The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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REVIEW ARTICLE
Neoadjuvant Therapy for Pancreatic Cancer: a Review of the Evidence
Koji Yamaguchi
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2017 Volume 50 Issue 8 Pages 614-623

Details
Abstract

予後不良の固形癌の代表とされる膵癌にあって,拡大手術の限界と有効な化学療法の実臨床への導入と相まって,予後改善の方策として膵癌に対する術前補助療法(以下,Neo-Adjと略記)が注目されている.Neo-Adjの標準治療の確立には臨床試験を行い,安全性,認容性,有効性など検討・検証が必要となる.日本膵臓学会より膵癌取扱い規約第7版が発刊され,膵癌の切除可能性分類が提案され,その提案に従って,一定の定義された膵癌に対して臨床試験を行っていくことも重要である.Neo-Adjについての現在の欧米や我が国の診療ガイドラインでの推奨,Neo-Adjの大規模なコホート研究,第I相,II相,III相試験,メタ解析などエビデンスからみた膵癌に対するNeo-Adjの現状を概説した.

はじめに

国立がん研究センターがん対策情報センターのがん登録・統計1)によると,我が国では2014年がんで死亡した人の部位別比較では,男女合計で膵癌は肺癌,大腸癌,胃癌についで第4位となっている.2016年の膵癌罹患者数の予測では男女計40,000人,膵癌死亡数予測では男女計33,700人となっている.近年,我が国が高齢化社会となり,高齢者が増加しているため膵癌患者が増加していると考えられている.しかし,5年相対生存率は男性7.9%,女性7.5%と低く,難治性固形癌の代表であることは変わっていない.世界的にも膵癌は増加傾向にあり,予後も不良であることより,膵癌の予後改善は世界的な重要な課題となっている.膵癌に対する拡大外科切除の限界,有効な化学療法の臨床導入,術後の補助化学療法の確立のため,膵癌の治療の面では術前補助療法(以下,Neo-Adjと略記)によるさらなる治療成績の改善が期待されている.エビデンスよりみた膵癌に対するNeo-Adjの現状について概説した.

1. 膵癌に対する術前補助療法に求められる意義

膵癌では長期生存を可能にする治療法は外科的切除+術後補助化学療法であるが,画像診断が進歩した現在でも膵癌の早期診断は困難であり,切除可能と判断されても,手術時に画像診断陰性の病変が見つかる場合や局所進展が高度で切除できない場合が少なからず経験される.また,拡大リンパ節・神経叢郭清など外科的治療の限界も示されている.さらに,周術期死亡は減少したものの,術後合併症発生率は依然高いため,術後回復が遅延するケースがあり,術後補助療法が困難となることがある.また,術後早期に再発する症例が観察され,根治切除の時点で不顕性膵癌遺残(マイクロメタなどを含む)の存在が想定される.現在のresectable膵癌(以下,R膵癌と略記)の標準的治療戦略は,手術先行+術後補助化学療法を行うことである.術前治療の意義は切除率もしくはR0切除率を上げる,無駄な開腹侵襲を避けるなどがある.一方,Neo-Adjは無効であった場合,根治の可能性がある切除の機会を逸するリスクもある.術前治療は結果的に生体での感受性試験の意味合いを持ち,その後の術後補助療法の選択に考慮でき,テーラーメイドな選択を可能とする場合もある.

2. 膵癌の切除可能性分類

我が国では2016年7月に発刊された膵癌取扱い規約第7版2)で切除可能性分類より,膵癌は切除可能(R)膵癌,切除可能境界(BR)膵癌,切除不能(UR)膵癌に分けられた(Table 1).R膵癌は標準的手術によりR0(組織学的癌遺残なし)切除が達成可能な膵癌,BR膵癌は標準的手術のみではR1(組織学的遺残あり)切除となる可能性が高い膵癌である.さらに,BR-PV:門脈系への浸潤のみ,BR-A:動脈系への浸潤ありにわけ,その定義はBP-PV:門脈系(SMV/PV)に≥180°接しており,門脈合併切除が可能で門脈再建が安全に行えるもの,BR-A:膵癌が動脈系(SMA,CA)に<180°接しているものとなっている.UR膵癌は,遠隔転移がある膵癌(UR-M):全身に癌が広がっていると判断され,手術の対象とならないものと局所進行によるUR膵癌(UR-LA):膵臓周囲の門脈系(≥180°)・動脈系(≥180°)への高度の浸潤を伴うため,R2(肉眼的遺残あり)切除となる可能性が高いものとなっている.この定義は世界的に広く用いられているNCCNのガイドライン3)の切除可能性分類とほぼ同じとなっている.Neo-Adjの確立には対象の症例を膵癌取扱い規約第7版2)の切除可能性分類に従って明らかにし,その安全性・認容性・有用性を証明していく必要がある.こうした層別化の必要性はJPSガイドライン20164)でもDC3 BR膵癌とは何か? で提案されている.

