The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Peripheral Primitive Neuroectodermal Tumor of the Stomach
Nobuo TakataKazuhide OzakiYoshihito FurukitaTakehiro OkabayashiFuminori TeraishiYuichi ShibuyaYasuo ShimaToshio NakamuraYasuo FukuiYutaka NishiokaManabu MatsumotoJun Iwata
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2017 Volume 50 Issue 11 Pages 872-879

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Abstract

末梢性未熟性神経外胚葉性腫瘍は,神経外胚葉性分化を伴う小型円形細胞からなる悪性腫瘍で,小児・若年者の四肢や傍脊柱領域の軟部組織に発生することが多い.今回,我々はまれな胃原発末梢性未熟性神経外胚葉性腫瘍の1例を経験した.症例は68歳の男性で,食欲不振の精査目的に上部消化管内視鏡検査を施行し,噴門部に隆起性病変を指摘された.生検では腫大した核を有する胞体の乏しい小型円形腫瘍細胞の増殖を認めた.免疫組織化学的染色検査を行うも,組織型の特定は困難であった.胃全摘術を施行し,摘出標本での免疫組織化学染色検査でCD99が腫瘍細胞に陽性となり,遺伝子検査でEWS-FLI1融合遺伝子が証明され,末梢性未熟性神経外胚葉性腫瘍の診断に至った.術後,多発肝転移を来し,4か月目に死亡した.近年,本腫瘍に対する集学的治療の有効性が報告されている.小型円形細胞からなる胃原発腫瘍を認めた際は本疾患を鑑別に挙げ,治療開始前に確定診断を得ることが重要である.

はじめに

末梢性未熟性神経外胚葉性腫瘍(peripheral primitive neutoectodermal tumor;以下,pPNETと略記)は,主に小児や若年成人の四肢,傍脊柱領域の深部軟部組織に発生し,神経外胚葉性分化を示すまれな悪性腫瘍である1).消化管での発生は非常にまれであり2),なかでも胃原発例の報告はこれまでに8例と少ない3)~10).今回,我々は胃原発のpPNETの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:68歳,男性

主訴:食欲不振

既往歴:肺結核

現病歴:食欲不振を主訴に前医を受診し,上部消化管内視鏡検査を施行した.噴門部に表面に不整型の潰瘍を伴う隆起性病変を認め,精査加療目的に当院紹介となった.

血液検査所見:血算および生化学的検査では特に異常を認めなかった.腫瘍マーカーは血中CEA値が10.2 ng/mlと高値であったが,CA19-9値は4.5 U/mlと正常範囲内であった.

上部消化管内視鏡検査所見:噴門直下前壁小彎を主座とする8 cm大の隆起性腫瘍を認めた(Fig. 1A).隆起の表面には広範囲に不整型の潰瘍を認め,潰瘍底は壊死組織により覆われていた(Fig. 1B).また,腫瘍は腹部食道への浸潤を認めた.

Fig. 1 

A: Upper gastrointestinal endoscopy shows an 8-cm sized mass located at the lesser curvature of the upper gastric body. B: Most part of the tumor surface was ulcerative, and the tumor invaded the lower esophagus.

生検組織診断:類円形の腫瘍細胞が特定の配列を示さず,びまん性に密に増殖していた.免疫組織化学的染色検査では,上皮性マーカーであるAE1/AE3やCAM5.2は陰性,リンパ球系マーカーはCD56のみ陽性で,その他のCD3,CD20,CD30,CD45,CD79,CD246などは全て陰性,神経内分泌系マーカーはchromogranin Aとsynaptophysinが一部で陽性であった.悪性リンパ腫や内分泌細胞癌が鑑別に挙がったが,確定診断には至らなかった.

造影CT所見:胃体上部に著明な壁肥厚を認めた.小彎側では腫大したリンパ節が一塊となっていた(Fig. 2).Virchow転移や縦隔リンパ節の腫大,大動脈周囲リンパ節の腫大は認めなかった.また,肺転移,肝転移なども認めず,腹膜播種を疑う所見や腹水も認めなかった.組織型は特定できなかったが,胃原発の悪性腫瘍で,胃癌取扱い規約第14版に則して記載すると,UE,Less-Ant,Type 2,80 mm,cT4a,cN2,cM0,cStage IIIBとなり,根治目的の手術を施行した.

Fig. 2 

Contrast-enhanced CT image showing a solid mass arising from upper body of the stomach. Lymph nodes at the lesser curvature were swollen, suspicious of metastasis.

