The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
An Inflammatory Pseudotumor of the Spleen
Yujiro TsudaTerumasa YamadaShinsuke NakashimaMasami UedaKatsuya OhtaShinichi AdachiShunji EndoTakeshi ChiharaAmane YamauchiMasakazu Ikenaga
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2017 Volume 50 Issue 9 Pages 736-744

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Abstract

症例は65歳の女性で,背部痛を主訴に近医を受診し,精査加療目的で当院受診した.腹部造影CTでは脾臓に約40 mm大の早期相では造影されず後期相において緩徐に染影される腫瘍を認め,PET-CTでは腫瘍のみにFDGの高集積を認めた.血液検査所見では,CRPと可溶性インターロイキン2レセプターの上昇を認めた.画像上は良性腫瘍の可能性が高いと考えたが,悪性リンパ腫の可能性が否定できず診断的治療目的で開腹脾摘術を施行した.病理組織像は,炎症細胞浸潤と間葉系細胞の増殖を認め,免疫組織化学染色ではCD68とα-SMAが陽性,desmin,ALK-1が陰性であることから炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;IPT)と診断した.画像形態的に良性腫瘍が疑われた場合でも,悪性リンパ腫や炎症性筋線維芽細胞性腫瘍などの良悪中間型腫瘍の鑑別が重要で,組織診を加味しての脾摘術も考慮すべきと考えられた.

はじめに

炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;以下,IPTと略記)は病理組織学的には非特異的炎症細胞浸潤と間葉組織の修復像に特徴づけられる良性の腫瘍性病変である1).脾原発IPTは,特徴的な臨床症状や画像所見がなく確定診断が困難であり,報告されているほとんどの症例において診断的治療目的で脾臓摘出術を施行されている.一方で,IPTは炎症細胞の集蔟からなる良性の結節性変化であり真の腫瘍ではないということから,術前診断で良性疾患の可能性が高ければ,経過観察も可能であるという見解もある2).今回,我々は術前検査により確定診断がつかずに,診断的治療目的で脾摘術を施行し,最終的に脾IPTと診断した1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

症例

患者:65歳,女性

主訴:背部痛

既往歴:高血圧

現病歴:2016年5月に背部の軽度疼痛を自覚し,近医を受診した.その際,腹部CTで脾下極に約40 mm大のspace occupying lesion(SOL)を指摘され,精査加療目的で当院を紹介受診した.

入院時現症:157 cm,体重70 kg.身体所見上,明らかな表在リンパ節は触知しなかった.腹部は平坦かつ軟であり,圧痛は認めなかった.触診では腫瘍は触知できなかった.

初診時血液検査所見:CRPの軽度上昇を認めた.可溶性インターロイキン2レセプター(soluble interleukin 2 receptor;以下,sIL-2Rと略記)は1,008 U/ml(基準値:122~496 U/ml)と高値を示していた(Table 1).

Table 1  Laboratory data
<Complete blood count> <Serum chemistry> <Tumor marker>
WBC 6,340​/μl AST 16​ IU/l sIL-2R 1,008 U/ml
 neut 65.6​% ALT 14​ IU/l
 Eo 0.9​% ALP 227​ IU/l
 Lym 23.7​% LDH 192​ IU/l <Hepatitis viral marker>
RBC 442×104​/μl TP 7.9​ g/dl HBs-Ag (−)
Hb 12.1​ g/dl Alb 4.3​ g/dl HBc-Ab (−)
Hct 38.8​% Cre 0.46​ mg/dl HCV-Ab (−)
Plt 25.5×104​/μl BUN 12.1​ mg/dl
Na 140​ mEq/l <EBV antibody>
<Blood coagulation test> K 3.8​ mEq/l EB-VCA-IgG 320
PT-% 93.9​% Cl 107​ mEq/l EB-VCA-IgM <10
APTT 48.1​ sec CRP 0.42​ mg/dl EBNA-Ab 320

腹部CT所見:単純CTでは脾下極に境界明瞭で辺縁平滑な52×65 mmのlow density area(LDA)を認めた.腹部造影CTでは,腫瘤は早期相で内部は淡く不均一に造影され,門脈相から後期相にかけて脾実質と等吸収値を呈した(Fig. 1).

