The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Traumatic Liver Injury Caused by Cardiopulmonary Resuscitation Using an Automated Sternal Compression Device That Was Successfully Treated by Direct Surgical Ligation
Shunsuke HayakawaHirotaka MiyaiKawori WatanabeShiro FujihataAkira YasudaMinoru YamamotoHidehiko KitagamiYasunobu ShimizuTetsushi HayakawaMoritsugu Tanaka
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2017 Volume 50 Issue 4 Pages 296-302

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Abstract

症例は69歳の男性で,気分不快を主訴に近医受診中に心肺停止となり,自動胸骨圧迫装置を使用した心肺蘇生が施行された.当院搬入後,急性心筋梗塞と診断され,緊急冠動脈造影を行い,血栓吸引およびステント留置,抗凝固療法にて血流再開を確認した.集中治療室入室後の経過は良好であったが,当院搬入から6時間後,急激にショックバイタルに移行したため,腹部超音波検査および造影CTを施行し,胸骨圧迫に起因する外傷性肝損傷および腹腔内出血と診断し,緊急開腹止血術を施行した.術後一時的に呼吸状態が悪化したものの,集中治療室退室後の経過は良好で,術後28日目に独歩退院となった.自動胸骨圧迫装置を使用した心肺蘇生に起因する肝損傷は極めてまれであるが,心肺蘇生後,原疾患が十分治療されているにもかかわらず循環動態が安定しない症例については本症を念頭において診療を行うべきであると考えられた.

はじめに

胸骨圧迫によって引き起こされる肝損傷の頻度は0.6%と低く,まれな合併症とされている1).しかし,剖検によって肝損傷が死因と診断された症例も藤田ら2)により報告されており,胸骨圧迫に起因する肝損傷の実数は報告よりも高率である可能性も考えられる.また,近年多くの施設や救急隊において自動胸骨圧迫装置の導入も進んでいるが,自動胸骨圧迫装置を使用した心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation;以下,CPRと略記)によって内臓損傷が増加するという報告も認める3).今回,我々は自動胸骨圧迫装置を使用によるCPRに起因した外傷性肝損傷に対して,開腹止血術にて救命しえた,まれな1例を経験したため文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:69歳,男性

主訴:気分不快後,心肺停止(cardiopulmonary arrest;以下,CPAと略記)

既往歴:高血圧,糖尿病,高脂血症

現病歴:17:30頃,気分不快にて近医を受診した.18:20,病院受付で意識消失し,CPAとなった.病院職員によるバイスタンダーCPRが即座に開始され,同時に救急要請が行われた.18:34,救急隊が接触し,自動胸骨圧迫装置を用いてCPRを継続した.18:42,初期波形にて心室細動(ventricular fibrillation;以下,VFと略記)を確認し,電気的除細動を3回施行した.無脈性電気活動(pulseless electric activity;以下,PEAと略記)とVFを繰り返したまま救急搬送し,18:47に当院救急外来に到着した.当院到着後,アドレナリン1 mg,アンカロン125 mgを滴下開始した.VFに移行したため,電気的除細動を18:52に1回追加施行し,18:54に気管挿管を施行した.18:58に自己心拍再開を確認した.

現症:身長172 cm,体重64 kg.

血液検査所見:Hb 10.7 g/dlと軽度貧血を認めた.CK-MB 56 U/I,高感度トロポニンI 0.1159 ng/mlと心筋系酵素の上昇を認めた.AST 238 U/l,ALT 344 U/lと肝酵素は上昇していた(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
CBC & blood coagulation system  BUN 24​ mg/dl
 WBC 10,400​/μl  Cre 1.17​ mg/dl
 Hb 10.7​ g/dl  CPK 56​ U/l
 Ht 34.6​%  CPK-MB 31​ U/l
 Plt 14.9×104​/μl  Troponin-I 0.1159​ ng/mg
 PT-INR 1.19  CRP 0.01​ mg/dl
 APTT 37.2​ sec Arterial blood gas analysis*
 Fib 215​ mg/dl  pH 7.131
 D-dimer 15.5​ μg/ml  pCO2 38.9​ mmHg
Blood chemical values  pO2 301.4​ mmHg
 T.Bil 0.3​ mg/dl  HCO3 12.7​ mmol/l
 AST 238​ U/l  BE −15.6​ mmol/l
 ALT 344​ U/l  Lac 11.56​ mmol/l
 LDH 660​ U/l

* administration of 10 l O2

心電図所見:当院到着時はPEAであり,II,III,aVFでST上昇を呈していた.

