The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
Interposition Grafting Repair for a Portal Vein Injury
Masayuki WatanabeZenichiro SazeTakeshi TadaHiroyuki HanayamaTetsu SatoHisahito EndoTakashi KimuraFumihiko OsukaAkira KenjoTakeshi SuzukiMitsukazu Gotoh
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2017 Volume 50 Issue 3 Pages 254-261

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Abstract

症例は62歳の男性で,乗用車とトラックとの間に体幹を挟まれ受傷し,ドクターヘリで当院へ搬送された.腹腔内出血による出血性ショックの診断で,受傷2時間後に緊急手術を行った.門脈が脾静脈分岐部末梢で上腸間膜静脈と完全に離断していたが,門脈の直接縫合再建は困難であったため,右大伏在静脈によるグラフト再建術を行った.再建後,小腸の色調不良を呈していたため,翌日2nd look operationを行い,腸管の色調改善と肝内・外の門脈血流を確認した.術後68日目に退院となった.外傷性肝外門脈損傷は非常にまれであり報告例も少なく,その死亡率は高いとされている.治療法には,縫合術,結紮術,グラフト置換術,門脈-下大静脈シャント術が主に行われているが,本邦ではグラフト再建にて救命した報告はなかった.門脈損傷の直接縫合が不可能な場合でも循環動態が保たれていれば,グラフト再建も積極的に施行すべきと考えられた.

はじめに

外傷性肝外門脈損傷は非常にまれであり,予後は不良とされている1)~5).今回,我々は外傷性肝外門脈損傷に対して迅速に手術を行い,大伏在静脈グラフトによる門脈再建にて救命しえた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

患者:62歳,男性

主訴:腹部の強い痛み

既往歴:特記事項なし.

現病歴:トラック後部で作業中,バックしてきた乗用車とトラックとの間に体幹を挟まれ受傷した.腹部の強い痛みと血圧低下があり,腹腔内出血が疑われドクターヘリで当院へ搬送された.Focused assessment with sonography for trauma(以下,FASTと略記)ではモリソン窩と脾周囲に腹水を認め,造影CTにて腹腔内への造影剤漏出を認めた.また,外傷性腹部大動脈瘤解離と第2腰椎から第4腰椎にかけて左横突起の骨折を認めた.腹腔内出血による出血性ショックと診断し,受傷から約2時間後に緊急手術を行った.

現症:意識清明,強い腹痛あり,腹膜刺激症状なし,血圧74/40 mmHg,脈拍90回/分,呼吸回数20回/分,SpO2 100%(O2 10 lマスク投与下),胸郭挙上良好,骨盤安定,FAST陽性(モリソン窩,脾周囲).

血液生化学検査所見:ヘモグロビン値が10.5 g/dlと低値を示し,白血球数は23,900/μlと高値であった.肝胆道系酵素の上昇や,腎機能・凝固能の異常は認めなかった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on arrival at emergency room
  Peripheral blood cell count    Blood gas analysis (O2 10 l)
​Hb 10.5​ g/dl ​AMY 45​ U/l ​pH 7.503
​RBC 328​×104/μl ​CK 81​ U/l ​pCO2 20.1​ mmHg
​Hct 31.7​% ​BUN 22​ mg/dl ​pO2 202​ mmHg
​WBC 23,900​/μl ​Cre 0.98​ mg/dl ​HCO3 15.6​ mmol/l
​Plt 39.2​×104/μl ​CRP 1.12​ mg/dl ​ABE −5.7​ mmol/l
​Na 138​ mmol/l ​SBE −7​ mmol/l
​Blood chemistry ​K 4.5​ mmol/l ​O2 15.3​%
​TP 5.6​ g/dl ​Cl 110​ mmol/l ​tHb 11​ g/dl
​Alb 2.8​ g/dl ​Ca 8.2​ mg/dl ​O2Hb 96.4​%
​AST 24​ U/l ​sO2 99.3​%
​ALT 12​ U/l ​Coagulation test ​COHb 2​%
​AL-P 189​ U/l ​PT 74.9​% ​MetHb 0.9​%
​LDH 211​ U/l ​APTT 24.1​ sec ​RHb 0.7​%
​T-Bil 0.2​ mg/dl ​FBG 400​ mg/dl

腹部造影CT所見:腹腔内には多量の出血を認め,造影剤の一部が腹腔内へ漏出していた.膵頭部背側に血腫があり,同部で門脈断裂の所見を認め,肝外門脈損傷が疑われた(Fig. 1A).また,腹部大動脈瘤を認め同部位から両側総腸骨動脈にかけて造影効果が低下しており,腹部大動脈内壁在血栓遊離による急性腹部大動脈閉塞が疑われた(Fig. 1B).

