The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
Synchronous Quadruple Cancers Including Hepatocellular Carcinoma and Liver Metastasis from Colon Cancer
Yusuke TsurudaMasahiko SakodaYuko MatakiSatoshi IinoKoji MinamiYota KawasakiHiroshi KuraharaKosei MaemuraShinichi UenoShoji Natsugoe
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 50 Issue 4 Pages 326-333

Details
Abstract

症例は76歳の男性で,2014年9月,下行結腸癌の診断で左半結腸切除術を施行した.最終病理診断はType 2,pT3,ly1,v2,N0,M0でpStage IIであった.2015年4月のCTで左肺腫瘍,多発肝腫瘍を指摘された.大腸内視鏡で上行結腸ポリープも認め,内視鏡的切除したところ上皮内癌であった.肺腫瘍に対して精査されたが,原発と転移の鑑別はできず,診断的な意味も含め左肺上葉切除術を先行させた.最終病理診断は原発性肺腺癌,pT2a,N0,M0で pStage Ibであった.その後,肝腫瘍の精査・加療目的に当科紹介となった.肝S7は肝細胞癌,S3およびS4は転移性肝腫瘍と術前診断した.同年8月,肝病変に対して肝部分切除術を施行した.病理組織学的所見は術前診断と同様であった.肝細胞癌,結腸癌肝転移を含む同時性4多重癌のまれな症例を経験したので報告する.

はじめに

近年,各種画像診断法の進歩に伴い重複癌に遭遇することは少なくないが,肝癌を含む3~4重複癌は非常にまれである1).特に,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下,HCCと略記)と結腸癌肝転移が同時性に存在する症例で切除された報告例はまれである.今回,HCCと結腸癌肝転移を含む同時性4多重癌の1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

症例

患者:76歳,男性

主訴:特記事項なし.

既往歴:高血圧症.輸血歴なし.

家族歴:父に大腸癌あり.

生活歴:喫煙40本/日(20歳から62歳).飲酒 焼酎2~3合/日.

現病歴:2014年8月,前医で下行結腸癌を指摘された.CTでは遠隔転移は認めなかった.同年9月,左半結腸切除術が施行され,最終病理診断はType 2,pT3,ly1,v2,PM0,DM0,N0,M0,pStage IIであった.術後7日目に腹壁離開を認め,再手術を施行したところ,吻合部縫合不全の所見であったため,吻合部を切除し再度,functional end to endで再吻合された.術後42日目には腹腔内膿瘍に対して小開腹にてドレナージ施行された.術後58日目に軽快し,自宅退院となった.2015年4月,定期フォローのCTで左肺上葉に径28 mmの結節影を認め,また肝S3に径19 mm,肝S7に径17 mmの結節影を指摘された.PET-CTでは左肺上葉,肝S3の結節影に一致した異常集積のほか,上行結腸にも異常集積を認めた.大腸内視鏡検査で上行結腸にIsポリープを認めたため,polypectomy施行し,病理診断ではadenocarcinoma,pTis,tub1,ly0,v0であった.左肺上葉の結節影に対しては気管支鏡検査が施行され,原発もしくは転移性腫瘍の鑑別は困難であったが悪性病変が強く疑われた.同年5月,左肺上葉切除術が先行して施行され,最終病理診断はacinar adenocarcinoma,pT2a,N0,M0でpStage Ibであった.同年7月,肝腫瘍の精査・加療目的に当科を紹介された.

当科初診時現症:身長168 cm,体重73 kg.腹部は平坦・軟で腹部腫瘤と表在リンパ節は触知せず,左側胸部に左肺切除の手術痕,上腹部正中に結腸切除の手術痕を認めた.

血液検査所見:WBC 5, 120/μl,Hb 13.5 g/dl,PLT 13.4×104/μl,ALB 4.5 g/dl,T.Bil 1.4 mg/dl,AST 22 U/l,ALT 16 U/l,ALP 302 U/l,γ-GTP 89 U/dlと末血生化学所見に異常を認めなかった.腫瘍マーカーはCEA 3.6 ng/ml,CA19-9 14.6 U/ml,AFP 3.6 ng/ml,PIVKA-II 21 mAU/mlといずれも正常範囲内であった.HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体,HCV抗体はいずれも陰性であった.ICG15分値は20%であった.

