2018 Volume 51 Issue 3 Pages 196-205
症例は63歳の男性で,肝S2/4を主座とする肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma;以下,ICCと略記)に対し左肝葉切除術を施行した.病理学的腫瘍進行度はT3,N0,M0,Stage IIIであった.術後,S-1を1年内服しフォローしていたが,2年半後の腹部造影CTで胃小彎リンパ節の腫大を認めた.半年間経過観察後,リンパ節郭清術(No. 1,3,7~9)を施行,術後ゲムシタビンを8か月投与した.さらに,初回手術から5年後の胸部CTで右肺S8に小結節影が出現し,12か月間で緩徐な増大傾向を示したため胸腔鏡下右肺部分切除術を施行,病理組織学的検査でICCの肺転移再発と診断した.肺切除術後S-1を1年内服し,肝切除から8年経過した現在,非担癌生存中である.ICCの肝外転移再発に対する治療方針は確立していない.自験例は2度の異時性肝外再発に対し外科的切除と補助化学療法を行い,初回手術から8年の長期生存がえられている稀有な症例であり報告する.
肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma;以下,ICCと略記)の術後再発率は根治切除(R0)後であっても46%と高く1),また,非治癒切除を含む肝切除後の5年生存率は41.5%と低く,いまだ満足できる成績ではない2).ICCの術後再発は,残肝多発再発や肝外転移再発の形態をとることが多く1),再発巣に対し手術が適用されることはまれである.今回,ICC術後腹腔内リンパ節転移および肺転移再発に対し外科的切除を行い,長期生存がえられている1例を報告し,ICCの再発治療について考察を加える.
患者:63歳,男性
主訴:なし.
家族歴:特記すべき事項なし.
喫煙歴:40本/日を約40年間.
飲酒歴:ビール500 mlを5本/日を約40年間.
既往歴:C型慢性肝炎に対しては無治療で,高血圧症に対してテルミサルタン40 mg/日を内服中であった.
現病歴:近医にてC型慢性肝炎のフォロー中に腹部超音波で肝左葉に腫瘍性病変を指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.
初診時現症:腹部は平坦・軟で腫瘤を触知しなかった.肝臓,脾臓を触知せず.手術痕を認めず.下肢浮腫は認めず.
初診時血液検査所見:HBs抗原陰性,HCV抗体陽性.ICG15分値9.1%でその他肝機能,腎機能検査は基準範囲内であった.腫瘍マーカー値はCEA 2.6 ng/ml,CA19-9 11 U/ml,AFP 9 ng/ml,PIVKA-II 19 mAU/mlといずれも基準範囲内であった.
腹部単純MRI所見:肝S2/4を主座とするT1強調画像で低信号(Fig. 1a),T2強調画像で不均一にやや高信号(Fig. 1b)を呈する4cm大の境界不明瞭な腫瘍性病変を認めた.肝門部や胃小彎部を含めリンパ節腫脹は認めなかった.
MRI before the first operation shows a 4.0 cm diameter ill-defined mass located in segments 2–4, with high intensity on T1 weighted images (a), and nonhomogeneous high intensity on T2 weighted images (b).
前医で胸腹部CTを施行されていたが,明らかな遠隔転移を疑う所見は認めなかった.
以上の所見より,左葉に限局した肝癌の診断で手術を施行した.
初回手術所見:腹腔内に腹水の貯留はなく,肉眼的に腹膜播種は認めなかった.肝左葉に約5 cm大の腫瘍性病変を同定,術中超音波で肝右葉には病変を認めず予定通り左肝切除術を施行した.軽度腫大したNo. 9,No. 12aリンパ節をサンプリングし,術中迅速病理検査に提出して癌陰性と診断されたため,リンパ節郭清は省略した.
切除標本所見:割面像で腫瘍は白色で硬く,八つ頭状を呈する4.8×3.5 cm大の境界明瞭な病変であった(Fig. 2).
Cut surface of the resected specimen reveals a whitish tumor.
