The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Refractory Lymphatic Fistula after Pancreaticoduodenectomy Treated by Percutaneous Transhepatic Lymphography
Yuto HozakaHiroshi KuraharaYota KawasakiKoji MinamiYuko MatakiMasahiko SakodaKosei MaemuraKohei NagasatoSadao HayashiTakashi YoshiuraHiroyuki ShinchiShoji Natsugoe
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2017 Volume 50 Issue 9 Pages 721-727

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Abstract

リンパ漏は比較的まれな術後合併症であるが,悪性腫瘍に対する膵切除術後では発症率は高い傾向にあることが報告されている.我々は78歳の男性の膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術後にリンパ漏を発症した症例を経験した.絶食,中心静脈栄養,オクトレオチド皮下注による保存的治療を行ったが,症状の改善を認めない難治性症例であった.まず傍大動脈リンパ節サンプリング部位からのリンパ漏の可能性を考え,両側鼠径部から経皮的リピオドールリンパ管造影を施行したが,傍大動脈リンパ節領域にリンパ漏出部分を認めず症状の改善も認めなかった.次に,経皮経肝リピオドールリンパ管造影を施行した.胆管空腸吻合部周囲に広範囲にリピオドールの漏出を認め,5日後にはリンパ漏は完全に消失した.その後リンパ漏の再燃を認めず,術後7か月の現在まで無再発生存中である.

はじめに

リンパ漏は全腹部手術の0.01%にみられる比較的まれな合併症であるが,悪性腫瘍に対する膵切除術後の発症率は1.0~11%と報告されており,念頭に置くべき合併症である1)~3).治療の遅れは蛋白およびリンパ球の漏出に伴う栄養,免疫の低下を生じるため,早期の適切な治療を要するが,リンパ漏出部位の同定が困難なことが多く,治療に難渋することがある.これまで難治性リンパ漏に対して,リピオドールを用いたリンパ管造影の奏効例が報告されている4)~7).今回,我々は膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)後に発症した難治性リンパ漏に対して,リピオドールを用いた経皮経肝リンパ管造影(percutaneous transhepatic lymphography;以下,PTLと略記)が著効した症例を経験した.これまでPD後リンパ漏にPTLを施行した症例の報告はなく,術後難治性リンパ漏に対する有効な治療法の一つとなると考えられるため,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:78歳,男性

主訴:特になし.

既往歴:糖尿病,高血圧,慢性心不全,慢性心房細動

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:胃のgastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)に対して2014年10月,当科で胃部分切除術を施行した.3か月後のfollow up CTにて膵鈎部の腫瘍を認め,2015年2月に入院し精査を行った.

入院時現症:身長155 cm,体重46 kg,血圧110/50 mmHg,脈拍49回/分.腹部にGISTの手術創を認めた.腹部に腫瘤を触知しなかった.

血液生化学検査所見:T-Bil 1.3 mg/dl,D-Bil 0.2 mg/dl,AST 23 U/l,ALT 13 U/l,ALP 298 U/l,γ-GTP 28 U/l,BUN 25.7 mg/dl,Cre 0.83 mg/dl,FBS 116 g/dl,HbA1c 8.8%,CEA 7.4 ng/ml,CA19-9 13.6 U/l,その他特記所見なし.

心エコー所見:LVDd 40 mm,LVDs 24 mm,LVEF 68%,IVC(呼気時)14 mm/(吸気時)7 mm,心囊液が極軽度貯留あり,有意な弁膜症なし,心不全徴候は認めず左室壁運動は良好であった.

造影CT所見:膵鉤部に18 mm大の遷延性の造影効果を示す腫瘍を認めた.十二指腸および膵後方組織への浸潤を認めたが,門脈および上腸間膜動静脈への浸潤を認めなかった.総肝動脈は上腸間膜動脈から分岐していた.

超音波内視鏡下針生検所見:組織診断は腺癌であった.

FDG-PET所見:膵鈎部にFDGの異常集積(SUVmax:5.0→7.2)を認めた.リンパ節転移・遠隔転移を疑う所見を認めなかった.

以上より,膵頭部癌,UP,TS1(18 mm),結節型,cT3(DU+,RP+),N0,M0,cStage IIIと診断した.術前化学療法(gemcitabine+S-1)を2コース施行し,治療効果判定はSDであった.同年5月,手術を施行した.

