The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Laparoscopic Ladd Procedure for Intestinal Malrotation with Midgut Volvulus in an Adult
Atsushi WatanabeSusumu MiyazakiChu MatsudaKatsuki DannoRie NakatsukaMasaaki MotooriMasaru KubotaKazuhiro IwaseKazumasa Fujitani
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2017 Volume 50 Issue 2 Pages 139-145

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Abstract

症例は79歳の女性で,10年以上前から定期的な嘔吐を認めていたが,日常生活に支障はなく経過観察していた.数か月前より嘔気,嘔吐などの症状増悪を徐々に認め,近医を受診した.症状の改善なく,精査加療目的で当院に紹介となった.来院時,腹膜刺激兆候は認めず,血液検査でも炎症反応の上昇は認めなかった.腹部造影CTの所見より,腸回転異常症に伴う中腸軸捻転と診断した.検査所見,臨床所見の結果より緊急手術の適応はなく,待機的に手術を行う予定となった.手術は腹腔鏡下にて行い,捻転整復とLadd手術を行った.術後経過は良好で,退院後は異常所見の出現なく経過している.一般的に,腸回転異常症に伴う中腸軸捻転は小児期に散見し,成人例はまれである.腹腔鏡下に整復手術を行った報告は少なく,腹腔鏡下にLadd手術と軸捻転整復を完遂した症例を経験したので報告する.

はじめに

腸回転異常症は,胎生期における中腸の回転,固定の異常に起因する先天性疾患である.中腸軸捻転のほとんどは小児期に散見され,絞扼性イレウスの原因となる疾患の一つであるが,成人での発症はまれである1)2).今回,我々は成人での腸回転異常に伴う中腸軸捻転を腹腔鏡下手術した症例を経験したので報告する.

症例

症例:79歳,女性

主訴:嘔吐

既往歴:高血圧症,2型糖尿病.

出生,発達の異常は指摘されていない.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:10年以上前から,週に数回,定期的な嘔吐を認めていた.しかし,体重減少や食事量の低下はなく,日常生活に影響がなかったことから,医療機関での精査は行われず経過観察されていた.来院の数か月前より徐々に症状の増悪を認め,繰り返す嘔気嘔吐の精査加療のため,当院に紹介となった.

入院時現症:身長147 cm,体重36.8 kg,Body Mass Index 17.0,腹部は平坦・軟であり,圧痛は認めなかった.

血液検査所見:WBC 4,800/mm3,CRP 0.06 mg/dl,LDH 212 IU/lと血液一般,生化学検査は異常を認めなかった.

腹部造影CT所見:十二指腸水平脚を認めず,十二指腸空腸移行部は右上腹部に位置していた.盲腸,上行結腸は腹腔内の右側に位置していた.上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)の位置が逆転するSMV rotation signを認めた.また,SMAを軸に腸間膜が時計回りに回転した,whirl-like patternを認めた.捻転の影響か,SMVは怒張していた.SMAは末梢まで造影されており,腸管壁の造影不良は認めなかった.腹水の貯留は認めなかった.3次元CT angiography(以下,3D CTAと略記)でもSMA,SMVが時計回りに捻転している様子が確認された(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced CT scan image. (A) Superior mesenteric vein (SMV) rotation sign (arrowheads). (B) Whirl-like pattern (arrows).

経過:画像所見をもとに,西島の分類におけるincomplete rotation of the duodenojejunal limb(十二指腸空回腸脚不完全回転型)の腸回転異常症による中腸軸捻転と診断した1).臨床所見,検査所見から腸管虚血はないと判断した.また,病歴が長期に渡り,直近の症状経過も緩徐であったことから,入院で慎重な経過観察を行いながら待機的に手術を行う方針とした.