病理組織学的検査所見:腺管構造をともない乳頭状に増殖する中分化型腺癌の像を認め(Fig. 3a, b),腫瘤形成型ICCと診断した.門脈および胆管浸潤を認めた.背景肝はA1,F3相当の慢性肝炎の所見であった.原発性肝癌取扱い規約(第6版)に準じて,肝内胆管癌,腫瘤形成型,中分化型腺癌,S2/4,H2,4.8×3.5 cm,T3,im(−),Ig,Fc(−),Fc-Inf(−),Sf(−),S1,N0,Vp2,Vv0,Va0,B2,P0,SM(−),CH,fStage IIIと診断した.
Histological examination of the tumor reveals moderately differentiated adenocarcinoma with papillary fibrous structure (a, b) (HE stain ×4, ×10).
術後1年間S-1(80 mg/日,4週投与2週休薬)を内服し経過観察していたが,肝切除から2年半後の腹部造影CTで胃小彎側および腹腔動脈周囲に各々15 mm,11 mm大の不整形なリンパ節腫大を認めた(Fig. 4a, b).上部消化管内視鏡検査では胃癌は否定的であった.約半年間,腹部超音波および腹部MRIで経過観察したところ,同リンパ節は各々18 mm,20 mm大に増大傾向を示したが,他領域への進展はみられなかった.この間,術後基準範囲内であった腫瘍マーカー値はCEA 5.2 ng/ml,CA19-9 23 U/mlと軽度上昇を認めた.画像上,残肝を含め他明らかな転移再発は認めず,ICCの異時性リンパ節転移再発と診断し,肝切除から3年後に2回目の手術を施行した.
CT before the second operation shows a 15 mm diameter perigastric swollen lymph node (a), and an 11 mm diameter swollen lymph node around the celiac artery (b).
2回目手術所見:初回手術と同様,腹腔内には腹水貯留や肉眼的腹膜播種は認めなかった.胃小彎側に20 mm大に腫大したリンパ節を認め,同部位を含めた右噴門,胃小彎,腹腔動脈~総肝動脈周囲(No. 1,3,7~9)リンパ節郭清術を施行した.
病理組織学的検査所見:郭清したリンパ節7個中6個に腺管構造の崩れた低分化型腺癌の像を認めた(Fig. 5a).初回手術で切除した腫瘍より異型は強いものの組織像は類似していた.
Histological examination of the swollen lymph nodes shows poorly differentiated adenocarcinoma (a) (HE stain ×10). Immunochemically, tumor cells are positive for CA19-9 (b) and CK19 (c). CK: cytokeratin.
免疫組織学的検査所見:CA19-9,CK19ともに陽性であり(Fig. 5b, c),ICCのリンパ節転移として矛盾しない所見であった.
術後,ゲムシタビン療法(1,000 mg/body,隔週投与)を開始したが,Grade 2~3の血小板減少を繰り返し継続困難であったため,8コースで終了した.引き続き経過観察していたところ,肝切除から5年後の胸部CTで右肺S8に単発の5 mm大の小結節影を認めた(Fig. 6a).胸部CTで経過観察していたところ,結節影は12か月間で10 mm大に緩徐に増大傾向を示した(Fig. 6b).同時に,リンパ節郭清後陰転化していた腫瘍マーカー値はCEA 4.1 ng/ml,CA19-9 10 U/mlと再上昇を示した.他部位に新規病変の出現を認めず,原発性肺癌あるいはICCの肺転移を疑い,肝切除から6年半後に手術を施行した.
CT before the third operation shows a solitary nodule 5 mm in diameter in S8 of the right lung (a), and the nodule grew 10 mm in diameter 12 months later (b).
3回目手術所見:胸腔鏡下に右肺S8に10 mm大の腫瘤性病変を同定し,右肺下葉部分切除術を施行した.
切除標本所見:標本の割面像では13×12×11 mm大の白色の充実性腫瘍を認めた(Fig. 7).
Cut surface of the resected specimen shows a white and solid tumor 13×12×11 mm in size.
病理組織学的検査所見:腫瘍は充実性胞巣や篩状構造を形成する低分化型腺癌の像を呈した(Fig. 8a, b).原発巣よりやや異型は強いものの組織像が類似していた.
