The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Mixed Connective Tissue Disease with Cecal Volvulus and Secondary Ileal Volvulus
Yuto HozakaShinichiro MoriKenji BabaYoshiaki KitaYuko MatakiYoshikazu UenosonoYasuto UchikadoKosei MaemuraIkumi KitazonoAkihide TanimotoHiroyuki ShinchiShoji Natsugoe
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2017 Volume 50 Issue 12 Pages 1008-1015

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Abstract

膠原病は結合組織の障害による消化管の運動異常により,しばしば消化管病変を合併する.症例は60歳の女性で,17年前に混合性結合組織病(mixed connective tissue disease;以下,MCTDと略記)の診断を受け,以後当院膠原病内科で加療を行っていた.腹痛を主訴に来院され,盲腸軸捻転症と診断し緊急手術を施行した.回結腸動脈を軸に360°捻転していたため,捻転解除術と盲腸固定術を行った.退院後の術後37日目に腹痛を来し,腹部CTで腸管捻転の所見を認めたため,緊急手術を施行した.捻転は解除されたが広範囲の回腸の拡張を認め,減圧処置後に腸管を切除する方針とした.初回手術から51日目に再々手術を行い,拡張し蠕動低下を認めた回腸を30 cm切除した.病理検査で固有筋層の萎縮を認めた.限局した固有筋層の萎縮が限局性の蠕動低下,腸管内容物の停滞を起こし,軸捻転症が発症したものと推測した.MCTDに腸管軸捻転症の合併を認めた報告例はなく,病理所見も合わせて報告する.

はじめに

膠原病は自己免疫異常を基盤として全身の結合組織および各臓器に慢性炎症を来す疾患群の総称であり,血管病変に起因した消化管潰瘍・出血・穿孔のほか,結合組織の障害による消化管の運動異常などの消化管病変の合併,消化管悪性腫瘍の合併などを認めることがある1).これらは膠原病患者の長期管理の面で重要な問題となり,時として重篤な状態を引き起こす.今回,我々は混合性結合組織病(mixed connective tissue disease;以下,MCTDと略記)の加療中に盲腸軸捻転症と続発性小腸軸捻転症を発症した1例を経験した.MCTDに関連した消化管病変の報告は少なく,文献的考察を加え報告する.

症例

症例:60歳,女性

主訴:腹痛

既往歴:MCTD(1997年にRaynaud現象,多発関節炎,手指の腫脹,手指に限局した皮膚硬化,抗U1-RNP抗体陽性で診断された.以後,当院膠原病内科で加療を受け,プレドニゾロン3 mg/day,アザチオプリン100 mg/day内服により症状はコントロールされていた.)

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2014年10月腹痛・嘔吐・腹部膨満を認め,当院膠原病内科を受診された.腹部CT所見で盲腸軸捻転症に伴う腸閉塞が疑われ,当科へ紹介となった.

来院時理学所見:身長159 cm,体重54.5 kg,血圧120/82 mmHg,脈拍68回/分,体温37.4°C,腹部は膨満し,上腹部正中を中心に圧痛を認めた.MCTDに伴う皮膚・関節症状,Raynaud現象の増悪は認めなかっ‍た.

血液生化学検査所見:WBC 8,230/mm3,Hb 12.4 g/dl,Plt 24.9×104/mm3,CK 49 IU/l,LDH 186 IU/l,CRP 0.02 mg/dl.

その他の血液生化学所見も特記すべき所見は認められなかった.

腹部Xp検査所見(臥位):Kerckring襞の消失した拡張腸管を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal X-ray. The X-ray showed dilated small bowel in a recumbent position.

腹部造影CT所見:盲腸の腸間膜を中心としたwhirl signを認め,口側腸管の拡張を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Enhanced abdominal CT findings. A: Bird-beak sign (arrowhead) with dilated bowel in the horizontal sectional view. B: Whirl sign with bowel-twist (arrow) in the coronal sectional view.

以上より,盲腸軸捻転症,腸閉塞の診断で緊急手術を行った.

手術所見:仰臥位にて5ポートで鏡視下手術を開始した.腹腔内には明らかな癒着はなく,中等量の漿液性の腹水を認めた.盲腸~回腸にかけて広範囲に拡張しており,盲腸~上行結腸において後腹膜との癒合不全を認めた.盲腸を中心に時計回りに360°捻転しており,盲腸軸捻転と診断した.臍を5 cm小開腹し体外に回腸を引き出すと回盲部まで容易に挙上でき捻転を解除することが可能であった.腸管壊死所見は認めなかったため腸管切除は行わず,盲腸外側背側を3針後腹膜へ固定し手術を終了した(Fig. 3).

Fig. 3 

Intraoperative photographs. A: The cecum was twisted clockwise 360 degrees, involving the ileum. B: Cecopexy between the cecum and parietal peritoneum was performed (arrows).

術後経過:食事開始後も症状の再燃なかったため,術後12日目に退院とした.しかし,術後37日目に腹痛・腹部膨満を認め,当科外来を再診された.腹部造影CTにて回腸末端の腸間膜を中心とした捻れと同部位から口側の腸管の拡張所見を認めたため,軸捻転症の再発と判断し,緊急手術を行った.

