The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Littoral Cell Angioma with Multiple Liver Metastasis
Yoshihiro TakaharaYasuhiro OtsukaTakeshi OgasawaraSatoru NomuraHidehiko UnoKenji KawaharaTeisuke Komatsu
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2018 Volume 51 Issue 3 Pages 222-227

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Abstract

Littoral cell angioma(以下,LCAと略記)は免疫染色検査にて脾内皮細胞と組織球細胞両方の表現型を併せ持つlittoral cellの存在でのみ診断しえる脾原発のまれな疾患であり,画像上の特徴は他の脾腫瘍と比べて認めず,術前診断は困難であるとされている.症例は68歳の女性で,他院にて胸部大動脈瘤ステント留置後のフォローCTにて脾腫を認めたために当院紹介受診予定となっていた.腹痛を主訴に受診し脾臓破裂による腹腔内出血の診断にて脾臓摘出を施行した.最終病理診断はLCAであり悪性所見は認めなかった.当院で施行したCTでは前医で施行したときには認めなかった多血性腫瘤を認め,組織学的に証明することは困難であるが他の内臓疾患からの転移などは否定的でありLCAの肝転移が疑われた.LCAは非常にまれではあるが破裂する可能性があり,LCAを疑う脾腫や結節を認めた場合には積極的な外科的治療を考慮すべきである.

はじめに

Littoral cell angioma(以下,LCAと略記)はFalkら1)によって1991年に初めて報告された脾臓原発のまれな腫瘍であり,免疫染色検査により内皮細胞と組織球細胞の表現型を併せ持つlittoral cellの存在が提示されることで確定診断となる2).また,LCAは内臓悪性疾患との合併が多いことが知られている3).今回,我々は脾臓破裂を来し脾臓摘出を施行し,病理組織学的にLCAと診断され,かつ他の悪性疾患の合併を認めなかったためにLCAの多発肝転移が疑われた1例を経験したので報告する.

症例

症例:68歳,女性

主訴:腹痛

現病歴:他院で胸部大動脈瘤に対してステントグラフト挿入後,フォローCTにてそれまで認めていなかった脾腫(Fig. 1a)を認めたため,悪性リンパ腫疑いにて当院血液内科紹介予定であったが,突然の腹痛が出現し当院内科に緊急紹介受診となった.

Fig. 1 

Enhanced CT findings. a) Previous hospital CT showed remarkable splenomegaly. b) Initial CT showed splenomegaly and ascites. c, d) Pre-operative dynamic CT showed multiple low density lesions (arrowheads) in liver.

既往歴:胸部大動脈瘤(ステントグラフト挿入後),高血圧,虫垂炎,認知症

初診時現症:HR 113回/分,血圧 86/54 mmHg,意識レベル清明,腹部は膨満しており全体に軽度圧痛を認めた.

血液検査所見:WBC 15,900/μl,Hb 6.1 g/dl,Plt 6.4×104/μl,CRP 17.29 mg/dlと炎症反応,貧血および血小板低下を認めた.

腹部造影CT所見:著明な脾腫および肝周囲に腹水を認めた.脾臓被膜は全周にわたり保たれており,明らかな進行性出血所見は認めなかった(Fig. 1b).

入院後経過:腹水穿刺施行したところ血性であったが,RCC 4単位の輸血にてバイタル安定したために保存的に経過観察となった.翌日になり腹部USで腹水増加を認め腹腔内出血持続が疑われたために外科コンサルトとなった.ダイナミックCT再検による出血源の再評価を行い治療方針の決定とすることとした.なお,骨髄疾患鑑別のために骨髄穿刺施行するも異常所見は認めなかった.

腹部ダイナミックCT所見:両側無気肺の出現および腹水増加を認めた.初診時同様に脾腫を認め,脾頭側は中心部に造影剤の流入を認めるもののそこを取り囲む形で造影効果が乏しくなっていた.肝内に多数の造影効果をともなわない小結節を認めた.脾臓以外の実質臓器および血管から出血を疑わせる所見は認めず,脾頭側の血腫と考えられた(Fig. 1c, d).

以上より,組織学的根拠はないが悪性リンパ腫による脾腫からの脾臓破裂および多発肝転移の診断となり緊急手術の方針となった.

手術所見:左肋弓下切開にて開腹すると血性腹水を多量に認めた.脾臓下極に被膜損傷部位を認めたために同部位を出血源と判断し,脾門部の動脈,静脈を自動縫合器にて切離し脾臓を摘出した.肝表面には明らかな腫瘤性病変を認めなかった.術前CTで認められた肝内多数の小結節に関しては,悪性リンパ腫の肝転移と考えていたために特に生検などは施行しなかった.腹腔内を洗浄し他に出血点がないことを確認した後に,左横隔膜下にドレーンを留置した.

最終病理組織学的検査所見:脾臓はびまん性に高度に腫大し海綿状あるいは血腫様であり,脾臓内に限局性,結節性の病変は認められなかった(Fig. 2).組織学的にはさまざまな径の血管腔が網状に広がっており,既存の脾臓組織との境界は不明瞭であった.免疫染色検査(Fig. 3)ではFactor VIII(+),CD31(+),CD34(−),リゾチーム(−/+),CD68(−/+),CD8(−)であり,Ki-67標識率は低値であった.以上より,LCAの診断となった.明らかな悪性所見は認められなかった.