Histological examination of the tumor reveals poorly differentiated adenocarcinoma with a cribriform pattern (a, b) (HE stain ×2, ×10).
免疫組織学的検査所見:CA19-9,CK7は陽性で,CK20,TTF1は陰性であり(Fig. 9),ICCの肺転移と診断した.
Immunochemically, tumor cells are positive for CA19-9 (a) and CK7 (b), and negative for CK20 (c) and TTF1 (d).
肺切除術後は,2回目手術のリンパ節郭清術後に施行したゲムシタビン療法による血小板減少を認めたことを考慮し,補助化学療法としてS-1(100 mg/日,4週投与2週休薬)を1年間投与した.現在,初回手術から8年,肺切除から1年半経過したが,画像検査で再発所見を認めず,CEA,CA19-9値ともに基準値内で推移している(Fig. 10).
Treatment courses and changes in serum CEA and CA19-9 levels.
ICCは根治切除例に限っても5年生存率44.9%と予後不良である2).この理由として,残肝再発だけでなく,リンパ節,肺,腹膜などの肝外再発も高頻度にみられること,再発治療は化学療法が中心であり,他に有効な治療手段に乏しいことが挙げられる3).肝切除後再発症例の長期生存の報告は少なく,なかでも肝外再発に対する再切除の報告はまれである.
医学中央雑誌において1970年から2015年の期間で「肝内胆管癌」または「胆管細胞癌」,「再発」,「切除」ならびにPubMedにおいて1950年から2015年の期間で「intrahepatic cholangiocarcinoma」,「recurrence」,「repeated resection」をキーワードに検索したところ(会議録を除く),ICC術後肝外再発の切除例として19例の報告を検索しえた1)3)~20).これらの内訳はリンパ節転移再発4例,肺転移再発4例,腹膜播種再発2例,結腸転移再発2例,副腎転移再発,胃,十二指腸,膵頭部,膵内胆管,小腸,脳,皮膚転移再発が各1例ずつであった(重複あり).したがって,リンパ節転移再発と肺転移再発の両者に対して再切除を行った報告は自験例を含めて5例ずつ存在した(Table 1, 2).
No. | Author/Year | Age/Sex | Information of primary tumor | Information of recurrent tumor | Outcome after primary resection (months) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Hepatectomy | LN dissection | LN metastasis | Site of recurrence | Duration after primary resection (months) | |||||
1 | Yamamoto1)/2001 | 60/M | Right lobe resection | NA | NA | NA | 10 | 28, dead | |
2 | Ohtsuka10)/2009 | 64/M | NA | + | + | #16 | 12 | 26, dead | |
3 | Yukawa11)/2009 | 74/M | S8 sub-segmental resection | − | − | #111 | 6 | 32, alive | |
4 | Nobuoka15)/2011 | 70/M | S6 partial resection | − | − | #16/#9 | 16/26 | 64, alive | |
5 | Our case | 63/M | Left lobe resection | − | − | #1,3,7,9 | 24.5 | 96, alive |
lymph node=LN, not available=NA, #16: lymph nodes around the abdominal aorta, #111: supra diaphragmatic lymph nodes, #9: lymph nodes around the celiac artery, #1: lymph nodes around the right cardia, #3: lymph nodes around the lesser curvature, #7: lymph nodes around the left gastric artery
No. | Author/Year | Age/Sex | Information of primary tumor | Information of recurrent tumor | Outcome after primary resection (months) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Hepatectomy | Stage (6th) | Duration after primary resection (months) | Solitary/Multiple | Pneumonectomy | |||||
1 | Ohtsuka3)/2006 | 57/M | Expanding right lobe resection (combined resection of the IVC) | NA | 59 | NA | Right upper lobe partial resection | 62, alive | |
2 | Morise9)/2008 | 57/F | Left trisectionectomy and MCT | IVB | 32 | Multiple | Right lobe partial resection | 65, alive | |
3 | Saiura14)/2011 | 44/M | NA | III | 74 | Solitary | Partial resection | 137, alive | |
4 | Ikuta19)/2013 | 70/M | Some segmental resection | II | 36 | Solitary | Right upper lobe resection | 48, alive | |
5 | Our case | 63/M | Left lobe resection | III | 60 | Solitary | Right lower lobe partial resection | 96, alive |
not available=NA
ICCリンパ節転移再発切除症例は,記載の明らかな4例はいずれも腹腔内に限局したリンパ節再発であった.うち1例では2度の局所リンパ節転移再発を来しているが,その都度外科的切除を施行されている15).肺転移再発切除例と比べると,初回手術から再発までの期間の中央値は12か月と短く,生存期間中央値も32か月と短い傾向にあるが,自験例以外にも5年以上の生存期間をえられた症例が報告されている15).
