The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Surgical Outcomes and Prognostic Factors of Colorectal Cancer with Peritoneal Carcinomatosis Undergoing Primary Tumor Resection
Daisuke InagakiManabu ShiozawaTetta SatoyoshiYousuke AtsumiKeisuke KazamaAkio HiguchiYasushi RinoMunetaka Masuda
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2017 Volume 50 Issue 8 Pages 607-613

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Abstract

目的:原発巣切除を施行した腹膜播種を伴う大腸癌の予後因子を明らかにすることを目的として検討を行った.方法:2000年から2010年まで,当科で治療を行った原発性大腸腺癌を対象とした.結果:大腸癌1,484例のうち77例(5.2%)に腹膜播種を認めた.腹膜播種を伴う大腸癌で原発巣切除を施行したのは74例で,手術根治度Bを得られたのは12例であった.手術根治度Cの65例において,原発巣切除62例と非切除3例の治療成績を比較すると,原発巣切除症例の生存率が有意に良好であった(P=0.037).腹膜播種を伴う大腸癌で原発巣切除を施行した74例で,腹膜播種の程度の分類はP1 32例,P2 17例,P3 25例で,3年生存率(生存期間中央値)は,P1 34.4%(20.2か月),P2 41.2%(24.7か月),P3 8.0%(14.8か月)であった.P3とP1およびP3とP2を比較すると,P3はいずれも有意に予後不良であった(P=0.008,P=0.008).多変量解析の結果,組織型(低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌),腹膜播種P3,手術根治度Cが独立した予後不良因子であった(P<0.001,P=0.015,P=0.002).結語:腹膜播種を伴う大腸癌では,原発巣切除と腹膜播種切除で肉眼的根治切除を行うことができれば治療成績を改善できる可能性があると考えられた.

はじめに

大腸癌における同時性腹膜播種の頻度はおよそ4~5%と高くはないが,その生存期間中央値は7か月と報告があるように予後不良である1)~3).本邦での大腸癌治療ガイドラインでは,腹膜播種を伴った大腸癌の治療方針に関して,他に切除不能な遠隔転移がなく,過大侵襲を伴わずに切除可能な同時性限局性腹膜播種は,完全切除が望ましいと記載されている4).しかし,いまだ腹膜播種を伴った大腸癌に対する原発巣切除や腹膜切除の有効性を証明する大規模臨床試験は行われておらず,その治療方針はいまだ定まってはいない.

そこで今回,当科における腹膜播種を伴った大腸癌の治療成績を検討し,原発巣切除の有用性と予後不良因子を検討した.

対象と方法

2000年から2010年まで,当科で手術を施行した原発性大腸腺癌の1,484例を対象とした.当科では,大腸癌の同時性遠隔転移症例に対して可能な場合には原発巣と転移巣の一期的切除を行っているが,転移巣が根治切除不能な症例では原則的に原発巣切除のみを施行している.原発巣の他臓器浸潤のため治癒切除が不可能な症例,多発肝転移など全身化学療法を術後早期に行う症例,全身状態不良な症例や重度の心疾患を併存している症例では手術時間や侵襲を考慮して人工肛門造設のみを選択している.ただし,腸管穿孔を生じている症例,腫瘍からの出血でショックとなっている症例では,根治性は考慮せず原発巣切除を行う.原発性大腸腺癌のうち,家族性大腸腺腫症,遺伝性非ポリポージス性大腸癌,炎症性腸疾患,術死,同時性・異時性の大腸多発進行癌ならびに他臓器重複癌を除外した.原発巣の部位として,盲腸から横行結腸を右側大腸,下行結腸から直腸を左側大腸とした.分子標的薬としてbevacizumab,cetuximab,panitumumabを使用した.観察期間中央値は2,218日(25~4,815日)であった.

診療録などから後方視的検討を行った.患者背景の比較には,χ二乗検定とt検定を使用した.生存率の解析にはKaplan-Meier法を用い,有意差はlog-rank検定で判定した.予後不良因子の検討にはCox比例ハザードモデルを使用した.いずれの場合もP値0.05未満を有意差ありとした.統計解析ソフトはDr. SPSS II for Windows(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を使用した.

本稿における用語は全て大腸癌取扱い規約第8版を使用した5).今回の対象症例では,腹膜播種以外の遠隔転移巣はその個数や大きさから治癒切除不可能または困難と判断され,腹膜播種以外の遠隔転移巣の同時切除は行われず根治度Cとなった.よって,根治度Bが得られた症例は全て腹膜播種単独であった.