再手術所見:仰臥位にて4ポートで鏡視下手術を開始した.中等量の漿液性腹水を認めた.臍周囲の腹壁に腸管の癒着を認めたため,癒着剥離を行った.捻転部より口側の回腸の著明な拡張と腸管浮腫を認めたが,腸管の壊死所見は認めなかった.腸管拡張が著明で視野確保が困難であったため開腹へ移行した.下腹部を中心に10 cmの小開腹を加え回腸を挙上すると,捻転は容易に解除できた.回腸の拡張が著明で盲腸の固定については確認できなかった(Fig. 4).軸捻転症再発のリスクが高いと判断し,腸管の浮腫・拡張の改善を待って腸管切除の方針とした.

Fig. 4 

Abdominal CT and laparotomy findings. A: Whirl sign with dilated bowel-twist (arrow) in the horizontal sectional view. B: The dilated ileum near the cecum after detorsion.

再手術後経過:イレウス管を留置後,高圧酸素療法を併用し2週間減圧処置を継続した.イレウス管造影で閉塞所見の改善と腸管の拡張がとれていることを確認し,術後51日目に腸管切除術を行った(Fig. 5).

Fig. 5 

Small bowel imaging. The dilation of the small bowel was improved.

再々手術所見:仰臥位にて4ポートで鏡視下手術を開始した.中等量の腹水を認めた.下腹部の腹壁に沿って腸管の癒着を認めたため,癒着剥離を行った.腸管全体の拡張・浮腫の改善を認めたが,回腸末端から口側約30 cmにかけて限局して腸管が緩く拡張しており,拡張部位に一致して蠕動低下を認めた(Fig. 6).盲腸は十分に外側に固定されており,2回目の軸捻転症の原因は回腸末端を中心とした回腸軸捻転症と診断した.回腸末端の拡張腸管が起点となり軸捻転を来すと考えられたため切除の方針とした.臍に約8 cmの小開腹を加え,回腸末端から約30 cm口側の拡張した腸管を切除した.再建は自動吻合器を使用し機能的端々吻合を行った.

Fig. 6 

Intraoperative photographs. A: Fixation between the cecum and parietal peritoneum was preserved (arrow). B: The dilation and edematous of ileum-end focally remained (long arrow).

術後経過:術後7日目に食事開始し,術後15日目に自宅退院とした.再々手術後22か月の現在に至るまで無再発生存中である.

最終病理組織学的診断:Ileum:Congestion and fibrosis.

切除腸管の拡張部分に粘膜下層から固有筋層および漿膜下層に膠原繊維の沈着や繊維芽細胞の増生を認め,少数のリンパ球などの炎症細胞浸潤を伴っていた.内輪筋主体に筋繊維の萎縮がみられ,固有筋層は高度に菲薄化していた(Fig. 7).

Fig. 7 

Macroscopic and microscopic findings. A: The ileum was dilated 10 cm in diameter. B: Plate 1 showed dilated part, and plate 2 showed normal part. C: Microscopic findings (HE staining ×100) showed fibrotic change in the muscle (arrow).

考察

MCTDは1972年にSharpら2)により,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;以下,SLEと略記)様,強皮症様,筋炎様の症状が混在し,血液検査で抗U1-RNP抗体が高値陽性である疾患として提唱された.本邦では1982年に国の特定疾患に認定され,2015年時点で厚生労働省特定疾患医療受給者は10,811人(有病率に換算すると8.6/10万人)であった.男女比は1:15で,30歳代での発症頻度が最も高く,肺高血圧症が最大の予後規定因子である3).生存率に関してはMCTD患者184例を対象とした単施設からの報告があり,10年生存率91.8%,20年生存率84.3%,30年生存率77.4%であった4).診断時に全ての症状が揃っていることはまれであり,経過の中で新たな症状が出現することも少なくない5).また,本邦ではMCTDは独立疾患であり,症状の特徴や経過がSLE,全身性強皮症(systemic sclerosis;以下,SScと略記),多発性筋炎(polymyositis;以下,PMと略記)とは異なるものであると認識されているが,MCTDと診断された症例がのちにSLE,SSc,PMのいずれかの診断基準を満たして,その疾患へ移行したと判断することもしばしばみられる6).自験例はRaynaud現象や手指腫脹,手指・足趾の皮膚硬化,逆流性食道炎などの症状で発症し,強皮症様の症状を中心としたMCTDであった.

MCTDの消化管病変はSSc,SLE,PMとオーバーラップしており,特にSScとの共通点が多い.最も多い消化管病変は食道の蠕動低下であり45~85%に合併すると報告されている5).MCTDはSSc同様に病理学的所見上,食道の固有筋層が菲薄化した部分と蠕動低下部分が一致していると報告されており,関連性が指摘されている7).MCTD患者61例を対象としたMarshallら8)の報告では,消化管病変は食道の蠕動低下以外に吸収不良,結腸穿孔,小腸穿孔がそれぞれ1例ずつあり,消化管のどの領域に対しても影響を与える可能性が示唆された.PubMed(1950年~2016年)および医学中央雑誌(1977年~2016年)で「mixed connective tissue disease」,「volvulus」,「混合性結合組織病」,「軸捻転症」をキーワードとして検索したところ(会議録を除く),MCTDに盲腸軸捻転症を合併した報告例は認めなかった.