Fig. 1 

(a) A mass lesion was detected in the spleen (arrows). The diameter of the lesion was 57×46 mm. The lesion was not enhanced in (b) the early phase, but enhanced slowly in (c) late phase.

腹部MRI所見:脾下極背側に50 mmの境界明瞭な腫瘤を認めた.腫瘤はT1強調像では淡い高信号を呈し,T2強調像では辺縁は低信号,中心部は脾実質と同程度の信号を呈していた.ガドリニウム造影では,腫瘤辺縁は弱く中心部は緩徐に染影された(Fig. 2).

Fig. 2 

The mass lesion was detected in the spleen. The lesion showed a slightly high intensity on the (a) T1-weighted image, showing a low intensity with a peripheral, a high intensity with central area on the (b) T2-weighted image.

FDG-PET所見:脾下極に50 mm大の腫瘤を認め,同部位にFDGの強い集積(SUV max 10.02→13.18)を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

FDG-PET exami­nation shows abnormal uptake (SUVmax 13.18) in the spleen.

入院後経過:画像上,境界明瞭な膨張性の腫瘍形態を呈することから,良性腫瘍の可能性が高いと考えられた.鑑別疾患として,線維性過誤腫,IPT,血管腫などが考えられた.しかし,sIL-2Rが高値であることやPET-CTで腫瘍に一致してFDGの高集積を認めることから悪性リンパ腫の可能性は否定することができなかった.したがって,診断的治療目的で,組織診利用を加味して脾臓摘出術を施行することとした.悪性疾患であった場合,腹腔鏡手術での脾臓被膜損傷による腫瘍細胞の腹腔内散布の危険性やport site metastasisの可能性があるということから開腹手術を選択した.

術中所見:L字切開にて開腹した.腹水や腹膜播種は認めなかった.脾臓は腫大し,脾下極に約5 cm大の弾性硬な腫瘤を認めた.周囲への浸潤は認めず,明らかなリンパ節の腫大も認めなかった.網囊を開放し胃脾間膜を切離し,短胃動静脈を結紮切離した.脾下極の脾結腸間膜を切離し,さらに脾外側を後腹膜から脱転した後,最後に脾動静脈を結紮切離して脾臓を摘出した.摘出脾の重量は163 gであった.手術時間は2時間19分,出血量は356 mlであった.

切除標本肉眼所見:脾下極に直径50×40 mmの境界明瞭な充実性腫瘍を認めた.割面は比較的均一な灰白色調を呈していた(Fig. 4a).

Fig. 4 

Microscopic findings shows that the tumor was a simple nodule with a clear border and unencapsulated, 50 mm in size with a necrotic center (a). The tumor is composed in varying proportions of fibroblastic spindle cells along with polymorphous inflammatory cell infiltrate consisting mainly of plasma cells by HE staining (×40) (b).

切除標本病理組織学的検査所見:HE染色では,腫瘍は形質細胞を主体とする炎症細胞の浸潤と線維芽細胞様の間葉系細胞と組織球が混在していた.増殖細胞の異型性は乏しく,核分裂像は認めなかった(Fig. 4b).

免疫組織化学染色検査では,CD68(Fig. 5a)とα-SMA(Fig. 5b)は陽性を示し,desmin(Fig. 5c)は陰性であることから筋線維芽細胞主体の病変であり,さらにALK-1(Fig. 5d)は陰性であったことから最終的にIPTと診断した.

Fig. 5 

The fibroblastic spindle cells were positive for α-SMA (a) and CD68 (b), but negative for desmin (c) and ALK-1 (d) by immunohistochemical staining.

術後経過:全身状態は良好であり術後第12病日に退院した.脾臓摘出後,主訴であった背部痛は消失した.術後の採血でsIL-2Rは289 U/mlと正常化し,外来にて経過観察中である.