造影CT所見:肝S3に径21 mm,S4に径7 mm,S7に径18 mmの計3個の腫瘤を認めた.S7病変は造影早期で濃染され,後期相でwash outされたことからHCCと診断した.S3およびS4病変は造影効果に乏しく,肝内胆管癌または転移性肝腫瘍と診断した(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced CT. Enhanced CT revealed three tumors in the liver (arrows). Only S7 tumor was enhanced in the arterial phase (A, C), and was washed out in the portal phase (B, D). The S3 and S4 tumors were not enhanced in both phases.

EOB-MRI所見:CT所見と同様に肝S3,S4,S7に計3個の腫瘤を認めた.S7はMRIでも造影効果を伴っており,HCCと診断した.S3,S4病変は造影効果を認めず,また病変周囲のリング状増強効果も認めており,肝内胆管癌または転移性肝腫瘍と術前診断した(Fig. 2).

Fig. 2 

Enhanced MRI. Enhanced MRI revealed three tumors in the liver (arrows). Only tumor S7 was enhanced in an arterial phase (A, C, E), and was washed out in the portal phase (B, D, F). Although the S3 and S4 tumors were not enhanced in an arterial phase, a ring enhancement in portal phase were showed in both tumors.

以上の所見より,S7はHCC,S3およびS4は下行結腸癌からの転移性肝腫瘍と診断して切除の方針とした.

手術所見:3回の開腹手術歴があり,腹壁,特に肝外側区にかけて高度な癒着を認め,可及的に剥離を施行した.背景肝は辺縁鈍で表面不整であり,肉眼的には肝硬変の像を呈していた.まず,胆囊摘出を行った後に肝右葉の脱転を行った.各病変は小さく,術中に病変の同定ができるか危惧されたが,perflubutane(ソナゾイドTM)を用いた術中超音波検査を施行したところ,同定可能であった.S7腫瘍は造影濃染後にwash outされた.S3,S4は濃染されず,周囲の肝細胞が造影されることで腫瘍が同定された.各病変をマーキングした後に,切除断端を約1 cmとり部分切除を施行した.

病理組織学的検査所見:肝S7には径15 mm大の周囲と境界明瞭な被膜形成を伴わない結節性病変を認めた.組織学的には異型肝細胞で形成される細索状構造を呈しており,高分化型肝細胞癌と診断された.肝細胞癌の最終病期はpT1,N0,M0,pStage Iの診断であった.肝S3,肝S4にはそれぞれ20 mm大,6 mm大の黄白色の結節を認め,組織学的には異型上皮細胞からなる篩状構造を呈していた(Fig. 3).免疫染色検査ではCK20が陽性,CK7,HepPar-1,TTF-1,Napsin Aは陰性であり,結腸癌の転移と診断された.非癌部の背景肝はいずれの病変部も肝硬変であったが,肉眼所見,組織所見ともにHCCが存在したS7がS3およびS4と比較して,より線維化や炎症細胞浸潤が顕著であった(Fig. 4).

Fig. 3 

Resected specimen and pathological findings. The S7 tumor (A, B) was a nodule without a capsule and the margin was indistinct. Histologically, thin trabecular structure with atypical hepatocytes was found and it was diagnosed as a well-differentiated hepatocellular carcinoma. The tumors of S3 (C, D) and S4 (E, F) were yellowish-white nodules. Histologically, cribriform patterns with atypical epithelium cells were found and they were diagnosed as metastasis of colon cancer.

Fig. 4 

Pathological findings around tumor. Strong fibrosis and infiltration of inflammatory cells were found in non-cancerous lesions around the tumor of S7 (A). In the non-cancerous lesions around the tumor of S3 (B) and S4 (C), fibrosis was relatively slight.