自験例は強皮症様の症状が中心であったことから,今後,SScへ移行する可能性も考慮し,SSc関連の消化管病変についても検索したところ,盲腸軸捻転症の報告はなく,小腸軸捻転症の合併例の報告を1例認めるのみであった9)

盲腸軸捻転症は盲腸,上行結腸が長軸方向に捻転する疾患で,1873年にRokitansky10)により初めて報告され,全消化管イレウスの中で1%以下を占める11).欧米では結腸軸捻転症の中では10~40%と報告されているが12)13),本邦では5.9~14%と比較的頻度は少ない14)15).先天的要因として盲腸の後腹膜との固定不全,いわゆる移動盲腸が存在する.移動盲腸は胎生期の中腸回転異常により盲腸,上行結腸が後腹膜に固定されていない状態であり,成人剖検例の11.2%に存在するといわれており16),自験例も移動盲腸であった.しかし,盲腸軸捻転症は移動盲腸の1/400程度の発症頻度に過ぎず17),先天的要因に支点(癒着,腸間膜根部の狭小,索状物),作用力(妊娠,跳躍),盲腸内容の停滞(肛門側腸管の通過障害,大腸のatony,過食,便秘)などの要因が加わって盲腸軸捻転症を発症すると考えられている16)

小腸軸捻転症は,Vaez-Zadehら18)によると,①腸回転異常や腸間膜の固定不全に起因する新生児小腸軸捻転症,②明らかな解剖学的要因のない原発性のもの,③癒着や腫瘍,Meckel憩室,腸重積などの二次性(続発性)のものに分類され,原発性の誘因として,空腹時に多量の食物を一度に摂取するなどの異常な食習慣や過食,また腸間膜が正常より長く,腸間膜根部の幅が狭いといった解剖学的特徴が挙げられている19).自験例は続発性小腸軸捻転症としたが,発生部位や要因などは典型的でなく,捻転の軸は回腸末端であり,盲腸軸捻転症の発生機序と同様に回腸末端への内容物停滞によるところが大きいと考えられる.

盲腸軸捻転症の治療は内視鏡的整復と手術の報告があるが,内視鏡的整復は捻転部まで到達するのに時間がかかり,また整復後の再発が高率に認められるため,手術が第一選択と考えられる11)~13).北出ら20)が集計した1988年~2007年の本邦での盲腸軸捻転症182例の報告では177例が手術を行っており,術式が明らかな症例160例のうち118例に回盲部切除術や人工肛門造設術などの腸切除が行われ,盲腸固定術や縫縮術・盲腸瘻造設術などの非腸切除術に終わった症例は42例と少なかった.腸管壊死や穿孔があれば腸切除や人工肛門造設術が必要となるが,壊死を伴わない症例に対しては捻転解除に加え,盲腸固定術または盲腸瘻造設など非腸切除術が行われていたが,盲腸固定術・盲腸瘻造設術などは12~14%といずれも再発率が高い12)ことから,近年,腸管壊死を伴わない症例においても再発予防のために一期的な腸切除が推奨されている12)18).その一方で侵襲を考慮し固定術など非腸切除術を推奨する報告もあり21),現在のところ術式に関する一定のコンセンサスは得られていない.自験例は,初回手術で捻転解除術+盲腸固定術を行い,続発性小腸軸捻転を来したが,その際,至適な回腸合併切除は困難であったと考えられた.

Fujiyaら22)は,S状結腸軸捻転14例の病理所見を対照群と比較検討し,内輪筋の萎縮と線維化,腸管神経叢の変性と細胞数の減少がS状結腸軸捻転群において有意に多かったことを報告している.併せて結腸軸捻転と病理所見の関連性を証明することは困難であることも述べている.自験例は,拡張のない部分と拡張部分を比較して腸管神経節細胞や神経線維の密度や数に大差はみられなかったが,回腸末端部に限局して膠原繊維の変化・筋層の菲薄化を認め,膠原病に矛盾しない所見であった.自験例においても軸捻転と病理所見の関連性を証明することは困難だが,回腸末端部の固有筋層が萎縮したことで,同部位の蠕動低下が起こり,回腸末端に内容物が停滞し,軸捻転が発症したものと推測した.皮膚症状や関節症状などは内服で良好にコントロールされていたにもかかわらず,なぜ回腸末端部に限局して固有筋層の萎縮が発症したのかは不明であるが,回腸末端部に限局性の蠕動低下を来したSScの報告例23)もあり,MCTD・SScにおける限局性の小腸の蠕動低下に関しては今後の症例の集積が待たれる.今回,我々はMCTDに盲腸軸捻転症,続発性小腸軸捻転症を合併した1例を経験した.MCTD患者に腸管軸捻転症または腸閉塞を合併した場合は,MCTDに伴う消化管病変が潜んでいる可能性があり,消化管造影による蠕動の評価を行うことが重要である.

利益相反:なし

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