The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Necrotizing Fasciitis of the Thigh Caused by Residual Abscess Formed in the Obturator Hernia Sac after Surgery for Perforated Sigmoid Colon Cancer
Natsuru SudoChie KitamiYasuyuki KawachiKizuki YuzaShigeto MakinoMikako KawaharaAtsushi NishimuraKeiya Nikkuni
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2018 Volume 51 Issue 10 Pages 656-662

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Abstract

症例は79歳の女性で,S状結腸癌穿孔による汎発性腹膜炎に対し,S状結腸切除,人工肛門造設,洗浄ドレナージが施行された.術前CTで左閉鎖孔ヘルニアを認めたが,腸管の嵌頓はなく,閉鎖孔ヘルニアに対する処置は施行されなかった.術後45日目に,左大腿の著明な腫脹と疼痛が出現しCTで左閉鎖孔周囲から大腿に広範な膿瘍を認めた.大腿筋群の壊死性筋膜炎を併発しており,緊急のデブリードマン手術が施行された.その後,再度のデブリードマン手術と陰圧閉鎖療法,分層植皮術を要した.本例は閉鎖孔ヘルニア囊内に形成された遺残膿瘍が,大腿に波及したものと考えられた.消化管穿孔術後に,併存する閉鎖孔ヘルニア囊内に遺残膿瘍が形成された初めての報告である.ヘルニアの併存が認識された場合には,大腿膿瘍や壊死性筋膜炎を併発する可能性を念頭に置き,遺残膿瘍を予防する処置を行うべきである.

はじめに

大腸穿孔による汎発性腹膜炎術後の腹腔内遺残膿瘍の発生頻度は17~34%とされている1)2).一方,消化管穿孔術後に,併存する鼠径ヘルニアや大腿ヘルニア囊内の遺残膿瘍が問題となることはまれで3)~8),閉鎖孔ヘルニアの報告はない.

今回,我々はS状結腸癌穿孔による汎発性腹膜炎術後に,術前から併存した閉鎖孔ヘルニア囊内に遺残膿瘍が形成され,大腿膿瘍と壊死性筋膜炎を来した1例を経験したので報告する.

症例

患者:79歳,女性

主訴:腹痛,血便

既往歴:気管支喘息,骨粗鬆症,腰椎圧迫骨折

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2週間前から腹痛と血便を自覚し当院内科外来を受診した.S状結腸腫瘍による腸重積と診断され,腸重積整復目的の下部消化管内視鏡検査を予定し前処置を行ったところ,腹痛が増強した.S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.

入院時現症:身長 145.3 cm,体重 39.1 kg,BMI 18.5.下腹部に筋性防御を伴う強い圧痛を認めた.

血液検査所見:白血球数7,090/μl,CRP 2.95 mg/dlであり,腫瘍マーカーはCEA 7.6 ng/ml,CA19-9 1.0 U/mlであった.

腹部骨盤部造影CT所見:S状結腸に腫瘤性病変を認め,同病変を先進部とする腸重積を認めた.腹腔内遊離ガス像とS状結腸周囲に便の流出を認めた.左閉鎖孔ヘルニアの併存を認めたが,腸管の嵌頓は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Contrast-enhanced CT findings after pretreatment for colonoscopy. A) Intussusception due to sigmoid colon tumor is revealed (arrow). Left obturator hernia is observed without any sign of incarceration (arrowheads). B) Free intraperitoneal air and stool around the sigmoid colon is detected (arrow).

手術所見:骨盤腔を中心に多量の便塊と便汁を認めた.重積したS状結腸の口側に穿孔部を認め,穿孔部の口側および肛門側を自動縫合器で切離し,S状結腸を約20 cm部分切除した.肛門側断端は漿膜筋層縫合を行い,S状結腸口側断端を左側腹部から腹直筋を通る経路で誘導し,人工肛門を造設した.腹腔内を計10 lの生理食塩水で洗浄し,閉鎖式ドレーンを肝下面,左横隔膜下,Douglas窩に留置した.閉鎖孔ヘルニアに対する処置は施行せず,手術を終了した.

術中腹水細菌培養検査の結果,Escherichia coliEnterococcus faeciumBacillus species,Clostridium perfringensが検出された.

切除標本所見:S状結腸に肉眼型1+3型の進行大腸癌を認めた.腫瘍の口側に約1 cm径の穿孔部を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Macroscopic findings of the resected specimen reveal a 7.5 cm-diameter tumor in the sigmoid colon. The perforation site is noted at the oral side of the tumor (arrow).

病理組織学的検査所見:大腸癌,S,1+3型,75×70 mm,pT3,pN1,cM0,pStage IIIa,tub1,med,INFb,ly0,v0,pPM0,pDM0,pRM0,R0,pCur A.大腸癌取扱い規約第8版に基づき記載した9)

手術後経過:抗菌薬は,術後7日目までメロペネム,8日目以降はセフトリアキソンが11日間経静脈的に投与された.術後3日目の血液検査で白血球数21,860/μl,CRP 21.64 mg/dlと高値を認めたが,術後19日目には白血球数10,320/μl,CRP 3.86 mg/dlに改善を認めた.腹腔内遺残膿瘍を示唆する所見は認めず,術後29日目に退院した.病理組織学的検査によりStage IIIaのS状結腸癌と診断されたが,術前に比べてADLが低下しperformance status 3程度であったため,補助化学療法は行わず経過観察する方針となった.術後45日目に,左大腿部の疼痛と熱感を訴え,当科外来を受診した.

