The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Leiomyoma Arising from the Greater Omentum of the Gastric Tube after Esophagectomy
Satoru MatonoToshiaki TanakaNaoki MoriHaruhiro HinoKazutaka KadoyaRyosuke NishidaKohei SaishoKazutaka OkadaYoshiki NaitoHiromasa FujitaYoshito Akagi
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2017 Volume 50 Issue 2 Pages 104-111

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Abstract

症例は62歳の男性で,胸部食道癌に対し右開胸開腹食道亜全摘,3領域リンパ節郭清,胸壁前胃管再建術を受けた.術後診断はpT3N0M0 Stage II,類基底細胞癌の診断であった.術後6か月目のCTで異常は認めなかったが,術後10か月目に胸壁前再建胃管左側に小指頭大の腫瘤を自覚した.精査にて胃管大彎側のリンパ節再発あるいは腹膜播種を疑った.胸壁前経路であったため,確定診断目的に腫瘤摘出術を行った.結果は平滑筋腫の診断であった.今回,我々は食道癌術後再発との鑑別を必要とした再建胃管の大網に発生した原発性大網平滑筋腫の症例を経験したので報告する.

はじめに

大網に発生する腫瘍は比較的まれであり,原発性,転移性さらには炎症性など多岐にわたる腫瘍の報告1)~6)が見受けられる.悪性腫瘍では肉腫が半数以上を占め,ついで転移性の腫瘍が多い1).今回,我々は食道癌術後再発との鑑別を必要とした原発性大網平滑筋腫の症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:62歳,男性

主訴:胃管左側の皮下腫瘤

既往歴・家族歴:特記事項なし.

現病歴:2009年4月中旬,胸部中下部食道癌cT3N0M0,cStage IIの診断に対し,右開胸開腹食道亜全摘術,3領域リンパ節郭清術,胸壁前胃管再建術(根治度A)を受けた.病理組織学的診断は,食道癌 MtLt,4.5 cm,2型,類基底細胞癌,pT3,INFb,ly1,v1,pIM0,pPM0,pDM0,pRM0,多発癌なし,pN0(0/102),sM0,fStage IIであった.術後縫合不全を併発したが保存的に改善し,64病日目に退院した.術後6か月目の検査で異常は認めなかったが,術後10か月目に,胸壁前再建胃管の左側に腫瘤を自覚した.精査にて胃管大彎側リンパ節再発あるいは播種を疑い,確定診断のため腫瘤切除術を予定した.

現症:身長165 cm,体重63 kg,performance status:0.胸壁前の再建胃管大彎側に1 cm大の可動性のある硬い腫瘤を触知した.頸部,右胸部および上腹部正中に手術痕を認めた.

血液生化学検査所見:炎症所見など明らかな異常値は認めず,腫瘍マーカーSCCおよびCEAともに正常範囲であった.

胸部X線検査所見:異常所見は認めなかった.

上部消化管内視鏡検査所見:残食道,食道胃管吻合部および胃管内に異常は認めなかった.

超音波検査所見:胃管大彎側に,周囲との境界が比較的明瞭な15.8×7.4 mm大の低エコーの腫瘤を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

US shows a low echoic lesion of 15.8×7.4 mm.

造影CT所見:胃管大彎側に淡い造影効果を有する16 mm大の腫瘤を認めた(Fig. 2).その他異常所見は認めなかった.

Fig. 2 

CT shows a small lesion on the left side of the gastric tube.

FDG-PET所見:胃管大彎側の腫瘤に一致する部位にSUVmax 2.16の集積を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

FDG-PET showed low-level FDG accumulation with a maximum standardized uptake value of 2.16 in the lesion.

以上より,食道癌術後リンパ節再発あるいは大網播種を疑い,診断目的に局所麻酔下で腫瘤切除術を行った.

手術所見:腫瘤は胃管壁より離れた大網内に埋没していた.腫瘤口側では一部右胃大網動静脈を巻き込んでおり合併切除した.

摘出標本所見:10×12×16 mm大の弾性やや硬,辺縁不整な褐色調の腫瘤で,割面は白色調,充実性の腫瘤であった(Fig. 4).

Fig. 4 

In the macroscopic findings of the resected specimen, the tumor is brown color and elastic hard, and 10×12×16 mm. The cut surface of tumor is white.

病理組織学的検査所見:比較的均一な紡錐形細胞が束状ないしは交錯状に増生する像を認めた.異常核分裂像,細胞異型,壊死,出血部分はなく,悪性所見は認めなかった(Fig. 5A).免疫染色検査ではc-kit陰性,CD34陰性,α-SMA陽性(Fig. 5B)で平滑筋腫の診断であった.また,Ki-67 labeling index は6%であった(Fig. 5C).

Fig. 5 

Pathological findings with HE stain show spindle-shaped tumor cells forming palisades (A). Immuno­histochemical findings of α-smooth muscle actin show a positive expression (B). This tumor was diagnosed as leiomyoma. The Ki-67 labeling index was 6% (C).

