The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Portal Vein Tumor Thrombosis Due to Direct Invasion of Local Recurrence of Colorectal Cancer
Kosuke JikeiEiji HayashiYoko TanimuraTakeo KawaharaTetsuo TsukaharaTetsuro KatoMizuki MoriyamaYukinori HattoriNaoki Sawasaki
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2018 Volume 51 Issue 3 Pages 228-233

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Abstract

症例は42歳の男性で,S状結腸癌に対し腹腔鏡補助下左半結腸切除術を施行した.病理組織学的検査は中分化型管状腺癌でpSE,ly1,v0,pN2,sH0,cP0,cM0,stage IIIbであった.本人の意向にて術後補助化学療法は行わなかった.術後2年の腹部CTにて膵背側の軟部組織陰影,およびこれと連続する脾静脈内の腫瘍栓を認めた.18FDG-PET-CT所見でもFDG集積亢進を認め,また門脈本幹への急激な腫瘍進展を来したため,大腸癌再発もしくは原発性膵癌を疑い膵体尾部切除術を施行した.膵体尾部背側の腫瘍が十二指腸上行部に浸潤し,また脾静脈から門脈内まで腫瘍栓が充満していたため,門脈および十二指腸も合併切除した.腫瘍は中分化型腺癌であり原発巣に類似していた.播種再発から脾静脈に直接浸潤し門脈腫瘍栓を形成した極めてまれな1例を経験した.

はじめに

門脈腫瘍栓は原発性肝癌や腎癌で多く報告されているが,肝転移を伴わない大腸癌での報告は比較的まれである1)~9).また,その発生形式として,これまでの報告では肝転移からの門脈内進展,あるいは門脈内皮への転移生着による腫瘍栓の形成が報告されている2).今回,我々はこのいずれでもない,播種再発の直接浸潤による門脈腫瘍栓の1例を経験したため報告する.

症例

患者:42歳,男性

主訴:なし.

現病歴:腹痛,嘔吐を主訴に他院受診し,S状結腸癌による大腸イレウスの診断にて緊急入院した.経肛門的イレウス管を挿入し減圧処置した後,腹腔鏡補助下左半結腸切除術,D3郭清を施行した.大腸癌取扱い規約第8版に基づく初回手術時の病理組織学的所見はtub1,S,2型,pT4a(SE),ly1,v0,pN2,cP0,cM0,stage IIIbであった.術後経過は良好で,前医退院後本人の意向で当院での経過観察となった.ステージIIIbであり術後補助化学療法を勧めるも,本人の意向で経過観察となっていた.術後1年半での腹部造影CTで膵体部尾側に1 cmの不整形腫瘤を認めたが,手術操作による脂肪織の変化と考えて経過観察とした.術後2年の腹部造影CTにて脾静脈内の充実性腫瘤を認めた.精査を予定していたが患者都合により延期され,2か月後に精査を行った.腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)は初回手術時から基準範囲内であった.

腹部造影CT所見:術後2年のCTでは膵体部尾側の腫瘤,およびこれと連続する脾静脈内の充実性腫瘤を認めた.2か月後,門脈本幹まで急速な腫瘍の進展を認めた.ほかには明らかな転移性病変を認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal enhanced CT showed a portal vein tumor thrombosis (arrow). A tumor lesion spread continuously through the portal vein via the splenic vein from the dorsal side of the pancreas body (arrowhead). (a) axial view, (b) coronal view.

18FDG-PET-CT所見:膵体部尾側の腫瘤および脾静脈内の充実性腫瘤にFDG集積亢進を認めた.ほかには異常集積を認めなかった.

以上の所見から,S状結腸癌の再発,門脈腫瘍栓を疑い手術を施行した.鑑別診断として原発性膵癌も挙げられた.

手術所見:腹水,腹膜播種,肝転移を認めなかった.膵体部および十二指腸上行部の間に腫瘤を触れ,また十二指腸上行部への浸潤が疑われた.周囲には新生血管を多数認め,易出血性であった.脾臓および膵尾部を授動すると,腫瘍の充満した下腸間膜静脈(inferior mesenteric vein;以下,IMVと略記)を認めた(Fig. 2a).IMVの末梢側には腫瘍栓を認めなかったため,同部位で結紮切離した.十二指腸を授動した後に上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)を露出し,この腹側にて膵実質をトンネリングした.十二指腸を合併切除した後にステープラーを用いて膵実質を離断し,次いで脾静脈を処理した.その際超音波検査にて,SMVおよび門脈内の腫瘍栓の位置を確認した.脾静脈の合流部にて切離し,門脈内の腫瘍栓を鋭匙にて摘出した(Fig. 2b).門脈を縫合閉鎖,十二指腸を吻合した後に手術終了した(Fig. 3).手術時間14時間15分,出血量7,241 mlであった.

Fig. 2 

a: The portal vein and IMV (arrow) was filled with tumor thrombosis. b: After the splenic vein was transected (arrow), the tumor thrombosis (arrowhead) was removed.

Fig. 3 

Schema of resected specimen; The portal vein and the IMV were occupied with tumor thrombus. The main tumor was located between the pancreatic body and the duodenum.

摘出標本の肉眼的所見:腫瘍本体は膵体部と十二指腸上行部の間に存在し,これと脾静脈内の腫瘍が連続していた(Fig. 4).

Fig. 4 

a: The dorsal view of the resected specimen showed the main tumor (arrow) located between the pancreatic body and the duodenal ascending portion with thrombosis in the splenic vein (arrowhead). b: The sagittal-section showed the main tumor (arrow) invading the splenic vein (arrowhead) and the duodenum, but not the pancreas.