手術所見:開腹時所見では,腫瘍は胃体上部小彎から前壁に存在し,漿膜浸潤を認めた.腫大した小彎リンパ節と腫瘍が一塊となっていたが,他臓器浸潤は認めなかった.また,腹膜播種や肝転移など,明らかな遠隔転移は認めなかった.胃全摘,D2郭清(No.10リンパ節を除く),Roux-en-Y再建を施行した.術中に食道断端を迅速病理組織診断に提出し,悪性所見のないことを確認した.

切除標本肉眼所見:胃体上部小彎から前壁に90×80 mmの境界明瞭な隆起性病変を認めた(Fig. 3).分葉状の腫瘍で,口側では食道浸潤を認めた.

Fig. 3 

A multilobulated soft tumor was seen at the upper body of stomach. The size of the tumor was 90×80 mm.

病理組織学的検査所見:腫大した核を有する細胞質の乏しい小円型腫瘍細胞が全層性に増殖し,漿膜まで浸潤していた.腫瘍内には広範に壊死がみられた(Fig. 4A).部分的にHomer Wright型ロゼットの形成も認められた(Fig. 4B).腫瘍は漿膜へ浸潤しており,食道浸潤も認めたが,切除断端は陰性であった.免疫組織化学的染色検査では,CD99,CD56,CD117が陽性,synaptophysin,NSEが部分的に陽性を示した(Fig. 4C).CD99が陽性を示したことからpPNETを疑い,RT-PCRにてEwing肉腫やpPNETにおける代表的な融合遺伝子について検索したところ,EWS-FLI1の転写産物が陽性を示したため,胃原発のpPNETの確定診断が得られた(Fig. 5)検索した11個のリンパ節のうち,6番リンパ節に1個,転移を認めた.脈管侵襲は,軽度のリンパ管侵襲(ly1に相当),高度な静脈侵襲(v3に相当)を認めた.

Fig. 4 

A: The tumor was solidly packed with small round tumor cells (HE stain, ×20). B: The individual tumor cells were uniform small round cells with round or oval nuclei containing fine chromatin, scanty clear cytoplasm. Homer-Wright rosettes were presented (arrows) (HE stain, ×400). C: Immunohistochemical expression of CD99 showing characteristic reactivity on the cell membranes (CD99 stain, ×400).

Fig. 5 

EWS-FLI1 fusion transcripts were detected by reverse transcription-polymerase chain reaction. M; size marker (100 bp), PGK; phosphoglycerate kinase (247 bp), PBGD; porphobilinogen deaminase (127 bp), E-E; EWS-ERG, E-F; EWS-FLI1, Neg; negative control.

術後経過:術後1か月で多発肝転移を来した.化学療法は行わず,best supportive careの方針となり,術後4か月で原病死した.

考察

1918年にStout11)が尺骨神経に発生したロゼット形成を伴う小型円形細胞腫瘍を報告後,1921年にEwing12)が橈骨に発生した未分化な小型円形細胞腫瘍を「広汎性骨内皮腫diffuse endothelioma of bone」(いわゆるEwing肉腫)として報告した.以降,これらの発生起源が骨組織なのか骨外組織なのかに関する議論がなされた.1975年にAngervallら13)は初めて,骨外性Ewing肉腫(extraskeletal Ewing’s sarcoma)という概念を提唱した.同時期にSeemayerら14)は,軟部組織に発生し神経外胚葉性分化を示す腫瘍をperipheral neuroectodermal tumorsとして報告し,以降,同様の腫瘍がprimitive neuroectodermal tumor(以下,PNETと略記)として報告されてきた.骨外性Ewing肉腫とPNETは,長らく別々の疾患として扱われていたが,近年,これらは共通の染色体転座を有し,それに伴う共通の融合遺伝子を発現することが明らかとなり,Ewing肉腫ファミリー腫瘍(Ewing sarcoma family of tumors;以下,ESFTと略記)と総称されるようになった.従来,Ewing肉腫は未分化な腫瘍で,PNETは一定の神経系の分化を示す腫瘍とされていたが,Ewing肉腫でも神経系の分化を伴う場合もあり,現在は両者に本質的な違いはないと考えられている.