術後経過:胃管の虚血など併発せず順調に経過した.平滑筋腫切除後6年2か月,食道癌手術後7年経過し,ともに再発は認めていない.

考察

大網に発生する腫瘍は比較的まれであり1)~6),原発性,転移性さらには炎症性など多岐にわたる腫瘍の報告が見受けられる.なかでも大網原発の平滑筋腫の報告はまれで,近年までにまとまった報告はない.医学中央雑誌(1977~2015年末)では,「大網」,「omentum」,「平滑筋腫」,「leiomyoma」をキーワードとして(会議録含む),さらにPubMed(1950 年~2015年末)では,「omentum,leiomyoma」,「greater omentum,leiomyoma」,「great omentum,leiomyoma」,「omentum,tumor」,「greater omentum,tumor」,「great omentum,tumor」をキーワードとして検索した結果,28例の報告6)~27)を認め(うち8例は会議録で内容が把握できた症例),本症例は 29 例目である(Table 1).ただし,gastrointestinal stromal tumorの概念がなかった時期の病理組織学的診断がほとんどで,免疫染色検査が行われ平滑筋腫と診断された症例は7例であった.

Table 1  Reported cases of leiomyoma of the greater omentum
Case Author Year Age Sex Chief complaint Tumor size (cm) Treatment Immunohistochemistry
c-kit CD34 desmin α-SMA S-100
1 Stout6) 1963 65 M Asymptomatic 0.4 None*
2 Stout6) 1963 47 F Asymptomatic 1×0.5 None*
3 Stout6) 1963 79 M Asymptomatic 1 None*
4 Stout6) 1963 42 M Abdominal pain and swelling 18×12×6 Tumor resection
5 Stout6) 1963 51 M Abdominal swelling and weight loss 23×9 Tumor resection
6 Stout6) 1963 23 F Abdominal swelling 20×10 Tumor resection (open)
7 Stout6) 1963 45 F Abdominal swelling Large Tumor resection (open)
8 Elfving7) 1965 27 F Abdominal pain 8×9 Tumor resection
9 Love8) 1973 9 F Anorexia and weight loss 6 Tumor resection
10 Ogata9) 1985 12 F Genaral fatigue Tumor resection
11 O’Brien10) 1986 3 F Abdominal mass 6×8 Tumor resection (open)
12 Hayashi11) 1990 73 F Abdominal mass 9.5×8×4.5 Tumor resection
13 Nozue12) 1990 72 F Abdominal mass and weight loss 9.5×14×9 Tumor resection (open)#
14 Noguchi13) 1991 6 M Abdominal pain 5×5×4 / 4×2.8×2 Tumor resection (open)
15 Takano14) 1993 62 F Abdominal mass 15 Tumor resection#
16 Hisaoka15) 1995 41 F Abdominal mass 10×5×3 Tumor resection (+) (+) (−)
17 Yanagida16) 1998 30 F Abdominal pain and mass 13×12×10 Tumor resection (open)
18 Mimura17) 1998 41 F Abdominal mass 20×10 Tumor resection
19 Kaieda18) 1999 58 M Abdominal mass 12×11×10 Tumor resection (open)
20 Shukunami19) 2005 41 F Abdominal pain 6×7 Tumor resection
21 Mochizuki20) 2007 60 M Abdominal mass Dumbbell type Tumor resection## (−) (−) (+) (−)
22 Cho21) 2009 35 F Dysuria 8.5×6 Tumor resection (laparoscopy)
23 Kojima22) 2009 60s F Heartburn 4 Tumor resection (laparoscopy) (−) (−) (+) (−)
24 Bhandarkar23) 2011 32 M Abdominal swelling 5×4 Tumor resection (laparoscopy) (−) (−) (+) (+) (−)
25 Ninomiya24) 2011 49 F Abdominal pain 8 Tumor resection (open) (−) (−) (+) (+) (−)
26 Inoh25) 2012 34 F Abdominal pain 5.5 Tumor resection (laparoscopy) (−) (−) (−) (+) (−)
27 Ekwunife26) 2012 31 F Abdominal swelling 20×18×13 Tumor resection
28 Terashima27) 2013 60s F Abdominal pain 11 Tumor resection (−) (−) (+) (−) (−)
29 Our case 62 M Subcutaneous mass 1.0×1.2×1.6 Tumor resection (−) (−) (+)

α-SMA:α-smooth muscle actin. *:The tumor was found by chance during surgery for other disease. #:Diagnosed by ultrasonography-guided biopsy before surgery. ##:Diagnosed by CT-guided biopsy before surgery.