Table 1  Resectability of pancreas cancer (General Rules for the Study of Pancreatic Cancer, 7th Edition2), Japan Pancreas Society)
Resectable: R
No tumor contact with the superior mesenteric vein (SMV), portal vein (PV) ≤180° contact or invasion without vein obstruction
No arterial (celiac axis (CA), superior mesenteric artery (SMA), or common hepatic artery (CHA)) tumor contact or invasion
Clear adipose tissue between artery and tumor
Borderline resectable: BR
Subtyped into two types
BR-PV (portal vein)
Solid tumor without contact or invasion to SMA, CA, CHA
Solid tumor contact or invasion to the SMV or PV of >180° or stenosis of the SMV or PV and the extensions within the caudal edge of duodenum
BR-A (artery)
Solid tumor contact or invasion with the SMA or CA of ≤180° without stenosis or irregularity
Solid tumor invasion to CHA without invasion to celiac axis or common hepatic artery
Unresectable: UR
Subtyped by the presence or absence of distant metastasis
UR-LA (locally advanced)
Solid tumor contact or invasion to the SMV or PV of >180° or stenosis of the SMV or PV and the extensions beyond the caudal edge of the duodenum
Solid tumor contact or invasion with the SMA or CA of >180°
Solid tumor contact or invasion with CHA with contact or invasion to celiac axis or common hepatic artery
Solid tumor contact or invasion to aorta
UR-M (metastatic)
M1 (including lymph node metastasis beyond regional lymph node)

3. 欧米や我が国の診療ガイドラインでの術前補助療法

世界的に種々の国・地域から膵癌診療ガイドライン4)~9)が発表されているが,膵癌に対するNeo-Adjの記載内容は異なっている.

European Society of Medical Oncology(ESMO)ガイドライン20155)ではR膵癌に対するNeo-Adjは触れられていないが,BR膵癌では,「可能な限り臨床試験に入れるべきであるが,もし,臨床試験に入らなければ,術前導入化学療法後,化学放射線療法を経て,外科切除することが最良である.」との記載になっており,治療のアルゴリズムにも入っている.ASCOガイドライン20166)のR膵癌の記載では「膵外病変が疑われるが,診断されない.大きな腹部手術に現時点で適切でない(しかし,回復しうる)PSや併存症,切除に適切でない断層画像での原発巣と腹部血管との関係,播種性病変を疑わせるCA19-9値(黄疸なしでの)の症例では術前療法が勧められる.外科切除の条件に合致するあらゆる患者に術前治療は外科切除の代替え治療として提供されるべきである.」となっている.UR-LA膵癌7),UR-M膵癌8)には記載はない.

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン2016 version 23)ではPANC-3 R膵癌の治療アルゴリズムにNeo-Adjは記載されていないが,アルゴリズムの下の注釈に,「高リスクの特徴を認めない明らかなR膵癌には,臨床試験で施行する場合に限りNeo-Adjが推奨される.高リスクの特徴(CA 19-9値の著高,大きな原発腫瘍,所属リンパ節腫大,過度の体重減少,極度の疼痛)を有する症例には術前補助化学療法を考慮してもよいが,その場合は生検による膵腺癌の確定診断が必要である.許容可能な術前補助レジメンとしては,FOLFIRINOX療法やジェムシタビン塩酸塩+アルブミン結合パクリタキセルなどがある.ときに続けて化学放射線療法を追加することもある.」と述べている.PANC-4 BR膵癌の治療アルゴリズムでは生検陽性を確認後にNeo-Adjを行い,外科的切除を行うことになっている.2016年版ではBR膵癌において最初からの外科切除は推奨されていない.アルゴリズムの下の注釈に「術前化学療法について特定のレジメンを推奨するにはエビデンスが限られており,化学療法と化学放射線療法の利用に関する診療手順は一定していない.許容可能なレジメンとしては,FOLFIRINOXやジェムシタビン塩酸塩+アルブミン結合パクリタキセルなどがある.ときに続けて化学放射線療法を追加することもある.断端陽性となりそうな手術を行うことは推奨されない.」と記載されている.