PNETは中枢神経系由来のcentral PNET(cPNET)とその他の組織由来のpPNETに分類される15).pPNETは軟部腫瘍全体の4%程度とまれな腫瘍であり16),好発年齢は10~30歳の小児から若年成人で,好発部位は四肢や胸壁,傍脊柱領域などの深部軟部組織である.小型円形細胞腫瘍群に属し,胎児型/胞巣型横紋筋肉腫や神経芽腫,悪性リンパ腫,線維形成性小細胞腫瘍などとの鑑別が必要となる.免疫組織化学的染色検査では95%以上の症例で細胞膜がCD99に陽性を示すことが重要な所見である.さらに,pPNETでは,synaptophysinやchromogranin Aなどの神経内分泌マーカーが陽性となるのも特徴である.CD99は,性染色体短腕のMIC2遺伝子にコードされる糖蛋白で,正常細胞では胸腺皮質細胞,卵巣顆粒膜細胞,精巣支持細胞,膵内分泌細胞などに発現している.腫瘍ではESFTをはじめ,横紋筋肉腫や滑膜肉腫,リンパ芽球系リンパ腫,線維形成性小細胞腫瘍などで陽性となる.そのため,CD99陽性のみではpPNETの確定診断を得ることはできず,その他の免疫組織化学染色検査の結果と遺伝子検査を総合して診断される.pPNETでは22番染色体のq12にあるEWS遺伝子座の変異を認めることが知られており,遺伝子検査でt(11;22)(q24;q12)に伴うEWS-FLI1融合遺伝子(85%)や,t(21;22)(q22;q12)に伴うEWS-ERG融合遺伝子(10%)などが証明されれば確定診断が得られる.

病期は限局例と転移例に分類される.転移例は,原発巣以外の臓器への転移を認める症例と定義され,骨・軟部組織を原発巣とする場合には,転移臓器は肺,骨,骨髄が多く,肝転移やリンパ節転移は少ないとされる.一方,消化管原発例における転移例の定義は明確ではない.そのため,自験例のように胃の所属リンパ節転移を有する場合,どちらの病期に分類するかは議論の余地がある.本検討では通常の胃癌と同様,所属リンパ節転移は遠隔転移とみなさず,限局例に分類した.

限局例でも微小転移が存在する可能性が高く,基本的には多剤併用化学療法と外科的治療,放射線治療を組み合わせた集学的治療が行われる.化学療法は,ドキソルビシン(DXR),シクロフォスファミド(CPA),ビンクリスチン(VCR),イホフファミド(IFM),エトポシド(VP-16),アクチノマイシン(ACD)の6剤の有効性が証明されており,これらを組み合わせた治療が行われる.多剤併用化学療法導入前は,ほとんどが発症から2年以内に転移によって死に至る極めて予後不良の疾患であったが,近年では限局例の5年生存率は65~75%とされ,予後は著明に改善している17).米国ではINT0091試験にて,限局例に対して手術や放射線治療による局所治療の前後にVDC(VCR+DXR+CPA)とIE(IFM+VP-16)の交代療法を施行した群と局所治療の前後にVDC単独療法を施行した群を比較したところ,前者の方が有意に予後良好であり,限局例に対しては局所治療とVDCとIEの交代療法を組み合わせたものが標準治療とされている18).一方,欧州ではEICESS92試験の結果から,限局例を高リスク群(腫瘍量が100 ml以上または体幹に発生した症例を高リスク群と定義)と標準リスク群に分類したうえで,高リスク群にはEVAIA(VP-16+VCR+ACD+IFM+DXR),標準リスク群にはVAIA(VCR+ACD+IFM+DXR)を局所治療の前後に行うことが推奨されている19).本邦では,Japan Ewing Sarcoma Study Group(JESS)により限局型ESFTに対する集学的治療の有効性を検証する第2相試験(JESS04)が行われた.プロトコールは,VDCとIEの交代療法による初期化学療法後に局所治療を行い,その後維持化学療法を行うというもので,結果は5年無病生存率が69.6%とこれまでの報告と同様に良好であり,限局型ESFTに対する集学的治療の有効性が示された.一方,転移例に対する治療成績は5年生存率が10~30%といまだ不良であり,今後有効な治療開発が必須である17)~20)

今回,PubMedにて1950年~2016年の期間で「peripheral primitive neuroectodermal tumor」を,医学中央雑誌にて1977年~2016年の期間で「末梢性未熟性神経外胚葉性腫瘍」をキーワードとして検索した.消化器系臓器に発生したpPNETで報告例が比較的多いのが,膵臓(19例)や腸間膜・大網・小網(17例)であった.消化管発生例の報告は24例で,報告例が多い順に,胃(9例),小腸(9例),大腸(4例),十二指腸(2例)であった.胃原発pPNETの報告例9例(自験例を含む)を示す(Table 13)~10).9例の背景因子は,年齢中央値は44歳(14~68歳),性別は男性5例/女性4例,腫瘍最大径の中央値は90 mm(55~120 mm)であった.通常の胃癌と比較すると,若年発症の傾向を認めた.限局例は8例(所属リンパ節転移を認めた3例を含む)で,転移例は1例(肝転移)であった.術前にpPNETの診断が得られていたのはCzekallaら3)とKhuriら10)の2例のみで,術前診断の困難さが伺われた.転移例の1例のみ,術前に化学療法(VCR+VP-16+DXR+IFM)が施行されていた.