ICCにおいてリンパ節転移陽性は予後不良因子の一つとされるが21),リンパ節郭清の意義に関してはいまだ結論が出ておらず,明確な指針は示されていないのが現状である.リンパ節転移を有する症例に肝切除と系統的郭清を施行し長期生存をえている報告22)や,正確な進行度診断のために全ての症例でリンパ節郭清を考慮すべきとする報告21)もある.一方で,予防的リンパ節郭清による予後の改善は認められず,一律に郭清を行うことに対する否定的な報告14)もある.自験例を含め今回検索しえた5例のうち,初回手術時にリンパ節郭清を施行したと明記されていたのは1例のみであった.いずれにせよ,限局したリンパ節の晩期再発例の切除意義はあると考えられる.
一般に,肝臓から流出するリンパ流経路は,肝門部リンパ節を経由するものや,鎌状間膜,冠状間膜,三角靱帯などから膵頭部,横隔上,胃小彎や膵上縁リンパ節を経由するものなど,複数の経路が存在するとされている23).したがって,リンパ節のサンプリングのみでの正確な転移評価は困難であるとする立場23)は当然ともいえるが,現在,自施設では病変に近い肝門部や胃小彎,膵上縁に腫大したリンパ節を認めた場合は,数か所サンプリングし術中迅速病理診断で転移があれば郭清を追加し,なければ徹底郭清は省略する方針を原則としている.自験例において,初回手術時にリンパ節郭清を施行していれば異時性リンパ節転移は生じなかった可能性はあるが,今回のようにリンパ節腫大が明らかとなった段階でタイミングを計らい,郭清を追加するという選択肢も許容される治療戦略であると考えられた.
一方,ICC肺転移再発切除例の中で,再発の個数が明記されていた4例のうち3例は単発再発で,1例のみ肺両葉に多発転移を認めており,化学療法後右肺に残存した再発巣に対して部分切除が施行されていた.また,原発巣切除時のステージはII/III/IVB = 1/2/1例と進行度に違いはあるものの,初回手術から肺転移再発を認めるまでの期間がいずれの症例も30か月以上と比較的長く,全例初回手術から4年以上生存している.Pastorinoら24)の種々の原発癌5,206例の肺転移に対する外科的切除例の検討では,完全切除例の5年生存率は36%,生存期間中央値は35か月であり,さらに肺転移切除の予後良好因子は,①原発巣切除より肺転移出現までの期間が36か月以上,②単発,③完全切除であると報告している.肝胆膵領域癌の肺転移切除症例は少ないが,Tomimuraら25)やNakagawaら26)によると,肝細胞癌の肺転移手術例の5年生存率は33.3~36%であったと報告している.肝内胆管癌肺転移に対する切除成績については集積報告がないが,自験例では,原発巣切除より肺転移出現までの期間が60か月であり,単発の転移で完全切除しえたことから,上記のPastorinoら24)が示す予後良好因子を全て満たしており,肺切除が予後延長に寄与したものと考えられた.
ICCの肝外転移再発に対する外科的治療のコンセンサスはえられていない.しかし,再発巣が限局し,なおかつ進行が緩徐な症例に対しては,ICCといえども切除を含めた集学的治療により長期予後が期待できると考える.
利益相反:なし