術後経過:術後経過は良好で術後12日目に軽快退院となった.

考察

近年,超音波,CT,MRI,PET-CTなどの画像診断の向上により重複癌と遭遇することは少なくない.Warrenら2)による重複癌の定義は①腫瘍は一定の悪性像を示すこと,②各々が別々に存在すること,③一方が他方の転移でないこと,の3項目を満たすことが必要条件とされている.日本癌治療学会の定義3)によると重複癌は,異なる臓器にそれぞれ原発性の癌が存在するものとされ,同一臓器内に同じ組織型の癌が多発する多発癌とは区別される.また,多発癌と重複癌とを合わせて多重癌とされている.同時性・異時性については発現間隔が1年未満のものを同時性としている.しかし,同時性・異時性に関してはMoertelら4)は6か月未満を同時性とするなど,さまざまな定義がある.本症例は1年以内に下行結腸癌および上行結腸上皮内癌,肺癌,肝癌が診断されており,Warrenら2)の基準,日本癌治療学会の定義を満たしている同時性3重複癌もしくは同時性4多重癌と考えられた.権田ら1)による重複癌の発生部位別の検討では,肝癌および膵癌は有意に少なく,肝癌を含む重複癌は臨床例で3.4~13.8%,剖検例で7.2%と低い頻度であった.また,日本病理剖検輯報(第39輯)5)によると,結腸癌と肝癌の重複癌の割合は3.0%と低かった.自験例も肝癌を含む重複癌であり,まれな症例であると考えられた.

我々が医学中央雑誌を用いて,「肝細胞癌」,「結腸癌肝転移」をキーワードに本邦報告例を検索したかぎりでは,1977年から2015年3月までの期間で自験例含めて22例の報告があった(Table 16)~24).肝炎ウイルス感染はC型が8例,B型が4例,非B非Cが7例,不明が3例であり,BあるいはC型肝炎ウイルスの関与が63%にみられた.HCCでBあるいはC型のいずれかの肝炎ウイルスが関与している割合は90%と報告されており25),結腸癌肝転移を併存するHCCの割合は低く,自験例も肝炎ウイルス感染は認めなかった.しかしながら,最近では肝炎ウイルスを伴わないHCCの発生が増加しており26),今後,HCCと転移性肝腫瘍の併存は増えていくかもしれない.