単純CT(自己心拍再開後19:18に施行)所見:腹水少量貯留のみであった(Fig. 1).

Fig. 1 

a) Plain CT was performed before coronary angiography. Presence of a small amount of ascitic fluid was the only notable finding (19:18). b) Contrast-enhanced CT performed after admission to the ICU: Extravasation of contrast medium over the surface of the hepatic lateral segment (white arrow) and marked worsening of the ascites were noted (0:25).

以上より,急性心筋梗塞によるCPAと診断し,冠動脈造影検査を施行した.

冠動脈造影検査所見:右冠動脈#3領域に100%狭窄を認めた.血栓吸引で再灌流を得た後,バルーン拡張を行い,ステントを留置した.検査施行中にヘパリン10,000単位にて抗凝固療法を開始した.

集中治療室(intensive-care unit;以下,ICUと略記)にてアスピリン100 mg,プラスグレル20 mgを投与した.薬剤投与の2時間後,急激に血圧が低下したため,さらに検査を追加した.

心臓超音波検査所見:心タンポナーデや心室中隔欠損を認めなかった.

腹部超音波検査所見:腹腔内に多量の液体貯留を認めた.さらに腹腔穿刺を施行し,血性腹水が吸引された.

腹部造影CT所見(入院翌日0:25に施行):前回CTと比べ著明な腹水増加を認めた.肝外側区前面から動脈相に比べて静脈相が優位の広範な造影剤の血管外漏出を認めた(Fig. 1).

以上より胸骨圧迫に伴う肝損傷と診断した.Interventional radiology(IVR)の適応について放射線科にコンサルトも行ったが,ショックバイタルである点や静脈相優位の出血であることから緊急開腹手術を選択し,ガーゼパッキングによるdamage control surgeryを施行する方針とした.術前に濃厚赤血球10単位,新鮮凍結血漿10単位を輸血した.

手術所見:入院翌日2:39に手術を開始した.剣状突起下から臍上までの正中切開にて開腹したが,腹腔内圧上昇に伴い,開腹と同時に血液が噴出する状況であった.肝臓部位を検索すると,肝外側区域前面の被膜全体が肝鎌状間膜に牽引されて剥離していた.さらに,S2,S3のそれぞれに長さ3 cm,深さ3 cmほどの断裂部位を認めた(Fig. 2).日本外傷学会肝損傷分類II型と考えられた.出血範囲は広範であるものの,止血可能と判断し,一期的に止血術を行う方針とした.肝冠状間膜を切開し,外側区を授動した.断裂部分を3-0絹糸で縫合結紮し,止血した.被膜が剥離した部位にはフィブリノゲン配合剤を塗布した.残存出血部位は電気メスのスプレーモードにて焼灼し,止血を得た.ドレーンを挿入し,一期的に閉創し手術を終了した.出血量は7,840 ml,手術時間は1時間59分であった.濃厚赤血球12単位,新鮮凍結血漿10単位,濃縮血小板20単位を術中輸血した.

Fig. 2 

Avulsion of the hepatic capsule (diagonally hatched area) and tears at two sites measuring 3 cm long and 3 cm deep (red lines) were noted in the lateral segment of the liver.

術後経過:ICUでさらに新鮮凍結血漿10単位を追加輸血した.循環動態は安定したものの手術当日に呼吸状態が急激に悪化し,PaO2/FiO2比(以下,P/F比と略記)40まで低下し,胸部Xpにて著明な両側肺うっ血を認め,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;以下,ARDSと略記)と診断した(Fig. 3).呼吸状態を安定させるために,体外式膜型人工肺装置(extracorporeal membrane oxygenation;以下,ECMOと略記)を導入した.術後3日目に経管栄養を開始した.血小板低値が持続するため,濃縮血小板を適宜追加した.術後6日目にP/F比300を超え,ECMOを離脱し術後7日目にヘパリンを再開した.術後8日目に抜管し,術後9日目に経口摂取開始可能となった.術後13日目にICUを退室した.その後の経過は良好でリハビリを施行し,術後28日目に独歩退院となった.

