The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Early Gastric Cancer with Polycythemia Vera Undergoing Laparoscopic Distal Gastrectomy
Jongsung PakKazuhiro NishikawaKazuyoshi YamamotoMotohiro HiraoMasakazu MiyakeNaoki HamaAtushi MiyamotoMasataka IkedaShoji NakamoriMitsugu Sekimoto
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2017 Volume 50 Issue 3 Pages 199-205

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Abstract

症例は64歳の女性で,2014年4月より黒色便を自覚するようになり,近医を受診された.精査にて胃幽門部早期癌と診断され,当院を紹介受診された.初診時血液生化学検査で汎血球増加を認め,精査にて真性多血症(polycythemia vera;以下,PVと略記)と診断された.PVに対する治療は胃癌治療後より開始する方針とし,2014年5月に腹腔鏡下幽門側胃切除術,Billroth-I法再建を施行した.術後腹腔内出血を来したが,保存的加療にて軽快し,術後14日目に退院となった.PV合併患者は周術期の出血および塞栓症の発症リスクが高い.しかし,まれな疾患のため手術症例の報告が少なく,周術期管理に関する明確なガイドラインが定まっていない.今回,PVを合併した胃幽門部早期癌に対し,腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.

はじめに

真性多血症(polycythemia vera;以下,PVと略記)は慢性骨髄増殖性腫瘍の一つで,発生頻度は低く,約10万人に対し2人と報告されている1)~3).汎血球増加を認め,血液学的異常により出血や血栓症などの合併症を引き起こす可能性があり,血球系のコントロールと合併症の予防が治療の基本である1).さらに,PV合併患者は高頻度に出血および血栓症の周術期合併症を引き起こすため,周術期管理に困難を要する4).今回,PVを合併した早期胃癌に対し,腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した1例を経験したので報告する.

症例

患 者:64 歳,女性

主 訴:黒色便

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:2014年4月より,黒色便を自覚するようになり,近医を受診された.精査にて胃幽門部癌と診断され,当院を紹介受診された.

初診時現症:身長155 cm,体重50 kg,頸部および表在リンパ節は触知せず,腹部に明らかな異常所見を認めなかった.

初診時血液検査所見:汎血球増加(ヘモグロビン17.1 g/dl,WBC 19.7×103/μl,血小板1,060×103/μl)を認めた.その他,異常所見を認めなかった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission revealed pancytosis
​WBC 19.7​×103/μl ​ALP 432 U/l
​RBC 7.4​×106/μl ​AST 24 U/l
​HGB 17.1​ g/dl ​ALT 15 U/l
​Ht 56.8​% ​T-Bil 0.8 mg/dl
​PLT 1,060​×103/μl ​BUN 13 mg/dl
​APTT 44.3​ seconds ​CRE 0.57 mg/dl
​PT-INR 1.16​ ​Na 144 mEq/l
​PT-INR 79​ % ​K 5.4 mEq/l
​FIB 416​ mg/dl ​CRP 0.21 mg/dl

上部消化管内視鏡検査所見:胃幽門前庭部前壁に境界不明瞭な径4 cm以上の陥凹性病変を認め,病巣範囲が不明瞭な0-IIcと考えた.同部位より生検を施行した(Fig. 1).

Fig. 1 

Esophagogastroduodenoscopy revealed a depressed lesions of more than 4 cm in diameter was observed in the anterior wall of antrum (arrows).

下部消化管内視鏡検査所見:特記すべき異常所見を認めなかった.

内視鏡下生検病理組織学的検査所見:胃粘膜の腺管構造が不明瞭となり,signet ring cellsの増殖を認めた.Adenocarcinoma(sig)の像を呈していた.

腹部造影CT所見:画像上,病変を指摘しえず,リンパ節転移および遠隔転移を疑う所見も認めなかった.

胃癌(L,ant,Type 0-IIc,sig,cT1aN0M0,cStage IA)と診断した.粘膜内癌ではあるものの,病変が4 cm以上,未分化型であったことから,胃癌治療ガイドラインにおける内視鏡的切除の適応病変のみならず,適応拡大病変にさえも当てはまらなかった.そのため,腹腔鏡下幽門側胃切除を施行する方針とした.汎血球増加に関しては,当院血液腫瘍内科で精査され,JAK2遺伝子変異(2+)の結果より,PVと診断された.早期の治療介入は不要との判断で,早期胃癌に対する治療を先行した.