Table 1  The reported case of synchronous cancers including hepatocellular carcinoma and liver metastasis from colon cancer
Case Author/Year Age/Sex Location of colon cancer Hepatocellular carcinoma Liver metastasis Hepatitis viruses Liver cirrhosis CEA AFP Preoperative examination Preoperative diagnosis
1 Takahashi6)/
1989
77/M A S4: 25 mm S6: 75 mm, S7: 15 mm unknown unknown normal normal CT Liver metastasis
2 Shirai7)/
1990
64/M D S3: 37 mm S2: 7 mm unknown 22 1 AUS, CT*, hepatic angiogram Liver metastasis
3 Gotou8)/
1992
67/M T S5: 25 mm S4: 50 mm unknown unknown 97.3 normal AUS, CT, MRI, hepatic angiogram Liver metastasis
4 Kajihara9)/
1992
59/M A S6: 10 mm S6: 8 mm, S7: 15 mm unknown 25.4 normal CT, MRI, hepatic angiogram Liver metastasis
5 Iwasaki10)/
1992
63/M A left lobe: 5 mm, S5: 13 mm,
S8: 10 mm
left lobe: 10 mm + 24 39 unknown unknown
6 Watanabe11)/
1994
48/M R S6: 40 mm S2: 25 mm, S5: 29 mm, S6: 20 mm B + 110 7,820 CT, MRI, hepatic angiogram Liver metastasis
7 Miyamoto12)/
1995
62/M R S7: 26 mm S2: 5 mm C + 4 12 CT**, hepatic angiogram Hepatocellular carcinoma
8 Kawasaki13)/
1996
60/M S S6: 50 mm S6: 7 mm C 5.6 33 unknown Hepatocellular carcinoma
9 Watanabe14)/
2000
60/M R S3: 18 mm S7: 55 mm, 35 mm B 13.3 27.4 unknown unknown
10 Kurokawa15)/
2000
61/M S S8: 25 mm S5: 8 mm C 2.5 3 AUS, CT* Liver metastasis
11 Koide16)/
2001
49/F S one lesion one lesion unknown unknown AUS, CT Liver metastasis
12 Hasuike17)/
2004
61/M S S5 S8: 20 mm C unknown 2.5 3 CT Liver metastasis
13 Hasuike17)/
2004
70/M R two lesions two lesions C unknown 10.1 5 CT, hepatic angiogram Liver metastasis
14 Takemoto18)/
2005
57/M S S8/4: 50 mm, S8: 8 mm,
S4: 15 mm,
S5: 30 mm
S5: 10 mm B normal normal AUS, CT**, MRI§, hepatic angiogram, CT during arterial potography HCC, Liver metastasis
15 Umitsu19)/
2006
70/M S S8: 55 mm S6: 24 mm B normal normal AUS, CT**, MRI§ HCC, Liver metastasis
16 Tokushima20)/
2008
76/M R S5, S6 S4: 21 mm C normal normal AUS, CT**, hepatic angiogram Liver metastasis
17 Sasada21)/
2009
69/F S S4: 40 mm,
15 mm,
10 mm
S4: 10 mm 6 439 CT**, hepatic angiogram HCC
18 Sasada21)/
2009
58/M S S8: 23 mm S6: 52 mm C 13.9 10.8 CT**, MRI§§ HCC, Liver metastasis
19 Wada22)/
2010
75/M R S6: 35 mm S4: 10 mm 32.9 unknown AUS, CT*, MRI Liver metastasis
20 Miura23)/
2013
77/M D S7: 40 mm S6: 10 mm 10.2 98.3 CT**, MRI§§§ HCC
21 Hirose24)/
2013
63/M S S6 S7: 20 mm C unknown unknown AUS, CT*, MRI§§ HCC, Liver metastasis
22 Our case 76/M D S7: 15 mm S3: 20 mm, S4: 6 mm + 3.6 14.6 AUS, CT**, MRI§§§ HCC, Liver metastasis

SX: segment X of the liver, AUS: abdominal ultrasonography, *: enhanced CT, **: dynamic CT, §: SPIO-MRI, §§: dynamic MRI, §§§: EOB-MRI

重複癌22例の報告の中で肝硬変の有無の記載があった17例中4例と肝硬変は少なかった.Dahlら27)は肝硬変と肝転移の関係の検討を行い,肝硬変は肝転移の頻度を抑制していると報告している.その理由として,肝硬変は非肝硬変と比べて癌が着床,発育する母地として荒廃しているため転移巣を形成しにくいこと,肝硬変患者は血中メタロプロテアーゼ・インヒビターが高値なため癌細胞が脈管内へ侵入しにくいこと28)などさまざまな因子が挙げられている.自験例の背景肝はアルコール性肝硬変であったが,非癌部背景肝組織をHCCと肝転移巣で比較すると,前者の方がより線維化や炎症細胞浸潤が高度であった.

HCCと結腸癌肝転移の重複癌22例の報告例で術前より診断ができていたのは自験例を含む5例のみであった.正確な術前診断が可能であった症例はいずれも2005年以降のものでダイナミックCT,MRIのいずれか,もしくは両方が施行されていた.近年,肝腫瘍における画像診断能は画期的な進歩を遂げてきている29).造影CTでそれぞれの腫瘍における画像の特徴に乏しい場合はHCCと結腸癌肝転移との鑑別が困難であり,ダイナミックCTやEOB-MRIの情報が正確な診断に有用であると考えられた.また,結腸癌既往のある症例の肝腫瘍は,まれであるがHCCとの重複癌症例があることを念頭に入れる必要がある.Aritaら30)はperflubutaneを用いた術中超音波検査の有用性を報告しているが,自験例も病変位置の同定や切除範囲の決定に極めて有用であった.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top