考察

IPTは通常,組織像では主にリンパ球や形質細胞,マクロファージといった炎症性細胞の浸潤に加えて紡錘形細胞の増生から成る,良性で限局した節性病変である.IPTは,1984年にCotelingamら3)によって初めて報告された.本邦では,医学中央雑誌で1977年から2016年9月の期間で「脾」,「炎症性偽腫瘍」をキーワードとして検索を行ったところ(会議録を除く),これまでに99例が報告されている.IPTは,さまざまな部位(肺,眼窩,肝臓,膵臓,消化管,軟部組織など)に発生すると報告されているが,脾臓に発生するものはまれである4)~6).また,典型的な臨床症状が見られず,ほとんどの症例は偶然発見された報告が多い.本症例は,背部痛を自覚し近医を受診した際に偶然に画像で腫瘤を指摘され,術後に背部痛が消失したことを考慮すると症状と腫瘍とは因果関係があった可能性は否定できない.IPTの発生の原因に関しては,限局性出血壊死,細菌やウイルス感染,脾静脈血栓,免疫異常などさまざまな考察がなされている7).肝臓や脾臓のIPTのうち,EB virus(以下,EBVと略記)感染に伴うものは40~60%と報告され,EBVの関与が推測されている8).自験例では,EBV-IgGが320倍陽性,EBV-IgMが10倍未満陰性,EBV-EBNAが320倍と感染の既往はあるが急性期ではなく,EBV感染による発症の可能性は低いと考えた.IPTの画像診断に関しては,CTやMRIにおいても炎症の程度や腫瘤内部の壊死の程度,線維化や肉芽性変化の程度などにより構成成分が異なり,さまざまな画像所見を呈する.造影CTでは腫瘍辺縁の造影効果と内部の壊死や線維化を反映する造影不良域が見られることが多い.MRIでは線維成分の多い部分はT1とT2強調像でともに低信号,炎症部位では高信号を呈するとされている9)10).画像所見におけるIPTと鑑別すべき疾患としては,血管腫,過誤腫,悪性リンパ腫,濾胞樹状細胞腫瘍,脾臓の血管腫類似病変であるsclerosing angiomatoid nodular transformation(以下,SANTと略記),炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor;以下,IMTと略記),などが挙げられる.血管腫は脾良性腫瘍のなかでも最も高頻度に見られ,単純CTでは低吸収または等吸収を呈する境界明瞭な腫瘍である.造影CTでは,経時的に辺縁から中心部にかけて広がる造影効果を呈する.過誤腫は,単純CTにおいて脾実質とほぼ等吸収であり,造影CTでは周囲の脾実質に比べ,不均一な早期濃染を示すのが特徴的である.悪性リンパ腫は,造影CTで脾実質よりも造影効果の不良な腫瘤を認める場合が多い.また,脾腫を伴うことが多いのも特徴的である.濾胞樹状細胞腫瘍は,特異的な画像所見は見られず,病理組織検査で紡錘型の腫瘍細胞の増殖を認め,濾胞樹状細胞のマーカーであるCD21が陽性であることで診断される.SANTは,2004年にMartelら11)によって報告され,周囲脾組織との境界が明瞭な単発性腫瘤で,多数の大小不同の血管腫様結節が線維性間質内に存在する.SANTは腹部造影CTで,早期相では全体的に造影不良であるが辺縁に造影効果が見られ,平衡相では中心部方向に造影効果の広がりを認め,IPTと類似した画像所見を認めることがある.IMTは分葉傾向を示す充実性の腫瘤として描出されることが多いが,内部が不均一な場合もあり,画像所見において特異的なものはない.このように,境界明瞭で周囲への明らかな浸潤傾向も見られず,一見は良性腫瘍を示唆する所見を呈していても悪性リンパ腫やIMTのような良悪中間型腫瘍の可能性も考えられる.また,FDG-PETは悪性腫瘍などの糖代謝の亢進している細胞の検出に有用であるが,IPTのような炎症性疾患では炎症局所において糖代謝が亢進しておりFDGが集積し,悪性腫瘍と鑑別困難な所見を呈することがある.FDGの集積はSUV値を用いて半定量的に表され,悪性腫瘍と炎症性疾患とのSUV値はそれぞれ6.30±4.08と3.68±1.94と悪性腫瘍の方が優位な集積を示したとの報告もある12).自験例では,早期相がSUV 10.02,遅延相ではSUV 13.18とともに高度集積を認めた.また,腫瘍に一致してのみFDGの高集積が見られ,その他部位に異常集積を認めなかったことから脾原発であると考えられた.確定診断のための生検に関しては,超音波ガイド下脾生検は特異度が低く,悪性であれば腫瘍細胞の腹腔内散布の危険性や止血困難な出血の危険性もあるため困難なことが多い.腫瘍マーカーに関してはIPTに特異的な腫瘍マーカーは報告されていない.本症例ではsIL-2Rの上昇を認めていたが,sIL-2Rは活性化されたリンパ球から遊離されるため,炎症細胞の集簇であるIPTにおいてもsIL-2Rの上昇を認めることが多いと推測される.