を有する場合があるため,病変切除後も継続したフォローアップが必要であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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