病理組織学的検査所見:腫瘍は中分化から高分化型の管状腺癌で構成されており,原発巣と類似していた.脾静脈内の腫瘍と連続し,また十二指腸壁への直接浸潤を認めたが,膵実質への浸潤は認めなかった.

以上より,S状結腸癌の播種再発と診断した.病理検査からは腫瘍本体には明らかなリンパ構造は認めず,切除標本の腫瘍の割面像からは境界が不規則で浸潤性であることから播種再発の可能性が示唆された.

術後経過:術後経過は,胃排泄遅延以外は良好であり,第34病日に退院となった.術後化学療法としてFOLFOX+Bmab療法を施行しており,術後6か月経過した現在も無再発生存中である.

考察

門脈腫瘍栓は原発性肝癌や腎癌での報告が多く,転移性肝癌での頻度は低い.菊池ら1)は門脈腫瘍栓について肝細胞癌では60例中24例(40%)に認めるのに対し,転移性肝癌では464例中6例(1.3%)に認めるのみであり,原発巣が大腸癌の症例はこの6例中2例のみであったと報告している.また,肝転移を伴う門脈腫瘍栓の報告はしばしばみられるが,肝実質転移を伴わない門脈腫瘍栓の報告は少ない2)~9)

医学中央雑誌(1970年~2016年)で「大腸癌」,「門脈腫瘍栓」をキーワードに検索したところ(会議録除く),肝転移を伴わない症例は自験例を含めて12例の報告を認めるのみでまれな病態といえる(Table 12)~12).性別や原発巣の局在に特異な点は見受けられなかった.神谷ら2)は門脈腫瘍栓の発生様式として,①肝実質転移巣から門脈浸潤を来し腫瘍栓へと成長する場合と②門脈系から直接門脈内皮へ転移生着し腫瘍栓へと成長する場合を挙げている.これを裏付けるように,病理検査所見にてv3の症例が最も多かった.しかし,本症例はこのいずれにも当てはまらず,③播種再発が脾静脈へ直接浸潤し腫瘍栓へと成長したもの,と考えられる.

Table 1  Reported cases of portal vein tumor thrombosis unaccompanied by hepatic metastasis
No Author Year Age Gender Tumor location Pathology Stage Treatment* Follow up Survival
1 Higuchi3) 2002 70 Female Ascending se ly1 v0 N1 IIIa OP→CT 6 months dead
2 Katsumoto4) 2006 63 Female Sigmoid se ly1 v3 N3 IV OP→CT 2 years alive
3 Okino5) 2006 80 Male Sigmoid ss ly1 v1 N1 IIIa Palliative care 4 months dead
4 Kawashima6) 2007 78 Female Ascending ss ly3 v3 N3 IV OP→CT 5 months dead
5 Itami7) 2009 52 Female Ascending ss ly1 v1 N2 IV CT 30 months alive
6 Igawa8) 2009 62 Female Rectum ai ly1 v3 N1 IIIa OP→CT 10 months alive
7 Matsumoto9) 2009 58 Male Rectum ss ly1 v2 N0 II OP→CT 66 months alive
8 Shintani10) 2012 48 Female Transverse si ly3 v3 N3 IV OP→CT 18 months dead
9 Kamiya2) 2012 51 Female Descending ss ly0 v3 N0 II OP→CT 1 year alive
10 Nishimura11) 2015 71 Female Ascending ss ly1 v2 N3 IV CT 5 years alive
11 Takahara12) 2015 66 Male Rectum ss ly2 v3 N1 IV CT 26 months alive
12 Our case 42 Male Descending se ly1 v0 N2 IIIb OP→CT 4 months alive

*OP: operation, CT: chemotherapy

また,本症例の再発形式と再発部位について疑問がある.再発病変の割面像では境界が不規則で浸潤性であり,リンパ節転移というよりも播種再発が考えられる.しかし,通常は膵背側の後腹膜腔に播種することは考えにくい.この理由として以下の点が考えられる.この症例の初回手術が腹腔鏡下手術であった.横行結腸間膜の根部が膵背側へと連続するため,内側アプローチで横行結腸間膜の根部背側を剥離して膵背側まで授動している.この授動操作と炭酸ガスによる気腹が影響して腹膜剥離部に癌細胞がimplantationした可能性が推測ではあるが考えられる.その根拠として,Aokiら13)によればマウスの腹腔鏡下の腹膜播種実験モデルで腹膜損傷部の縫合修復を行う群に比べ縫合修復のない群で腹膜播種が有意に多かったことを示している.また,近年,腹腔鏡のポート部再発(port site recurrence;以下,PSRと略記)の報告も散見される.那須ら14)はPSRの原因として,腹腔鏡手術操作による癌細胞の腹腔内遊離,手術器具の出し入れの際の腹壁への癌細胞のimplantation,ガス中に遊離した癌細胞の着床,炭酸ガス気腹によるアシドーシスの免疫能低下などを指摘している.本症例の再発形式は腫瘍形態からリンパ節転移ではなく,推測に過ぎないが上記の機序にて腹腔鏡操作での剥離部位に播種再発した可能性が考えられる.これまで同様の報告はないが,悪性度の高い腫瘍や漿膜面に露出している症例にはより慎重な対応が必要であり,また術後サーベイランスにおいても手術時の剥離面に関して注意深い観察が必要と考えた.

門脈内腫瘍栓に対して,これまでのところ治療方針は一定しておらず,また予後不良な転帰を辿った症例についても目立った特徴は指摘できない(Table 12)~12).通常の遠隔転移再発に準じて切除可能な場合に手術に臨むべきであると考えるが,その発症形式からいずれ遠隔転移の出現が予想され,診断後すぐに手術を行うのは尚早とも考えられる.ほぼ全ての症例で化学療法を導入しており,切除可能であったとしても,術後早期に化学療法を導入することが肝要と考える.

利益相反:なし

文献
 

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