The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Splenic Aneurysm Near the Origin of Splenic Artery and Splenic Hamartoma with Stricture of the Celiac Artery Due to Median Arcuate Ligament Compression
Mitsuru TashiroTsutomu FujiiSuguru YamadaKojiro SuzukiDaishi MorimotoNobutake TanakaHideki TakamiMasamichi HayashiHiroyuki SugimotoYasuhiro Kodera
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2017 Volume 50 Issue 9 Pages 728-735

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Abstract

症例は35歳の男性で,検診異常で近医を受診し,精査の結果脾腫瘍および脾動脈瘤と診断された.脾動脈瘤をinterventional radiologyでコイル塞栓した後に腹腔鏡下脾臓摘出術を施行する方針としたが,血管造影で正中弓状靭帯圧迫による腹腔動脈の狭窄を認めコイル塞栓を行えなかった.開腹手術を施行し,正中弓状靭帯を切開し腹腔動脈起始部の狭窄を解除後,術中に脾動脈瘤をコイル塞栓し,また脾臓を摘出した.今回,ハイブリッド手術室で手術を施行したことで,術中に脾動脈瘤の塞栓を安全に施行することができた.また,脾臓摘出術を行った際に脾動脈塞栓術を併施したが,太く発達した背側膵動脈を温存できたことで膵体尾部の虚血を認めなかった.本症例は複雑な病態に対して安全に治療しえた症例であり,今後の臨床において非常に有意義と考える.

はじめに

脾動脈瘤は比較的まれな疾患ではあるが,腹部内臓動脈瘤全体の約40~60%を占め,最も頻度が高い1).腹部内臓動脈瘤は,破裂後の死亡率が高いが,破裂の予測は困難であり,必ずしも瘤径と相関しないとされる2).治療方法として外科的治療やinterventional radiology(以下,IVRと略記)治療があり,近年は後者が急速に発達普及している3)

今回,脾腫瘍に加え正中弓状靭帯圧迫による腹腔動脈起始部狭窄を伴い,術前にIVRが困難であったため,開腹下に正中弓状靭帯を切開し術中動脈塞栓を施行したことで安全に治療しえた症例を経験したので報告する.

症例

症例:35歳,男性

主訴:検診異常

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:検診の腹部超音波検査で脾腫瘍・脾動脈瘤を指摘され前医を受診した.精査の結果,脾多血性腫瘍・脾動脈瘤と診断され,当院に紹介受診となった.

入院時現症:身長165.9 cm,体重67.6 kg,血圧127/73 mmHg,脈拍73回/分.腹部は平坦・軟で圧痛を認めなかった.

入院時検査所見:末梢血液検査では異常を認めず,生化学検査ではAST 30 IU/l,ALT 44 IU/l,T-bil 0.6 mg/dlと軽度の肝逸脱酵素値の上昇を認めた.腫瘍マーカーはCEA 1.4 ng/ml,CA19-9 7 U/mlと正常範囲であった.

前医腹部CT所見:脾臓に径52 mmの腫瘍と脾動脈起始部に動脈瘤を認めた.

腹部CT所見(前医CTから3か月経過):脾腫瘍は径57 mmと軽度の増大傾向を認めた.腫瘍は辺縁平滑で類円形の形状を呈していた.単純CTでは脾実質よりも軽度低吸収で,ダイナミック造影では動脈相で不均一に濃染され,平衡相では均一に軽度高吸収を示した(Fig. 1a, b).腫瘍内部に石灰化や囊胞を認めなかった.脾動脈起始部の動脈瘤は径19 mm(宿主動脈は6 mm)で増大傾向を認めなかった(Fig. 1c).CT上,太く発達した背側膵動脈が脾動脈起始部近くから分岐し,膵十二指腸動脈アーケードと交通していた(Fig. 1c).

Fig. 1 

Enhanced abdominal CT (a: axial, b: coronal) shows a splenic aneurysm 19 mm in diameter adjacent to the proximal portion of the splenic artery (arrow) and splenic tumor 57 mm in diameter (arrowheads). 3D-angiography (c) shows a dilated dorsal pancreatic artery. DPA: dorsal pancreatic artery, IPDA: inferior pancreaticoduodenal artery.

前医MRI所見:T1強調像で等信号,T2強調像で軽度高信号を示した.拡散強調像では脾臓と同程度の信号を呈した.ダイナミック造影では,動脈相では脾臓よりも強く造影され,平衡相でも脾臓よりも軽度高信号を呈した.