手術所見:洗浄腹水細胞診は陰性であり,胃部分切除術後の癒着は軽度であった.傍大動脈リンパ節(16b1)のサンプリングを施行し,術中迅速病理診断にて転移陰性であった.本症例は総肝動脈が上腸間膜動脈から分岐し門脈の背側から右側を回り肝臓に流入していた.胆囊を摘出後,3管合流部の肝臓側にて胆管を切離し術中胆汁外瘻とした.次に,胃十二指腸動脈を根部で結紮切離し上腸間膜静脈左縁のレベルで膵臓を切離した.第1空腸動脈と第2空腸動脈の間で小腸間膜および空腸を切離した.第1空腸動脈・下膵十二指腸動脈は別分岐であり,それぞれ根部で結紮切離した.上腸間膜動脈周囲神経叢の右半周郭清を行い,標本を摘出し,肝十二指腸間膜内のリンパ節郭清を追加した.リンパ節郭清範囲はD2(膵癌取扱い規約第6版補訂版)と16b1のサンプリングであり,主として超音波凝固切開装置を使用した.再建は膵胃吻合,胆管空腸吻合,胃空腸吻合の順で行い,胆管空腸吻合部背側にドレーンを留置して手術を終了した.手術時間は406分,出血量は1,060 mlであった.

最終組織診断:膵頭部癌,UP,TS1(20 mm),結節型,tub1+tub2,T3(DU+,RP+),PCM−,BCM−,DPM−,N0,M0,Stage IIIであった.

術後経過:術後4日目に胆管空腸吻合部背側のドレーンを抜去し流動食を開始したが,食事摂取3時間後よりドレーン抜去部から乳糜排液を認めた.排液が持続したため,ストーマパウチを用いて周囲の皮膚を保護しドレーン抜去部からの排液量を計測した.排液中のトリグリセリドが379 mg/dlと高値であったため術後リンパ漏と診断し,絶食,中心静脈栄養管理とし,オクトレオチド持続皮下注(300 μg/day)を開始した.翌日には排液の性状は漿液性へ変化し,排液量は200~400 ml/dayで推移した(Fig. 1).術後10日目に流動食(脂質制限)を再開したが,食事摂取3時間後より腹水が乳糜排液となったため再度絶食管理とした.

Fig. 1 

Clinical course after surgery.

傍大動脈リンパ節サンプリング部位からのリンパ漏の可能性をまず考え,術後12日目に鼠径部から経皮的リピオドールリンパ管造影を施行した.エコーガイド下に左右の鼠径リンパ節を穿刺し,プロスコープ 1 mlを用いてリンパ管の走行を確認した後にリピオドールを8 ml注入した.注入直後から透視下にリンパ管に沿ったリピオドールの流れを確認した.単純CTでの評価で,1時間後には乳糜槽内へのリピオドール貯留を認めた(Fig. 2).翌日には乳糜槽のリピオドールはwash outされており,明らかな腹腔内へのリピオドールの漏出は認めなかった(Fig. 3).鼠径部からの経皮的リピオドールリンパ管造影後も腹水排液量は変わらず,処置後5日目(術後17日目)に流動食を再開したが4時間後より乳糜腹水の排出を認めた.

Fig. 2 

CT taken an hour after percutaneous lymphography using lipiodol from the bilateral inguinal lymphatic vessels (A, horizontal sectional view; B, coronal sectional view). Cisterna chyli (arrow) and bilateral lumbar trunks (arrowheads) collecting lipiodol can be observed.

Fig. 3 

CT taken a day after percutaneous lymphography using lipiodol from the bilateral inguinal lymphatic vessels. Lipio­dol in the cisterna chyli is washed out and leakage of the lipiodol into the abdominal cavity cannot be observed.

次にPTLによって肝内から肝十二指腸間膜内へ向かうリンパ管を造影する方針とした.術後19日目,エコーガイド下に22 GのPTC針を用いてまず門脈を貫くように針を奥へ進めて造影し,門脈枝(P8)の描出を確認した.さらに針を進めて造影を行い,透視下にリンパ管の描出を確認した後リピオドールを3 ml注入した(Fig. 4).30分後に透視下にP8末梢側と肝門部方向へ流入するリピオドールを確認した.PTL施行後1日目およびPTL施行後4日目に施行した単純CTにて,胆管空腸吻合部周囲にリピオドールの貯留を認めた.腹腔内漏出および貯留所見であり,肝十二指腸間膜内リンパ管からのリンパ漏と判断した(Fig. 5).PTL施行後5日目(術後24日目)に腹水の排出は完全に消失した.PTL施行後11日目(術後30日目)から食事を再開したがリンパ漏の再燃を認めず,PTL施行後16日目(術後35日目)に退院とした.その後の経過中にリンパ漏の再燃を認めず,術後7か月時点で無再発生存中である.

Fig. 4 

Lymphatic vessels surrounding the branch of the portal vein (P8) are detected by percutaneous transhepatic lymphography (PTL) using lipiodol. The injected lipiodol is directed to the hepatic hilus (arrow).

Fig. 5 

CT taken 4 days after PTL. Leakage and pooling of the lipiodol around the choledochojejunostomy is detected (arrow).