手術所見:腹腔鏡下幽門側胃切除,D1+郭清,Billroth-I法再建を施行した.手術時間は3時間56分,術中出血量は150 mlであった.

切除標本病理組織学的検査所見:前庭部前壁に55×35 mm大の0-IIc型腫瘍を認めた(Fig. 2).腫瘍は粘膜内に限局しており,粘膜下層への浸潤を認めなかった.Signet ring cell carcinomaの像を認め,ごく一部不明瞭ながら管状増生を示す成分も認めた.明瞭なリンパ管や静脈侵襲は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 2 

There was a shallow depressive lesions which was located on the distal side of the clip (dotted line).

Fig. 3 

Microscopic findings of resected specimen revealed that none of the carcinoma cells invaded submucosal layer (HE staining, ×20).

最終病理組織学的検査所見:L,ant,Type 0-IIc,55×35 mm,sig>>tub2,pT1a,ly0,V0,pPM0,pDM0,pN0,pM0,pStage IA.

術後経過:静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;以下,VTEと略記)予防目的に術中より行っていた間欠的空気圧迫法を継続した.術後1日目に出血がないことを確認したうえで,エノキサパリン(enoxaparin;以下,ENPと略記)(4.5 mg/回,1日2回,皮下注)投与を開始予定であったが,硬膜外カテーテルが自然抜去していたため,投与延期となった.術後2日目にドレーンより血性排液を認め,ヘモグロビン値は14.0 g/dl(術直後)から10.3 g/dlまで低下し,術後腹腔内出血と診断した.ドレーン排液のアミラーゼ値は158 IU/lであり,膵液漏は否定的であった.術後3日目のヘモグロビン値は8.3 g/dlとさらに低下を認めていたが,ドレーン排液は漿液性に変化したため,ENP投与を開始した.術後5日目に再度ドレーン排液が血性となり,ヘモグロビン値も7.5 g/dlに低下したため,ENPを中止した.術後6日目にドレーン排液は漿液性に戻ったが,以降ENP投与を行わず,術後8日目にドレーンを抜去した.ヘモグロビン値も徐々に回復し,術後14日目に10.6 g/dlまで上昇したことを確認し,退院となった.

術後2か月目に血小板数が124×104/μlまで増加を認めたため,アスピリン100 mg/day内服を開始した.術後5か月目に小腸が出血源と思われる消化管出血を来し,アスピリンの内服中止により自然軽快した.その後はアスピリンの内服をせず,瀉血によりコントロールを行った.瀉血によるコントロールも困難となったため,術後9か月目よりヒドロキシカルバミド 500 mg/day内服を開始し,血球状態は安定している.胃癌に関しては,現在術後2年を経過し,無再発生存中である.

考察

PVは後天的JAK2遺伝子変異による骨髄腫瘍性疾患であり,赤血球を主体として白血球および血小板増加を来す.発症率は約10万人に2人といわれ,まれな疾患である1)~3).臨床症状として,赤ら顔・結膜充血・頭痛・めまい・高血圧などの血液粘稠度の増加に由来するものと,皮膚そう痒感・消化管潰瘍・肝脾腫などがある.平均生存期間は10年以上と報告されているが,予後を規定する最大の因子は血栓症であり,脳梗塞,心筋梗塞,VTEなどの合併症は,10~20%で発症する.特に高年齢者(>60歳),血栓症既往を有する者は血栓症の高リスク群に分類され,注意を要する.治療は血栓症予防が主体であり,瀉血療法と低用量アスピリン療法が行われる.また,前述の血栓症高リスク群では,抗腫瘍薬であるヒドロキシウレア投与を併用されることもある1).本症例は,血栓症既往がなかったものの,64歳であり高リスク群に分類される.しかし,胃癌を合併していたため,低用量アスピリン療法ならびにヒドロキシウレア療法は術後に行う方針とした.

Ruggeriら4)は,PVまたは血小板増多症合併患者(n=311)の周術期合併症発生率に関して,52例(16.8%)で合併症を認め,VTEが12例(3.8%),動脈性血栓症が12例(3.8%)であったと報告している.本邦での一般外科手術における症候性肺塞栓症の発生頻度は0.34%と報告されており5),PV合併手術症例の血栓性合併症発生率の高さが窺える.PV合併手術症例では周術期VTE予防が重要であり,本症例でも肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドラインに準じ5),最高リスク群として理学的予防(弾性ストッキング着用,間欠的空気圧迫法ならびに早期離床)と薬物的予防(ENP,4.5 mg)を併用した.