Fig. 3 

a) Post operative day (POD) 1: Decreased pulmonary vascular permeability in both lung fields, suggestive of the development of acute respiratory distress syndrome (ARDS). b) POD 6: Improved permeability.

考察

今回,我々は胸骨圧迫に起因する外傷性肝損傷の症例を経験した.非常にまれではあるが,診断や治療の遅れが致命的となりうる病態である.2015年に更新されたAmerican Heart Association(以下,AHAと略記)の心肺蘇生ガイドラインではこれまで「5 cm以上」とされていた胸骨圧迫の深さが「5 cm以上,6 cm未満」と改定された4).これはCPRを受けた患者の損傷割合を調査したHellevuoら5)による報告が根拠の一つとされている.何らかの損傷(骨折や臓器損傷)を認めた割合は「5 cm以下」「5 cm以上6 cm未満」「6 cm以上」でそれぞれ27%,28%,49%であり,過度な胸骨圧迫に対して警鐘を鳴らす報告となっている.本症例は発症当初から14分間施行されたバイスタンダーCPRに関しては用手的な胸骨圧迫であったが,救急隊接触以降の24分間は自動胸骨圧迫装置が用いられた.医中誌Webにおいて「自動胸骨圧迫装置」,「肝損傷」をキーワードに1977から2016年3月まで検索(会議録は除外)を行うと本邦では自動胸骨圧迫装置と肝損傷の関連について報告した文献は認めなかった.PubMedにおいて「automated cardiopulmonary resuscitation」,「liver injury」をキーワードに1950~2016年3月の期間で検索を行うと1例の症例報告と1例の剖検集積の報告を認めた.Camdenら6)は本症例と同様に自動胸骨圧迫装置使用後に肝損傷を来した症例を報告しており,自動胸骨圧迫装置の使用が肝損傷の割合を増加させる可能性について言及している.Pintoら3)は用手的胸骨圧迫と自動胸骨圧迫を行った症例の剖検を行い,それぞれの損傷部位を比較している.用手的胸骨圧迫は前部の肋骨や胸骨の骨折が多いのに対し,自動胸骨圧迫は後部肋骨骨折や肝臓や脾臓の損傷や腹腔内出血が高頻度に認められたと報告している.Pintoら3)は内臓損傷が自動胸骨圧迫装置で多い理由について,不適切な装置装着の位置と下部肋骨にかかる胸郭復元の圧力が原因と述べている.用手的胸骨圧迫を行う際には施行者が2分毎に交代するため,圧迫位置は2分毎に必ず調整される.しかし,自動胸骨圧迫装置を用いた場合には,装着時を除き,確実な位置の調整は行われないため,患者運搬時やベッド移乗時に位置が偏位する恐れがある.頭側は上肢により一定の範囲内に制限されるため,基本的には足側に偏位すると考えられ,このような装着位置の偏位が内臓損傷を引き起こしている可能性がある.そのため,装置装着後も定期的な装着位置の確認を行うことで内臓損傷のリスクを軽減できる可能性もあり,今後検討が必要と考えられた.本症例では用手的胸骨圧迫と自動胸骨圧迫の両方が施行されているが,施行時間は自動胸骨圧迫の方が長く,自動胸骨圧迫装置に起因した外傷性肝損傷の可能性も示唆される.自動胸骨圧迫装置を使用した症例に関しては,このような損傷の可能性を十分念頭において診療にあたることが重要であると考えられた.