上記より,脾腫瘍は過誤腫を強く疑った.

腹部血管造影検査所見:上腸間膜動脈造影で胃十二指腸動脈が逆行性に造影され,さらに太く発達した背側膵動脈から脾動脈・脾動脈瘤が造影され,背側膵動脈は横行膵動脈を分岐し,下膵十二指腸動脈とアーケードを形成していた(Fig. 2).側面での腹部大動脈造影にて,呼気時の腹腔動脈はV字型の形状を示し頭側から圧排による高度狭窄と狭窄後拡張を認め,吸気時には狭窄は解除されていた(Fig. 3).

Fig. 2 

Angiogram of the SMA demonstrates that the flow of the splenic artery is supplied via the dilated dorsal pancreatic artery. The transverse pancreatic artery originates from the dorsal pancreatic artery. SPA: splenic artery, TPA: transverse pancreatic artery, GDA: gastro­duodenal artery.

Fig. 3 

Angiogram of the celiac artery shows stenotic celiac arterial root (arrow). CA: celiac artery, SMA: superior mesenteric artery.

当初の治療方針として脾動脈瘤塞栓後に腹腔鏡下脾臓摘出術を検討していたが,腹腔動脈起始部の高度狭窄を残存させておくよりは狭窄の解除も含めた術式の選択が必要と判断し,開腹手術を施行した.本症例は脾動脈瘤が脾動脈起始部近傍に存在しており,脾動脈塞栓と脾臓摘出術を併施した場合膵体尾部の血流不良が懸念された.このため,脾動脈瘤切除・脾動脈再建を行うことも考慮した.腹腔動脈狭窄の解除の確認に加えIVRを行う可能性を考慮し,ハイブリッド手術室での手術を施行した.

手術所見:L字切開で開腹した.正中弓状靭帯を切開してゆき,腹腔動脈頭側面を大動脈まで露出し,狭窄を解除した.脾動脈起始部の動脈瘤周囲を剥離・テーピングしたが,脾動脈分岐部からの距離が十分ではなく,さらには脾動脈分岐部から太く発達した背側膵動脈が分岐しており,脾動脈瘤切除・脾動脈再建は困難と判断し,脾動脈瘤を術中に塞栓することとした.今回の症例は膵体尾部の血流低下が懸念されたため,背側膵動脈は温存する方針とした.次いで,脾門部にて脾動静脈を自動縫合器で処理し脾臓を摘出した.術中血管造影を施行し腹腔動脈の狭窄が解除されていることを確認した(Fig. 4a).脾動脈瘤の末梢側を結紮した後,detachable coil®で瘤内塞栓を施行した(Fig. 4b).コイル塞栓後の腹腔動脈造影で脾動脈瘤に明らかな血流の残存がないことを確認し,また背側膵動脈と,同部位からの横行膵動脈が温存され,膵体尾部に血流が保たれていることを確認し(Fig. 4c),手術を終了した(手術時間336分,出血量355 ml).

Fig. 4 

Intraoperative angiogram. a) Angiogram of the celiac artery after division of the median arcuate ligament. The celiac artery is released from the stenosis. b) Angiogram of the celiac artery before and after coil embolization of the splenic aneurysm. c) Angiogram of the SMA demonstrates that the flow of the pancreatic body and tail is supplied via the dilated dorsal pancreatic artery and transverse pancreatic artery.

摘出標本所見:脾臓に径5 cmの腫瘤を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Macroscopic specimen. The tumor is 5 cm in diameter (arrowheads).

病理組織学的検査所見:脾索の増生した赤脾髄組織を認め,過誤腫の組織像であった(Fig. 6).

Fig. 6 

HE staining of the tumor (a: HE ×100, b: HE ×200). a: The tumor consists of splenic red pulp. b: Higher magnification of the lesion reveals no cytologic atypia or mitosis.

術後8日目CT所見:太く発達した背側膵動脈と,同部位から分岐する横行膵動脈を認め,膵体尾部が良好に造影された(Fig. 7a, b).

Fig. 7 

Enhanced CT (a: axial, b: coronal) of postoperative day 8 demonstrates that the flow of the pancreatic body and tail is supplied (arrow) via the dilated dorsal pancreatic artery and transverse pancreatic artery.

術後経過:問題なく経過し,術後9日目に退院となった.

