2017 Volume 50 Issue 1 Pages nm1-nm4
毎年恒例としております会誌編集委員会からの年頭のご挨拶と本誌の現況を報告させていただきます.Web会議もすっかり定着し,順調に開催されている月例の委員会では,査読委員の先生方の熱い意見がWeb上を飛び交っております.昨年,三人の先生方が任期満了となり退任されました.太田哲生先生,大坪毅人先生,加藤広行先生,6年間の長きにわたり査読および編集会議へのご出席ありがとうございました.心から感謝申し上げます.先生方の厳しくも愛情溢れるコメントが懐かしく思い出されます.そして新しく,大塚将之先生,本山悟先生,廣野誠子先生に委員として加わっていただきました(表1).今後ともよろしくお願い申し上げます.
委員長 | 遠藤 格 | |||
委 員 | 浅尾 高行 | 池内 浩基 | 伊佐地秀司 | 上坂 克彦 |
宇山 一朗 | 大塚 将之 | 大辻 英吾 | 掛地 吉弘 | |
河原秀次郎 | 新地 洋之 | 関本 貢嗣 | 瀬戸 泰之 | |
竹政伊知朗 | 猶本 良夫 | 永野 浩昭 | 橋口陽二郎 | |
長谷川博俊 | 比企 直樹 | 廣野 誠子 | 福島 亮治 | |
堀口 明彦 | 正木 忠彦 | 村田 幸平 | 本山 悟 | |
安田 卓司 | 山口 茂樹 | 山本 順司 | 吉田 和弘 | |
八尾 隆史(病理学) | 赤澤 宏平(統計学) | |||
English language editor | J. Patrick Barron | 小島多香子 | ||
編集幹事 | 秋山 浩利 | 田中 邦哉 |
さて,本誌の編集方針である,「和文誌の最高峰を維持する」と「若手消化器外科医の登竜門」という,ややもすれば背反する理想と現実の間隙を埋める解決策は何でしょうか.それは,キラリと光る新知見や解釈があるけれども,未熟な部分が多い論文を如何に手間暇かけて磨きをかけるかという作業に他ならないと思っております.症例報告では厳密に新知見を求めるとほとんど稀少疾患ばかりになり,当然その数は限定されたものになります.しかし,臨床医学では「稀少性」以外にも,「新しい解釈」や「警鐘を鳴らす一例」も会員に裨益するところ大であると思われます.稀少性以外で勝負するとなると論文の価値を高めるには,考察を深めるしかありません.査読委員の先生方には簡単に不採用とせず従来の採用論文と同じレベルまで引き上げていただくよう,粘り強い教育的査読を行っていただいております.先生方のご努力に本当に感謝しております.このように査読委員の先生方は相当のエフォートを費やしています.再投稿時において,誤字だらけの論文や,査読者のコメントに対して誠実に回答していない論文,すなわち指導者が校閲していないことが明らかな論文に遭遇すると本当にモチベーションが低下します.指導者の先生方におかれましては,査読者の熱意をご考慮いただき真摯な姿勢で投稿していただけましたら幸いです.
本誌の採用論文数の年次推移を,表2に示します.以前から申し上げておりますように投稿論文数は20年間で緩やかに減少しております.その結果,2014年の掲載論文数は月10編を割ってしまったこともありました.しかし,昨年の掲載論文数は毎月2桁を維持しており,合計で159編であり,一昨年(48巻)の134編より大幅に増加いたしました(表2).
年(巻) | 原著 | 総説 | 症例報告 | 臨床経験 | 研究速報 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
2009年(42巻) | 22 | 0 | 176 | 5 | 1 | 204 |
2010年(43巻) | 17 | 2 | 175 | 9 | 0 | 203 |
2011年(44巻) | 23 | 0 | 191 | 13 | 0 | 227 |
2012年(45巻) | 7 | 0 | 150 | 3 | 0 | 160 |
2013年(46巻) | 7 | 0 | 110 | 6 | 1 | 124 |
2014年(47巻) | 10 | 0 | 98 | 0 | 0 | 108 |
2015年(48巻) | 10 | 0 | 120 | 4 | 0 | 134 |
2016年(49巻) | 18 | 0 | 138 | 3 | 0 | 159 |
前述しましたように最近は教育的再査読が増えたことがその理由と思われます.3年ぶりに採用率が20%台に回復いたしました(表3).