手術所見:手術は腹腔鏡下に捻転の整復とLadd手術を行った.ポートは臍下部,左右側腹部,左下腹部に5 mmの計4本挿入した.腹腔内を観察したところ,時計回りに捻転した小腸を認めたが,腸管色調に異常は認めなかった.また,Treitz靭帯は確認できなかった.上行結腸と右側腹壁の間に繊維性の癒着を認め,Ladd靭帯と考えられた.十二指腸はLadd靭帯の背側を通過し,小腸に移行していた.まず,回腸末端部より小腸をたぐりながら軸捻転を解除した.続いてLadd靭帯を電気メスで切離し,腸間膜根部の拡幅を行ったのち,小腸を腹腔内の右側,結腸を左側に並べ,non rotationの状態にした.腹壁への腸管固定は行わなかった.予防的虫垂切除については,虫垂が盲腸と癒着しており,剥離による二次損傷が危惧されたため行わなかった.ドレーンは留置せずに手術を終了した.手術時間は3時間21分.出血は少量であった(Fig. 2, 3).

Fig. 2 

Operative findings. (A) Midgut volvulus. (B) Ladd’s band (arrows). Cecum (*).

Fig. 3 

Schema of Ladd procedure. (A) Ladd band. (B) Non rotation position; The small bowel was placed on the right of the abdomen and the colon placed on the left.

術後経過:術後3日目より経口摂取を再開し,その後は症状が再燃することなく経過した.術後,造影CTを行い,腸管がnon rotationの状態で固定され,捻転の再発を認めないことを確認した.3D CTAでもSMA,SMVの捻転が解除されているのが確認できた(Fig. 4).術後16日目に自宅退院された.術後1年が経過した現在も,症状の再燃は認めていない.

Fig. 4 

3D CTA before and after the operation. (A) Angiographic CT image before the operation shows clockwise twisting of the superior mesenteric artery. (B) After operation.

考察

十二指腸の大部分を含む小腸と盲腸,虫垂,上行結腸および横行結腸の右側3分の2までの部分は中腸(midgut)とよばれ,SMAによって栄養されている.胎生期に発生しているMeckel 憩室を中心に,近位を十二指腸空回腸脚,遠位を盲腸結腸脚という.胎生期に中腸はSMAを軸として,十二指腸空回腸脚と盲腸結腸脚がそれぞれ270°反時計周りに回転し,腹腔内に還納,固定される.腸回転異常症は,この回転,固定の過程で生じる発生学的異常である2).発生頻度は全出生のうち0.005~0.02%と報告されている3).そのうち80%は小児期に何らかの症状を呈して顕在化する4).腸回転異常症による中腸軸捻転の90%は,生後1年以内に発症し,その半数は新生児期である2).成人まで無症状で経過したものは,術中や他疾患の検査時に偶然発見されるものが多い5).そのため,成人での症状出現例は0.2~0.5%と非常にまれである3)

医学中央雑誌において1977~2015年の期間で「成人」,「腸回転異常」,「中腸軸捻転」をキーワードに検索したところ,会議録を除き10件の報告があった6)~15).全て捻転解除とLadd手術が施行されていた.自験例を含めた11例を検証すると,急激な症状の増悪を認め腸管の血流障害が疑われた4例では,緊急手術が施行され,2例は腸管切除が行われた.このうち1例は,病理診断で腸管壊死を認めなかった.病悩期間が長い7例は待機手術を施行されていた.待機手術を行った症例で,腹腔鏡下に捻転解除とLadd手術を行った症例は,自験例を含めて3例であった.このうち2例は腸管切除を行っているが,それぞれ腸間膜リンパ管腫の合併と腸管の狭窄を認めたために切除を要していた(Table 1).