結果

大腸癌1,484例のうち術中所見で腹膜播種を認めたのは77例(5.2%)であった.3例は原発巣非切除症例(P3と同時性切除不能多発肝転移が2例,原発巣の仙骨浸潤が1例)で,74例に原発巣切除を施行した.原発巣を切除した腹膜播種を伴った大腸癌の74例の臨床病理学的因子をTable 1に示す.CEA 5.0以上,腫瘍径50 mm以上,原発巣の部位が左側大腸,組織型が乳頭腺癌・管状腺癌,深達度T4以深,静脈侵襲陽性,リンパ管侵襲陽性やリンパ節転移陽性といった症例を多く認めた.遠隔転移部位に関して,肝転移50.0%,肺転移14.9%で,腹膜播種の他に遠隔転移を認めた症例は58.1%であった.

Table 1  Clinicopathological characteristics of patients with peritoneal carcinomatosis from colorectal cancer who underwent primary tumor resection
(n=74)
Age Mean (Range) 63 (30–85)
≥80 3 (4.1%)
Gender Male 36 (48.6%)
Female 38 (51.4%)
CEA Mean±SD 152.8±489.4
≥5.0 49 (66.2%)
Region Right 31 (41.9%)
Left 43 (58.1%)
Size Mean±SD 57.5±25.7
≥50mm 48 (64.9%)
Histological grade Pap, Tub 45 (60.8%)
Por, Muc, Sig 29 (39.2%)
Depth of invasion T1–T3 3 (4.1%)
T4 71 (95.9%)
Lymphatic invasion Present 52 (70.3%)
Venous invasion Present 66 (89.2%)
Lymph node metastasis Present 67 (90.5%)
Liver metastasis Present 37 (50.0%)
Lung metastasis Present 11 (14.9%)
No. of distant metastatic sites Single 31 (41.9%)
Multiple 43 (58.1%)

Pap, papillary adenocarcinoma; Tub, tubular adenocarcinoma; Por, poorly differentiated adenocarcinoma; Muc, mucinous adenocarcinoma; Sig, signet-ring cell carcinoma

腹膜播種を伴った77例中,原発巣切除と腹膜播種切除を施行し根治度Bを得られたのは12例で,65例が手術根治度Cであった.根治度Cの主な理由は,原発巣非切除症例3例,肺転移11例,切除不能または困難な肝転移17例,骨転移1例,領域外リンパ節転移1例,そして広範囲な腹膜播種(P2もしくはP3)が36例であった.根治度Cであった65例のうち,原発巣切除症例の62例と原発巣非切除症例の3例を比較した.両群間で臨床病理学的因子に関して差は認めなかったが(Table 2),生存期間中央値は原発巣切除症例15.0か月,非切除症例5.4か月であり原発巣切除症例の生存率が有意に良好であった(P=0.037)(Fig. 1).

Table 2  Clinicopathological characteristics of patients with peritoneal carcinomatosis from colorectal cancer who underwent curability C resection
With PTR (n=62) Without PTR (n=3) P value
Age Mean (Range) 62 (30–83) 61 (51–71) 0.943
Gender Male 30 (48.4%) 2 (66.7%) 0.536
Female 32 (51.6%) 1 (33.3%)
CEA Mean±SD 180.82±532.3 88.0±99.3 0.766
Region Right 25 (40.3%) 2 (66.7%) 0.366
Left 37 (59.7%) 1 (33.3%)
Histological grade Pap, Tub 37 (59.7%) 2 (66.7%) 0.809
Por, Muc, Sig 25 (40.3%) 1 (33.3%)
Liver metastasis 35 (56.5%) 2 (66.6%) 0.727
Lung metastasis 11 (17.7%) 0 (0.0%) N/A
No. of distant metastatic sites Single 23 (37.1%) 1 (33.3%) 0.895
Multiple 39 (62.9%) 2 (66.7%)

PTR, primary tumor resection; Pap, papillary adenocarcinoma; Tub, tubular adenocarcinoma; Por, poorly differentiated adenocarcinoma; Muc, mucinous adenocarcinoma; Sig, signet-ring cell carcinoma; N/A, not available

Fig. 1 

Overall survival for patients with peritoneal carcinomatosis from colorectal cancer who underwent curability C resection. PTR, primary tumor resection.