年度 (5月から翌年4月まで) |
投稿論文数 | 採用率 | 不採用率 |
---|---|---|---|
2009年度 | 485 | 35.9% | 42.9% |
2010年度 | 443 | 29.8% | 47.6% |
2011年度 | 353 | 23.2% | 54.1% |
2012年度 | 319 | 23.5% | 52.4% |
2013年度 | 275 | 17.8% | 42.6% |
2014年度 | 240 | 18.3% | 24.6% |
2015年度 | 223 | 27.8% | 32.3% |
本誌の全文PDFへのアクセス数は2015年度263,967件(前年度:166,375件)であり,前年に比べ59%増と大幅に増加しております.また,2016年4月から7月のアクセス数は4か月連続で3万を超え,5月には36,117件と初めて3万5千を超えました.書誌事項(要旨ページ)や全文HTMLページへのアクセス数も上昇しております.全文HTMLが伸びている理由は不明ですが,モバイル端末で閲覧されている可能性が指摘されています.配信されたメールマガジンからJ-STAGEへ飛ぶという閲覧方法が増えているのかもしれません.2017年度は,J-STAGEの次期バージョンのリリースが予定されており,また本誌のWeb of Scienceへの収載もあるかもしれません.それに伴い更にアクセス数が伸びることを想定しており,ますます市民の皆様をはじめとする社会への貢献度が高まるものと予想しております.
本誌は1969年に村上忠重先生を初代委員長として創刊されました(表4).2年後の2019年に創刊50周年となります.編集委員長の任期は第2代の鍋谷欣市先生の14年間が最長となりますが,近年では3~5年のことが多く,第6代の桑野博行先生は6年間務められました.以前は印刷した原稿を風呂敷包みで編集委員会に持参されていたと伺っております。その後,サイトからPDFをダウンロードして査読するスタイルに移行し,現在のWeb会議のスタイルになりました.時の流れを感じるとともに,本誌を高めてこられた先輩諸兄のご努力に心から感謝の意を表したいと思います.
1968年 | 日本消化器外科学会発足. |
1969年 | 初代委員長 村上 忠重,日本消化器外科学会雑誌第1巻第1号発行. |
1970年 | 事務所移転(横浜市立大学第二外科→東京女子医科大学消化器病センター) |
1976年 | 日本医学会加盟. |
1979年 | 担当理事 長尾 房大,第二代委員長 鍋谷 欣市 |
1982年 | 事務所移転(九段南) |
1987年 | 担当理事 杉浦 光雄 |
1988年 | 担当理事 岩崎 洋治 |
1989年 | 英文要旨を追加. |
1991年 | 担当理事 大原 毅 |
1993年 | 担当理事 鈴木 博孝,第三代委員長 大原 毅,誓約書を追加. |
1995年 | 論文種目「臨床経験」を追加. |
1997年 | 表紙をデザイン化,編集後記の掲載を開始. |
1998年 | 担当理事 嶋田 紘,第四代委員長 佐治 重豊,著者名を10名以内に限定,入会免除依頼の受け付けを開始(病理医などの他科を想定). |
2000年 | 論文種目「総説」を追加,査読希望領域欄を追加,学会公式サイトを公開. |
2001年 | 第五代委員長 上西 紀夫,査読体制変更(臓器別),Digestive Surgeryを公式英文誌化. |
2002年 | データ添付投稿の受け付けを開始(FD,MO,CD). |
2004年 | 学会独自のオンライン・ジャーナルサイトを公開. |
2006年 | 事務所移転(茅場町),理事長制導入. |
2007年 | 担当理事 安藤 暢敏,第六代委員長 桑野 博行,文献検索期間の明示を義務化,平成19年度電子アーカイブ対象誌に選定(Journal@rchive),会誌編集委員会からの公示を掲載開始. |
2010年 | 事務所移転(新富),オンライン投稿・査読システムを導入,予稿集を電子化. |
2011年 | J-STAGEへ移行,会誌完全電子化,メールマガジン配信開始,CrossRef利用開始(DOI付加),委員会の体制を強化(統計学の委員,English language editor). |
2012年 | 担当理事 渡邊 昌彦,Top publications in Japanese和文ジャーナル上位100誌にて8位(Google Scholar Metricsより),J-STAGE 3公開,全文HTML公開,論文種目「特別報告」を追加,「日本消化器外科学会雑誌 英文作成上の注意(監修:東京医科大学国際医学情報学講座)」「日本消化器外科学会雑誌 用字用語について(公用文作成の要領などを基に作成)」を公開,投稿時の動画資料への対応を開始. |