再来院時現症:体温36.6°C.脈拍数127回/分,血圧89/56 mmHg.左鼠径部から大腿は著明に腫脹し,皮膚に強い発赤を認めた.鼠径部は一部自壊し,排膿を認めた.腹部は平坦,軟であり,腹痛は認めなかった.

血液検査所見:白血球数41,660/μl,CRP 16.6 mg/dlであり,強い炎症所見を認めた.

腹部骨盤部下肢造影CT所見:左閉鎖孔ヘルニア囊内に液体貯留を認めた.左閉鎖孔から大腿深部の筋間につながるように,内部にガス像を伴う液体貯留を認め,左鼠径部から大腿は著明に腫大し,皮下組織にも広範な膿瘍が認められた.一方,腹腔内には,液体貯留などの遺残膿瘍を示唆する所見は認められなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Contrast-enhanced CT findings at the time of readmission. A) Residual abscess in the left obturator hernia sac is observed (arrow). B, C) Abscess cavity widely spreads from the left groin to the left thigh. Small gas bubbles are detected in the abscess (arrowheads).

大腿膿瘍および壊死性筋膜炎の診断で,緊急手術の方針となった.

デブリードマン手術所見:左鼠径部から大腿内側に約20 cmの皮膚切開をおいた.内転筋群の筋間に多量の膿貯留を認め,膿瘍腔は内外閉鎖筋間から左閉鎖孔周囲まで広がっていた.筋間を開放しドレナージを行い,壊死組織を切除した(Fig. 4).

Fig. 4 

Extensive debridement was performed. Necrotic fascia of femoral muscles and infected soft tissues were removed. Abscess cavity showed continuity with the left obturator hernia.

術中採取した膿の細菌培養検査の結果,Escherichia coliBacteroides caccaeBacteroides thetaiotaomicronが検出された.

手術後経過:再度デブリードマン,陰圧閉鎖療法,分層植皮術を施行し,再入院から92日目に退院した.初回手術から2年10か月が経過した現在,S状結腸癌肝再発を認めるが,遺残膿瘍の所見は認めていない.

考察

本症例では,S状結腸癌穿孔による腹膜炎の緊急手術時に閉鎖孔ヘルニア囊内に感染物質が残存し,術後に遺残膿瘍が形成され,大腿膿瘍を併発したと考えられる.医学中央雑誌(1970年~2016年12月まで,会議録除く)で「ヘルニア」,「腹膜炎」,「膿瘍」をキーワードとして,またPubMed(1950年~2016年12月まで)で「hernia」,「peritonitis」,「abscess」をキーワードとして検索すると,ヘルニア嵌頓以外の要因による腹膜炎の手術後に,併存するヘルニア囊内に遺残膿瘍を形成した症例は,鼠径ヘルニアが5例,大腿ヘルニアが1例であり,閉鎖孔ヘルニアの症例は認められなかった(Table 13)~8).本症例は,消化管穿孔による腹膜炎術後に,閉鎖孔ヘルニア囊内に遺残膿瘍を形成した初めての報告である.

Table 1  Literature review of cases in which residual abscess developed in the hernia sac after surgery for peritonitis (excluding cases with incarcerated hernia)
Case Author/
Year
Age Sex Hernia Primary disease Initial surgery Peritoneal lavage Drain placement Time from initial surgery to abscess formation Treatment for abscess Treatment for hernia
1 Cronin3)/
1959
63 Male Inguinal Perforated duodenal ulcer Primary closure N.D. N.D. 6 days Drainage Resection of sac, suture repair
2 Sakata4)/
2006
60 Female Femoral Perforated rectal cancer Hartmann’s procedure N.D. N.D. 38 days Lavage and drainage
3 Kaneshiro5)/
2007
72 Male Inguinal Idiopathic perforation of sigmoid colon Sigmoid colectomy + (NS 10L) + 7 days Lavage and drainage Resection of sac
4 Takehara6)/
2009
60 Male Inguinal Idiopathic perforation of small intestine Primary closure N.D. N.D. 4 days Drainage Resection of sac, iliopubic tract repair
5 Ikeda7)/
2009
60 Male Inguinal Anastomotic leakage after rectal cancer surgery Ileostomy N.D. N.D. 5 days Drainage Resection of sac, iliopubic tract repair
6 Yajima8)/
2014
80 Male Inguinal Perforated sigmoid diverticulitis Sigmoid colectomy with end colostomy + (NS 12L) + 5 days Drainage Resection of sac
7 Our case 79 Female Obturator Perforated sigmoid colon cancer Sigmoid colectomy with end colostomy + (NS 10L) + 45 days Lavage and drainage