実際,sIL-2Rは自験例を含めた10例中8例に上昇を認めた13)~22).sIL-2Rが1,000 U/l以上を示した症例は4例で,中でも4,160 U/lの高度異常値を示す症例が1例あった.以上のような理由から,IPTは良悪の診断がつかず診断的治療目的で脾摘術を行い病理組織学的所見で確定診断されることが一般的である.本症例においても,FDG-PETで高集積を認め,さらにsIL-2R高値であることから悪性リンパ腫の可能性を否定することができずに診断的治療で脾摘術を行い,最終的に脾IPTと診断した.しかし,最近では,これまでIPTと診断されてきた病変の一部が,まれながら再発や遠隔転移を来す症例が報告されている23)24).IPTは炎症性であり真の腫瘍ではないとされ,これまでのIPTの疾患概念に含まれていた良悪性中間の腫瘍性病変としてIMTと呼ばれる腫瘍が,臨床病理学的特徴の違いからIPTと区別されるようになった25).IPTとIMTは免疫組織化学染色検査では大半の症例では,紡錘形細胞がSMAとvimentinに対し陽性を示し,通常はdesmin陰性の場合が多いが陽性細胞を認めることも少なくない26).よって,通常の臨床病理学的検索のみではIPTとIMTを明確に区別するのは容易ではない.IMTの診断に関しては,anaplastic lymphoma kinesis(以下,ALKと略記)遺伝子の異常やALK-1蛋白の発現が重要であるといわれており27),本症例では,ALK-1陽性細胞が認められなかったことより最終的にIPTと診断した.術後の経過については,IPTは良性疾患であり外科的切除後の予後は良好であると考えられる.悪性リンパ腫などの悪性疾患の可能性が低いと判断され経過観察が行われた脾IPT症例は,医学中央雑誌で1977年から2016年9月の期間で「脾」,「炎症性偽腫瘍」,「経過観察」をキーワードとして検索を行ったところ(会議録を除く),これまでに17例報告されており,全ての症例において後に脾摘術が行われていた(Table 22)9)20)~22)28)~39).その理由としては,14例が腫瘍増大傾向を示し,1例は腫瘍による症状出現が見られた.残りの2例も腫瘍増大傾向は認めなかったが,確定診断が付かずに脾摘術を施行し,確定診断に至っている.悪性であった場合に速やかに治療を開始できるということを考慮すると,画像形態的に良性腫瘍が疑われた場合でも,鑑別疾患として悪性リンパ腫やIMTなどの良悪中間型腫瘍の可能性も念頭に置き,早期に脾摘術を行うことで確定診断することが重要と考えられた.

Table 2  Reported cases of IPT of the spleen
Case Author Year Age Gender Duration of observation (M) Change in size (mm) Reason of operation
1 Iwafuchi28) 1992 81 Male 12 0 for diagnosis
2 Fujita29) 1998 58 Female 95 0 abdominal pain
3 Moriyama30) 2000 45 Male 17 12 size up
4 Sonoda31) 2000 42 Female 11 15 size up
5 Hirata32) 2001 67 Female 36 18 size up
6 Machida33) 2002 42 Male 27 15 size up
7 Murakami20) 2003 59 Male 1.5 −30 for diagnosis
8 Murakami34) 2004 68 Female 1 15 size up
9 Oshiro35) 2007 43 Male 24 50 size up
10 Hanaoka36) 2007 57 Male 26 20 size up
11 Kuraya37) 2008 70 Male 15 10 size up
12 Fujisaki9) 2008 51 Female 11 5 size up
13 Kobayashi38) 2008 67 Male 6 13 size up
14 Oshiro2) 2008 43 Male 18 8 size up
15 Akaike39) 2009 65 Male 16 22 size up
16 Ishizuna21) 2010 49 Male 14 6 size up
17 Hirau22) 2012 54 Female 36 45 size up

利益相反:なし

文献
 

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