また,NCCNガイドライン2016 version 23)の後半―考察 R膵癌およびBR膵癌の管理の項で「Neo-AdjはときにR膵癌(特に高リスクの特徴を有する場合)にも用いられる.Neo-Adjの終了後には,膵臓用撮影プロトコールによる画像検査(CTが望ましい)を再度施行すべきであり,外科的切除はR0切除を達成できる見込みが高い場合に限って試みるべきである.手術はNeo-Adjの終了後4~8週間以内に行うべきである.Neo-Adjの終了後8週以上が経過してから手術を行うことも可能であるが,放射線による線維化によって手術が困難となる可能性がある.複数の後ろ向き研究の結果から,画像検査上の反応は病理検査上の反応と相関しないことが示唆されている.したがって,Neo-Adj後に明確な腫瘍の縮小が認められず,かつ膵外での病勢進行が明白でない場合には,引き続き手術を試みるべきである.」と述べている.さらに,BR膵癌に対するNeo-Adjとして「BR膵癌には,Neo-Adjの施行後に再病期診断を行って,手術不能と判断される進行所見を認めなければ切除を考慮すべきである.BR膵癌に対する術前治療は有効性と良好な忍容性を示す可能性のあることが示されている.」と述べている.Neo-Adj後,外科切除がされる場合,「切除前術野のsterilization,R0切除率の上昇,膵液瘻の発症率低下,術後補助療法の遅延または減量の回避,化学療法の到達の改善と放射能感受性効果のある酸素化などの可能性が報告されている.」と記載されている.

NCCNガイドライン20163)の後半 考察 今後の臨床試験:デザインに関する推奨の項で「Neo-Adjの臨床試験においては,試験対象集団を十分に定義および標準化するべきである.エンドポイントも標準化すべきであり,具体的な指標としては切除率,R0切除率,局所再発率,病理学的奏効率,無増悪生存期間,全生存期間などが考えられる.」と述べている.

International Study Group of Pancreatic Surgery(ISGPS)9)の2014年のBR膵癌に関するガイドラインでは「BR-PVでは外科切除先行であり,Neo-Adjは推薦しない.BR-AではNeo-Adjを支持する強力なエビデンスはなく,もしも行うならば,臨床試験として行うべきである.Neo-Adjを行った場合には遠隔転移が出現せず,患者の意向があれば,開腹し,切除を試みるべきである.」と述べている.

Japan Pancreas Society(JPS)ガイドライン20164)ではR膵癌に対するRA-1で「周術期への影響や長期予後への効果が明確に証明されていないため,R膵癌に対するNeo-Adjは臨床試験として行われるべきであり,それ以外では行わないことを提案する.」となっている.また,BR膵癌に対するRS-3では「BR膵癌に対する術前治療は外科的切除の切除率およびR0率を向上し,予後向上に繋がる可能性がある.さらなる大規模な前向き臨床試験などを行い,検討することが期待される.」となっている.

以上のように,各国のガイドラインで膵癌におけるNeo-Adjの位置づけは異なっている.

4. 膵癌の術前補助療法についての大規模なコホート研究

膵癌のNeo-Adjについて大規模な後ろ向きコホート研究が報告されている.代表的なものを紹介する(Table 210)~14)

Table 2  Large retrospective cohort studies concerning neoadjuvant therapy for pancreas cancer
Case Author Year Object Neoadjuvant therapy No. of cases (neoadjuvant first/surgery first) Effects
1 Kato10) 2013 Borderline resectable pancreas cancer Neoadjuvant therapy 539 (57/482) Improvement of median survival
2 Motoi11) 2014 Resectable pancreas cancer/Borderline resectable pancreas cancer Neoadjuvant therapy 971 (388/583) Increase of R0 resectability for resectable pancreas cancer
3 Mokdad12) 2016 Pancreas head cancer, Stage I/II Neoadjuvant therapy 8,020 (2,005/6,015) Improvement of survival (Stage I/II)
4 Mirkin13) 2016 Stage I–III Neoadjuvant therapy 18,332 (1,736/16,596) Improvement of survival (Stage III)
5 Shubert14) 2016 Stage III Neoadjuvant chemotherapy 593 (377/216) Improvement of overall survival