Fig. 1 

Enhanced abdominal CT. (A) Massive high density ascites was observed. Arrow shows injury to the portal vein and hematoma formation dorsal to pancreas. (B) Abdominal aortic obstruction caused by the abdominal aorta aneurysm and isolated intramural thrombus.

手術所見:腹部正中切開で開腹した.腹腔内には多量の出血および血腫を認めた.膵臓・脾臓・腸管の損傷は認めなかったが,膵下縁付近で小腸間膜に裂傷を認めた.後腹膜の血腫を除去したところ上腸間膜静脈に裂傷を認め同部位から多量に出血していた.上腸間膜静脈背側を用手的に挙上し,出血をコントロールしながら裂傷部を縫合し止血しえた.他に明らかな出血点がないことを確認した後,心臓血管外科医により腹部大動脈瘤,腹部大動脈血栓閉塞に対して,腹部大動脈瘤切除,人工血管置換術(腹部大動脈-両側大腿動脈バイパス,両側総腸骨動脈中枢端縫合閉鎖,両側総腸骨血栓摘除術,下腸間膜動脈再建術)を施行した.両下肢潅流再開までは受傷から約5時間30分経過していた.両下肢潅流再開後,上腸間膜静脈裂傷部を確認するため膵背側を観察すると同部位より多量の出血を認めた.出血点が確認できなかったため門脈腹側で膵臓を離断し出血点を確認すると,上腸間膜静脈が脾静脈分岐部末梢で完全に離断していた.救命には門脈再建が必要と判断したが,門脈の断裂部は脆弱で直接縫合再建は困難であり,グラフトを用いた再建を行う方針とした.グラフトとしては脾静脈が候補に挙がったが,この時点で循環動態は保たれており,また門脈再建後に膵尾部-空腸吻合を行う予定であったため,右大伏在静脈をグラフトとし門脈再建術を行った.右大伏在静脈を5 cm採取し半切後それぞれ背開きにして筏状に形成したものを長軸方向に縫い合わせてグラフトとし,門脈および上腸間膜静脈と縫合して再建を行った(Fig. 2, Fig. 3A).再建後に術中エコーにて門脈血流を確認したが,再建部より肝臓側の門脈および肝内門脈で血流を認めず血栓の可能性があると判断した.再建部より肝臓側の門脈に切開を加え,Fogarty catheterにて血栓を除去した.門脈切開部を閉鎖した後,脾静脈よりカニュレーションを行い血管造影を施行したところ,肝内門脈は良好に造影された(Fig. 3B).門脈再建後に小腸を観察すると,長時間の静脈血うっ滞により約2 mにわたり色調不良を呈していた(Fig. 4A).そのため,膵尾部-空腸吻合はリスクが高いと判断し,やむなく膵体尾部切除術を施行した.また,腸管血流確認のため翌日に2nd look operationを行う方針とし手術を終了した.手術時間は8時間33分,出血量は8,740 ml,術中輸血量は赤血球濃厚液3,280 ml,新鮮凍結血漿3,360 mlであった.

Fig. 2 

The method for reconstruction of the portal vein with interposition graft. 5 cm of right greater saphenous vein was removed, then cut into halves and sutured like a raft. Diagram shows completed chart after reconstruction.

Fig. 3 

Operative findings on primary surgery. (A) Portal vein reconstruction with interposition graft. (B) Angiography from splenic vein after removal of blood clot from portal vein. Intra- and extra-hepatic portal vein had good blood flow.

Fig. 4 

Intestinal congestion. (A) The patient’s small bowel became congested during the primary surgery. (B) Intestinal congestion was improved at the 2nd look operation.

2nd look operation所見:初回術後から約18時間後に手術を開始した.小腸のうっ血所見は改善しており,腸管の色調は良好であった(Fig. 4B).門脈再建グラフトは触診にて血栓などは見られず,エコーにて上腸間膜静脈,再建グラフト,肝外・肝内門脈の血流が良好であることを確認し手術を終了した.手術時間は1時間12分,出血量は45 mlであった.

術後経過:2nd look operation後抜管しICU管理とした.初回術後2日目よりヘパリンによる抗凝固療法を開始し,術後9日目よりワルファリンカリウム内服へ移行した.術後は腎機能障害など認めず,人工透析は行っていない.術後30日目に膵液瘻による腹腔内膿瘍に対して膿瘍ドレナージ術を行った.ドレナージ術後は経過良好であり,初回手術から68日目に独歩退院された.

