The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Colorectal Cancer with Cutaneous Metastases Which Was Difficult to Distinguish from Drug Eruption
Shinya HirataNobuhisa MatsuhashiTakao TakahashiHisashi ImaiYoshihiro TanakaKazuya YamaguchiShinji OsadaKazuhiro Yoshida
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2017 Volume 50 Issue 9 Pages 762-767

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Abstract

症例は49歳の女性で,直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.術後CapeOX療法を行ったが,術後8か月に局所再発のため腹会陰式直腸切断術,子宮全摘術を施行した.その後,腹膜播種再発のため3次治療まで施行していた.初回手術から1年10か月後より胸部の紅斑が出現したため皮膚科に紹介したところ薬剤性皮膚炎疑いのためステロイド外用剤の処方で経過観察となった.しかし,その後も改善がなく皮膚科の生検で大腸癌の皮膚転移と診断された.同時期より癌性腹膜炎による疼痛などの症状が強くなり緩和治療に移行した.大腸癌の皮膚転移は0.1~4.4%と比較的まれであるが,病勢の進行した全身転移の1症状として捉えられており,その予後は不良である.大腸癌は化学療法の進歩で延命はできるようになったが,分子標的薬などの皮膚障害も増えており,終末期に多彩な皮膚転移症状を呈することがあることを念頭に置く必要がある.

はじめに

大腸癌の皮膚転移は0.1~4.4%1)2)とその頻度は多くないものの,一般的に病勢の進行した全身転移の1症状としてあらわれ,その予後は不良とされている3).一方,近年の化学療法に進歩により切除不能進行再発大腸癌の生存期間中央値(median survival time;MST)は約2年まで延長してきた4).それに伴い抗癌剤,分子標的薬に伴う皮膚障害も増加しているが,両者の鑑別を一般外科医が行うのは困難が予想される.

今回,大腸癌治療経過中に,薬剤性皮膚炎との鑑別が困難な大腸癌皮膚転移を来した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:49歳,女性

家族歴:特記すべきものなし.

既往歴:躁うつ病 適応障害

現病歴:2013年7月に直腸癌(Ra,Type4,tub2(>tub1>por2),pA,ly3,v3,pN2(8/31),M0:Stage IIIb)に対して腹腔鏡下超低位前方切除術D3郭清を施行した.Kras遺伝子検査は変異型であった.術後補助化学療法としてCapeOX療法(capecitabine 2,000 mg/m2/day on days 1–14,oxaliplatin 130 mg/m2 on day 1)5)を半年間施行した.2014年3月(初回手術8か月後)に仙骨前面に腹膜播種再発を指摘され腹会陰式直腸切断術,膣後壁子宮付属器切除術を施行した.切除断端は陰性で残存病変は認めなかった.2014年4月よりSOX+BV療法6)(S-1 80 mg/day on days 1–14,bevacizumab 7.5 mg/kg on day 1,oxaliplatin 130 mg/m2 on day 1)を行ったが2014年11月に仙骨前面に腹膜播種再々発を指摘されFOLFIRI+BV(5-FU bolus 400 mg/m2 and 46-hour infusion 2,400 mg/m2 every 46 hours every 2 weeks,irinotecan 150 mg/m2,bevacizumab 7.5 mg/kg on day 1)療法を施行した.2015年3月局所の増大と腹水の増加を認めprogressive disease(PD)と判断した.BV継続による蛋白尿が持続していたためregorafenibは回避し,TAS-1027)を導入した.同時期より前胸部にそう痒を伴う紅斑が出現したため皮膚科医に診察を依頼した.皮疹は左前胸部中心に米粒大の紅斑と丘疹が多発集簇しており周囲には色素沈着を認めたが疼痛はなかった.同様の皮疹が心窩部から右前胸部にも散在性に認めた.皮膚科医の診察では薬剤性または接触性皮膚炎の疑いでステロイド外用薬が処方されTAS-102は休薬した.その後,皮疹は発赤のやや改善を認めたが,色素沈着が目立つようになり,左前胸部から心窩部への分布が広がった(Fig. 1).皮膚科初診から2か月後においても症状改善が乏しく増悪傾向があり,皮膚科での生検でmetastatic adenocarcinomaと診断された.免疫染色検査ではCK20陽性,CDX2陽性,CK7陰性で大腸癌の転移に矛盾しない所見だった(Fig. 2).同時期のCTでは胸腹水の増加は認めるものの,皮膚結節は指摘困難であった(Fig. 3).この頃から腫瘍マーカーの上昇(Fig. 4),全身状態と癌性疼痛の悪化がありbest supportive careに移行し,その約2か月後(初回手術から25か月)に永眠された.

Fig. 1 

A: Erythema with papules was recognized on the left anterior chest skin at the first visit to dermatology. B: The erythema with papules had spread to both the anterior chest skin at the second visit to dermatology.