2013年,Katoら10)は日本膵切研究会の参加施設へのアンケート調査で,BR膵癌のうち切除しえた539例で術前治療が未実施であった482例(89%)は生存期間中央値が12.1か月であったのに対し,術前治療が実施された57例(11%)では生存期間中央値が23.8か月であったと報告し,BR膵癌に対して術前治療は有用かもしれない.と述べている.

2014年,Motoiら11)は日本肝胆膵外科学会プロジェクト研究として,17のhigh volume centerを対象にNeo-Adjの有用性を調査した.2007年1月より2009年12月までに外科切除がなされた971例が検討され,582例がR膵癌,389例がBR膵癌であった.R0切除率はR膵癌において,Neo-Adj例で外科切除先行例よりも有意に高率であったが,BR膵癌においては有意な差はなかった.手術先行例よりもNeo-Adj+外科切除例で手術時間は有意により長く,出血量は有意により多かったが,合併症,死亡率は有意な差はなかった.リンパ節陽性率はNeo-Adj群で外科手術先行例よりも有意に低く,有意にStageが低かった.Neo-Adjは合併症率,死亡率を上げず,R膵癌に対して根治切除の可能性を増加させるかもしれない.と述べている.

2016年に,Mokdadら12)は2006年より2012年にNational Cancer Data Baseに登録されたcStage IもしくはIIの膵頭部癌15,237例より,2,005例のNeo-Adj+外科切除とマッチした6,015例の外科切除先行につき,propensity score matched分析(疑似的に観察研究のデータを無作為化割り付け試験のように解析する傾向スコアを用いた解析)を行った.Neo-Adj+外科切除の生存期間中央値は外科切除先行よりも良好であった(26か月v 21か月,P<.01;ハザード比,0.72;95%信頼区間,0.68 to 0.78).手術先行膵癌はNeo-Adj+外科切除よりも進行pT stage(pT3 vs T4:86% vs 73%;P<.01),リンパ節転移率(73% vs 48%;P<.01),断端陽性率(24% vs 17%;P<.01)は高かった.早期のStageの膵癌において,Neo-Adj+外科切除は手術先行膵癌に比較し,有意な生存期間の利益があった.と述べている.

2016年,Mirkinら13)は2003年より2011年にNational Cancer Data Baseに登録されたcStage I~IIIの切除膵癌を前向きコホート研究を行った.1,736例がNeo-Adj,6,706例が外科切除のみ,9,890例が外科切除+補助化学療法を受けた.cStage Iでは手術切除+術後補助療法はNeo-Adj+外科切除と同様の生存期間中央値であり,外科単独よりも良好であった(24.9,24.8,18.3か月,P<0.0001).しかし,cStage IIではNeo-Adj+外科切除は外科切除+術後補助療法よりも生存期間中央値は良好で,さらに,外科切除単独よりも良好であった(21.78,20.63,12.1か月,P<0.0001).cStage IIIではNeo-Adj+外科切除は外科切除+術後補助療法,外科切除単独よりも良好な生存期間中央値であった(22.6,14.6,8.7か月,P<0.0001).生存についての多変量解析で.Neo-Adjは5年生存率に関して外科切除単独よりも死亡のハザードが33%低かった(P<0.0001).結論として進行Stage膵癌において,Neo-Adjは生存期間により有益であったが,より早期のStageの膵癌に於いて,同様の生存率であった.と述べている.

2016年,Shubertら14)は2002年より2011年にNational Cancer Data Baseに登録されたcStage IIIの膵癌を後ろ向きに検討し,Neo-Adj先行と手術先行に分けて,intention-to-treat(以下,ITTと略記)解析を行った.593例は377例(63.6%)のNeo-Adj先行と216例(36.4%)の手術先行に分けられた.ITT解析でNeo-Adj先行が手術先行よりも全生存期間中央値が20.7か月vs 13.7か月,P<.001で有意に良好であった.cStage IIIの膵癌に対してNeo-Adjは手術先行に比較し,全生存期間中央値の改善がみられた.と述べている.