Table 1  Clinical characteristics and postoperative outcome in reported cases of gastric pPNET
No. Author/Year Age/Sex Size (mm) Lymph node metastasis Staging Surgical procedure Positive immunohistochemical markers Fusion gene Recurrence Treatment after recurrence Prognosis
1 Czekalla3) 2004 14/
M
70 Metastatic (Liver) Distal gastrectomy CD99, CD117, NSE EWS-FLI1 24 mo AWD
2 Soulard4) 2005 66/
M
80 Localized Gastrectomy CD99, Vimentin, S-100, NSE EWS-ERG N/A 10 mo DOD
3 Colovic5) 2009 44/
F
100 Localized Excision CD99, S-100, PGP9.5 NSE, CD117 N/A 20 mo NED
4 Rafailidis6) 2009 68/
M
120 + Localized Subtotal gastrectomy CD99, NSE, Vimentin CD117, Leu-7 EWS-FLI1 Liver N/A 13 mo DOD
5 Inoue7) 2011 41/
F
90 N/A Localized Distal gastrectomy CD99, CD117, S-100 Chromogranin A, Synaptophysin EWS-FLI1 Peritoneum Lymph node Surgery Chemotherapy 110 mo DOD
6 Kim8) 2012 35/
F
55 Localized Wedge resection CD99, Synaptophysin 11 mo NED
7 Song9) 2016 55/M 65 + Localized Total gastrectomy CD99, Chromogranin Synaptophysin, CD56 EWS-FLI1 13 mo NED
8 Khuri10) 2016 31/
F
110 Localized Total gastrectomy CD99, FLI1, Vimentin, Ki67 EWS-FLI1 36 mo NED
9 Our case 68/M 90 + Localized Total gastrectomy CD99, CD56, CD117 NSE, Synaptophysin EWS-FLI1 Liver None 4 mo DOD

N/A; not available, AWD; alive with disease, NED; no evidence of disease, DOD; died of disease

切除検体の免疫組織化学染色検査では,全例でCD99および神経内分泌系マーカーが陽性であった.遺伝子検査の結果は8例で記載されており,検出された融合遺伝子はEWS-FLI1が6例,EWS-ERGが1例,残る1例では検出されなかった.一般的なpPNETでは,検出される融合遺伝子の90%がEWS-FLI1とされるが,胃原発例においても大半がEWS-FLI1であった.報告例のうち1例では遺伝子検査が施行されていなかった.CD99が陽性を示す胃原発の滑膜肉腫や線維形成性小細胞腫瘍の報告例はこれまでにもいくつか認められている21)~23).また,膵神経内分泌腫瘍では約1/3の症例でCD99が陽性を示すと報告されているが24),仮に胃内の異所性膵から神経内分泌腫瘍が発生した場合,CD99や神経内分泌系マーカーがいずれも陽性となる可能性は理論上否定できない.そのため,胃原発のpPNETと診断するうえでは,遺伝子検査は必要であると考えられる.

術後に再発を認めたのは4例で,再発形式は肝転移2例,腹膜播種および遠隔リンパ節転移1例,不明1例であった.再発例の4例はいずれも原病死しているが,化学療法(IFM+VP-16+DXR+CPA)および転移巣の切除,放射線照射などの集学的治療により110か月と長期予後が得られた報告を1例認めた.一方,無再発生存中の4例中3例は観察期間が2年以下であるため,報告後に再発を来している可能性は十分に考えられる.

胃原発pPNETの治療上の問題点は,その稀少性に伴う術前診断の困難さである.自験例においても,術前の鑑別診断にpPNETは挙がっておらず,「小型円形腫瘍細胞からなる悪性腫瘍」の診断のもと切除を行った.結果的に,術後早期に遠隔転移を来して原病死した.前述のように現在のpPNETの標準治療は術前・術後の全身化学療法と手術,放射線治療などの局所治療を組み合わせた集学的治療である.胃原発例であっても,通常の胃癌とは別個の疾患として取り扱う必要があり,上記のような集学的治療を念頭に置いた治療方針の検討が必要であろう.そのためには術前に確定診断を得られるかが重要であり,小型円形細胞からなる胃原発悪性腫瘍を認めた場合には本疾患を鑑別に挙げ,生検検体においてCD99の免疫組織化学的染色検査を行い,陽性ならば遺伝子検査も追加するといった方針を取ることが重要であると考えられた.

本稿を終えるにあたり,病理組織学的診断につき御指導を頂きました産業医科大学医学部第一病理学の久岡正典先生に厚く御礼申し上げます.

利益相反:なし

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