Table 1  Eleven surgical cases of intestinal malrotation with midgut volvulus in an adult
No. Author Year Age (y.o.) Sex Symptom Duration of symptoms Type Strangulation Emergency/Elective Procedure Intestinal resection Outcome
1 Sumitomo6) 1992 44 F stomachache 24 years non rotation Elective Laparotomy alive
2 Kawamoto7) 2000 22 M stomachache vomiting Over 15 years incomplete rotation Elective Laparotomy alive
3 Yamamoto8) 2003 34 F vomiting 2 years incomplete rotation Elective Laparotomy alive
4 kawasaki9) 2003 38 M stomachache vomiting Over 30 years non rotation Elective HALS* alive
5 Ishii10) 2004 21 M stomachache melena 2 days non rotation Emergency Laparotomy alive
6 Mori11) 2007 20 M stomachache 12 hours non rotation + Emergency Laparotomy + alive
7 Kashitsuka12) 2008 24 M stomachache Over 20 years non rotation Emergency Laparotomy alive
8 Iwanami13) 2011 70 F vomiting 8 months incomplete fixation + Emergency Laoarotomy + alive
9 Kusama14) 2011 20 M stomachache 10 years non rotation Elective Laparoscopic + alive
10 Miyamoto15) 2013 45 M stomachache Over 30 years incomplete rotation Elective Laparoscopic + alive
11 Our case 79 F vomiting Over 10 years incomplete rotation Elective Laparoscopic alive

*Hand-assisted laparoscopic surgery

腸管軸捻転は腸管壊死の原因となるため,緊急手術にて対応することが一般的である.しかし,本症例は来院時の検査で腸管壊死を示唆する所見を全く認めず,症状の経過も慢性的であったことから,入院で慎重な経過観察を行ったのちに待機的手術を行った.成人の腸回転異常症における中腸軸捻転で,腸管壊死に陥る頻度は7.1%と報告されており16),検索しえた報告の検討において,腸管壊死を来していた症例は1例のみであった.成人例において腸管壊死を来さない理由は,①成人では腸間膜の脂肪組織が発達して厚みが増すため,捻転を来しても軽度でとどまる16),②軸捻転のon-offが繰り返されるうちに側副血行路が発達し,腸管壊死に至りにくい17),が挙げられる.このため,腸管壊死を認めない成人の腸回転異常症における中腸軸捻転では,慎重な経過観察を前提とした待機的手術を行うことは可能であると考える.

腸回転異常症に対する根本的治療はLadd手術である18).腹腔鏡下での捻転解除とLadd手術は,1995年にvan der Zeeら19)が報告して以降,本邦でもその有用性が報告されている20).本症例は捻転解除とLadd手術を腹腔鏡下で完遂した.術後疼痛や整容面で腹腔鏡下手術は優れていると考えられる.しかし,近年の小児における報告では開腹移行率が8.3~33%と高く,その適応には議論が分かれている21)~23).開腹移行する原因は,拡張した腸管が存在すると十分な視野確保ができず,オリエンテーションがつきにくいことが挙げられる24).成人での発症例においてこれまで検討した報告はなかったが,小児に比べ腹腔内容積があり,症状が慢性的で腸管壊死のない症例では腸管拡張は認められず,腹腔鏡下で手術手技を完遂することは可能であると考える.

術式において,Ladd手術にBill手術といった,再捻転を予防するための腸管の腹壁への固定術を加えるべきとの報告がある.しかし,開腹手術の検討においてでは,固定術を加えることで再捻転率の低下は認めないとの報告や,固定による腸管浮腫,狭窄など合併症を誘発するとの報告もある5).腹腔鏡下手術の検討においてでは,小児に対する手術の検討ではあるが,術後に起こる腹腔内の癒着が少ないため,再捻転率が高いと報告されている21)~23).成人に対する腹腔鏡下手術例において長期成績を検討した報告はなく,固定術の必要性については今後,症例の集積が必要と考える.本症例では術後合併症を危惧し,腸管の固定は行わなかったが,現在まで捻転は再燃することなく経過している.

成人での腸回転異常症における中腸軸捻転は,腸管虚血を伴わないことも多い.そのような症例に対して待機的に腹腔鏡下手術を行うことは,開腹手術と比較し術後早期の回復が期待されると考える.

利益相反:なし

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