5. 膵癌に対する術前補助療法に関する我が国よりの報告(第I,II相試験)

世界的には膵癌に対するNeo-Adjに関して多数の第I,II相試験の結果が報告されている.我が国から,Neo-Adjについての第I,II相試験の報告が3編ある(Table 315)~17).いずれでもNeo-Adjの安全性,認容性は確認されている.

Table 3  Phase I/II reports concerning neoadjuvant therapy for pancreas cancer in Japan
Case Author Year Clinical study Object Neoadjuvant therapy No. of cases (No. of resected cases) Regimen Median survival Overall survival rates
1 Shinoto15) 2013 Phase I Resectable pancreas cancer Neoadjuvant radiotherapy 35 (26) 30.0–36.8
GyE/8 Fractions
18.6 months 5 yr-survival rate: 42%
2 Motoi16) 2013 Phase II Resectable pancreas cancer, Borderline resectable pancreas cancer Neoadjuvant chemotherapy 35 (27) Gemcitabine (1,000 mg/m2, day 1, 8)+S-1 (80 mg/m2, day 1–14),
7 day-off, 2 cycles
19.7 months 2 yr-survival rate: 45.7%
3 Takeda17) 2014 Phase I/II Borderline resectable pancreas cancer Neoadjuvant chemoradiotherapy 35 (26) 36 Gy/24 Fractions/
12 days, Gemcitabine
(800 mg/m2, day 1, 8)
41.2 months 5 yr-survival rate: 28.6%

2013年,Shinotoら15)はR膵癌26例に対して,術前重粒子線照射療(30.0~36.8 GyE/8分割)の有用性に関する第I相試験を行った.その結果,全例施行可能で,合併症もなかった.生存期間中央値は18.6か月,5年生存率は42%であった.術前補助重粒子線療法は安全に実行可能であり,認容性がある.と報告している.

2013年,Motoiら16)はR膵癌/BR膵癌35例に対して,術前補助化学療法(ジェムシタビン塩酸塩(1,000 mg/m2,day 1, 8投与)+S-1(80 mg/m2,day 1–14日)を7日間の休薬後2サイクル)に対して第II相試験を行った.最も多い有害事象は好中球減少症で90%減量にて対応できた.画像による縮小が87%,CA19-9の低下が89%に認められた.R0切除は87%でなされ,合併症率は40%であった.2年生存率は45.7%であった.生存期間中央値は34.7か月であった.術前補助化学療法(GS療法)は認容性があり,安全に施行でき,R0切除率,2年生存率はR膵癌/BR膵癌において期待できるものであった.と述べている.

2014年,Takedaら17)はR膵癌35例にジェムシタビン塩酸塩ベースの化学放射線療法(ジェムシタビン塩酸塩(800 mg/m2,day 1, 8投与,多分割放射線照射(1.5 Gy:2回1日,36 Gy,24分割)について,第I/II相試験を行った.用量制限毒性はGrade 4の好中球減少症と血小板減少症であった.外科切除は26例(74.3%)に施行できた.無病生存期間中央値は17.4か月で,5年生存率は14.3%であった.切除可能となった21例での全生存期間中央値は41.2か月で5年生存率は28.6%であった.切除できなかった5例の全生存期間中央値は10.0か月で5年生存率は0%であった.今回のジェムシタビン塩酸塩ベースの術前補助化学放射線療法は認容性があり,安全に施行できた.と報告している.

6. 膵癌に対する術前補助療法の第III相試験

臨床的に標準的な治療法と判断されるにはNeo-Adjの第III相試験の結果が重要である.しかし,現時点では膵癌に対するNeo-Adjの第III相試験の結果は世界的に報告されていない.Clinical Trials.gov18)でpancreas cancer neoadjuvantで検索すると143件と出てくる.第III相試験に限ると9件である.9件の内訳はR膵癌が8件,BR膵癌が1件であった.化学療法が5件,化学放射線療法が3件,放射線療法が1件であった.現状は完了1件,募集中3件,募集終了2件,終了1件,現状不明2件となっている.一方,我が国のUMIN臨床試験登録システム19)で同様に検索すると,膵癌Neo-Adjの登録は19件で第III相は1件(R膵癌に対する術前化学療法(GS療法)の第II/III相臨床試験(Prep-02/JSAP-05)),第II相は18件(開始前1件,試験終了4件,参加者募集中-試験継続中4件,一般募集中9件)であった.