N.D.: not described, NS: normal saline solution

ヘルニア囊内に遺残膿瘍が形成される原因は,術中の洗浄やドレナージの不足が最も考えられる.しかし,本症例では,S状結腸癌穿孔に対する初回手術の際に,10 lの生理食塩水で腹腔内洗浄が行われ,ドレーンは腹腔内の複数箇所に留置されていた.同様に,腹膜炎手術後に鼠径ヘルニア囊内に遺残膿瘍を認めた症例でも,初回手術時に腹腔内の大量洗浄とドレーン留置が行われていた5)8).したがって,腹腔内洗浄とドレーン留置という一般的な処置だけでは,ヘルニア囊内の遺残膿瘍は予防できない可能性が示唆される.その要因の一つとして,腹膜が炎症により肥厚することでヘルニア門が狭小化し,ヘルニア囊内のドレナージが不十分となり,感染物質が遺残する機序が指摘されている10).閉鎖孔ヘルニアのヘルニア門は,一般的に鼠径ヘルニアよりも狭い場合が多く,鼠径ヘルニア,大腿ヘルニアに比べ,ヘルニア囊内に感染物質の遺残が生じやすい可能性がある.

閉鎖管は骨盤外大腿内側へ繋がっているため,閉鎖孔ヘルニア囊に感染を来した場合,大腿膿瘍を併発することがある.奥村ら11)は,閉鎖孔ヘルニアと診断された時点で大腿膿瘍を併発していた17例を報告している.また,閉鎖孔ヘルニア嵌頓術後の異時性大腿膿瘍の症例も,まれであるが報告されている.医学中央雑誌(1970年~2016年12月まで,会議録除く)で「閉鎖孔ヘルニア」,「膿瘍」をキーワードとして,またPubMed(1950年~2016年12月まで)で「obturator hernia」,「abscess」をキーワードとして検索すると,8例の報告が認められた(Table 211)~17).8例中5例で嵌頓腸管の穿孔を認め,全例で初回手術時に腸管切除が行われていたが,ヘルニア囊の処理は行われていなかった.これらの症例では,汚染されたヘルニア囊が残存したことで,術後にヘルニア囊内に遺残膿瘍が形成されたことが,大腿膿瘍発症の原因となったと考えられる.遺残膿瘍の形成を予防するためには,初回手術時にヘルニア囊を切除または翻転しておくことが重要であると報告されている12)13)16).しかし,腹膜炎を伴う症例では,炎症で肥厚したヘルニア囊の処理が困難な場合もあるため,ヘルニア囊内を十分に洗浄することが必要である13)17).また,通常の腹腔ドレーンに加え,ヘルニア囊内に個別のドレーンを留置することを推奨する意見もある5).閉鎖孔ヘルニアに対する手術では,ヘルニア門の修復が行われる場合が多いが,齋藤ら17)は,腸管穿孔例や腸管切除施行例では,遺残膿瘍を予防する目的で,あえてヘルニア門は閉鎖するべきでないと主張している.本症例では,術前CTで左閉鎖孔ヘルニアの併存を認識していたが,S状結腸癌穿孔による腹膜炎の緊急手術であり,閉鎖孔ヘルニアに対する処置は施行しなかった.しかし,ヘルニア囊内の洗浄,ドレーン留置を行っておけば,膿瘍の発症を防ぐことができた可能性がある.

Table 2  Literature review of cases in which residual abscess developed in the hernia sac after surgery for obturator hernia
Case Author Year Age Sex Intestinal perforation Initial surgery Time from initial surgery to abscess formation Treatment for abscess
Intestinal resection Resection of hernia sac Procedure for hernia repair
1 Ino12) 2000 75 Female N.D. + Direct closure 90 days Incision drainage
2 Ino12) 2000 72 Female N.D. + Direct closure 14 days Incision drainage
3 Makino13) 2006 78 Female + + Direct closure 29 days Aspiration
4 Takashima14) 2009 83 Female + + Direct closure 9 days Aspiration→Incision
5 Okumura11) 2010 79 Female + + Direct closure 9 days Aspiration
6 Maruyama15) 2013 89 Female + + Direct closure 12 days Aspiration
7 Sato16) 2013 80 Female + Uterine fundus 9 days Aspiration
8 Saito17) 2016 94 Female + + 26 days Incision drainage

N.D.: not described

消化管穿孔に対する緊急手術であっても,術前または術中所見でヘルニアの併存が認識された場合,遺残膿瘍の可能性を念頭に置き,ヘルニア囊を切除または個別にドレナージするなどの予防処置を行う必要性があると考えられた.

本症例の経過で反省すべきは,初回手術後に白血球数やCRP値が正常化する前に抗菌薬投与を中止し,その後血液検査を再検していなかった点である.退院前に血液検査やCTを行い,遺残膿瘍の徴候が認められていれば,抗菌薬を再投与することで壊死性筋膜炎の発症を防ぐことができた可能性がある.ヘルニアを併存した腹膜炎症例では,遺残膿瘍の可能性を念頭に置き,こまめに血液検査や画像検査を行うべきであると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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