医学中央雑誌で1991年から2015年4月の期間で「真性多血症」,「手術」をキーワードとして検索し(会議録を除く),Table 2で本邦におけるPV合併癌患者(全11例)の手術症例報告6)~15)をまとめた.本症例と同様に出血性合併症を認めた症例は3例(27.2%)であった.抗凝固薬投与の有無で比較すると,抗凝固薬投与症例(全8例)が2例,抗凝固薬非投与症例(全3例)で1例であった.また,胃癌手術症例を5例認め,出血性合併症および血栓性合併症を1例ずつ認めた.Ruggeriら4)は,出血性合併症は術式やVTE予防法にかかわらず,高頻度(30例,9.6%)で認めたと報告している.本症例では,ENP投与後より出血を認めたことから,抗凝固薬投与と出血の関連が示唆されるものの,PVが出血に最も影響を与えたと考えられた.

Table 2  Case reports of the surgical resection of cancer with polycythemia vera6)–15)
Case No. Author Year Age Sex Diagnosis Surgical procedure Perioperative anticoagulant therapy Bleeding events
1 Mizutani6) 1991 66 F Gastric cancer Total gastrectomy No No
2 Mizutani6) 1991 56 M Gastric cancer Distal gastrectomy No Yes
3 Kinoshita7) 1992 74 M Gastric cancer/Cholelithiasis Distal gastrectomy/Cholecystectomy No No
4 Kawahira8) 1992 82 M Gastric cancer Total gastrectomy Yes No
5 Suzuki9) 1999 64 F Cholangiocellular carcinoma Right segmentectomy of the liver Yes No
6 Kawai10) 2000 65 M Pulmonary cancer Left lower lung lobectomy Yes No
7 Sotooka11) 2001 64 M Gastric cancer/Metastatic liver tumor Total gastrectomy/
Splenectomy/
Left lateral segmentectomy
of the liver
Yes No
8 Katayama12) 2001 75 M Thoracic esophageal cancer Total thoracic esophagectomy Yes Yes
9 Matsuda13) 2005 56 F Rectal cancer Anterior resection Yes Yes
10 Muto14) 2010 45 M Thyroid cancer Right hemithyroidectomy Yes No
11 Yamada15) 2012 71 F Sigmoid colon cancer Laparoscopic sigmoid colectomy Yes No
12 Our case 64 F Gastric cancer Laparoscopic distal gastrectomy Yes Yes

本症例の大きな特徴の一つとして,胃癌精査中にPVが偶発的に見つかったことが挙げられる.これまでの報告6)~15)は,PV治療経過中に見つかった悪性腫瘍手術症例であり,疾患のコントロールはされていた.Wassermanら16)はPV合併手術症例において,4か月以上の術前管理が必要と報告している.本症例ではPVのコントロールが不十分な状況下で胃癌手術を行っており,それが出血性合併症に繋がった可能性も考えられる.このような状況下であれば,手術による合併症のリスクも考慮し,内視鏡的切除も一つの選択肢であった.

本症例のもう一つの特徴は腹腔鏡下手術が挙げられる.本邦でのPV合併癌患者における腹腔鏡下手術症例は1例6)のみであり,胃癌手術症例では認めなかった.上部消化管領域における腹腔鏡下手術のVTE発症への影響に関し,逆Trendelenburg体位や気腹による静脈還流障害などのリスクを指摘されていた.一方,VTEの発症率は腹腔鏡下手術の方が低かったとの報告もあり17),現時点で腹腔鏡下手術とVTEとの関連性は明らかではない.また,Ruggeriら4)の報告では,腹腔鏡下手術と血栓性合併症との関連性が指摘されていない.しかしながら,その症例数は少なく,PV合併患者に対する腹腔鏡下手術の安全性に関しては今後も検討が必要である.

PV合併手術症例では,塞栓性合併症と出血性合併症の両者に留意した周術期管理が必要となる.塞栓性合併症予防には,術前から理学的予防を開始し,術後は速やかに薬物学的予防を開始する.出血性合併症に対しては,術中の止血が重要と考えるが,術直後だけでなく,本症例のように術後2日目に出血を来す可能性もあるため,術後血液検査やドレーンの性状にも細心の注意を払わなければならない.

利益相反:なし

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