フランスを中心に行われている第III相試験 NEOPAC試験20)はR膵癌に対してNeo-Adj群でジェムシタビン塩酸塩+オキザリプラチンの併用療法(GEMOX)が2か月行われ,手術先行群ではジェムシタビン塩酸塩による術後補助化学療法が行われる.310例が目標症例数で,主要評価項目は無増悪生存期間となっている.すでに登録が終了し,解析待ちとなっている.

一方,我が国ではPrep02/JSAP05試験(UMIN#00009634)21)がNeo-Adjに関する第II/III試験登録が終了し,解析待ちである.ジェムシタビン塩酸塩とS-1併用による術前化学療法と手術先行を比較するものである.2013年1月より登録が開始され,目標症例数は360例で,主要評価項目は生存期間となっている.以上,二つのR膵癌に対する術前化学療法(GEMOXとGS療法)の有用性の第III試験の結果の解析が待たれる.これにより,R膵癌におけるNeo-Adjの有用性と有効な化学療法のレジメンが示されることが期待される.さらに,R膵癌に対する術前化学放射線療法,BR膵癌に対するNeo-Adj(化学療法,化学放射線療法)の第III相試験の結果が待たれる.化学放射線療法については,被験者募集が不調のため早期に中止された切除可能膵癌に対するランダム化第II相試験22)ではあるが,ジェムシタビン塩酸塩/シスプラチンによる術前補助化学放射線療法が有効である可能性があり,安全性上の懸念は認められなかった.また,全生存期間を主要エンドポイントとする第III相NEOPA試験23)が現在進行中で,切除可能膵癌患者が募集されており,この集団を対象として,ジェムシタビン塩酸塩による術前補助化学放射線療法が手術先行と比較されている(Clinical Trials.gov NCT01900327).

7. 膵癌に対する術前補助療法のメタアナリーシス

膵癌に対するNeo-Adjについてのメタ解析の報告は8編ある(Table 424)~31).対象となる膵癌は切除可能性の異なる膵癌が含まれているし,Neo-Adjも種々の方法,レジメンが混在する.第I相試験,第II相試験の結果や単アームの症例集積研究の結果などを用いてのメタ解析のため,その解釈には十分注意を要する.

Table 4  Meta-analyses concerning neoadjuvant therapy for pancreas cancer
Case Author Year Objects Neoadjuvant therapy No. of series/No. of cases Effects
1 Gillen24) 2010 Resectable or locally advanced unresectable pancreas cancer Neoadjuvant therapy 111/4,394 YES (Locally advanced unresectable pancreas cancer, resectability, survival)
2 Assifi25) 2011 Phase III (Resectable/Borderline resectable/locally advanced unresectable pancreas cancer) Neoadjuvant therapy 14/536 YES? (Borderline resectable pancreas cancer, Locally advanced pancreas cancer)
3 Laurence26) 2011 Resectable or locally advanced unresectable pancreas cancer Neoadjuvant chemoradiotherapy 19/2,148 YES? (Locally advanced unresectable pancreas cancer, R0 resectability)
4 Andriulli27) 2012 Resectable or locally advanced unresectable pancreas cancer Neoadjuvant chemotherapy (Gemcitabine) 20/707 YES? (Resectable pancreas cancer) NO? (Locally advanced unresectable pancreas cancer)
5 Festa28) 2013 Borderline resectable pancreas cancer or unresectable pancreas cancer Neoadjuvant chemoradiotherapy 10/182 YES (patients selection)
6 Xu29) 2014 Resectable pancreas cancer Neoadjuvant chemoradiotherapy 17/3,088 NO (overall survival, progression free survival)
7 Petrelli30) 2015 Borderline resectable pancreas cancer or unresectable pancreas cancer Neoadjuvant chemotherapy (FOLFIRINOX base) 13/253 YES (down staging, R0 resectability)
8 Tang31) 2016 Borderline resectable pancreas cancer Neoadjuvant therapy 18/959 YES (resectability, R0 resectability, survival)