Fig. 2 

Histopathological findings of the erythema on the anterior chest reveal metastatic adenocarcinoma. A: HE (×100). Atypical epithelial cells infiltrating vesicular growth in the dermis can be seen. B: Immunohistochemical findings for CK20 in the erythema are positive (×200). C: Immunohistochemical findings for CDX2 in the erythema are positive (×200). D: Immuno­histochemical findings for CK7 in the erythema are negative (×200).

Fig. 3 

Thoracic and abdominal CT show bilateral pleural effusions, and does not show skin metastasis in the anterior chest.

Fig. 4 

Serum levels of tumor markers.

考察

内臓悪性腫瘍の皮膚転移は比較的まれであり1.4~6.7%8)9)とされている.原発腫瘍部位は肺癌,胃癌,乳癌が多いが,本邦において古賀ら10)の報告では乳癌,肺がんに次いで大腸癌が多いとされ,その発生頻度は人種間により異なる.また,大腸癌自体が皮膚転移を来すのは0.1~4.4%1)2)と比較的まれである.

医学中央雑誌でキーワード「大腸癌」,「皮膚転移」で検索すると(1977~2016年8月,会議録を除く),大腸癌の皮膚転移症例は64例と比較的多く報告されている.また,現在大腸癌における薬物療法の進歩は目覚ましく,大腸癌の予後の延長に伴い外科医が皮膚転移を診察する機会は少なくないと考えられる.

転移様式は血行性,リンパ行性,直接浸潤,リンパ節転移からの播種などが考えられるが,山城ら11)は剖検例の検討によると内臓癌の皮膚転移のほとんどが血行性であるとしている.

臨床症状は①結節型,②浸潤性紅斑型,③硬化性局面型の3型に分類され結節型が最も多いとされるが,それに加え特殊な臨床形態として血管拡張性肉芽腫様,表皮囊腫様,帯状疱疹様,紫斑様,腫瘍性脱毛などがあり非常に多彩な皮膚症状を呈すると12)され,初期症状で確定診断することは皮膚科専門医であっても困難であることもある.本症例は結果的に浸潤性紅斑型であったと思われる.これらの特殊分類型を鑑別するのは一般消化器外科医には困難と考えられるが,皮膚転移を念頭に置き診察する必要性はある.

予後に関しては,内臓癌の皮膚転移は進行した病勢の1症状としてあらわれるため不良とされる.福井ら13)によると全内臓癌においては皮膚転移診断後の平均予後が5~6か月以内の死亡が全体の75%とされている.自験例においても皮膚転移の診断後死亡までの期間は約3か月であった.一方で,再発早期の治療レジメン中の皮膚転移発症であれば化学療法,手術などが奏効し1年以上の長期生存した報告14)~16)もあり早期診断が重要と考えられる.

診断にはPET-CT14)やTc99m-MIBIシンチグラフィーが有用17)との報告もある.良性悪性の鑑別のみならば針生検,擦過細胞診でも可能な場合もあるが,確定診断は皮膚生検による病理組織学的診断を行うことが重要である.また,皮膚転移は体表から確認でき,患者本人が自覚していることも多く,詳細な問診と皮膚所見の診察で疑うことは可能と考えられる.本症例においても皮膚科診察の1か月前には皮膚の異常を自覚していたが,訴えることがなかったために発見が遅れ,結果的にその3か月後にpunch biopsyにより確定診断を得た.

治療は基本的に癌の全身転移に伴う症状であり化学療法を行うことが一般的である.疼痛などの有症状の場合には外科的切除や放射線治療も選択肢となるが,治療により皮膚転移の消失や長期生存を得た報告もあるため,予後とQOLを考慮した総合的な治療を行うことが肝要と思われる.

近年の化学療法の進歩に伴い抗癌剤や分子標的薬による副作用として皮膚症状が発症することがあり,担癌患者における皮膚診察の重要度は増していると考えられる.大腸癌化学療法における主な皮膚毒性としてはcapecitabine,regorafenibによる手足症候群や抗EGFR抗体薬によるざ瘡様皮疹などがある18).また,担癌状態や化学療法中は帯状疱疹,カンジダ皮膚炎などの易感染者に発症する疾患にも遭遇するが,これらの疾患と皮膚転移との鑑別はときに皮膚科医でさえ困難な場合がある19).また,各々の治療法に対し効果が乏しい場合や判断に迷う場合は我々外科医のみで判断せず皮膚科との連携も重要であると考えられる.さらに,発見後長期生存を得た症例もあることから,早期に皮膚転移を発見することで効果的な次治療へ移行できる可能性もある.大腸癌患者の予後は新規薬剤により著明に延長する一方で,終末期には多彩な皮膚転移症状を呈することがあることを念頭に置く必要があると考える.担癌状態の患者の診察において皮膚診察も忘れてはならない.

利益相反:なし

文献
 

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