考察

リンパ漏の治療は,まず絶食,中心静脈栄養管理とし,腹水排出量が多ければオクトレオチド皮下注(100~300 μg/day)投与を行う保存的治療が主流である3).多くの症例が上記治療により改善するが,難治性症例の場合は癒着療法や外科的処置が必要になることがある.胸腔内リンパ漏に対してはミノサイクリンやOK432を用いた胸膜癒着療法が施行されることもあるが,腹腔内リンパ漏に関してはfree spaceが広いため治療効率が悪く,薬剤の腸管への影響も考えられることなどから慎重に適応を決定する必要がある.難治性リンパ漏に対してはリピオドールを用いたリンパ管造影の奏効例が報告されている4)~8).リピオドールによる治療効果の機序についてはいまだ解明されてはいないが,リピオドールの塞栓物質としての作用や炎症をじゃっ起し瘻孔部位を閉鎖する作用などによるものではないかと推察されている8)9).リンパ管造影は漏出部位の同定にも有用である.油性造影剤であるリピオドールの合併症は非常にまれではあるが,高用量使用すると脂肪塞栓を起こす可能性が指摘されており,重篤な呼吸器合併症の報告もあるため,高齢者や呼吸機能低下症例には注意して使用することが必要である10)11)

乳糜槽から胸管へ流入するリンパ流はおもに腸管や肝臓を経てきたものであり,これらが流量の50~90%を占め,脂肪食の摂取でその流量は1 ml/分以下から200 ml/分にまで著増する12)13).脂肪食の摂取にて脂肪酸が小腸で吸収され,長鎖脂肪酸がトリアシルグリセロールとエステル化しキロミクロンを形成し,腸管膜リンパ管を経由して腰リンパ本幹,乳糜槽,胸管へと運ばれる14)ことにより同経路の流量が著増すると考えられる12).本症例では,鼠径部からのリンパ管造影にて明らかな腹腔内リンパ漏出を認めず造影後もリンパ漏の改善を認めなかった.その後に施行したPTLで胆管空腸吻合部周囲から広範囲にリピオドールの漏出所見を認め,造影後にリンパ漏が消失した.一般に肝十二指腸間膜内のリンパ液は肝臓から肝十二指腸間膜内を下降する肝由来のリンパ液であり,たんぱく質を多く含み黄色透明である15)~17).本症例では食後に乳糜腹水を認めており肝由来リンパ液のみのリンパ漏とは考えにくく,乳糜槽由来の漏出リンパ液も混在していたと考えられる.明らかなリンパ漏出部位は不明であるが,PTLにより肝門部のリンパ管から漏出したリピオドールが乳糜槽方向へ広範囲に広がり炎症反応をじゃっ起したためリンパ漏出部位が閉鎖されたと考えられた.

久保木ら1)は自施設で施行した肝胆膵外科領域の手術総数1,336例中11例(0.8%)に乳糜腹水を認め,そのうちの7例が傍大動脈リンパ節郭清を伴うPD関連手術であったと報告している.広範囲で多数のリンパ節郭清や傍大動脈リンパ節郭清は術後リンパ漏の危険因子であることが報告されている18).さらに,肝十二指腸間膜内のリンパ節郭清もリンパ漏の原因となりうることを念頭に置く必要がある.肝障害を伴う症例では肝リンパ流が増量しているため,正常肝と比較して損傷したリンパ管の自然治癒が妨げられリンパ漏を発症しやすいとの報告があり注意を要する17).本症例ではリンパ節郭清時の超音波凝固切開装置での不十分な凝固が原因であった可能性がある.現時点では,結紮と超音波凝固切開装置によるリンパ管の処理に関して比較した報告はなく,郭清範囲が広い症例や腫大リンパ節が多い症例では特に丁寧な結紮もしくは超音波凝固切開装置での十分な凝固が必要であると考えられる.下肢からのリンパ管造影検査にて傍大動脈リンパ節領域からのリンパ漏出が確認できず,治療効果も認めない場合には,次の一手としてPTLを念頭に置いておくことは有用であると思われる.

瀬在ら19)が肝細胞癌のリンパ節転移症例における経皮経肝リンパ管造影を報告して以降,肝細胞癌の腹腔内リンパ節転移治療20)や術後のリンパ漏に対するPTLの有用性21)が報告されたが,その報告数は非常に少なく,医学中央雑誌(1977年~2014年)およびPubMed(1950年~2014年)で 「術後リンパ漏」,「経皮経肝リピオドールリンパ造影」,「膵頭十二指腸切除術」,「postoperative lymphatic fistula」,「postoperative chylous ascites」,「percutaneous transhepatic lymphography」,「pancreaticoduodenectomy」をキーワードとして用いて検索(会議録を除く)を行ったが,PD後の難治性リンパ漏に対するPTLの報告は認めなかった.PTLの施行に関しては,リピオドールの投与量や投与時期などは今後の検討課題として挙げられ,動脈・門脈穿刺による出血や感染の危険性があることも念頭に置く必要がある.

本症例では,経鼠径アプローチでは改善を認めなかった腹腔内のリンパ漏出をPTLにて描出することができ,術後難治性リンパ漏の治療に有用であった.肝十二指腸間膜内のリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍術後のリンパ漏に対しては,PTLが有効な治療法となる可能性がある.

利益相反:なし

文献
 

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