考察

腹部内臓動脈瘤は比較的まれな疾患で,全人口の1%程度とされているが4),剖検例の0.1~10%に認めたという報告もある3).発生部位で最も多いのは脾動脈瘤で内臓動脈瘤の約60%,次に肝動脈瘤で約20%,上腸間膜動脈・腹腔動脈・膵十二指腸動脈・胃十二指腸動脈での発生は数%程度とされる4).内臓動脈瘤破裂の中では肝動脈瘤破裂が最も多い.脾動脈瘤破裂の頻度は約2%とされ2)5),腹腔内出血や消化管出血として出血性ショックを伴うことが多く,その死亡率は約25%と高率である6)~8)

脾動脈瘤の発生部位としては脾動脈起始部5%,主枝35%,脾門部40.8%,分岐部16.7%との報告がある9).本症例は脾動脈起始部近傍の動脈瘤であったため,術後の膵体尾部の血流不良を考慮した治療方針の決定が必要になった.

脾動脈瘤の発生要因として,Stanleyら10)は,I型:動脈の形成不全によるもの,II型:脾腫を伴う門脈圧亢進症で血流増加のために動脈瘤となるもの,III型:限局性炎症で膵炎や消化管穿孔,外傷などの周囲炎の結果,血管壁の脆弱性を来し動脈瘤となるもの,IV型:経産婦に多い内分泌や血行動態の変化に起因するもの,V型:男性に多く,高血圧や動脈硬化症に伴うもの,の5型に分類している.本症例では,脾過誤腫による著明な血管増生に伴い脾臓への血流の増加を来し,脾動脈に二次的に動脈瘤を形成した可能性や,腹腔動脈狭窄による血流動態の変化が関与していた可能性が考えられる.

内臓動脈瘤の治療適応は,一定の見解が得られていないのが現状であるが,動脈瘤径が1.5~3 cm以上という報告,宿主動脈より3倍以上の瘤径を治療適応とする報告が多い5)11)12).しかしながら,瘤の破裂は瘤径にかかわらず発生しうるため,動脈瘤の径のみで治療適応を判断するのではなく,動脈瘤の原因・位置をはじめとした臨床的因子を考慮して治療の適応を判断すべきという意見もある12)

脾動脈瘤の治療法としては外科的治療とIVR治療とがあり,併存疾患や危険因子,患者の状態や瘤の占居部位により決定すべきとされる2)3).破裂症例ではIVRが治療の第一選択になることが多い12).IVRの止血成功率は75~100%と高く,診断から治療へ速やかに移行できること,侵襲が少ないことから有用であり5),動脈瘤の性状,形態,大きさ,成因,母血管の部位・径・流速,側副路発達の程度などを総合して,治療法と塞栓物質が決定されている12).IVRの治療法として,動脈瘤の存在する脾動脈の中枢側と末梢側を同時に塞栓するisolation法と,動脈瘤内にコイルを充填するpacking法とがある.Isolation法は血流を遮断する方法としては確実で,特に破裂例などの急速な止血を要する症例において有効とされる.Packing法は脾門部に近い動脈瘤に対して有用とされ,母血管の血流を温存できれば脾梗塞や脾膿瘍の形成を防止することができると報告されている12).本症例では動脈瘤基部が広く,packing法ではコイル逸脱のリスクがあったためisolation法にて行う必要があったが,脾動脈分岐部に近接し,脾動脈分岐部から背側膵動脈が分岐していたため,瘤の近位部塞栓が中枢側の親動脈を閉塞させる可能性や背側膵動脈の血流,さらには横行膵動脈の血流を遮断し膵体尾部の血流不良を来す可能性があると判断された.そのため末梢側のみ結紮し,中枢側は脾動脈瘤のみコイル塞栓した.背側膵動脈を塞栓しても胃・膵頭部からの血流で膵体尾部の血流が保たれる可能性も考慮したが,血流不良を来す可能性を否定しきれなかったため,安全性を重視し背側膵動脈・横行膵動脈の血流を温存する方針とした.

また,本症例は膵十二指腸アーケードが発達しており,膵十二指腸アーケード・背側膵動脈を介して脾動脈瘤までカテーテルを進めて術前にコイル塞栓を行うことも考えられるが,上腸間膜動脈・膵十二指腸アーケード・背側膵動脈を介すると距離が長くなり,その結果カテーテルの保持力が弱くコイル塞栓を行うには安定性に欠けることが考えられたため,弓状靭帯を解放し腹腔動脈からアプローチすることを選択した.