考察

外傷性門脈損傷は非常にまれであり報告例も少なく,またその死亡率は高いとされる.Fragaら1)は,1987年1月から2006年12月までの20年間において,米国のUniversity of California, San Diego外傷センター(Level I)へ救急搬送された全ての外傷患者26,387例(鋭的外傷が83%,鈍的外傷が17%)のうち,門脈損傷を認めたのはわずか15例(0.057%)であり,救命しえたのは8例で死亡率は47%であったと報告している.Fragaら1)の報告以前の外傷性門脈損傷についての報告を見ても,その発症率は0.06~0.08%と非常にまれであるが,死亡率は50~70%と高い2)~8).米国での門脈損傷の原因としては,刺創や銃創などの鋭的外傷によるものが8割から9割を占め,鈍的外傷は少ない.一方,本邦における外傷性門脈損傷の報告例は全て鈍的外傷(交通外傷)によるものであり,鋭的外傷による報告はなかった(Table 2).外傷性門脈損傷での死亡率が高い理由として,致死的な出血を来しやすいこと,門脈損傷単独での発症はほぼなく,他の臓器や血管損傷を合併していることが多いことなどが挙げられる.

Table 2  Reported cases of traumatic injury to the portal vein in Japan
No Author Year Age Gender Type of injury Procedure Complications 2nd look operation Survival
1 Murata15) 1983 42 M Traffic accident Venorrhaphy Pancreatic fistula, Rupture of pseudoaneurysm No Alive
2 Yanagawa16) 2007 71 M Traffic accident Venorrhaphy Ileus, Splenic vein thrombosis No Alive
3 Kikkawa9) 2010 67 M Traffic accident Ligation Pancreatc fistula, MOF Yes Alive
4 Negishi17) 2015 64 F Traffic accident Ligation SMV thrombosis No Alive
5 Our case 62 M Traffic accident Interposition graft Pancreatic fistula, Intraabdominal abscess Yes Alive

外傷性門脈損傷の治療としては,縫合術,結紮術,グラフト置換術,門脈-下大静脈シャント術が主に行われている.吉川ら9)は,PubMedで検索しえた外傷性門脈損傷患者268例のうち,縫合術と結紮術施行例について検討を行っているが,グラフト置換術やシャント術については検討していない.今回,上記の268例のうち治療法が不明な6例を除いた262例における治療法の検討を行ったところ,縫合術が183例(68.2%),結紮術が67例(25%),グラフト置換術が7例(2.6%),門脈-下大静脈シャントが5例(1.8%)に行われていた3)7)8)10)~14).治療法別による生存率を見ると,縫合術が60.7%(111/183例),結紮術が31.3%(21/67例),グラフト置換術が57.1%(4/7例),門脈下大静脈シャントが20%(1/5例)で全体の生存率は52.3%(137/262例)であった.医学中央雑誌にて1977年から2016年3月の期間で「外傷」,「門脈損傷」をキーワードとして検索したところ(会議録を除く),本邦で報告されている外傷性門脈損傷症例は自験例を含め5例であった.治療法としては縫合術が2例15)16),結紮術が2例9)17),グラフト置換術は自験例の1例のみであった(Table 2).門脈-下大静脈シャントを行ったという報告はなかった.

それぞれの術式における利点として,縫合術,グラフト置換術では門脈血流が保てる,結紮術では手術時間が短い,門脈-下大静脈シャント術では腸管の静脈環流が保てるという点が挙げられる.欠点としては,縫合術は,出血量が多くなることや,損傷の程度により施行不可となること,グラフト置換術では手術時間が長くなることや,自家血管が必要となることが挙げられる.結紮術では,術後の門脈圧亢進症状や,腸管浮腫が必発であるため2nd look operationを考慮しなくてはならないとされている6)18)19).下大静脈シャントは脳症を発症する危険性があり死亡率も高いため勧められていない8)18)

