The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
Laparoscopic-assisted Resection of Intestinal Cancer after Successful Reduction of Intussusception Using the Balloon of a Nasal Ileus Tube
Hiromitsu MaehiraMasayasu KawasakiSatoshi OkumuraSho ToyodaHiroshi KawashimaKansuke YamamotoNaoto MizumuraAya ItohAtsuo ImagawaMasao OgawaMichiko Yoshimura
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2017 Volume 50 Issue 4 Pages 311-316

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Abstract

患者は81歳の女性で,自己免疫性肝炎のフォローのCTで空腸の腸重積を指摘された.腹膜炎症状や腸管壊死を認めず,経鼻イレウス管を挿入し,バルーンを使用して整復した.整復3日後のCTで重積の再発が疑われたため,腹腔鏡補助下手術を施行した.腹腔鏡の鉗子による触診では,重積部近傍に腫瘤を認識できなかった.しかし,小切開創から空腸を創外へ誘導し,手指による触診をしたところ腫瘤を触知したため,小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査で腫瘤は腺腫内癌と診断された.小腸の腸重積を経鼻イレウス管で整復した報告は過去に認めず,第一に非観血的な整復術を試みることが治療方針の一つになる可能性が示唆された.また,器質性病変を伴った腸重積症に対して整復後に腹腔鏡補助下手術を選択することで,根治性や安全性を損なうことなく,低侵襲性および整容性に優れた手術を施行することができると考えられた.

はじめに

成人腸重積症に対する治療として従来は開腹手術が選択されていたが,近年の腹腔鏡手術の技術向上に伴い,腹腔鏡手術が選択されることが増えてきた.腸重積を整復したうえで待機的に腹腔鏡手術が施行される症例を散見するが,横井ら1)の分類における小腸型の腸重積に対して整復をした報告は過去に認めない.今回,我々は小腸癌を起点とした小腸型の腸重積に対して,経鼻イレウス管で整復後に腹腔鏡補助下手術で根治切除できた1例を経験したので報告する.

症例

患者:81歳,女性

主訴:腹痛

既往歴:子宮筋腫で子宮卵巣摘出,類天疱瘡,自己免疫性肝炎でステロイド内服中.

現病歴:1か月前より時折腹痛を認めていたが放置していた.自己免疫性肝炎に対するフォローの腹部CTで小腸重積を指摘され当科紹介受診した.

初診時身体所見:腹部は平坦,軟で,臍左上部に軽度の圧痛を認めた.筋性防御や反跳痛は認めなかった.

血液検査所見:白血球5,200/μl,CRP 0.02 mg/dlと炎症反応は正常範囲内で,CK 43 U/l,AST 18 U/l,LDH 180 U/lと筋原性酵素も正常範囲内であった.また,そのほかの検査所見で異常は認めなかった.

腹部造影CT所見:トライツ靱帯を越えてすぐの空腸に腸管の陥入像とmultiple centric signを認めた(Fig. 1).胃や十二指腸の拡張は認めず,腸管の造影不良や腹水貯留も認めなかった.また,明らかな腫瘤性病変も指摘できなかった.

Fig. 1 

Initial abdominal enhanced CT findings: The invagination image (A: arrow) and multiple centric sign (B: arrowhead) can be seen in the jejunum nearby the Treitz ligament.

以上より,空腸の腸重積と診断した.腸管虚血や腹膜炎は認めないと判断し,経鼻イレウス管挿入および整復を施行することとした.

イレウス管造影検査所見:イレウス管をトライツ靭帯から2ループ目の空腸まで挿入しガストログラフィンで造影すると,トライツ靱帯を越えて1ループ目の空腸で蟹爪状陰影を認めた(Fig. 2A).まずイレウス管のバルーンを15 mlのairを注入し,バルーンを膨らませた状態でイレウス管をゆっくり引き抜いてきた.重積部までは抵抗なく引き抜くことができたが,重積部で抵抗を認めた.若干の力を加えながらイレウス管を牽引し続けると,十二指腸まで引き抜くことができた.再度造影したところ,重積していたと思われる部位の空腸にくぼみを認めたが,蟹爪状陰影は消失していた(Fig. 2B).腫瘤性病変は確認できなかった.重積を整復できたと判断し,直後に腹部CTを施行した.