Fig. 2 

Macroscopic findings of spleen. a) Splenic tissue was completely replaced by vaguely nodular spongy lesions. b) Multiple hemorrhagic focus in the incisional surface.

Fig. 3 

Immunohistochemistry. a) Factor VIII +, b) CD31 +, c) CD34 −, d) Lysozyme −/+, e) CD68 −/+, f) CD8 −.

術後経過:術後輸血を施行することはなく経過良好で,術後13日目で独歩退院となった.外来にて多発肝腫瘍の鑑別診断を含めた全身検索の方針とした.

EOB-MRI所見:造影効果をほとんど認めない最大で径1.5 cmの小腫瘤を肝内に多数認めた.いずれも肝細胞相では明瞭な低信号であり,内部に小結節状高信号を有するものも認め,囊胞および血管腫の混在が疑われ,LCAの多発肝転移と考えられた(Fig. 4).

Fig. 4 

EOB-MRI findings. a, b) EOB-MRI showed multiple low intensity lesion in hepatocellular phase.

上部・下部消化管内視鏡検査所見:悪性疾患合併のスクリーニングとして施行したが,異常所見を認めなかった.

術後造影CT所見:術後6か月で施行した造影CTでは術前と同様に肝内多発腫瘤影を認め,前回と比べてその数は増加傾向であった.その他の部位に異常所見を認めなかったが,術後1年1か月でDICを発症し永眠された.ご遺族の了承のもと肝生検を施行したところ病理診断は摘出脾臓と同じくlittoral cell angiomaであった.

考察

LCAは脾臓原発のまれな腫瘍であり,Falkら1)によって1991年に初めて報告された.病理学的所見としてLCAの腫瘍細胞には,小型で細胞質に乏しい内皮細胞様の細胞と,細胞質の豊かな組織球類似の細胞の2種類があり,免疫組織学的にもFactor VIII,CD31などの内皮細胞マーカーとCD68などの組織球マーカーを共発現する4)とされている.本症例では脾臓内に限局性,結節性病変は認めず,網状に分布したさまざまな径の血管腔を認めており,それらは内皮細胞マーカーであるFactor VIII陽性,CD31陽性,組織球マーカーであるCD68一部陽性,リゾチーム一部陽性でありLCAの特徴である内皮細胞および組織球細胞両方の表現型を併せ持つlittoral cellの診断となった.なお,正常血管内皮細胞で陽性となるCD34は陰性であり,hemangiomaやhamartomaの類洞内皮では陽性となるCD8は陰性であった.また,文献的にもLCAでは低値になるとされているKi-671)5)~7)も本症例では低値であった.

Littoral cell angiosarcomaの報告例では脾臓破裂が発症契機になっている症例を複数認める8)9)が,LCAは貧血および血小板減少といった脾機能亢進,原因不明の脾腫やリンパ腫疑いを含めた脾臓腫瘍として偶発的に発見され脾臓摘出となっている報告1)10)~13)が多く,脾臓破裂を伴った報告はPubMed(1950年〜2016年)で「littoral cell angioma」をキーワードに検索したところ1例のみであった.また,LCAの術前診断は困難であり,術前画像診断におけるLCAの鑑別診断として,過誤腫,sclerasing angiomatoid nodular transformation,血管腫,類上皮血管内皮腫,angiosarcomaなどがあげられるが,いずれも鑑別において画像上の特徴はないとされており,LCAの診断は切除後の病理学的検査のみで可能である2)

Falkら1)のLCA 17例を検討した報告では,本症例同様に肝転移を認めた症例が1例ありLCAの増殖および悪性化の可能性を示唆している.また,LCAからlittoral cell angiosarcomaへの悪性転化が疑われた報告14)も認めている.本症例では手術施行時,悪性リンパ腫の急性増悪と診断しており,肝腫瘍に関しても前医CTでは認められなかった病変が突然多数出現したことから悪性リンパ腫の転移と考え,肝表面に異常所見を認めなかったこともあり肝生検は施行しなかったが,この点については術前鑑別疾患を他にあげられなかったこととともに多いに反省すべきであると考えている.

LCAのおよそ3分の1の症例において大腸癌,悪性リンパ腫,肺癌,膵臓癌,腎臓癌,肝細胞癌といった悪性疾患の合併を認めた報告を認めており3)13)15),LCAと診断された場合には内臓悪性疾患発症のリスクが高まるために注意深いフォローが必要である3)とされている.本症例でも術後早期に消化管を含めた全身検索を施行し悪性疾患の合併を否定したが,今後も厳重なフォローが必要と考えられた.

多発肝転移が疑われ脾臓破裂を来した脾LCAを体験した.LCAは非常にまれではあるが破裂する可能性があり,LCAを疑う脾腫や結節を認めた場合には診断治療目的に積極的な外科的治療を考慮すべきであると考えられた.

利益相反:なし

文献
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