外傷性門脈(上腸間膜静脈)損傷における結紮術は,1954年にUlvestad20)により初めて報告された.その後,結紮術は縫合術の次に多く行われる術式となったが,生存率は縫合術と比べて低い3)~5)7)9).その理由の一つとして,結紮術は縫合術が不可であった場合の代替手段として位置づけられているということが挙げられる1)3)5)7)14).Stoneら7)は,術中に縫合術を試みたが困難と判断し,代替手段として結紮術を施行した8例では生存数が1例のみ(生存率13%)であったのに対し,手術早期に結紮術を施行した10例では生存数は8例(生存率80%)であったと報告している.以上より,外傷性門脈損傷では術中早期に出血をコントロールすることが生存率を上げることに繋がると考えられる.そのため近年では,門脈損傷に対して,循環動態が安定しており出血のコントロールがついている場合は再建術を行うべきであり,循環動態が不安定な場合や,出血のコントロールがついていない場合には,早期に結紮術を考慮するべきであるといった考え方が広まりつつある1)9)17).また,結紮術を行った場合,術後数日から数週間後には側副血行路が形成されるが,脾静脈合流部より中枢側での損傷および末梢側での損傷では,求肝性側副血行路の発達形態がそれぞれ異なってくる21).脾静脈合流部より中枢側での損傷では,脾静脈血は短胃静脈や後胃静脈に流入(逆流)し,左右胃静脈を介して門脈へと流入する(Fig. 5A).脾静脈合流部より末梢側での損傷では,上腸間膜静脈の血流は上行結腸辺縁静脈から横行結腸辺縁静脈に至り,下腸間膜静脈に向かい脾静脈へ流入し門脈血流と合流する(Fig. 5B).また,それぞれ膵十二指腸静脈アーケードの発達を来す.その他にも門脈結紮後約5~6週間後には,門脈本幹周囲にcavernous transformationと呼ばれる多数の簾状の側副血行路が見られるようになる21)

Fig. 5 

Development pathways of the hepato-portal collateral circulation. (A) Injury at the proximal side of the splenic vein. SMV blood flow through SV→PGV/SGV→LGV/RGV→PV. Pancreatic-duodenal vein arcades will be formed around the injury of the portal vein. (B) Injury at the distal side of the splenic vein. SMV blood flow→colonic marginal vein→IMV→SV→PV. Pancreatic-duodenal vein arcades will be formed as with (A).

本症例では門脈の損傷が強く縫合術は困難であったが,出血のコントロールがつき循環動態が保たれていたためグラフト置換術を選択した.グラフト血管としては,自家血管(大伏在静脈や外腸骨静脈など)あるいは人工血管が一般的に使用される22).人工血管は開存性において自家血管と比較して弱く,また腸管損傷などを合併した汚染手術時には使用できないという欠点がある.本症例では腸管の損傷はなく汚染手術ではなかったため,門脈再建のグラフトには右大伏在静脈を用い,腹部大動脈瘤に対しては人工血管(Yグラフト)を使用した.自家血管(右大伏在静脈)を用いて門脈再建を行ったのは,採取が容易であったことや,長時間の手術のため可能であれば人工物を使用したくなかったということ,自家血管のほうが開存性が良いと判断されたためである.また,大伏在静脈は門脈と比較して口径差が大きいため,サイズミスマッチによる血流障害や,血栓形成のリスクが高くそのまま使用することはできないが,摘出した大伏在静脈を半切し筏状に形成後長軸方向を縫い合わせることで,門脈の口径にほぼ合わせることができた.

本症例において,門脈断裂を確認後早期に結紮術を施行していた場合でも救命しえた可能性はある.しかし,門脈を結紮した場合,内臓血流の停滞により血圧の低下を来すとされる1)4).本症例では,腹部大動脈瘤と急性腹部大動脈血栓閉塞に対して人工血管置換術も同時に行っており,血圧低下により人工血管の狭窄や血栓形成を助長してしまう危険性があった.そのため,門脈血流を保つことは重要であり,本症例に対してはグラフト再建術が最良の方法であったと考える.また,門脈結紮術後には腸管浮腫が必発のため術後48時間以内に2nd look operationを行い腸管の状態を確認することが推奨されている6)18)19).今回,我々はグラフト再建術を行ったが,術中に腸管の静脈うっ滞による腸管浮腫を認めたため,初回手術から約18時間後に2nd look operationを行い,腸管に虚血および鬱血性変化がないことを確認した.もし術後腸管壊死を来し汚染創となってしまった場合,感染により再建した門脈や腹部大動脈から出血するなど致死的な合併症を来す可能性がある.門脈結紮術後,実際に腸管壊死を認めたという報告はなく2),術後状態が落ち着いており腸管壊死を疑う所見がなければ,2nd look operationは必須ではないという報告もあるが,門脈損傷の治療後すぐに全身状態が安定し,患者が腹痛を訴えることが可能な状態であることは少なく,腸管壊死の可能性を否定することは非常に困難である.そのため,腸管虚血による壊死の可能性が少しでもある場合は,2nd look operationは行うべきと考える.

外傷性肝外門脈損傷症例に対しては,受傷からの経過時間や患者の循環動態,他臓器損傷の有無,出血量などを考慮し術式を早い段階で決定する必要がある.本症例はグラフト再建にて救命された本邦初の報告であり,門脈損傷の直接縫合が不可能な場合でも循環動態が保たれていれば,グラフト再建も積極的に施行すべきと考えられた.

利益相反:なし

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