Fig. 2 

Small bowel radiography with gastrografin from the ileus tube: (A) A crab claw shaped shadow can be seen in the jejunum of the first loop (arrow). (B) After reduction of the intussusception using the balloon of an inserted nasal ileus tube, an intestinal pit is seen at the part of the intussusception (arrowhead). However, a crab claw shaped shadow and a mass lesion cannot be seen in the jejunum.

整復後腹部CT所見:整復前に認めていた腸管陥入像やmultiple centric signは消失しており(Fig. 3A, B),腸重積は整復されたと判断した.

Fig. 3 

Abdominal plain CT after reduction of the intussusception: The invagination image and multiple centric sign has disappeared (arrows) (A: Axial view, B: Colonal view).

整復3日後腹部造影CT所見:若干の腸管陥入像を認め,腸重積の再発と診断した.腹膜炎や腸管虚血を疑わせる所見は認めなかったが,短期間に腸重積の再発を起こしており,緊急手術をする方針とした.

手術所見:5点ポートで手術開始した.イレウス管の認識は容易であった.明らかに重積を起こしている腸管は認めなかったが,トライツ靱帯から10 cm肛門側の空腸に若干のくぼみを認め,重積部と判断した(Fig. 4).空腸の浮腫はほとんど認めなかった.視診と鉗子での触診では明らかな器質的病変は指摘できなかったが,手指での触診をするために臍上に皮膚切開を3 cm延長し,重積部の小腸を体外へ引き出した.手指での触診で重積部に可動性良好で軟な腫瘤を触知した.癌と仮定しても,触診上明らかな粘膜下層への浸潤は認めないと判断し,小腸部分切除術,D1郭清を施行した.

Fig. 4 

Operative findings: An intestinal pit is located 10 cm on the anal side from the Treitz ligament (arrow).

摘出標本所見:漿膜面からの観察でくぼみを認めた(Fig. 5A).その粘膜面には45×25 mm大の可動性良好で軟な腫瘤性病変を認めた(Fig. 5B).これが重積の起点であったと診断した.

Fig. 5 

Resected specimen: (A) An intestinal pit can be seen from the serosa side (arrows). (B) A very soft tumor, 45×25 mm in size, can be seen at the part of intussusception (arrowheads).

病理組織学的検査所見:腺腫内癌の診断であった.深達度は粘膜層までで,脈管侵襲やリンパ管侵襲,リンパ節転移は認めなかった.

考察

腸重積症は,小児期に発生頻度の高い疾患であり,成人での腸重積症は全腸重積症例の約5%と比較的まれである2).成人腸重積症は重積と自然整復を繰り返し閉塞症状が緩徐に出現するとされており3),そのため症状として軽度の腹痛や嘔気を繰り返し,数か月から数年と慢性的に症状が経過することもあり4),本症例のように腸閉塞や腸管壊死などを伴わずに発見されることも少なからず存在する.