用手的も含む胸骨圧迫による肝損傷は医中誌Webにおいて「胸骨圧迫」あるいは「心肺蘇生」および「肝損傷」をキーワードに1977~2016年3月の期間で検索しえた範囲で自験例を含め9例の報告を認めた(Table 22)7)~13).全ての症例で被膜の剥離を認め,被膜が断裂し腹腔内出血を認めた症例が7例であった.部位は1例が肝右葉のみであったが,両葉前面が2例,外側区に限局したものが自験例も含めて4例であった.肝外側区を中心とした左葉で損傷が起こる頻度が高いと考えられた.以上より,本症の発生機序としては胸骨圧迫によって肝鎌状間膜が牽引されることで肝被膜の剥離が引き起こされると予測され,本症例の術中所見も矛盾しないものであった.また,性別は男性が2例のみで女性7例であった.筋骨格の脆弱な女性において本症が起こりやすい可能性が示唆される.

Table 2  Reported cases of hepatic injury caused by cardiopulmonary resuscitation in the Japanese literature
No Author/
Year
Age/
Sex
Primary disease CPR Anticoagulation medicine Duration between CPR and shock vital Site of injury Bleeding type Treatment Results
1 Fujita2)
2005
41/F Pulmonary embolism Manual + 15 hours RL and ‍LL IB conservative Dead
2 Sueyoshi7)
2008
60/F Acute myocardial infarction Manual + 1 day RL and ‍LL SB IVR→
conservative
Survived
3 Matsukawa8)
2010
31/F Amniotic embolism Manual 17 hours RL and LL IB operation
(one stage)
Survived
4 Kuwata9)
2011
50s/F Cardiac sarcoidosis Manual + 18 hours LL IB operation
(two stage)
Survived
5 Suzuki10)
2011
70/F Pulmonary embolism Manual + 6 hours LL IB IVR→
conservative
Survived
6 Fujiyoshi11)
2015
40/F Pulmonary embolism Manual + 2 days RL SB conservative Survived
7 Fukuoka12)
2015
75/F Pulmonary embolism Manual + 16 hours LL IB conservative Dead
8 Fujiwara13)
2015
76/M Acute myocardial infarction Manual + 3 hours RL IB operation
(two stage)
Survived
9 Our case 68/M Acute myocardial infarction Manual/Automatic + 6 hours LL IB operation
(one stage)
Survived

IVR: intravascular radiology, RL: right lobe, LL: left lobe, SB: subcapsular bleeding, IB: intraperitoneal bleeding

発症からショックバイタルに至るまでにある程度時間を要する(3時間~2日)ことも重要な点である.1症例を除き,抗凝固薬が使用されていたため,その影響で再出血や出血量の増加が起こり,ショックに至ったと考えられる.心筋梗塞や肺塞栓など急性期に強力な抗凝固治療が行われる疾患については特に本症に注意が必要である.CPAに陥るほど重篤であるがために循環動態の不安定が原疾患によるものと考えがちであるが,治療が施行されているにもかかわらず状態の悪化を認める際は,本症を鑑別に挙げて診療を行うべきである.本症を最も簡便にスクリーニングする方法はベッドサイドで施行可能な超音波検査であり,速やかに施行することが推奨されている9)10).早期診断の可否が本症の予後を大きく左右すると考えられる.

前述のように,本症は広範な被膜の剥離が出血の主な原因である頻度が高いため,強力な外力によって引き起こされた外傷性肝損傷とは異なり,主要血管損傷による動脈性の出血が起こるリスクは低いと考えられる.肝動脈造影を施行した症例は2例であり,いずれも動脈性の出血を確認できていない.通常では自然止血が期待できる静脈性出血が,抗凝固療法により止血が得られないことが本症の主な原因と推測される.腹腔内出血を認めず,被膜下出血のみであった2症例は保存的治療のみで改善している.しかし,被膜下血腫による肝実質の圧迫による肝コンパートメント症候群を合併した報告も認めるため7)11),十分な経過観察が必要である.一方で腹腔内出血を認めた7症例のうち4例は手術介入がなされており,保存的治療を行った3症例のうち2例は救命不可能であった.本症は通常の肝損傷と比較して静脈性出血が主な原因と考えられるため,血管内治療の有効性は乏しい可能性がある.保存的治療で止血困難な症例については開腹手術施行を考慮する必要がある.

今後我が国においても自動胸骨圧迫装置の導入がさらに進むと推定され,それに伴って本症例のような肝損傷が増加する可能性がある.本症を念頭においた早期診断,手術も含めた早期治療が救命率向上のために必要と考えられる.

利益相反:なし

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