原発巣切除した腹膜播種を伴う大腸癌の74症例を腹膜播種の程度で分類するとP1 32例,P2 17例,P3 25例で,3年生存率(生存期間中央値)はそれぞれP1 34.4%(20.2か月),P2 41.2%(24.7か月),P3 8.0%(14.8か月)であった(Fig. 2).P1とP2では治療成績に有意差を認めなかったが,P3はP1,P2と比較していずれも有意に予後不良であった(P=0.008,P=0.008).次に,Cox比例ハザードモデルを用いて予後不良因子を検討した.単変量解析ではCEA≥5.0,組織型が低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌,肝転移あり,腹膜播種P3,根治度C,遠隔転移臓器が複数の症例で有意に治療成績が不良であった(Table 3).イリノテカン(以下,CPT-11と略記)またはオキサリプラチン(以下,L-OHPと略記)を使用した化学療法の有無や分子標的薬使用の有無に関しては有意差を認めず,また肝転移や肺転移の二期的切除の有無に関しても有意差を認めなかった.単変量解析で有意差を認めた因子を共変量として多変量解析を行った.その結果,組織型が低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌,腹膜播種P3,根治度Cで有意に予後不良であった(P<0.001,P=0.015,P=0.002)(Table 4).

Fig. 2 

Overall survival of patients with peritoneal carcinomatosis who underwent primary tumor resection according to the degree of peritoneal carcinomatosis.

Table 3  Univariate analysis for overall survival in patients with peritoneal carcinomatosis
n HR 95% CI P value
Age ≤79/≥80 71/3 0.373 (0.091–1.529) 0.171
Sex M/F 36/38 0.742 (0.455–1.214) 0.235
CEA <5.0/≥5.0 25/49 1.845 (1.080–3.145) 0.025
Region Right/Left 31/43 1.238 (0.755–2.024) 0.398
Size <50mm/≥50mm 26/48 0.969 (0.582–1.613) 0.902
Histological grade Wel, Mod/Por, Muc, Sig 45/29 1.965 (1.192–3.236) 0.008
T T1–T3/T4 3/71 0.453 (0.139–1.481) 0.190
Lymph node meta Absent/Present 7/67 2.488 (0.779–7.937) 0.124
No. of harvested Lymph nodes ≥12/<12 9/65 1.497 (0.711–3.155) 0.288
Lymphatic invasion Absent/Present 22/52 1.658 (0.961–2.865) 0.069
Venous invasion Absent/Present 8/66 1.808 (0.779–4.202) 0.168
Liver metastasis Absent/Present 37/37 2.037 (1.236–3.356) 0.005
Lung metastasis Absent/Present 63/11 1.560 (0.792–3.067) 0.198
Peritoneal carcinomatosis P1, 2/P3 49/25 2.217 (1.316–3.731) 0.003
Curability Cur B/Cur C 12/62 5.952 (2.342–15.152) <0.001
No. of distant metastatic sites Single/Multiple 31/43 1.745 (1.054–2.890) 0.031
Chemotherapy with CPT-11 or L-OHP Yes/No 46/28 1.344 (0.814–2.217) 0.248
Targeted therapy Yes/No 16/48 1.597 (0.852–2.994) 0.144
Two-staged metastasectomy Yes/No 6/68 2.725 (0.985–7.519) 0.053

HR, hazard ratio; CI, confidence interval

Table 4  Multivariate analysis for overall survival in patients with peritoneal carcinomatosis
HR 95% CI P value
CEA <5.0/≥5.0 1.522 (0.828–2.801) 0.177
Histological grade Wel, Mod/Por, Muc, Sig 3.030 (1.751–5.236) <0.001
Liver metastasis Absent/Present 1.103 (0.393–3.096) 0.853
Peritoneal carcinomatosis P1, 2/P3 2.045 (1.152–3.636) 0.015
Curability Cur B/Cur C 4.902 (1.754–13.699) 0.002
No. of distant metastatic sites Single/Multiple 1.543 (0.547–4.348) 0.412

HR, hazard ratio; CI, confidence interval

考察

今回の研究では,腹膜播種を伴う大腸癌において原発巣切除の有無による治療成績の検討,腹膜播種を伴う症例の臨床病理学的特徴の検討,そして原発巣切除を施行した腹膜播種を伴う大腸癌の予後因子の検討を行った.その結果,低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌の組織型,腹膜播種P3,そして手術根治度Cが独立した予後不良因子であった.腹膜播種を伴う大腸癌で他に遠隔転移がない症例では,原発巣と腹膜播種の肉眼的根治切除が治療成績の改善に重要であると考えられた.今回の検討で手術根治度Bを得られた症例は,P1,P2では49例中,12例(24.5%)であったが,P3には手術根治度B症例は含まれなかったので,P3症例における肉眼的根治切除の有効性は検討できなかった.P3症例に対して広範囲な腹膜切除を行うと術後合併症が高率に発生するとの報告もあり6)7),手術による治療効果と侵襲のバランスを考慮して,治療方針や切除範囲を慎重に決定する必要があると考えられる.