成人腸重積症の約90%は器質的疾患が原因であり2),そのうち小腸腸重積では悪性リンパ腫27%,脂肪腫20%,ポリープ13%の順に多いと報告されている5).そのため,成人腸重積に対する治療方針は基本的に外科的切除が必要である.穿孔や腸管壊死を認める場合には緊急手術を要するが,近年の画像診断の発達によって穿孔や腸管壊死を認めないと判断できた場合に,非観血的に整復したうえで待機手術を行うという方法も選択できるようになった6)~13).非観血的整復法としては,注腸造影による整復と9)10)12),大腸内視鏡による送気6)8)11)や圧迫6)による整復が報告されているが,それらは全て大腸型あるいは回盲部型の腸重積である.医学中央雑誌(1977年~2016年)およびPubMed(1950年~2016年)で「小腸」,「腸重積」,「整復」,「intestinal intussusception」,「reduction」をキーワードとして検索したが(会議録除く),小腸型の腸重積に対して非観血的に整復したという報告例は過去に認めなかった.小腸型の腸重積では,注腸造影をしてもバウヒン弁の存在により重積部まで圧がかからず,大腸内視鏡では距離が届かないため整復は困難である.しかし,大澤ら13)が経肛門イレウス管のバルーンを使用してS状結腸癌による腸重積を整復し待機手術できたとの報告をしていたこともあり,本症例のような空腸の腸重積でも経鼻イレウス管が重積部を越えて挿入できれば,イレウス管のバルーンを使用して重積を整復できると考えた.しかし,この方法は,従来の腸重積整復の際のHutchinson手技とは異なり,バルーンを使って腸管を押し出す操作となるため,腸管損傷や腸管穿孔につながるリスクを秘めていると考え,患者には十分なインフォームドコンセントを行ったうえで,無理な力を加えないように慎重にイレウス管のバルーンによる整復を施行した.整復後に手術を行う最大のメリットは,重積腸管の浮腫が解除されることである.浮腫が解除されることによって,非常に軟な腫瘍でも触診で認識しやすくなり,癌であればその深達度を視診触診で予測することができ,縫合不全リスクの軽減や過不足ない切除範囲の設定につながる.腸閉塞を併発している場合には,整復することにより腸管拡張を改善させ,より低侵襲な腹腔鏡手術を選択することができる.本症例のような小腸の腸重積であっても経鼻イレウス管が重積部を通過することができればイレウス管のバルーンを使用することで非観血的に整復できる可能性があることを示すことができたと考えるが,イレウス管などによる整復の際に必要以上の力を加えて無理に整復をすることは腸管損傷や腸管穿孔につながるため,十分な患者へのインフォームドコンセントを行い,さらにすぐに緊急手術ができるようなバックアップ体制を整えたうえで,極めて慎重な整復操作を心がけるべきであると考える.また,本症例では腸閉塞を併発していなかったために成功した可能性があり,腸閉塞併発症例ではより整復が困難となることが予想される.本症例はあくまで1例報告であり,安全性および再現性は担保できないため,本症例のような整復操作を試みる前には慎重な検討をしたうえで,施行する際には細心の注意を払わなければならない.また,本症例では整復に成功したものの3日後に腸重積再発と診断し手術を施行したが,腸重積が再発しなかった場合は必ず小腸内視鏡検査などで器質的疾患の検索をする必要があると考える.

成人腸重積症の手術法として,従来は開腹手術が主流であったが,腹腔鏡手術の普及と技術の向上に伴って,近年では腹腔鏡手術が選択されることが多くなってきた.腹腔鏡手術のメリットとしては,低侵襲性と整容性の向上が挙げられる.しかし,腹腔鏡下での整復は腸鉗子での肛門側からの押し出しだけでなく,腸鉗子での口側腸管の牽引も必要であり,比較的困難な場合がある14).また,本症例のように非常に軟な腫瘍であれば,鉗子での触知では見逃す可能性がある.よって,成人腸重積症の手術法としては,まず腹腔鏡で観察し病変部位を特定してから適切な位置に最小限の皮膚切開をおくという,腹腔鏡補助下での手術が推奨されると考える.本症例では,重積部の位置を腹腔鏡で確認することで小切開創の位置を決定し,同部位より小腸を創外へ引き出し,触診で腫瘤の存在を確認できた.もし重積が解除されていなかった場合は,創外に腸管を引き出してからHutchinson手技を行うことができる.また,本症例のように先進部の起点となった器質的病変が癌であった場合にも,視診と手指による触診である程度の深達度やリンパ節転移の有無は予測でき,適切な切除範囲を設定できる.このように,成人腸重積症の手術において腹腔鏡補助下とすることで,根治性を損なうことなく,安全かつ低侵襲で,整容面にも配慮した手術が可能であると考える.

今回,我々は小腸癌による腸重積に対して経鼻イレウス管で整復後に腹腔鏡補助下に根治切除しえた1例を経験した.小腸型の腸重積に対しても第一に非観血的な整復術を試みることは,施行する前には適応を慎重に判断し,施行する際には十分なインフォームドコンセントを行ったうえで細心の注意を払う必要があるが,治療方針の一つとなる可能性があると考えられた.また,腹腔鏡補助下で手術することで,安全かつ低侵襲に重積の原因究明や整復を行うことができ,根治性や整容面を損なわない手術が可能であると思われた.

利益相反:なし

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