本症例は,術後6か月目の検査(触診,CT)で異常は指摘されていなかったが,術後10か月目に胃管左側に腫瘤を自覚したことにより発見された.精査にて胃管大網に発生した腫瘤と診断した.Katoら28)は,FDG-PETにおけるリンパ節転移診断において,SUV値はリンパ節の大きさに関与し,リンパ節が15 mm程度の大きさであればおよそ2.0~2.5と報告している.本症例のFDG-PETによるSUVmax値は2.16の集積であった.わずか4か月で16 mm大の腫瘤が出現したこと,大網腫瘍の原発性腫瘍はまれで転移性腫瘍が多いことなどから,食道癌の再発,つまりリンパ節再発あるいは大網内の播種の可能性などを疑った.ただし,リンパ節再発とすれば胃大彎側のリンパ節再発(No. 4領域)であり,極めてまれなリンパ節再発部位と考えた.当院では1996~2012年の17年間に,食道切除胃管再建術を556例経験したが,術後に大網原発性腫瘍,No. 4リンパ節再発および単独の大網播種を認めた症例は1例も経験していない.

幸いにも本症例は,再建経路が胸壁前経路であったため,確定診断目的に局所麻酔下で腫瘤切除術が施行できた.その結果,病理組織学的に癌の再発ではなく,平滑筋腫と診断された.手術所見では,腫瘤は左胃大網動静脈を巻き込んでおり,大網動静脈も一部合併切除した.大網切除した口側胃管の虚血も危惧されたが,腫瘤は胃管から少し離れた部位に存在したため,胃管の血流に影響は与えなかった.Stoutら6)は,「大網は脂肪に富んだ組織であるにもかかわらず脂肪由来の腫瘍は少ない.一方,大網での平滑筋は大網の血管壁のみにしか存在しないにもかかわらず,平滑筋由来の腫瘍の発生頻度が他の腫瘍に比べ比較的多い」と報告している.本症例も大網の血管の平滑筋由来による平滑筋腫と考えられた.元来,平滑筋腫は細胞分裂活性が低い良性腫瘍であるが,本症例のように消化管や間質などに発生した平滑筋腫では,FDGの集積を呈する症例報告29)~37)が最近散見されている.ただし,FDGの集積と腫瘍増殖能を反映するKi-67 labeling indexの増加との相関はないと報告38)されている.本症例が急速に出現した原因は明らかではないが,Ki-67 labeling indexが6%と若干高い結果を得ており,通常の平滑筋腫であればKi-67 labeling indexは5%以下と報告39)40)されていることを考えると,本症例は比較的細胞増殖能が高い平滑筋腫と考えられる.

本症例において最も議論すべきことは,確定診断および治療をいかにするかということである.本症例の場合は再建経路が胸壁前経路であったため腫瘤切除による確定診断が可能で同時に治療が行えた.しかし,本症例が胸骨後経路や後縦隔経路であった場合,確定診断・治療方針はいかにしたであろうか? 長径1.6 cmと小さい腫瘤のため,これらの経路の場合は,自覚症状ではなく,経過観察のCTにて発見されることがほとんどであると思われる.いずれの再建経路の場合でも,腫瘤の診断を含めた外科的切除は手術侵襲が大きい.腫瘤が良性であれば経過観察,転移・再発であれば化学(放射線)療法が選択されると思われる.それでは良悪性の判断をどうするか? 本症例のような状況では,可能性としては低いが,良性よりは転移・再発と考えるほうが妥当ではないかと思われる.ただし,食道癌のリンパ節転移としては考えがたい部位(No. 4領域)であるため,播種と考えてしまう可能性が高いが,果たしてそれでよいのか疑問が残る.確定診断をつけるにはやはり病理学的診断が必要で,腫瘤が胃管に付着している状態であれば,胃管内腔より生検を行う超音波内視鏡下穿刺術(endoscopic ultrasonography-guided fine needle aspiration;EUS-FNA)が有用な方法と思われる.胃管外壁に付着していなければ,穿刺することで大網からの出血も考えられ,容易に穿刺するのではなく,十分な検討が必要である.腫瘤が良性ということも考慮し,EUS-FNAが安全にできる大きさになるまでは厳重に経過観察するという方針が妥当ではないかと考えられる.諸家の大網平滑筋腫の報告では,非腫瘍性疾患に対し手術を受けた患者で偶然発見された無症候性の腫瘍の3例6)を除けば,腫瘍最大径の中央値は9.75(4~23)cmと大きい.これらの中で,治療前に超音波ガイド下生検にて診断した2例の報告12)14)がある.さらには,本症例の如く癌(膀胱癌)の再発との鑑別を要するため,CTガイド下生検を行い,再発を否定し平滑筋腫と診断した報告が1例20)ある.

また,我々は,腹部食道癌(pStage II)術後に気管前リンパ節(No. 106pre)の腫大を認めた症例を経験している.腹部食道癌のNo. 106preリンパ節単独再発はまれであるが,諸検査からは,確定診断が困難であったために胸腔鏡補助下によるリンパ節摘出術を施行し,縦隔リンパ節結核の病理学的診断を得た経験がある41)

このようにリンパ節再発と考えがたい場合には,可能であれば病理学的な診断を行い,他の疾患と鑑別することが重要である.

食道癌術後の再建経路としては,胸骨後再建や後縦隔再建が主流となっている42).これらの経路で,今後このような症例に遭遇する可能性も十分あると思われる.その際の治療方針の手助けになればと思われる.

利益相反:なし

文献
 

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