横溝ら8)は,腹膜播種を伴った大腸癌の原発巣切除の有無別の生存率に関して,原発巣切除症例は非切除症例と比べて有意に予後良好であったと報告している.また,山口ら9)は手術根治度Bを得られた腹膜播種を伴った大腸癌の3年生存率は78.4%と報告している.我々の検討でも手術根治度C症例における原発巣切除症例の予後は非切除症例より良好で,諸家らの報告と大きな違いはなかった.本研究では原発巣非切除症例が非常に少数のため偏りのある解析となってしまったが,手術根治度Cの手術における原発巣切除の有効性が示唆されたことの意義は大きいと考えられた.腹膜播種を伴った大腸癌に対する原発巣切除は治療成績を向上させると考えられるが,P3症例や多臓器の遠隔転移を伴っている症例での原発巣切除の治療効果の検討がこれまでの報告では不十分なので,今後さらなる症例集積と詳細な検討が必要である.

腹膜播種を伴った大腸癌が予後不良である原因の一つとして,同時に多臓器への転移を来していることがあげられる.Jayneら10)によると,大腸癌の初回手術時における腹膜播種の42%に腹膜播種以外の遠隔転移を伴っていたと報告している.自験例でも,腹膜播種を伴った症例のうち,58.1%は他臓器への転移を認めており,腹膜播種のみだった症例は,41.9%であった.腹膜播種に加えて他臓器への遠隔転移を伴っているような症例では,まず腹膜播種と遠隔転移の両方を切除し根治度Bが得ることができるかを検討し,それができなければ手術に加えて全身化学療法の検討が必要になると考えられる.化学療法に関しては,近年,CPT-11やL-OHPといった薬剤を含んだ強力なレジメンや分子標的薬が開発され,大腸癌腹膜播種に著効した例もいくつか報告されている1)11)12).また,広範囲な腹膜播種症例に対しては,全腹膜切除や腹腔内温熱化学療法を組み合わせた集学的治療の有用性が報告されているが13)14),現時点では海外の限られた施設からの報告がほとんどであり,本邦で施行されるには安全性と有用性に関して検討が必要と考えられる12)

腹膜播種を伴った大腸癌の予後因子に関しては肝転移の有無,リンパ節転移の有無や化学療法の有無などが報告されている一方で3)8),今回の結果と同様に原発巣の組織型,手術根治度,腹膜播種の完全切除,播種結節の存在範囲といった因子もこれまでに報告されてきた9)15)16).腫瘍の組織型と腹膜播種との関連については,佐藤ら17)が大腸癌腹膜播種症例の病理学的特徴について高分化腺癌から低分化腺癌へ散在性の進展形式を示す傾向があると報告しており,癌細胞の分化度の低下が浸潤,転移や播種に関与していると考えられている.前述のように,これまでの報告で腹膜播種を伴う大腸癌の予後因子は多岐にわたっているが,これはもともと腹膜播種の頻度が高くないことや,各施設で診断と治療に隔たりがあるためと考えられる.本邦では大腸癌取扱い規約第8版に則り,P1からP3に分類しているが,その表現に客観性が乏しく判断に苦慮することがある5).世界的にはperitoneal carcinomatosis indexなどの腹膜播種を数量化する分類が汎用されており,今後,本邦でも腹膜播種のより客観的な分類が必要になると考えられる18)19)

我々の検討は症例数の限られた後向き研究でありサンプルにバイアスがあることは否めない.しかし,今回の検討から,腹膜播種を伴った大腸癌に対して原発巣切除が治療成績を改善する可能性や肉眼的根治切除術は治療成績の向上に有効であることが示された.本検討の結果は,同時性腹膜播種症例に対して手術先行か化学療法先行かという治療戦略を検討したり,術中にどこまで切除範囲を拡大するかを判断するうえで有益となる可能性がある.今後,原発巣切除と化学療法などを組み合わせた集学的治療を構築していくことが望まれる.

利益相反:なし

文献
 

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