外科的治療としては,動脈結紮術,瘤切除術,血行再建術,瘤縫縮術などがあり,近年では腹腔鏡下手術の報告も散見される2).2 cm以上のものを手術適応とし,動脈瘤切除と血行再建術を行うことが一般的とする報告がある13).血行再建により臓器血流温存が可能となるが,手術侵襲は大きく,耐術能を含めた術前の全身状態を考慮する必要がある.

脾過誤腫は正常組織が発生過程で量・構造上の異常を伴って増殖する組織学的奇形と定義され14),基本的には良性腫瘍であり悪性化した報告はなく,確定診断が得られ無症状の場合は手術を行わず経過観察で良いとされるが,腹痛・腹部膨満感・腫瘤触知・発熱などの自覚症状を認める場合は脾臓摘出術により症状の改善を認めることが多く,また腫瘍が大きい場合,貧血や血小板減少15)・自然破裂14)などを来した症例が報告されており,そのような症例には積極的に手術を行うべきとされる.

本症例では,若年であること,脾動脈瘤が宿主血管径の3倍以上の径であったこと,増大傾向を認める脾腫瘍を伴っていたことなどを考慮し治療適応があると判断した.正中弓状靭帯の圧迫による腹腔動脈狭窄に関しては,本症例は側副路として膵十二指腸動脈・背側膵動脈が発達しており,Sugaeら16)の分類ではType Bにあたり,脾動脈瘤形成に関わっている可能性や,今後側副路の血管に動脈瘤を形成する可能性が考えられたため,腹腔動脈の狭窄を解除する必要があると考えた.造影CTでは吸気時に撮影するため腹腔動脈狭窄所見は認められなかったが,血管造影検査の呼気相により診断された.近年,腹腔動脈起始部狭窄に対する腹腔鏡手術の報告17)を認めるが,同方法の合併症として血管損傷による出血が挙げられる.これに対して,後腹膜経路で腹腔鏡を行うことによって弓状靭帯周囲の複雑な解剖の視野が改善されるとする報告18)もあるが,特に本症例は脾動脈起始部近傍に動脈瘤を認めており,より動脈損傷のリスクが高いと判断し,開腹手術を選択した.

また,今回腹腔動脈起始部狭窄解除後の腹腔動脈造影では背側膵動脈の根部が造影されるのみであったが,上腸間膜動脈造影では膵十二指腸動脈・背側膵動脈・横行膵動脈が逆行性に造影された.本症例は膵十二指腸アーケードが非常に発達しており,腹腔動脈起始部狭窄の解除直後は側副路を介する血流の方が豊富で,時間とともに血流動態が改善することが予想された.

脾臓摘出術に加え脾動脈を塞栓した症例の報告は過去に認めず,膵尾部の血流低下を懸念したため,脾動脈瘤切除・動脈再建も想定していた.しかし,脾動脈瘤中枢側には発達した背側膵動脈が流入しており,さらには脾動脈分岐部からの距離が十分に取れなかったため脾動脈瘤切除・動脈再建は困難と判断し脾動脈瘤を術中に塞栓した.今回の症例は,太く発達した背側膵動脈と,同部位から分岐する横行膵動脈を確認・温存できたことで膵体尾部への血流が温存され,術後の膵尾部虚血所見は幸い認められなかった.正中弓状靭帯の圧迫による腹腔動脈起始部狭窄の解除を血管造影で確認するためにハイブリッド手術室で手術を施行したが,引き続き術中動脈瘤塞栓が可能になり,侵襲の軽減につながり安全に手術を施行することができたと考える.PubMedで「splenic」,「aneurysm」,「hamartoma」をキーワードに1950年から2016年までの期間で,医学中央雑誌で「脾動脈瘤」,「脾過誤腫」をキーワードに1977年から2016年までの期間で検索したところ,脾動脈瘤と脾過誤腫を合併した症例は1例のみ認めたが,今回の症例のように正中弓状靭帯の圧迫による腹腔動脈狭窄は合併していなかった19).今回,脾動脈瘤・脾腫瘍に加え,腹腔動脈起始部狭窄を認めた症例を経験した.過去に例のない病態であったため治療適応・方法の決定は十分に議論する必要があったが,ハイブリッド手術室で開腹手術を行うことにより,安全かつ確実に治療を行うことが可能であった.

利益相反:なし

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