2013年 | 第七代委員長 遠藤 格,委員を増員,学術情報XML推進協議会に加盟,DOIの付番ルール変更(早期公開機能への対応),和文の索引用語を追加,動画資料を含む記事を掲載,特別報告(NCD Annual report)・特別寄稿(英語による教育コンテンツ)を掲載,抄録・引用文献データベース「Scopus」の収載状態を整理. |
2014年 | NLMにおけるElectronic linkを修正,Web会議システムを導入,J-STAGEの改善によりGoogle Scholarとの連携を強化. |
2015年 | 特別報告(医療安全委員会)を掲載,J-STAGE利用者アンケートに協力,投稿規程を改正(著者数制限の変更,貢献度の申告,連絡責任者および保証者の明示,用字用語についての変更(日本医学会 医学用語辞典に準拠),図表枚数制限の緩和,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-NC-ND(表示-非営利-改変禁止))の導入). |
2016年 | 投稿規程を改正(ギフトオーサーの追加の抑止,倫理審査番号の原則明示,英文要旨と英文の索引用語情報は採用後の提示に,チェックリスト・原稿テンプレートを開示),メールマガジンへの会告・広告掲載開始,メールマガジンのデザインを更改(モバイルファースト) |
2001年にDigestive Surgeryを公式英文誌としましたが,ご存じのようにKarger社との契約を2015年12月で終了し,長年の念願であったOwn journalの準備が進んでおります.創刊は本年4月を予定しており,投稿サイトは1月25日(水曜日)に開設されております.誌名はAnnals of Gastroenterological Surgery(AGS)といたしました.消化器外科学・外科腫瘍学における最先端の研究を世界に発信するという目標を掲げております.世界各国から次々と新雑誌が創刊されている現在,まさに生存競争のなかに飛び込むことになります.生き残るためには戦略が必要であり,まずは厳選された論文を中心に掲載していく方針であります.創刊当初2~3年間はImpact Factorが付与されませんが,ぜひ会員の皆様からの投稿をお待ちしております.投稿規程などの詳細につきまして,逐次メールマガジンなどで報告させていただきますので,引き続きご確認のほどよろしくお願いいたします.
研究倫理問題に関しては毎年掲載しておりますが,注意喚起という目的で再掲させていただきます.まずJDDWの倫理指針が改訂されます.人を対象とする臨床研究では,自施設のIRB(Institutional Review Board)を通過し,前向き臨床試験では公的機関(UMIN臨床試験登録システム,日本医師会治験促進センター「臨床試験登録システム」,日本医薬情報センターなど)に登録することが求められます.今後は,侵襲(軽微な侵襲を除く)・介入を伴う研究について,研究責任者に対し,モニタリングや第三者的な立場の者による監査の実施が新たに義務付けることも予定されています.本誌の掲載論文の大半を占める症例報告の条件は10例未満までということになりそうです.症例報告には倫理委員会を通していただく必要はないようです.これ以上の症例数になりますと,観察研究になりますので後ろ向きであってもIRBの承認が必要になる予定です。今後,正式に決定しましたら改めてメールマガジンなどで告知させていただきます.
最近問題となることの多い多重投稿については,本編集委員会の一人でもあるJ. Patrick Barron先生が監修をされているサイトにCOPE(Committee On Publication Ethics: http://publicationethics.org/)のフローチャートの日本語版が掲載されています.大変わかりやすく書かれています.本誌における多重投稿に関する対応は,COPEのフローチャートに従って対応することとしておりますので,著者の先生方にも「出版倫理」のページを是非参考にしていただきたいと思います.
http://www.ronbun.jp/ethic/index.html
以上,日本消化器外科学会会誌編集委員会の,2017年における基本的姿勢と今後の予定について記しました.本誌の基本理念「和文誌の最高峰を維持する」「若手消化器外科医の登竜門」という理念を堅持し,委員一同精励してまいります.
(文責:日本消化器外科学会会誌編集委員会委員長 遠藤 格)
(2017年1月)