2010年,Gillenら24)は111シリーズ(56シリーズは第I相もしくは第II相),4,394例の膵癌症例に対してメタ解析を行った.R膵癌とBR/UR-LA膵癌に分けて検討した.術前化学療法が96.4%で行われ,術前放射線療法が93.7%で行われた.R膵癌では術前療法後の切除率,生存率は切除後補助療法と違いはなかった.約1/3のBR/UR-LA膵癌はNeo-Adj後に切除となるように期待され,R膵癌と同様の生存が期待できる.よって,BR/UR-LA膵癌がNeo-Adjへ入れられ,切除の再評価がされるべきである.と述べている.

2011年,Assifiら25)は14シリーズの第II相試験,536名に関してメタ解析を行った.R膵癌とBR/UR-LA膵癌とに分けて検討した.Neo-AdjはBR膵癌/UR-LA膵癌で幾分か有効であった.最初,切除不能と判断された膵癌の約1/3はNeo-Adj後,切除可能となった.より強力な化学療法が開発されるまでは,Neo-Adjにより利益を得るかも知らない膵癌は局所進行膵癌である.と述べている.

2011年,Laurenceら26)は19シリーズの2,148例のR膵癌とUR-LA膵癌についてメタ解析を行った.術前補助化学放射線療法を受けたUR-LA膵癌は40%のみが切除されたが,R膵癌と同様の予後であった.術前化学放射線療法を受けた患者は周術期死亡の率は上昇したが,切除断端が陽性となりにくいと結論づけている.

2012年,Andriulliら27)は20シリーズ(7シリーズが第I/II相,10シリーズが第II相,3シリーズが前向きコホート研究),707例(R膵癌366例とUR-LA膵癌341例)に関して術前ジェムシタビン塩酸塩療法±放射線療法についてメタ解析を行った.Neo-AdjよりR膵癌に於いてはマージナルな利益を得,UR-LA膵癌の一部においてのみ利益を得る可能性があると結論している.

2013年,Festaら28)は10シリーズ,182例のBR膵癌について術前補助化学放射線療法についてメタ解析を行った.Neo-Adj後のBR膵癌のダウンステージはまれであった.Neo-Adjの意義は術前の補助療法中に進行となる症例に外科手術をしなくて済む点にあると述べている.

2014年,Xuら29)は28シリーズの中,17シリーズ,3,088例で化学放射線療法ありとなしが比較され,3シリーズ,189例において術前化学放射線療法と術後化学放射線療法が比較された.術後化学放射線療法は生存期間や無増悪生存期間に有意な影響を及ぼさず,術前化学放射線療法は術後化学放射線療法より有意な効果は示さなかったと結論している.

2015年,Petrelliら30)はFOLFIRINOXベースのNeo-Adjに関して13シリーズ,BR/UR-LA膵の253例を用いてメタ解析を行った.術前補助化学療法後,43%(95% 信頼区間,32.8~53.8)が切除を受け,39.4%(95% 信頼区間,32.4~46.9)がR0切除となった.FOLFIRINOXベースの術前補助化学療法でのダウンステージはBR/UR-LA膵癌において顕著で,全R0切除率は40%であったと結論している.

2016年,Tangら31)はBR膵癌における術前補助化学療法,術前補助化学放射線療法について,18シリーズ,959例についてメタ解析を行った.切除率,R0切除率はNeo-Adj後のBR膵癌とR膵癌と類似し,UR-LA膵癌より非常に高率であった.Neo-Adj後のBR膵癌の生存期間はR膵癌と類似していた.BR膵癌はNeo-Adjのプロトコールへ入れるべきで,引き続き,切除を再評価されるべきである.と結論している.

八つのメタ解析の中,七つの報告では切除率,R0切除率,生存率の改善よりNeo-Adjを支持している.しかし,Neo-Adjの対象と方法はR膵癌には化学療法とし,BR膵癌やUR-LA膵癌に対しては化学放射線療法とするのか,Neo-Adj後の外科切除の適応基準はどう決定するのか,Neo-Adjより切除までの期間はどのくらい置くのか,はたまた,Neo-Adj後に外科切除を行った場合,術後補助療法はどうするのか,何が適当なのか,など検討すべき問題は多い.

利益相反:なし

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